光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第1章 光と「クロード・ハーザキー」

24話 マップ

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  朝、日の出とともに起きた。

 日本にいたときは、夜型の生活をしていた俺だったが、こっちの世界にやってきてからは、早寝早起きが基本となっていた。
 真っ暗の中でやることがないだけなのだが・・・。

 今日は少し遠出をして周囲を探索する予定だ。
 遠くまで行くことになると、通信が出来なくなる可能性もあるので、ヒカリも一緒に連れて行く予定だ。

 まずは、どっちに向かうかを決めなくてはならない。
 
 ヒカリによると、マンションの方角・・・つまりは草原が広がっている方は、魔物の軍団がやってきた方角でもあるので、リスクが大きいとのこと。

 街や人など、見つけたいものが見つかる可能性は低いが、周辺を探索する意味でも、まずは森の中を探索してはどうかという事になった。

 やはり、出発しました、魔物が出ました、殺されました、の流れは初日としては一番避けたい。

 それに移動距離の問題もあるが、日が沈むまでには戻りたい。

 初日の今日としては、1日でどれだけ行って戻って来られるかを確認することも重要だ。
 リュックにヒカリと空のペットボトル、包丁と念のために懐中電灯を2つ入れておく。
 空のペットボトルは、行きがけに、いつもの場所で湧き水を入れていくつもりだ。

 準備も出来たので出発する。
 まずはいつもの場所で湧き水を補充する。
 そして、そのまま、まっすぐに進む。

 途中、足を止めては、ヒカリの指示で近くの木に、包丁で目印を掘っておく。
 ヒカリ自身、迷いそうにないので目印はいらないのでは? と思って聞いてみると、目印はヒカリためでなく、俺のためだった。

 ヒカリに頼りきりで、自分で生きる術を学ぼうとしない行為は愚かなことらしい。
 ヒカリは、いろいろ考えてくれていて本当にありがたい。

 そんなヒカリは、現在、地図作りに没頭しているようだった。
 
 リュックに詰めた、ヒカリとペットボトルは多少重たいが、身体が強化されているのでむしろ以前より軽く感じる。

 走るスピードも100メートル10秒とまではいかないが、かなり早いペースだ。
 移動中、魔物も感知されるが、近づいていくと逃げていくのが分かる。

 ヒカリが言っていた、怯えてるっていうのは本当だったのか・・・

 そもそも、俺の方がおっかなびっくりな訳だし、向こうから逃げてくれるのは、非常に有り難い。


 そして、出発して1時間が経過した頃・・・

 
 感知出来る魔物の数は、洞窟周辺に比べる格段に多くなってきた。
 これが通常、森にいる魔物の数なのだろうか。
 
 洞窟周辺は元々魔素も薄く魔物が少ないとは言っていたが、数を比べると洞窟周辺の10倍くらいはいた。

「そろそろ一度、休憩してもいいかな」
 ヒカリに話しかける。

『はい。地図の誤差も修正したかったので丁度よかったです』
 ヒカリは地図作成が楽しいようで、声が若干弾んで聞こえた。

 手頃な大きさの石を見つけて座り、ペットボトルの湧き水を飲む。

「・・・うわっ、美味っ」
 いつもよりも数倍、美味しく感じた。


『きっと運動したせいですよ』

「そうか。ここ何年もちゃんと運動してなかったし。そもそも、こんなに身体を動かすことが気持ちいいなんて忘れていたよ」

『それは良かったですね。健康は大切ですから。それと地図の方ですが、現在このような感じなので確認してみてください』

 ヒカリがそう言うと、目の前の空間に大きな地図が現われた。

 地図の中には、マンションの場所と洞窟の場所、通ってきた道筋と木に刻んだ目印の場所がマークされていた。

「この色が緑で濃くなっている部分は森の中だから?」

『はい。薄い緑は草原、濃い緑は木、岩や水も色をつけてあります。黄色いマークは魔石を食べた魔物、赤い点は魔石派生の凶暴な魔物です。白は私で、黒は玄人さんです』

「青の点もあるけど?」

『おそらくは普通の動物かと思われます。まだ出会ったことがありませんので分からない反応を青にしています』

「人ということはないの?」

『動き方が動物のようですし、全て大きさが1メートル以下の反応ですので、おそらく小動物かと思われます。分かりやすいように1メートル以下を薄い青、1メートル以上を濃い青で表示するようにします』

「それはいいね。でも1メートル以上でも人とは限らないんだよね」

『今のところはそうですね。一人でもサンプルがあれば、人と動物の違いもおそらく分かると思います』

「違いが分かるのか・・・それも魔素を感知する能力の一つなの?」

『そうです』

「俺にも出来るようになるのかな。今のところ全然分からないけど・・・」

『分かると思います。ただ、索敵範囲はあまり拡がらないかも知れません。慣れてくれば魔物か人かぐらいは、数十メートル程度なら分かるようになると思います』

「魔素の感知って簡単に言ってたけど、やっぱり意外と難しい技だったんだね・・・」

『本来はそのようです。私は元々感知に優れたブルードラゴンの魔石があったので、すんなり出来ましたが、魔石を作るときには、感知能力の付与はうまく出来ませんでしたので、おそらくドラゴン特有の能力なのかも知れませんね』

「でも、ヒカリがマップに表示してくれるなら、むしろ自分で感知するより便利かも」

『そう言って頂けると、なんだか嬉しいですね』

「しかし、このマップは十分過ぎる性能だよ。一応、マップを表示したまま歩くのにも慣れたいから、このまま表示しておいても大丈夫?」

『もちろんです。表示が少しずれたり、遅れたりすることもあるかも知れませんが、都度修正しますので』

「あんまり無理そうなら、マップを消してもらって大丈夫だから」

『はい』

「じゃ行こうか」
 俺はそう言ってから、ペットボトルをリュックにしまい、また歩き出した。

 歩いてみて気がついたが、マップを見ながら歩くのは、結構難しい。

 ゲームだとマップを見ながら移動するのが当たり前だったので、そんなに難しい事とは思わなかった。
 しかし、これは慣れたら解決出来るという問題なのだろうか・・・

 カーナビを見ながら運転するほうがまだ簡単な気がする。

 感覚では、正面を向きながらの歩きスマホだ。

 森の中で足下がおぼつかなくて、つまずきまくる。

「動いているときはマップを薄めにして、止まると濃くできたりもする?」

『はい。問題ありません。調整はご自分でも出来ますので、丁度良い感じをいろいろ試してみてください』

「そっか。ありがとう。いろいろ試してみるよ」
 そう言って、歩くのに一番支障が無い方法を探りながら、歩いたり走ったりしてみた。

 やはり常時表示しておくのは無理だ。
 特に森の中では危ない。
 何も無い平地なら大丈夫かな。

 どちらにしても移動時は小さくして、何かを確認するタイミングで大きくするのが一番使いやすい。
 しばらくは、これを標準仕様として、慣れるまで使ってみることにした。

 それから試行錯誤しながら進むこと10分。
 マップを確認したタイミングでヒカリが話しかけてきた。
玄人くろとさん!』
「あっ!」
 マップを見ていた俺も同時に気がつく。

 それはマップの一番上。
 距離にして3キロほど先に、濃い青の点が2つ。

『おそらく人間です!』

「!!」
 ヒカリの言葉に、俺は思わず息をのんだ。
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