光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

44話 魔法陣

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 朝、気持ちよく目が覚めた。
 こんなに気分のいい朝は、いつ以来だろうか。
 久しぶりのベッドが気持ち良かったのか、魔物に襲われる心配がなく安心出来たのか、それはよく分からなかったが、とにかくよく眠れた。

「うーん・・・よく寝た・・ヒカリ、おはよう」
 伸びをしながら、ヒカリに向けて声をかける。

「何がヒカリ、おはよう、よ。こんな時間まで呑気に寝てて。ほらすぐ出るから着替えて」
 ヒカリの代わりにルージュが答えた。

「え?? なんで? ルージュ? ヒカリは?」
 起きたばかりで頭が働かず、混乱したままたずねる。

「ヒカリは先にケナ婆のとこ。アマリが連れてったわ。で、私はあなたが起きるのを待って連れて行く係」

「え?あ、そうなの? え? ていうか今何時?」

「もうすぐお昼よ。昼ご飯までにはケナ婆のとこに行きたいんだから、早く支度してよね。私は下の部屋にいるから」
 そう言ってルージュは、部屋を出て行く。

――ヒカリも冷たいな、起こしてくれたら良かったのに。

『――お疲れのようだったのでお願いして寝かせておいてもらいました』

「うわぁぁっ!」
 急に通信が入って口から心臓が飛び出るほど驚いた。

『――離れていても通信で会話が出来ますので、問題ないと判断して先にケナ婆さまの所へ来てしまいました』

――別にそういう事なら構わないよ

『では、こちらでお待ちしています』

 特別、急いでるという雰囲気は感じられなかったが、ルージュに怒られるのは嫌だったので、急いで支度をして、下へ降りる。

「あら、おはようございます。よく眠れましたか? 昨日はバタバタしてしまってて、きちんとご挨拶が出来ませんで、失礼しました。サンノの妻のフェリスと息子のジョセフです。ほら、ご挨拶なさい」

「ジョセフです。5歳です・・・」
 男の子は、少し恥ずかしそうに言った。
 賢そうで、なかなか可愛い顔をしている。

「あ、ク、クロードです。これは丁寧にありがとう」
 ジョセフにお礼を言い、奥さんに頭を下げた。
 妻子がいるなんて聞いてなかったので、驚いてしまった。
 しかも、奥さん結構美人だし。
 あの村長のどこが良かったんだろうか・・・って村長だからか。

「ほら、ぼーっとしてないで、支度出来たんならさっさと行くわよ」
 ルージュが急かしてくる。

「あ、どうもすみませんでした。また改めてお礼・・・」
「じゃ、フェリスさんお邪魔しました。ジョセフまたね~」
 挨拶もそこそこに、ルージュが割り込んできて、無理矢理外へと連れ出される。

――なんか、ルージュすごく急いでない?

『――朝から、お腹減った、お腹減った・・・とかなり騒いでいましたから』

――ご飯かよ! らしいと言えばらしいけど・・・


「ケナ婆、きたわよー」
 ルージュがドアを勢いよく開けながら声をかける。
 ルージュは基本的に相手が誰でも自由なようだ。

「おぉ、来たか。二人ともこっちへ」
 ケナ婆に促され全員席に着く。
 ヒカリは、机の上だ。

「さて、昨日の話の続きじゃが、まずは魔法陣からじゃな」

「はい、魔素を隠蔽できるとのことでしたけど・・・」
 ケナ婆がすぐに本題に入ってくれたので、ありがたく聞くことにする。

「そうじゃな、見た方が早い。これじゃ」
 そう言って、ケナ婆がヒカリのカバーを閉じるとカバーに薄っすらと黒く光る魔法陣が描かれていた。
 4重の円からなる魔法陣。
 
――おぉ、なんだかダーツの的みたい・・・

 でも、ダーツよりも引かれている線は多い。
 線と線で区切られた間の空間には、見たこともない文字や記号がびっしりと並んでいる。

「凄いなこれ・・・」

『ケナ婆さまに、朝から描いて頂きました。どうですか?』

「お、おぉ、いいんじゃない? なんかタトゥーみたいだし。カッコイイよ」

「そうじゃろ。久しぶりの力作じゃ。型も間違えておらんし、我ながら完璧な出来じゃ。今は少し光っておるが、半日もすればもう見えなくなる。まぁ、こんなに気合いを入れて書いたのは、村の結界以来じゃて、もう疲れてしもうたわ。続けてクロードの分もと思うておったんじゃが、また明日、描いてやるからの。そこは勘弁せい」

「え、そうなんですか? まぁ書いてもらえるならいつでもいいんですけど・・・」

「描き方としては、特殊な消えないインクに魔力を込めながら書くだけじゃ。作業は細かいが、どちらかと言うと、魔力を継続して同じ量ずっと出し続けて書く作業がしんどいんじゃよ。神経使うからの」

「なんか、すみません。そんな大変なことを」

「いや、ええんじゃ。元々この隠蔽の魔法陣は、魔石から漏れ出る魔素を隠すために、袋や箱に書いておくもので、人の身体に直接書くなんてことは普通はせんのじゃ。まぁ半分は興味本位の実験みたいなもんじゃし気にすることはないぞ」

「えっ!?実験って・・・そうなんですか?」

「まあ、危なくはないから大丈夫じゃ。それと普通の魔法陣じゃと書き終わった後に大量の魔力を入れてやらんといけんが、お主らには余ってる魔力が多そうじゃからの。いちいち魔力を入れなくても、勝手に必要量が流れるように、ついでに少し魔法陣をいじっておいたから、おそらく死ぬまで使えるじゃろ」

「へぇ、死ぬまで使えるって・・・魔法陣凄いな。それでさっきも言ってましたけど、結界っていうのは何ですか?」

「結界は、ほれ、そこに見える見張り台の上に書いてある魔法陣のことじゃ。儂が50年以上前に書いたもので、村全体を覆って魔物から見つかりにくくしたり、侵入を防ぐようになっておる」

「へぇー便利なものなんですね、魔法陣って・・・」

「じゃが、あっちはこの魔法陣と違って、魔力を定期的に入れてやらんといけんがの」、

『解析が終了しましたので、玄人クロードにも魔法陣をつけてみますね』

「「「「えぇ??」」」」
 全員で聞き直す。

『魔法陣です。では背中の真ん中辺りに、身体の裏側から写してみますので。上手くいくといいのですが・・・』
 ヒカリは相変わらずマイペースだ。
   全員、訳も分からず置いてけぼり・・・。

――そういえば、ヒカリ・・・以前に魔法陣がどうの言っていたような?・・・

そんなことを考えていると、身体が急に軽くなっていくのを感じた。
「あれ、急に身体が軽く、お、身体の中にエネルギーが溜まっていくみたい。それになんだか、変な言い方だけど、静かになった感じ」

『どうやら成功のようですね』

「おぉ、魔素が抑えられとる・・・何故じゃ?」
 ケナ婆が驚いた表情で聞いてきた。

玄人クロード。服を脱いで背中を、ケナ婆さまに見せてあげてください』

「え? なんで?」

「勘が鈍いわね、早く脱ぎなさい」
 戸惑っているとルージュが無理矢理服を脱がしてきた。

「あっ」「おぉ」「どうして?」
 背中に描かれている魔法陣を見て3人が驚く。

「これは、見事な魔法陣じゃ。でも一体どうやったんじゃ?」

『身体の中から魔法陣を投影しました。3日ほどで皮膚組織にも模様が定着しますので、そうなれば写し続けなくても大丈夫だと思います』

「もしかしてこれって・・・内側からいろいろ映したりして遊んだやつ?」

『はい。その応用です。こちらで魔法陣を作り、玄人クロードに通信で送信し、身体の内部から投影させてみました。ここまで完璧に出来るとは思いませんでしたが、嬉しい誤算ですね』

「ただ遊べるだけの機能だとばかり思ってたけど、ヒカリは凄いな・・・」

「そういう事ではなく・・なんじゃこれは・・いや・・・いい・・・聞くだけ無駄か・・・」
ケナ婆がそう呟きながら、まじまじと魔法陣を見つめる。

「すごいです!」

「なんかもう・・・顔から火も吹くし、クロードは人間の部類ではないわね」

『人間ですよ。でもこれは応用さえ出来れば、ルージュの言う通り人間離れした能力を得たことになるかも知れません』

「応用って・・・あまりいい話には聞こえないんだけど」
 ヒカリがやることに、反対はしないが、常に不安がよぎるのも確かだ。

「もう、こりゃいちいち驚く方が損じゃな・・・ふぁっふぁっふぁっ」
 ケナ婆が楽しそうに笑いだした。

『ケナ婆さま。よろしければ他の魔法陣もあれば教えて頂きたいのですが・・』

「ん? 興味あるのか? ええぞ。なんでも教えてやるわい。なんだか儂まで若返ってきた気分じゃ、愉快、愉快、ふぁっふぁっふぁっ」

『はい、是非お願いします』

「そうか・・・それじゃ、その棚にある魔法の本を持って行っても構わんよ」

 棚を見ると魔法陣関連だと思われる本が4冊置いてあった。
 そのうちの1冊を手に取り中を開くと、基礎的な魔法陣の考え方とその書き方が記してある。
 解説のほか、見本として全部で5種類の魔法陣が書いてあった。

――これは、凄いな・・・5種類も説明がある。全部で4冊あるから20種類分か・・・

 そう思って、2冊目を開くと1冊目と全く同じ内容が書かれていた。
 3冊目、4冊目も同じ内容だった。

「それはな、4冊揃って1冊分なんじゃよ」

「・・・?」

「1冊にまとめて、ちゃんとした魔法陣を描いてしまったら、魔法が発動してしまうじゃろ。以前は別のページに書いた事もあったそうなんじゃが、水に落としたときに発動してしまった事があったそうでの・・・それ以来、別々の本に書く決まりなんじゃよ」

『それは、魔法陣は完全に円形じゃなくても重ねた状態でも発動するということですか?』

「そうなんじゃ。それがまさに不思議なもんでな。理由は分かってはいないんじゃ。だが、今ではいろいろな魔法陣を重ね合わせることで、より強い魔法を生み出す技術なんかも研究されておるよ」

『それはとても面白い話ですね』

「そうじゃろ・・・それから・・」
「もう話が終わったんなら、ご飯にしましょう! ケナ婆も、早くして。ほらクロードお願い」
 ルージュが痺れを切らして割って入ってきた。

「え! 俺?」

「決まってるじゃない。朝からなにも食べないで待ってたんだから・・・そうよねぇ、アマリ」

「姉さん!!なんで言うのよ・・・・・・・・はい、すみませんクロード・・・さん・・・」

「分かったよ。じゃあパスタと、レトルトのソースがいくつかあったから、いろんな種類をみんなで少しずつ食べようか」

「え! 本当ですか! 嬉しい! 姉さん、良かったわね!」

「え?私? あ、うん・・・そ、そうだね」
 急にテンションが上がったアマリージョに、さすがのルージュも引いていた。

――そうか、アマリージョはたくさんの物を少しずつ食べたいタイプの食いしん坊か。ルージュとはまた別のタイプの食いしん坊なんだな。
 そういう所は似てないと思っていたけど、結局は似たもの姉妹ってことか・・・。

『――本当に面白い姉妹ですね』
 
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