光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第1章 光と「クロード・ハーザキー」

22話 投影

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 とりあえず、精神的ダメージは置いておき、身体の調子はすこぶる良いので、湧き水を汲みに行くことにした。
 
 残っている水はもう2日も前のものだし、飲めるかどうかも分からない。
 一緒に行きたいと言ってきたヒカリをリュックに入れ、湧き水が出ているいつもの場所に向かう。

 湧き水が出ている切り株は、相変わらず水を吸い続けているようで、その幹からは水があふれ出ていた。

 あふれ出ている湧き水を見たら、すぐにでも飲みたくなってしまい、思わず切り株に口をつけて無我夢中で湧き水を飲んだ。

「美味い・・・」

 身体の悪いものが全て洗い流されていくようだ。
 顔を洗い、頭から湧き水をかける。

――はぁ・・生き返ったような気持ちだ・・・

 充分に喉の渇きを癒やし、ようやく一息ついた。

「よし、水を入れるか・・・」
 リュックからペットボトルを取り出して、順番に水を入れていく。

 そのままじっとペットボトルに溜まっていく湧き水をみていると突然
『これが美味しいってことですね!』
 頭の中に声が響いた。

「うわっ!なに?びっくりした」

『あっ、申し訳ありません。先ほど、飲まれた湧き水を解析し、味覚を魔素の観点からどういうものか理解しましたもので、つい興奮してしまいました』

「あ、視覚だけじゃなくて、味覚も共有できるの?」

『味はわかりません。消化されるものが何なのかを解析しただけです。料理であれば同じ味を再現もできると思います』

「なんだか、楽しそうだね?」

『楽しんでいるわけではなく、健康を管理するという目的のもと解析しました』

――絶対うそだ

 でも、そういう事ならそれでもいいか。
 害があるわけでもないし。
 
「そういうことなら、いつでも解析してよ。毒とか飲んでも困るし」

『了解しました。いろいろ解析して楽しみます』

――やっぱ、楽しんでる

『あっ、いえ、解析して今後に活かします』

――だんだん人間っぽさが出てきたというか。まあ、これはこれで悪くは無いのかも。

「それでさぁ・・・」
 ヒカリがほかに何をしようとしているか気になり、聞いてみよう振り返ったとき、湧き水がたまっている池に映る自分の姿に違和感を感じた。

「あれ?」

『どうかなさいましたか?』
 汲んでいたペットボトルを置いて、池を静かにのぞき込む。

――誰?

 慌ててリュックからヒカリを取り出し、自分の写真を撮って画面に表示してもらうよう、ヒカリにお願いする。

『・・・どうぞ』

 画面に映った顔を見て、頭が混乱する。
「これ、俺? 俺じゃない・・・というか若くない?」

『少し健康的に若くなったと思いますよ・・・』

「ていうか・・・若いのもそうだけど・・・なんで? ちょっと若いときよりも格好いい気がする・・・」

『魔石を取り入れたことで、肉体的に少し成長したようです。厳密には、若返りというよりは、より活動しやすい形に変化したということでしょうか。格好良さは、ついでに出来るところまでやってみました』

「ついでって・・・でも、どっちにしろ若くなって顔が変わるならかっこいい方がいいか・・いやいや、そういう事じゃない・・・」

『顔は申し訳ありません。余計な気遣いだったかも知れません。しかし何も指定をせずにいたら、どんな顔になるか分かりませんでしたので・・・』

「うーん・・・じゃ、まぁ仕方ないのかな。というか別に格好いいならいいか・・・いいのか?・・・いいか。まぁおかしな顔よりはいいか・・・」

『顔と同様に、身体の変化も実感出来ますか?』

「変化? ・・・・そういえば身体が妙に軽い気がするし、筋力自体が上がった気がする」

『魔石を作れる最大サイズで作りましたので、先日のネズミくらいなら片手で一捻りですよ』

「マジで? 若くて格好良くて、強くなって・・・ジャンルでいうと自分が魔物って意外は結果オーライという感じか・・・それに副作用で腕が10本生えてきましたとかよりはマシか・・・」

『はい。私も頑張りました』

「うーん。別に悪いことは何もないのか・・・。ビックリしただけで」

『お気に召しませんでしたか?』

「あー、いや、どうだろ。でも死ぬちょっと手前だったことを考えると十分だよね。十分過ぎてお釣りが出ちゃうくらい。まぁ難しく考えても仕方ないし、今は単純に助かった事に感謝するよ」

『はい。それならば良かったです』

 その後、全てのペットボトルに湧き水を入れて洞窟に戻った。

 不満があるとすれば、最初から言っておいて欲しかった・・・というくらいのものだが、それも今更のような気もする。

 既に感覚も共有されているようだし、よく考えたら、お互いなくてはならない存在ってことだ。
 文字通り一心同体・・・どちらかが欠けても、この世界では生きていけなくなる。
 だからこそのパートナー、いや上司と部下か・・・。

     ♣

 この日の夜、また二人で語り合った。

 よくよく聞けば、ヒカリも通じ合う仲間が出来て嬉しいとのこと。

 ジョークはきついし、気遣いもまるっきりない冷徹な面もあるけど、根はいいやつで、本当にこれからの二人のことを考えているようだった。
 特に、視覚の情報が増えた事は、とても嬉しいようで、データが増えるとずっと喜んでいた。

 また、湧き水くらいまでの距離ならば通信が可能なので、俺の目を通じて様子も分かるし、洞窟で留守番をしていても支障がないとのことだった。

 そもそも、魔石を入れることも、通信のことも、この間のネズミにやられたことを踏まえて考えたらしい。
 つまりは俺の事を考えての結論・・・。

 特に、意思伝達が出来れば危険の回避も対応も早めに出来たのではないかという後悔と、目に映像が出せれば、魔素を探知した結果を地図で表示できるため、予め危険を回避しやすいのではないかという期待。

 本当にいろいろ考えてくれている

 ちなみに、目に映る映像というのは、目の裏側から投影する仕組みらしいが、これは目の裏だけではなく胸の裏側とか、お腹の裏側、口の中からも投影できることが分かった。
 
 ヒカリと夜中に夢中で試してみたが、胸の裏側から映像を出すと、胸にテレビ画面がついた人みたいになった。

 お腹に白い半円型のポケットを映すと、未来からきた猫型ロボットのようになった。
 
 面白くて、そのまま全身を青色に投影してもらったら、完全にそれになって笑えた。

 慣れてくると、自分でも投影が出来るようになったので、全身にいろんな色を投影して遊んだ。
 身体の色を白くしたり、黒くしたり、金色にもしてみた。

 ただ、ちょっと残念なのは、異常なくらいエネルギー消費が激しいということだった。10センチ程度のものなら簡単に映せるが、範囲が広くなると体内の魔素の消費が激しすぎてよくないらしい。

 全身黄金色に光れば、スーパーサイ●人っぽかったのに・・・。

 でも、とても便利なのは間違いない。
 手のひらに動画を投影してもらうと手元で映画が見られるのだ。
 腕を固定しておくのが死ぬほど辛かったが。

 とにかく、出来ないことが出来るようになるのは楽しい。
 ヒカリが外の世界をどんどん見られて楽しいというのも、分からなくもない。

 これ以上、文句を言っても仕方がないし、諦めて楽しく過ごすのが一番。
 そう思うことにした。

――明日から、また頑張ろう

 久しぶりに、そう思える一日になった。
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