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第3章 光と「クリチュート教会」
85話 心の変化
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俺が吹き出すと同時に、村長のすぐ後ろを走って着いてきていたルージュも吹き出した。
「きゃーはははっ! 聖女様であらせられまりならませるられるでござるか? だって! 村長・・ブフッ・・緊張しすぎよ!!」
ルージュは、涙を流しながら腹を抱えて笑っている。
「ちょっ、ルージュ! フッ・・フフッ・・・あんまり、笑ったら・・そ、村長に失礼だろ!」
ルージュの失礼な態度を諫めるべく、苦言を呈する俺の声も震えてしまう。
村長本人はと言うと、緊張と感激のあまり、周りの音が一切耳に入っていない様子で食い入るようにヴェールの顔を見つめている。
するとヴェールが一歩前に出て、右手を差し出しながら村長に笑顔でこう言った。
「村長さんですね。本日は、私のわがままでこのようなことになってしまって大変申し訳ありません。ご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「!!」
村長の身体がビクンと大きくはねたように震えた瞬間、どうやら我に返ったらしく慌てた様子で口を開く。
「いえ!! とんでもありません!! 聖女様・・こんな辺鄙な村に来て下さり、本当に身に余る光栄です・・。お力になれることがあれば、なんでも致しますので遠慮なくおっしゃって下さい!」
村長が、顔を真っ赤にしながら差し出されたヴェールの右手を両手で握りしめる。
「ありがとうございます、本当に感謝いたします」
ヴェールが、両方の手で村長の手を握り返しながら言う。
「あ、いえ・・小さい村で何もありませんが、のんびりと逗留なさって下さい」
村長は感激のあまり、涙目になっている。
「まぁ、何もないなんて。こちらの村は今年不作でご苦労されたと聞きましたが、緑も多く、景色も綺麗で、空気も水も美味しくて、とても良い村ですね。神のご加護がありますよう、私からも、後ほど祈りを捧げたいと思います」
ヴェールは村長の手を優しく握ったまま、ゆったりと微笑んだ。まさに〝聖女の微笑み〟だった。
――うおお! あれが聖女の必殺技か・・あんなの食らったら一発KOだな・・・
そんな不謹慎なことを考えていたが、後から聞いた話、大概の人は聖女に会えた緊張や嬉しさなどから、村長のような感じになるとの事で、もう〝いつものこと〟らしく慣れっこということだった。
「村長、いいかげんにしなさいよ・・・家で待つはずが待ちきれずに走ってきて手を握るとか・・・どんだけ会いたいのよ」
ヴェールの手を握ったまま離さない村長に、ルージュが声をかける。
「!! あ・・こっ、これは大変失礼なことを・・・」
村長が慌てて、ヴェールの手を離すと頭を下げた。
「そんな・・・お気になさらずに。それに、こちらの方がご迷惑をおかけしそうですから・・・」
ヴェールが恐縮した様子で、村長の顔を見る。
「いえいえ! 迷惑なんて、とんでもありません!! 村には空き家も多いですし、食料も豊富にあります。騎士団の方々がお泊まりになるくらいなら、全く問題ありませんので」
村長が、ヴェールを安心させるように力強い声で言った。
「あ、そう言うことでは・・・いえ、お気遣いに感謝致します」
ヴェールは何か言いかけたが、すぐに思い直したようで、そのまま村長に感謝の意を述べた。
村長は「滅相もない」と照れくさそうに頭を掻いていたが、俺とルージュがニヤニヤしながら見ている事に気づくと、咳払いをしていつもの村長の顔に戻った。
「それはそうと、クロード・・・以前紹介してもらった魔道具のヒカリだったな。あれもそうだが、お前さんの魔道具はどれもヘンテコだが素晴らしいものばかりで、先日の上下水道とやらの工事に続いて、各家の風呂の設置・・・本当に感謝するよ。かなり時間も掛ったが、昨日の昼に村の全戸に風呂がついてお湯まで出るようになって。みんな感謝していたよ・・・まったく、お前は全然儂の所に顔を見せないから、礼を言うのも忘れてしまうところだったぞ」
「あ、すみません・・時間のあるときは、顔を出すようにします。それに、お礼だなんて・・俺は住むところも頂いて、皆さんから親切にしてもらってますから・・それに比べたら全然です」
今度は俺が、頭をポリポリ掻きながら答える。村長は、やれやれといった顔で苦笑しながら続ける。
「ヒカリの使いだとかで、土のデカイ魔物が現われたときは、もう死んだかと思ったが・・・今じゃ、ヒーロー兄弟とともに村の風物詩みたいなもんだからな。さすがに部外者には見せられないが・・皆、暮らしも安定して本当に感謝してるんだ」
「そんな・・こちらこそ、いろいろ秘密を作らせるような事をしてしまって申し訳ありません」
そうだよな・・ゴーレムが普通に現われたら、完全に死んだと思うよな・・その時の村の人たちの気持ちを考えると、今さらながら申し訳なくなった。
「いやいや、いいんだ。村の人間もこの程度の秘密と、便利な暮らしを天秤にかけたら暮らしが便利になる方を選んだまでのことだ。あとは、出入りのブルーノが他で喋らなければ問題もないだろう」
村長が、気にするなと言わんばかりに俺の肩をポンポンと軽く叩き、いつもの人の良さそうな笑顔で言う。
「ブルーノさんは大丈夫だと思います。ある程度の事情も知った上で、私に融資してくれましたし・・・」
「融資!? っ、金を借りたのか!? あのブルーノに? あのケチが人に金を貸すとはよっぽどのことだな・・・それならブルーノも問題ないか・・・あの、がめつい商人が自分の儲けを自ら捨てるようなことをするとは思えんしなぁ・・・そういう事ならヒカリにも伝えてくれ、村の発展については正式に依頼を出すので好きにやってくれと・・・」
村長が信じられないといった表情でのけぞらんばかりに驚き、大きな声で言った。
「えっ!? 好きに・・ですか? それはいくらなんでも・・・」
今度は、俺が驚く番だった。そこへ、すぐさまヒカリから通信が入った。
『玄人。了解したと村長に伝えてくれますか? それと連絡用にスマホを一台渡したいので明日にでも家まで来て欲しいと・・・そこで村の今後について話もしますので』
「わかった、伝えるよ。あ、村長さん。ヒカリが明日家に来て欲しいと、今連絡が・・・それと村の今後について、明日、また詳しく話したいとのことでした」
「うん。そうか、わかった。それならば明日、落ち着いたら家に伺うとしよう」
村長は、うなずきながら言った。
「はい。よろしくお願いします」
村長と話を終え、ふと後ろを見るとルージュ達の姿がない。あたりを見回すと20メートルほど先の村の入り口に立っているのが見えた。
俺と村長の話が長くなりそうだと察知して、村長の家で待つのはやめ、村の入り口でテスターたちの到着を待つことにしたのだろう。
ヴェールを真ん中に、左右をルージュとアマリージョが固めている。あれ、ケナ婆は? と思い目をこらすと、ルージュにおんぶされていた。
村長と一緒に、足早にヴェールたちのところへ向かう。俺たちの到着とほぼ同時にルージュが声を上げた。
「来たわ」
なんとか視認できるギリギリのあたりに、テスターたちと思われる馬群が見えた。
馬群はどんどん近づいてきて、馬に乗っている人影は、間違いなくテスター達だと確認できる距離まで来ると、急にスピードを落とし、こちらの様子を窺うようにゆっくりと近づいてくる。
「相変わらず、イヤな奴ね・・」
ルージュがボソッと呟いた。アマリージョとヴェールもウンウンとうなずいているのには少し笑ってしまったが・・。
そして、こちらに見せつけるかのようにゆったりとした動きで、テスター御一行が村の入り口まで到着した。
テスターは、馬から下りようともせず兜のバイザーを上にずらすと、
「これは、これは・・聖女様自らお出迎え下さるとは・・・。このような薄汚い村で、お身体は大丈夫ですか?」
嫌味たっぷりな笑顔でヴェールに声をかけた。
こちら側全員の空気が、一瞬にして張り詰めたのがわかった。特にルージュからは殺気さえ感じられる。一触即発の雰囲気にこのままじゃヤバイかも・・と思ったとき、ヴェールがスッと一歩前に進み出た。
「テスター副団長・・遠いところ護衛ご苦労様です。こちらの村は皆さんご親切ですし、空気も美味しくて、とても安らげます。副団長方もお疲れでしょうし、ゆっくり休ませて頂くとよろしいかと思います。あっ、お水もとても美味しいんですよ」
ヴェールは〝聖女の微笑み〟でにっこり笑いながら、真っ直ぐテスターを見つめて言った。
「は・・はぁ・・それは、結構で・・・」
テスターはヴェールの態度に、完全に出鼻をくじかれた様子でモゴモゴと口ごもる。
俺たちの一歩前に立つヴェールは、相変わらず小さくて可憐な後ろ姿だった。だが、その身体の真ん中には、今までなかった一本の筋がピンと張っているように見えた。
ヴェールは、俺たちを守ってくれたのだ。村を侮辱され、憤慨してこちらが手を出せば、テスターの思うツボだっただろう。彼女はそれを恐れ、どちらの顔も立つように、とっさに行動してくれたのだ。
ヴェールは変わった、ここにいる誰もがそう感じた瞬間だった。
「きゃーはははっ! 聖女様であらせられまりならませるられるでござるか? だって! 村長・・ブフッ・・緊張しすぎよ!!」
ルージュは、涙を流しながら腹を抱えて笑っている。
「ちょっ、ルージュ! フッ・・フフッ・・・あんまり、笑ったら・・そ、村長に失礼だろ!」
ルージュの失礼な態度を諫めるべく、苦言を呈する俺の声も震えてしまう。
村長本人はと言うと、緊張と感激のあまり、周りの音が一切耳に入っていない様子で食い入るようにヴェールの顔を見つめている。
するとヴェールが一歩前に出て、右手を差し出しながら村長に笑顔でこう言った。
「村長さんですね。本日は、私のわがままでこのようなことになってしまって大変申し訳ありません。ご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「!!」
村長の身体がビクンと大きくはねたように震えた瞬間、どうやら我に返ったらしく慌てた様子で口を開く。
「いえ!! とんでもありません!! 聖女様・・こんな辺鄙な村に来て下さり、本当に身に余る光栄です・・。お力になれることがあれば、なんでも致しますので遠慮なくおっしゃって下さい!」
村長が、顔を真っ赤にしながら差し出されたヴェールの右手を両手で握りしめる。
「ありがとうございます、本当に感謝いたします」
ヴェールが、両方の手で村長の手を握り返しながら言う。
「あ、いえ・・小さい村で何もありませんが、のんびりと逗留なさって下さい」
村長は感激のあまり、涙目になっている。
「まぁ、何もないなんて。こちらの村は今年不作でご苦労されたと聞きましたが、緑も多く、景色も綺麗で、空気も水も美味しくて、とても良い村ですね。神のご加護がありますよう、私からも、後ほど祈りを捧げたいと思います」
ヴェールは村長の手を優しく握ったまま、ゆったりと微笑んだ。まさに〝聖女の微笑み〟だった。
――うおお! あれが聖女の必殺技か・・あんなの食らったら一発KOだな・・・
そんな不謹慎なことを考えていたが、後から聞いた話、大概の人は聖女に会えた緊張や嬉しさなどから、村長のような感じになるとの事で、もう〝いつものこと〟らしく慣れっこということだった。
「村長、いいかげんにしなさいよ・・・家で待つはずが待ちきれずに走ってきて手を握るとか・・・どんだけ会いたいのよ」
ヴェールの手を握ったまま離さない村長に、ルージュが声をかける。
「!! あ・・こっ、これは大変失礼なことを・・・」
村長が慌てて、ヴェールの手を離すと頭を下げた。
「そんな・・・お気になさらずに。それに、こちらの方がご迷惑をおかけしそうですから・・・」
ヴェールが恐縮した様子で、村長の顔を見る。
「いえいえ! 迷惑なんて、とんでもありません!! 村には空き家も多いですし、食料も豊富にあります。騎士団の方々がお泊まりになるくらいなら、全く問題ありませんので」
村長が、ヴェールを安心させるように力強い声で言った。
「あ、そう言うことでは・・・いえ、お気遣いに感謝致します」
ヴェールは何か言いかけたが、すぐに思い直したようで、そのまま村長に感謝の意を述べた。
村長は「滅相もない」と照れくさそうに頭を掻いていたが、俺とルージュがニヤニヤしながら見ている事に気づくと、咳払いをしていつもの村長の顔に戻った。
「それはそうと、クロード・・・以前紹介してもらった魔道具のヒカリだったな。あれもそうだが、お前さんの魔道具はどれもヘンテコだが素晴らしいものばかりで、先日の上下水道とやらの工事に続いて、各家の風呂の設置・・・本当に感謝するよ。かなり時間も掛ったが、昨日の昼に村の全戸に風呂がついてお湯まで出るようになって。みんな感謝していたよ・・・まったく、お前は全然儂の所に顔を見せないから、礼を言うのも忘れてしまうところだったぞ」
「あ、すみません・・時間のあるときは、顔を出すようにします。それに、お礼だなんて・・俺は住むところも頂いて、皆さんから親切にしてもらってますから・・それに比べたら全然です」
今度は俺が、頭をポリポリ掻きながら答える。村長は、やれやれといった顔で苦笑しながら続ける。
「ヒカリの使いだとかで、土のデカイ魔物が現われたときは、もう死んだかと思ったが・・・今じゃ、ヒーロー兄弟とともに村の風物詩みたいなもんだからな。さすがに部外者には見せられないが・・皆、暮らしも安定して本当に感謝してるんだ」
「そんな・・こちらこそ、いろいろ秘密を作らせるような事をしてしまって申し訳ありません」
そうだよな・・ゴーレムが普通に現われたら、完全に死んだと思うよな・・その時の村の人たちの気持ちを考えると、今さらながら申し訳なくなった。
「いやいや、いいんだ。村の人間もこの程度の秘密と、便利な暮らしを天秤にかけたら暮らしが便利になる方を選んだまでのことだ。あとは、出入りのブルーノが他で喋らなければ問題もないだろう」
村長が、気にするなと言わんばかりに俺の肩をポンポンと軽く叩き、いつもの人の良さそうな笑顔で言う。
「ブルーノさんは大丈夫だと思います。ある程度の事情も知った上で、私に融資してくれましたし・・・」
「融資!? っ、金を借りたのか!? あのブルーノに? あのケチが人に金を貸すとはよっぽどのことだな・・・それならブルーノも問題ないか・・・あの、がめつい商人が自分の儲けを自ら捨てるようなことをするとは思えんしなぁ・・・そういう事ならヒカリにも伝えてくれ、村の発展については正式に依頼を出すので好きにやってくれと・・・」
村長が信じられないといった表情でのけぞらんばかりに驚き、大きな声で言った。
「えっ!? 好きに・・ですか? それはいくらなんでも・・・」
今度は、俺が驚く番だった。そこへ、すぐさまヒカリから通信が入った。
『玄人。了解したと村長に伝えてくれますか? それと連絡用にスマホを一台渡したいので明日にでも家まで来て欲しいと・・・そこで村の今後について話もしますので』
「わかった、伝えるよ。あ、村長さん。ヒカリが明日家に来て欲しいと、今連絡が・・・それと村の今後について、明日、また詳しく話したいとのことでした」
「うん。そうか、わかった。それならば明日、落ち着いたら家に伺うとしよう」
村長は、うなずきながら言った。
「はい。よろしくお願いします」
村長と話を終え、ふと後ろを見るとルージュ達の姿がない。あたりを見回すと20メートルほど先の村の入り口に立っているのが見えた。
俺と村長の話が長くなりそうだと察知して、村長の家で待つのはやめ、村の入り口でテスターたちの到着を待つことにしたのだろう。
ヴェールを真ん中に、左右をルージュとアマリージョが固めている。あれ、ケナ婆は? と思い目をこらすと、ルージュにおんぶされていた。
村長と一緒に、足早にヴェールたちのところへ向かう。俺たちの到着とほぼ同時にルージュが声を上げた。
「来たわ」
なんとか視認できるギリギリのあたりに、テスターたちと思われる馬群が見えた。
馬群はどんどん近づいてきて、馬に乗っている人影は、間違いなくテスター達だと確認できる距離まで来ると、急にスピードを落とし、こちらの様子を窺うようにゆっくりと近づいてくる。
「相変わらず、イヤな奴ね・・」
ルージュがボソッと呟いた。アマリージョとヴェールもウンウンとうなずいているのには少し笑ってしまったが・・。
そして、こちらに見せつけるかのようにゆったりとした動きで、テスター御一行が村の入り口まで到着した。
テスターは、馬から下りようともせず兜のバイザーを上にずらすと、
「これは、これは・・聖女様自らお出迎え下さるとは・・・。このような薄汚い村で、お身体は大丈夫ですか?」
嫌味たっぷりな笑顔でヴェールに声をかけた。
こちら側全員の空気が、一瞬にして張り詰めたのがわかった。特にルージュからは殺気さえ感じられる。一触即発の雰囲気にこのままじゃヤバイかも・・と思ったとき、ヴェールがスッと一歩前に進み出た。
「テスター副団長・・遠いところ護衛ご苦労様です。こちらの村は皆さんご親切ですし、空気も美味しくて、とても安らげます。副団長方もお疲れでしょうし、ゆっくり休ませて頂くとよろしいかと思います。あっ、お水もとても美味しいんですよ」
ヴェールは〝聖女の微笑み〟でにっこり笑いながら、真っ直ぐテスターを見つめて言った。
「は・・はぁ・・それは、結構で・・・」
テスターはヴェールの態度に、完全に出鼻をくじかれた様子でモゴモゴと口ごもる。
俺たちの一歩前に立つヴェールは、相変わらず小さくて可憐な後ろ姿だった。だが、その身体の真ん中には、今までなかった一本の筋がピンと張っているように見えた。
ヴェールは、俺たちを守ってくれたのだ。村を侮辱され、憤慨してこちらが手を出せば、テスターの思うツボだっただろう。彼女はそれを恐れ、どちらの顔も立つように、とっさに行動してくれたのだ。
ヴェールは変わった、ここにいる誰もがそう感じた瞬間だった。
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