光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

45話 ハンドスキャナー玄人

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 一度、村長の家に戻り、荷物からパスタとパスタソースのレトルトを持ってきた。
 お湯を沸かして、支度をする。
 温めるだけだから、特にすることもないので、話の続きを聞くことにした。

「さっきの話で、その本のことなんですけど」

「ん? なんじゃ?」

「さっき4冊そろって1冊分って言ってましたけど・・・」

「さっきも言ったとおり4冊で1冊なんじゃ。4冊合わせて円形の魔法陣が完成するようになっておる。書いてあるものは、村に魔物避けの結界を張るための魔法陣と、収納の魔法陣。収納の魔法陣は主に馬車に使われておってな、物を運搬するときに役立つんじゃ。あとはさっき使った隠蔽魔法の魔法陣に、開墾に役立つ土魔法の魔法陣。最後に暗闇を照らす光の魔法陣じゃ」

「生活に役立つものが多いんですね」

「そりゃそうじゃな。この4冊の本自体が、集落を作ったり、村を作ったりする時に、領主から授かる物じゃからな」

「逆に言えば、それがないと村や街が作れないって事ですか?」

「無理ではないが、魔物に見つかりやすく、襲われやすいでは生活どころじゃないからの」

玄人クロード、申し訳ありませんが、データを取り込みたいので、あとで本を全部見てもらえますか?』

「わかった。じゃこれ食べたらやるよ」
 そう言って茹で上がったパスタを4つに分け、それぞれに違う味のパスタソースを絡ませる。
 出来上がったのは、ミートソース、たらこ、キノコチーズクリーム、蟹トマトクリーム。

――自分じゃ買わないのばっかりだけど、女の人は好きそうだからこれで大丈夫かな

 アマリージョに人数分の小皿とフォークを用意してもらい、好きな物を少量ずつ取って食べられるように机の真ん中に4種のパスタを並べた。

「早く食べましょ」
 ルージュは待ちきれないようだ。

「じゃ頂くとするか。アマリ、儂の分を少し取ってくれぬか」
「はい、ケナ婆さま」
 そう言って、たらこのパスタをよそう。

「「「いただきます」」」
 全員取り終わったところで頂く。

 ルージュは既に1杯目を食べ終わり、二杯目に突入していた。
 相変わらずだなルージュ。

 食べっぷりを見る限り、アマリージョとケナ婆にも満足してもらえたようだ。

「この世界は小麦はあるのに、パスタはないのかな?」
 食べながら、そんな事をふと思った。

     ♣︎

 食べ終わると、ルージュは出かけると言って、どこかへ行ってしまった。
 アマリージョは、ヒカリが何かしようとしているのが気になるらしく、側で見ていたいようだ。
 この姉妹は、似ているようで、好奇心に対する方向が根本的に違うらしい。

 ケナ婆に再度許可を得て、魔法陣の本を開く。
 ヒカリは早く見たいようで、読まなくていいので、ページをどんどんめくっていけと急かす。

 ケナ婆とアマリージョは、何も言わず、ページをめくるだけの俺を凝視していた。

 沈黙が続いたまま三冊目。
 もう少しで終わり、四冊目も開く準備をと思った時、ヒカリが声を出した。

『ケナ婆さま、よろしいですか? 玄人はそのまま作業を続けてください』

「ん?なんじゃ?」

『この他にも、魔法に関する書物はあるのでしょうか』

「いや、この他は薬草などを作るための薬学の本や、勇者に関する伝承や物語などじゃな」

『そうですか』
 少し残念そうに聞こえたのは気のせいだろうか。

「じゃが、儂は魔法陣は描けるんじゃぞ。それなりの知識はあるんじゃ。分かることなら、なんでも答えてやるぞ』

『それは、ありがとうございます。では、この本と、薬学の本、伝承に関する本を記録したあとに、お願いします』

「あぁ、ええぞ」

 ヒカリのテンションが明らかに上がってるような。
 それに、最近なんだか話し方が人間に近づいてる気もする。
 感情を学ぶとか言ってたし、まあ、話しやすくなるからいいんだけど。

「もうすぐ終わりそうですから、薬学の本を持ってきますね」
 アマリージョはそう言うと、読み終わった三冊を棚に戻し、新しい本を十冊ほど持ってきた。

「え?こんなにあるの?」
 四冊目が終わり顔を上げた時、積み上がる本の山を見て、思わず声が出た。
 まるで雑用を押し付けられる新入社員の気分だ。
 ヒカリは、少し面倒くさそうにする俺の気持ちを察したのか、急に何かを思いついたようで、一つの提案をしてきた。

『玄人、その本を手に乗せて、もう一方の手で上から挟んで貰えますか?』

「え、挟むの? いいけど・・・こんな感じ?」
 そう言って左手に乗せた本に右手を乗せた。

『はい。そのまま10秒ほどお待ちください』
 訳が分からないまま、10秒ほど待つ。
 すると
『成功しました。続けて、次の本もお願いします』

 言われた通り、手に乗っている本を横へ置き、二冊目を左手に乗せ、その上にまた右手を乗せる。
 沈黙のまま、また10秒ほど時間が流れる。

『こちらも成功しました。次の本をお願いします』

「あのーすみません、ヒカリさん。今これは何をしてるんでしょうか?」
 さっぱり意味が分からず、思わず声をかける。

『あ・・・説明をしていませんでした。簡単に説明しますと、ここにある本は、全てインクで書かれているようなのです。そして、そのインクは微量ですが魔素を含んでいることが分かりました。ですから、玄人クロードの目からページを読み取るよりも、こうして魔素を調べてデータ化するほうが早いのではないかと思いまして。ただ、私には本を持つ手がなかったので、一番手頃な手を使わせて頂きました』

「手頃って・・・まあそうだけど」
 若干の不満を漏らしつつ5冊目を手にとって挟む。
 不満は漏らすが、仕事はきっちりする。
 俺は大人で出来る男だからな。

 なんだかんだ、アマリージョにも手伝って貰いながら、1時間ほどで全ての本の読み込みが終わった。
 ヒカリは、これから取り込んだ情報を分析すると同時に、不明な点をケナ婆に確認していきたいらしい。
 ならば、俺は自分のやることをやらなければ・・・そう思いヒカリに話しかける。

「ヒカリ、まだ時間がかかるようなら、ちょっと村長さんの家に行って、馬車が借りられるか聞いてくるけど・・・」

『分かりました。私はこちらでケナ婆さまから、色々学びたいことがありますので、馬車の手配が出来ましたら、迎えに来てもらえますか?』

「わかったよ。ではケナ婆さま、ヒカリをお願いします」

「あぁ、ええんじゃ。こっちも楽しんでおるからのぅ」
 よくは分からないが、ケナ婆はどこか楽しそうに見えた。

「ケナ婆さま、私もクロード・・・と一緒に行きますね」
 アマリージョがそう挨拶すると、
「あぁ、わかった。クロード、アマリを頼んだよ」
 ケナ婆は俺に頭を下げてきた。

「え? あ、はい。ではまた後ほど・・・」

――ケナ婆の言葉に、一瞬別の意味を感じてしまったのは俺の考えすぎだろうか・・・

『――考えすぎです』

――あ、そうですよね。ごめんなさい・・・
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