光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

46話 商人・ブルーノ

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 ケナ婆の家を出て、村長の家に向かおうとすると、ヒカリから通信が入った。
『――玄人クロード、村長は現在、村の中心部の商店にいます。ルージュも一緒にいるようです』

――お、ありがとう。じゃあ、その商店に行ってみるよ
 そう言ってマップを表示すると、村の地図と一緒に、村長とルージュの位置が名前付きで表示されていた。
 しかも、地図の形も四角から丸に変更されて、GPSが付いた地図みたいに、顔の向きを変えると地図もクルクル動く。

――なんか、地図が見やすくパワーアップしてるな

『――気づきましたか。いろいろなゲームを参考に更に見やすくしてみました』

――すごくいい感じだよ、ありがとう

 目的の店に着き、アマリージョと中に入る。
 店の中では、ルージュと村長、それと身なりの良いおじさんが話をしていた。
「それで? それで? どのくらいになりそうなの?」
 ルージュが身なりの良いおじさんに何かをしつこく聞いている。

「そればかりは何とも、実際に見てみないことには・・・」
 身なりの良いおじさんが困った顔をしている。

「姉さん、ここで何してるの?」
 アマリージョが割って入る。

「おぉ、アマリージョさん。どうもこうもルージュさんがですね・・・」

「あ、アマリ、丁度良かった。オグルベアの魔石をブルーノに見せてあげて」

「・・・まさか・・・姉さん!ブルーノさんに魔石の買い取り値段を聞いてたんじゃないでしょうね!」

「え!!! そ、そ、そそそそんな、こことないわよ。あるわけないでしょ。なんで私がそんなこと聞かなきゃいけないのよ・・・」
 慌てたルージュはそう言うと、下手な口笛を吹きはじめた。

――おい!口笛吹いてる時点で黒なんだけど。それよりもこの人が商人のブルーノさんか・・・いかにもやり手の商人って感じだな

「初めてまして、ブルーノさん。えーと、今度この村でお世話になることになりました、クロードです。よろしくお願いします」

「これはこれは、丁寧にありがとうございます。この村で店をやっております、商人のブルーノです。以後、お見知りおきを」

「おぉクロード殿、ちょうど良かった。その、ルージュの言うオグルベアの魔石をちょっと見せてくれんか」
 村長が少しホッとした様子で頼んできた。

「ええ、別に構いませんが・・・アマリ、出してもらってもいい?」
俺がそう言うとアマリージョは魔石袋からオグルベアの魔石を取り出して、ブルーノに見せた。
ブルーノは、魔石を受け取ると懐からルーペを取り出し、真剣な顔で魔石を観察する。

 ブルーノはひとしきり魔石を観察した後、深く息を吐き、口を開いた。
「ええと、ルージュさん・・・いえ、クロードさんですね。持ち主は」

「はい。一応俺のものです」

「先程、ルージュさんにお願いされた買取の査定ですが・・・」
 アマリージョがルージュを呆れた顔で見る。
 ルージュが慌てた様子で、ブルーノの後ろに隠れ、手を合わせて謝っている。

 ブルーノはその様子を見て、クスッと笑ったあと、話を続けた。
「サイズも純度も申し分ない魔石です。通常だと80~100万くらいの買取ですが、少し質が良いので、売ってくださるならば、金貨12枚でどうでしょうか」

「12枚!? やったわ!! クロード、すぐ売るべきよ!」
 ルージュが喜んで売るのを勧めてきた。

「ちょっと待って、今日は魔石じゃなくて、村長さんに馬車を貸してもらえないか、頼みに来ただけなんだから・・・」
 興奮するルージュを制止しながら、話を本題に戻す。

「え? そうなの」
 ルージュのテンションが急激に下がる。

「そうよ、姉さんだって馬車で戻ること薦めてたじゃない」
 アマリージョがルージュをたしなめるように言う。

「まあ。そうなんだけど・・」
 ルージュが完全沈黙したのを、確認して村長が話しかけてきた。
「クロード殿、馬車のことだが、何に使うのかね」

「はい。えーと。ここに来る前に森の反対側の洞窟に、何日か住んでいまして、そこに荷物を置いてきてしまったので、取りに行こうかと」

「そうか、ただ馬車はあるんだが、馬がな・・・それに森の反対側まで行くなら護衛も付けなきゃいかんだろう。すぐにとなるとベニートにも確認してからになるが、構わないか?」

「あ、いえ。馬は結構です。自分で引いていくので。あと護衛も大丈夫です」

「引く? 自分で? そんな話、聞いた事もないが、まあそれでいいと言うなら好きにしなさい。護衛もオグルベアを倒すくらいなら、村の者では足手まといかも知れん。ただ、荷物を運ぶなら、家を先に決めんとな」
 村長はそう言って、笑った。

「クロードさん、家をこれからお決めになるのでしたら、必要なものもあると思います。私の店には、食料も含めて、生活雑貨から、武器、防具までいろいろあります。特に本日は商品を仕入れてきたばかりなので、何かとお力になれるかと」

「あ、いやでも」
 丁寧な口調をしながら、〈買え〉という圧力が半端ない。

「そこでご提案なのですが、その魔石をお売り頂いて、必要なもの分を購入後、差額をクロードさんにお支払いする形で売買をお願い出来ますでしょうか? もちろん、その分多少お値引きもいたしますので」

「あ、いや・・・でも、それではブルーノさんにメリットが無いですよね?」
 親切な提案に、少し不安を覚え思わず聞いてしまった。

「そんな事までご心配を頂いて。でも大丈夫です。クロードさんはオグルベアを一撃で倒す強者だと、ルージュさんから伺いました。そのような方と今後とも良い付き合いが出来ればと考えるのは商人ならば当然のこと。それに不思議な魔道具もお持ちだそうで。そういう方は、話を聞くだけでも、いろいろと商売の参考になります。今回、多少値引きをして儲けがなくても、それ以上の価値がありますから。いわば、先行投資のようなものですね」

 ブルーノは、いい商人のようだ。
 言っている事もおそらくは本音。
 ならば・・・
――ヒカリ、聞いてた? 今の条件でいいなら魔石を売ってもいいかな

『――はい、聞いていました。貨幣価値がまだ分からないですが、損をするような取引ではないと思いますので、玄人がよければそれでお願いします』

「ブルーノさん・・・そこまでの価値が俺にあるかどうかは分かりませんが、今回はそのままお言葉に甘えさせてもらいます。家が決まり次第、また戻ってきますから、その時に改めて商品を見せて下さい」

 そう言って、魔石をブルーノさんに預け、村長とアマリージョと店を出た。
 村長がこれから家を選ばせてくれるらしい。
 アマリージョは当然のように着いてくる。
 あれ、ルージュは?

『――さきほど、話の途中で裏口からこっそり抜け出していましたよ』

――・・・・

     ♣

 村長が、自宅候補の家まで案内してくれるというので、アマリージョと一緒に村長の後ろを歩く。
 こうしていると、なんだか新居を探しに行く新婚夫婦と不動産屋みたいに見えそうだ。
 いや、親子かな。

 村長によると、手直しをしないですぐに住める家は、3軒だけらしい。
 全て二階建て。
 ほとんど同じ間取りで、広さも同じくらいとの事。
 一階部分は、広々としたリビングと大きめのキッチン。
 二階部分は、寝室などに使える部屋が三つ。
 今までのマンション暮らしを思えば、かなり広い一軒家。 
 これでは単純に、部屋を持て余すのではと思ったが、ヒカリがマンションからいろいろと物を盗んで・・・いや運んで来いと言っていたから、倉庫代わりに使えるスペースがあるのは都合が良かった。

――あとは、場所か・・・どうしよう
 なんとなく、通信でヒカリに相談する。

『――私としましては、場所はなるべく村の入り口に近く、他の家からなるべく離れている方が良いです』

――え!? 遠く? なんで? 

『――魔物が来た時も対処出来ますし、他の家から離れていれば、何か実験したりする時も、気を遣わなくてすみますので』

――なるほど

「すみません、村長さん。3軒の中で一番村の入り口に近くて、他の家から離れている家はありますか?」

「なんだか変わった条件だが、別に村の中心に住んでいいんだぞ。空き家も多いことだし」

「あ、いえ、その方が逆に便利ですし、入り口は近い方が・・・魔物の件もありますので」

「そうか・・・クロード殿は意外と律儀なんだな」

「村長さん、さっきも気になりましたが、俺はもう村人なんですから。殿はやめて、呼び捨てでお願いします」

「そ、そうか。ではクロード・・・あっちの家がその条件に当てはまる家になるな」
 村長は、少し言いづらそうに呼び捨てにしてくれた。
 そして、指さした小麦畑の先には、ポツンと一軒家が建っていた。

「あの家ですか?」

「あぁ、あれだよ。元々は畑を管理していた者が住んでいたのだが、街へ引っ越してしまって今は空き家になっておる。他の家からは少し離れるが、裏に農具と馬車を収納する倉庫がついていてな・・・。あ、あそこなら、ちょっと古いが使っていない馬車もあったはずだ。魔法陣も使えるはずだし、農具はやるわけにはいかんが、馬車は、自由にしてもらっていいぞ」

「お、それは有り難いです。では、もうあそこで決定で構いませんので」

「見に行かなくていいのか?」

「はい。大丈夫です」

「そうか。ではとりあえず鍵だけ渡しておくから。村では、まあ、寝る時くらいしか鍵をかける習慣がないがな。だが、朝起きたら鍵はちゃんと開けておいた方がいいぞ」

「みんな、朝から鍵を壊して入ってくるってことですか?」
 心配になって聞いてみた。

「あ、いやいや、普通はちゃんとノックして来るから安心してくれ。まぁ問題はルージュだな。鍵をかけておくと、たまに壊されるんだよ・・・」

「いつもすみません・・・」
 アマリージョが申し訳なさそうに謝った。

「あぁ、なんとなく分かりますので、そうします」
 たやすく想像が出来たので、頷きながらそう答えた。
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