悪魔のカナリア

はるの すみれ

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第一章 カナリアのデスゲーム

二ページ 才能と憧れ

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  僕達がカナリアのデスゲームに参加してからに週間が経ち、施設の使い方に慣れ始め、人間関係の方面では仲間内でのグループみたいなものが出来上がり始めていた。


  この二週間の間に僕等もある一人を除いて皆と会話を済ませた。施設も快適で食事も美味しくて僕等は自分達が罪人(カナリア)であるという事を忘れている気がした。


  カナリアと言えど人間には変わりなくて、朝食を摂りに来た僕と平の前では、理由は分からないが女の戦いが繰り広げられていた。


  「ふざけないで!!!あんたが悪いんだから!」


  「百合には関係ないしぃ、てゆーか毎日毎日楯突いてきてこわいんですけどぉ、誰か百合を助けてぇ」


 ここ最近目立って争っているのは見た目から正反対同士の日暮茉里と九条百合だった。
 原因は分からないが、互いの性格の違いもあってか口を開けばいい言い争いになって、その度に茉里は声を荒げていた。


 カナリア同士だから何が起こっても不思議ではないが、食事の時間くらいは静かに過ごしたい。
 だけど下手に口を挟むと火に油を注ぐことになりそうなので皆は見て見ぬ振りを決めていた。


  何故、二人が争い始めたのかを知りたくてたまたま食堂に先に来ていた黄瀬さんに平が話しかけた。


  誰にでも愛想よく振る舞える平には尊敬の念を覚える。
  平が今、話している黄瀬さんは物腰が柔らかくてとても話しやすい優しい女性だった。始めて話したあの日も初対面の平に対して親切に受け答えをしてくれた。


  そしてあれから何日か経つが毎日毎日飽きずに二人の攻防は続いていた。


  黄瀬さんからことの発端を聞いたが僕にはイマイチ理解しがたい内容だった。


 『九条さんがアン君に媚を売っている』というのが一番の原因らしいよ、そう黄瀬さんは困り顔で話をしてくれた。


 確かに九条さんは他のカナリアよりもアン・スリウムさんと親しくしているようだがそれが日暮さんにとって何が気にくわないのかよく分からなかった。


 そのことを黄瀬さんに尋ねると黄瀬さんから返ってきた答えは『アン君が九条さんのことを日暮さんの前で一番可愛いって言ったから』というものだった。


  黄瀬さん曰く、日暮さんが気に入らないのは恋愛的な話ではなくて、自分がこの中で一番可愛いという言葉をもらえなかったことにあるらしい。


  『』…その言葉に何が秘められているのか、僕には検討もつかなかった。


  
  例えば、もしアン・スリウムさんから一番の称号を貰えても、それが他者にとって同じ感性なのかと問われれば答えはイエスではない。


  一人の一番を貰ったところで何にもならないし、日暮さんにとって何の意味があるのだろう。
  そこまでの固執が僕には分からなかった。


  それは当人(日暮茉里)にしか分からない問いだ。



  「いやだぁ、茉里さんこわぃ~アン君助けてぇ」


  「いちいち男に頼ってんじゃないわよ、このビッチ!」


  二人のやり取りがだんだんに危なくなってきたところで、遠目から静かに見ていた蝶番舞鶴さんが止めに入った。


  「お二人さん、ええ加減にしぃや、せっかくの食事が不味なるわ、仲良くしぃなんて言えへんけど体外にしぃや」


  蝶番さんの言葉は嫌味がなく、大人が子供に言い聞かせるような言葉の届き方だった。
 二人とも蝶番さんの顔をちらりと見てから深い溜息をつくと日暮さんは食事も摂らずに食堂から出て行ってしまった。


  「はぁ…あの子ら二人とも…ええ子やのにな…」


  蝶番さんは美しい指に煙管を乗せ、二人の様子を眺めながら溜息を漏らした。


  「女が二人以上集まると何かしら揉め事が起こりやすいんわ何処も同じやな…」


  蝶番さんは苦笑いを浮かべて食堂を後にした。


 僕達は食堂のテーブルに黄瀬さんを交えて座り三人分の朝食が並ぶのを待っていた。


  この施設に来て初日以降は自分達の好きなものを頼む事が許されていた。


  今朝は僕と平はトーストの上に目玉焼きを乗せたエッグトーストとドリンクにホットココア、クラムチャウダーを頼んでいた。


 周りを見渡すと食堂には僕達の他にも食事を摂っているカナリアがいた。


  先程まで争っていた九条さんの隣にはアン君が座り、その対面に蝶番さんが座って三人で談笑しているようだ。


  「なあ、咎愛はさ日暮と九条どっち派?」


  「どっち派って何が?」


  「あーあ、鈍いな咎愛は」


  「ん??」


  「どっちがタイプか聞いてんだよ」


  「えぇ!タイプ…?考えたことないな…」


  朝からいきなり刺激的な質問を平に寄越されて戸惑っていると、黄瀬さんが僕に助け舟を寄越してくれた。


    「二人とも良いところも悪いところもあるよね、日暮さんは良い風に見ると素直だし、九条さんは自分を魅せることが上手だし、なかなか迷っちゃうね」


  「黄瀬さんの大人な解答に免じて今日は深追いしないでおくよ」


  「黄瀬さんありがとう助かった」


  僕は手の平を合わせて黄瀬さんにお礼の意味を示すジェスチャーを送った。
 黄瀬さんは笑顔で僕に会釈を返してくれた。


 僕等の会話が途切れた頃、香ばしい香りと共に僕等の朝食が運ばれてきた。


   食事から上がる湯気を見るだけで幸福感を味わってしまうのは、きっと僕がカナリアだからなのだろうと思うとちくりと胸が痛んだ。


  「よしっ!くおーぜ!」


  勢いよく朝食を頬張る平を横目に僕もトーストを手に取った。食事中はつい制約を忘れてしまいそうな自分との戦いだった。
  少しでも手首や足首を見られてしまうと制約違反で死んでしまうかもしれない。


  そんな死に方は嫌だし、それに、平の優しさを無駄にしてしまう事になる。


  平は毎日僕の制約に気を遣って少しでも服が捲れ難い食事を選んでくれている。
  この2週間を平はと共に過ごして来たけれど、平はカナリアとは思えないほど優しくて真っ当な人間だ。そんな平に頼りっぱなしの僕は情けないとしか言いようがない。


  今日も平の優しさに甘えながら一日が始まろうとしていた。


  僕がトーストを頬張りながら平の方をちらりと見るとこちらを見ていたであろう平とパチリと視線があった。何故、僕を見ていたのだろうと首を傾げると


  「なぁ、咎愛って今何歳なんだ?」


  唐突な質問に戸惑いながらも僕は平に答えを返した。


  「僕は今、十九歳だよ、でもいきなり何で?」


  「特に理由はないけどさ、ちなみに俺は、今二十一歳なんだ、本当お前って弟みたいで可愛いよな」


  「可愛いってそんな事ないよ、平はお兄さんっぽいっていうか、お母さんみたいだよね」


  「お母さんっ!?せめてお父さんにしろよな!」 


      「だって気が効くし、優しいし」


   「おいおい、恥ずかしいだろ!俺がいい奴だってバレるからそれくらいにしとけよな」


  僕等が冗談を交わす中、黄瀬さんがポツリと呟いた言葉は僕等の耳にしっかりと響いた。
  小さな、普通なら聞き取れないくらいの声なのに、その言葉には不気味な重みが感じられた。


  「お母さん…」


  「ん?黄瀬さん?大丈夫?」


  平が黄瀬さんに声をかけると、黄瀬さんは慌てて愛嬌のある笑みを浮かべた。


  こうして今朝も無事に食事を終えた僕は空になった食器を元の位置に戻して二人が次の行動に移るのを待っていた。


  「ご馳走様でした! 」「いただきました」


  二人で声を揃えると平の方に視線をやって平の指示を待った。この二週間、平の行動に合わせて僕は動いていた。
 だから僕は今日もこうして平を待っている。


  「なあ、今日は色々聞き込みをしようと思うんだ!咎愛はいいとして黄瀬さんは何か予定ある?」


  「私はこの後、植物園に行くつもり」


  「そうか、じゃあ俺たちは二人で行動するよ」


  「うん、またね」


  黄瀬さんはゆっくり立ち上がると笑顔で手を振りながら歩いて行った。


  僕達も立ち上がって食堂の外を目指して歩き始めた。先程まで食堂にいたカナリア達はいつの間にか数人しかいなくなり食堂には静けさが訪れていた。


  「なあ、咎愛?咎愛は黄瀬さんを信用していいと思うか?」


  食堂を出て、人目がないことを確認した平が僕に耳打ちしてきた内容は自然と疑問を抱く内容だった。


  「平は黄瀬さんを信用してないの?」


  「ハーフハーフかな、でも黄瀬さんを見てると普通じゃないことはすぐ分かるけどな」


  「えっ?黄瀬さんが普通じゃないって、どうして?」


     「ったく、咎愛は純粋だから心配になるぜ、俺さ黄瀬さんを観察してて気が付いたんだけどさ、黄瀬さんってたまに男性を見る目がきつくなる時があるんだ、だから黄瀬さんに近づくきっかけを探してたんだよ」


  「平、僕にも分かるように説明してくれないかな?」


  「黄瀬さんが不穏な表情を見せる時には決まりがあるんだ、それは、必ず一人でいる男性を見ているってことさ」


  「男性が嫌いなのかな」


  僕の呟きに平は首を捻った。


  「きっとそんなもんじゃない何かがあるんだと思うぜ、黄瀬さんが此処に来た原因になるような何かがな」


  「黄瀬さんには色々聞かなくていいの?制約とか経歴とか」


  「黄瀬さんには話さない方がいいかもしれないな、特に咎愛が保護対象かもしれないってことは」


 僕が平の言葉に首を傾げていると、平は苦笑いしながら言葉を繋げてくれた。


  「保護対象ってほかのカナリアからはいい目で見られないんだよ、此処にいても自由に動けたりさ、ほかのカナリアより刑務作業が楽だったり…だからこのゲーム中は殺害の標的になりやすいってことだよ、犯罪歴ある連中より犯罪経験のないやつを狙いに行くのは咎愛にも分かるだろう?」


  確かに、犯罪歴がある人より犯罪経験のない人を殺した方が成功率は高いのかもしれない。
 保護対象について平の言葉に違和感を覚えたことはこの場で平に追求することをやめた。
 僕はこのゲームに参加する前は自由に動けるということはなかった。


 だけどそれが僕の思い違いで、ほかのカナリアより僕の方が自由度が高かったのかもしれないし、きっとこのゲーム中に分かる子もあるはずだから今は心に留めておくことにした。


 これ以上この場で平に質問を続けるのも気が引けてしまって僕は平の次の行動を待った。
 

    そんな僕の様子に気付いたのか平はこちらを見て笑顔を作った。


「よし!立ち話も何だし行くか!目的地は決めてねーから見つけた人に声かけていこうぜ!」


  「分かったよ」


  「此処から一番近いのは図書室か…誰かいるかな?」


  「図書室なら誰かしらいるんじゃないかな?僕も部屋で読む本を借りたいから少し時間を割いてもいいかな?」


  「おう!」



  僕達の向かう図書室は食堂の前の廊下を進んだ端にある。僕たちが廊下の半分まで歩いたところで黒髪を二つのお団子にした可愛らしい女の子と若い男性が手を繋いで歩いている姿が見えてきた。


 段々に近くシルエットがはっきりしてくると月華兎耳ちゃんと芙蓉夏彦さんだとわかった。


  「おはようございます、芙蓉さんに月華ちゃん」


  「おはよー!」「おはようございます」


  月華ちゃんと芙蓉さんは平と僕に挨拶を返してくれた。元気よく挨拶をしてくれた月華ちゃんの頭を優しく撫でる芙蓉さんの姿は父親の雰囲気を纏っていた。
 月華ちゃんに愛おしそうに触れていた芙蓉さんは僕達の方を見据えると口を開いた。


 「愛美君に萩野目君は何処かに行くところかな?」


  「はい、図書室に向かうつもりです」

   
  平が淡々と答えると芙蓉さんはふっと柔らかく笑ってから僕達に返答した。


 「そうかい、僕達もさっき足を運んだんだけど、ここの図書室は色々な本があって驚いたよ、きっと二人も気にいると思うよ」


  「そうなんですか、俺たちはまだ図書室には行ったことなかったから嬉しい情報です、後一つ聞きたいんですけど、図書室に誰か他の人はいましたか?」



  「んーっと僕達の他には櫓櫂さんがいたよ」


  「櫓櫂さんかあ…」


  平の呟きを聞いた芙蓉さんは笑みをこぼした。平が櫓櫂さんを渋る理由はカナリア達に共通していた。


 「まあ、僕達が図書室に入った途端帰ってしまったけどね…」


  どこか寂しげに話す芙蓉さんを慰めるように月華ちゃんが芙蓉さんを見つめていた。芙蓉さんは視線に気づくと優しい笑みを月華ちゃんに送った。


  「月華ちゃんみたいにカナリアじゃない子もいるのにね…何だか無差別なのは悲しいよね」


     芙蓉さんが何気なく発した言葉にすぐさま平は食い付いた。僕の意識は櫓櫂さんの話の方へ行っていて全く気が付かなかったのにやはり平はすごい。


  「月華ちゃんは保護対象なんですか?」


  芙蓉さんは隠すそぶりもなくふわっとした柔らかい笑みを浮かべるとゆっくり頷いた。


  「どうして保護対象だと分かったんですか?」


  平が芙蓉さんに矢継ぎ早に質問を繰り出していると芙蓉さんの横から月華ちゃんが口を開いた。


  「月華には記憶がないの、日本に来てからお母さんと暮らしてたの、だけど目が覚めたらここにいて、夏彦お兄ちゃんと仲良くなったの」


  「そっかあ、お話してくれてありがとう、それに日本語上手だね」


  「うん、日本に来る前から習ってたんだよ」


  「そっかあ、月華ちゃんは頑張り屋さんだね」


  「うん、月華もっと頑張る!」


  ここが、この人達がカナリアだなんて思えないくらいの温かな光景に僕の心は和んでいた。


  「じゃあ、そろそろ僕達は音楽室に行くよ、今日は牡丹君から一曲演奏してもらうんだ」


  「へぇー牡丹さんってそんなことできたんだ」


 「うん、ここに来る前は有名な音楽家だったみたいだよ楽器はなんでも出来るみたいだし、専攻はヴァイオリンだって本人は言ってたけど、今度よかったら愛美君達も聴きに行くといいよ」


  「はい」 「聴きたいです」


 僕達の返事に芙蓉さんは微笑むと月華ちゃんを連れてゆっくりと歩き出した。
 僕も平と並んで再び歩き出す。


  「芙蓉さんはやり手かもな…」


  「えっ!?何がどうして?」


 芙蓉さん達が見えなくなった後、平が漏らした言葉の意味が僕にはよく分からなかった。


  「保護対象の月華ちゃんを連れて歩くことで芙蓉さんからターゲットが月華ちゃんに移りやすいだろう?しかもああやって大胆に月華ちゃんが保護対象だって話すなんて、普通ならしないな」


  「確かに平は僕のことを他の人に話したりしないもんね」


 僕が平の言葉に納得して頷いていると平は俺の肩を優しくトントンと叩いた。


 「俺は咎愛を囮にはしないさ、そんなこと俺のプライドが許さないぜ」 


    「ありがとう、平といると安心するよ」


  「おいおい、どんな時でも気ぃ抜くなよな、俺だって人パーセントは信用するなよ、何があるか分かんねーからな!なんてなっ、」


  冗談ぽく笑う平を横目に僕は考えに耽っていた。
  保護対象、犯罪歴のないカナリア、事件と関わってしまい何らかの精神的影響を受けてしまった存在。


  月華兎耳ちゃんと芙蓉さんは初日からずっと一緒に行動している。
  二人が別々に行動している姿は見たことがない。


  芙蓉さんは平の言う通り、月華ちゃんを利用する為に近付いたのか、それとも保護対象という不確定要素を除いても、幼く狙われやすい月華ちゃんを守る為に側にいるのか僕には考えても分からなかった。


  だけど、幼い月華ちゃんには芙蓉さんのような頼れる大人が必要なのかもしれない。
  僕にも平が必要だ。


  信じたい…。
  芙蓉さんが月華ちゃんを守ってくれると。


  僕にはそれしか出来ないから。


  「よしっ行こうぜ!」


  平の発した声で僕は我に帰った。
  不安なのかもしれない。自分の存在が、保護対象という肩書きが。


  本当に僕は罪人(カナリア)ではないのかと。


  「ねぇ平」


  「なんだよ咎愛」


  先を軽快に歩いていた平は僕の方を振り返りながら笑顔を浮かべた。


  「僕は何でここに来たのかな?月華ちゃんを見ていたらそう思ったんだ、月華ちゃんはどうしてここにいるのかな、なんて」


  僕の問いに平は顎に手を当て少しだけ考えてから口を開いた。


  「そりゃあ、なんか事件に巻き込まれたか、事件を起こしかけて失敗したとか、自殺しようとした、とか保護対象になる理由は山程あるけどな」


  「未遂も保護対象になるんだ…」


  「ああ、保護されて記憶を消されちまえば普通の感性に戻るやつもいるからな、まぁ、元からおかしい奴は対象外でカナリア扱いにされるようになってる」


  「そうなんだ…」


  「まぁ、お前は普通に話しもできるし、性格も悪くないし、そんなに考えすぎんなよな」


  「うん!ありがとうなんか元気出た」


    僕は平に向かって微笑んだ。


  「そんなにじっと見んなよな照れるからさ、ほらさっさと行くぞ」


  僕達が図書室に着くと、室内は無人で静まり返っていた。図書室はカテゴリーごとに本棚で分けられていて僕が一番惹かれたのは爬虫類の図鑑や資料がある本棚だった。


  一冊薄めの図鑑を手に取りページを捲ってみた。見たこともない生き物が溢れていて僕の心は感動に満ち溢れていた。


  「咎愛は爬虫類が好きなのか?俺はあっちにある資料を見てくるから好きなだけ見たら声かけてくれよな」


  「うん」


  僕はある程度読みたい図鑑を決めて小脇に抱えて平を探した。辺りをぐるりと見渡すと室内の一番奥で真剣な表情で資料を読む平の姿を見つけた。


  「平、何か見つかった?」


  僕が平に声を掛けると平はゆっくりと振り返って険しい顔を僕に向けた。


  「平?どうかしたの?顔が怖いよ…?」


  「流石に探しても探してもカナリアや悪魔の鳥籠に関する資料は置いてないな…それもそうか、代わりのいい情報源もないし移動するか…おっ、咎愛は目星いものがあったのか」


  「うん、全部図鑑だけど退屈しのぎになりそうだから借りていくよ」


  「おう」
 

  僕達が図書館を出ると廊下から一人の男性が入れ違いで図書室に入っていった。
  白衣を靡かせて僕達の横を勢いよくすれ違った瞬間に男性の方からチッと大きめの舌打ちが聞こえてきた。


  「なんだあれ、態度悪いな…まあ、しょうがないか…」


  「櫓櫂さんだったよね…何とかならないかな…」


 芙蓉さんが苦笑いしていたように、櫓櫂さんは他のカナリア達からも遠巻きに見られていた。
 その一番の理由は、このゲームが始まってからすぐの出来事にあった。


 ある日の朝食の時間、楽しげに会話をしていたカナリア達を横目に櫓櫂さんは苛立ちを露わにし、テーブルに両手を思い切り叩きつけると大声宣言した。


  『お前らのような血に汚れたカナリア達と馴れ合いたくない!』


  この発言や態度が元となってカナリア達から一目置かれる存在となっているのだ。


  現に僕や平とすれ違っただけで舌打ちをしているのをはっきり聞いたし、平はそんな櫓櫂さんを不愉快そうに見ていた。 


    「ん?なんだこれ」


  櫓櫂さんが通り過ぎた直後、彼の衣類から何か小さな物が地面に転がり落ちた。
  

  「注射器みたいだね」


  平は音もなく落ちた注射器を屈んで拾うと指先で摘んで全体を透かし見た。


  「んー、これって本物だな…薬剤は入ってないみたいだけど、針は中にあるぜ」


  「そんなもの持ち歩いてるんだ…危ないよね」


  「まぁ、護身用とかそれ以外の目的もあり得るな」


  それ以外の目的、つまりは…。
  僕は頭に浮かんだ恐ろしいイメージを?き消すために頭を思い切り横や縦に振って気を紛らわせた。


  「はぁ…これを本人に返すのは気が引けるな…話しかけたくもないし、それに…万が一の可能性もあるからな…取り敢えず見えにくい場所に置いておくのがベストな気がしてきた」


  僕は平の意見に頷いた。


  「よし、中庭にでも置いておくか」


  「本当に大丈夫かな、櫓櫂さん、探しに来たりしないかな」


  「大丈夫だ、気にすんな!探しに来てるならもうとっくに来てるさ!」


  「それもそうか」


  「だろっ!早いとこ移動しようぜ」


  平は注射器をパーカーのポケットにしまい込んだ。僕等は急ぎ足で中庭を目指す。
  図書室はこの施設内でも中庭からは遠くに位置する為移動時間に五分程を要する。


  「ここまで来ても探しに来ないってことは気が付いてないって事だな」


  平は安心したのか僕に爽やかな笑みを浮かべた。


  「そうだね」


  「それにしても広い施設だよな…本来の目的は何の為の施設なんだこれ、カナリアのデスゲームに使う為だけにしては無駄な場所が多いんだよな」


  「無駄な場所?僕達に少しでも自由を与えたい為じゃないのかな?」


  平は僕の言葉に首を捻った。


  「どうだかな…殺し合いをさせたいならもっと暗くて狭い封鎖空間を用意すればいいのに、此処は異様に土地が広いからな」


  「んー僕には難しい話だな」


  平は僕の顔を見てプッと吹き出した。


  「ハハハッ咎愛って頭良さそうなのに案外バカなんだな!」


  「酷いよっ!確かに否定はできないけど…」


  「冗談だよ、冗談!記憶もないんだし、しょうがないって」 


       「冗談きついよ…」


      「悪かった悪かった!」

そう言いながら肩を竦めて歩き出した平を追いかけるようにして僕も歩き出した。


  平と話ながら廊下の隅まで歩くと、中庭に通じるガラス張りの開き戸が見えてきた。


  中庭には植物園があり日光の当たるスペースに温室風に作られていた。
 僕も平も中庭をしっかり探索するのは初めてで新鮮な気持ちで歩いていた。


  「あれ?黄瀬さんと彼方さんが一緒にいるのって珍しいよね?」


 「確かに見たことない組み合わせだな…」


  僕と平が目にしたのは植物園の中で話す黄瀬さんと彼方茜さんの姿だった。
 話すといっても黄瀬さんの表情から彼方さんが強引に物を言っているように感じた。


  「咎愛行こうぜ、なんか黄瀬さんが困ってるように見える」


  「僕も同感だよ」


 僕達は温室のドアを開いて中に入った。暖かい空気が肌を優しく撫でて春の日向で寛いでいるような気持ちになる。
 そんな柔らかな雰囲気の中で聞こえて来た話し声は不釣り合いなものだった。


 「やめてください…私…困りますから」


  「いいじゃん、ちょっと触らせてよ…」


  「嫌です…すみません…」


 「ふざけんなよ!触らせろよっ!」


  「やめてっ!!!私には触らないでっ!」


 彼方さんが無理矢理黄瀬さんの腕を掴んだところで僕と平が間に入って二人を引き離した。


  「ちっ邪魔しやがって!」


  彼方さんは悪態をつきながら温室を飛び出していった。黄瀬さんは肩で息をしながら地面に座り込んだ。


  「黄瀬さん大丈夫?立てる?」


  「ありがとうございます…萩野目君…愛美君…」


 黄瀬さんは僕達の手を借りてゆっくり立ち上がったが、すぐによろけてしまい慌てて平が黄瀬さんを受け止めた。


   「ごめんね…愛美君…」


  「いいって、黄瀬さんの部屋まで送るよ」


  「ありがとう…」


  僕は平を手伝って平の背中に黄瀬さんを背負わせた。黄瀬さんは冷汗を流し今にも意識を失いそうだった。


 黄瀬さんの部屋の前までつくと黄瀬さんに許可を取り僕が黄瀬さんの部屋の鍵を開けて中に入った。
 黄瀬さんの部屋には子供が描いたような不恰好な絵が壁一面に飾られていた。


 その絵に共通していたのは絵が逆さまに描かれていることだった。
 頭が地面を向いている絵は見ていると気が狂いそうなくらいに不気味で自然と視線を逸らしたくなる。


 平が黄瀬さんをベッドに寝かせると黄瀬さんはゆっくりと目を閉じた。
 黄瀬さんから連絡があるまで鍵を持っていてほしいと頼まれ、僕達は黄瀬さんの部屋を後にしてそっと鍵を掛けた。


  部屋から出た途端に平は黄瀬さんの部屋にあった不気味な絵について口を零した。


  「なあ咎愛はあの絵を見てどう思った?」


  「正直に言ってしまうと気持ち悪く感じたかな…普通ならあんな風に沢山飾らないしね…何故逆さまに飾ってるのかも気になった」


  「何か意味があるんだろうな…やっぱり黄瀬さんも罪人(カナリア)なんだ… …」


  「そうだね…」


  「ここにいても何だし昼飯でも食いに行くか!黄瀬さんから連絡が来るまで気長に待とうぜ」


  「うんそうするよ」


  僕が手首に気をつけて腕時計に目をやると時刻は十二時半を指していた。


 食堂に入ると日暮さんが一人で暖かい蕎麦を口に運んでいる最中だった。
 平と僕は日暮さんの対面に座るとすぐさま日暮さんから僕達に冷たい眼差しと声が飛んできた。


  「いちいち近くに座らないでよ、あんた達も私のことバカにしてるんでしょ?どうせ、私なんてどこに行っても一番にはなれないのよ」


  僕は平と顔を見合わせて日暮さんの言葉を理解しようと努力をしたけどどうして分からなかった。


  「ねえ、日暮さん、少し話を聞いてもいい?」


 気まずい沈黙の中、口火を切ったのは平だった。日暮さんは平の言葉に鼻で笑うと頷いてくれた。


  「何でもどーぞ、カナリア同士隠す必要もないもの、好きなだけ聞いてちょうだい」


  「じゃあまず何で一番に拘るのか教えてくれないかな?」
 

      いきなりの直球すぎる質問に、平の隣にいた僕が息を飲んだ。


「そんなの決まってるじゃない、一番じゃなきゃ周りから認められないからよ」


  「承認欲ってこと?」


  「はあ、愛美ってデリカシーがないのね、絶対モテないわ…」


  「日暮さんには直球の方がいいかと思って」


  平は無能じゃないんだ。この時改めて確信した。
 相手の性格などを考えて会話を進める。会話の主導権は見るからに平にある。


  日暮さんも嫌な顔をせず平の話に口を開く。


  「まあ、気にしないけど…私は一番になろうとした結果此処にいるのだから…あの日アンが九条に此処で一番可愛いのは百合だって話してるのを聞いて頭にきたわ」


  「ふうん」


  「私は此処に来る前モデルとして働いていたの…だけど、私は注目されなかった…一番になるために何でもした…それでも私は一番になれなかった…だから私は一番になる人を殺したの、次から次に私が一番になるために」


  日暮さんの話を顔色一つ変えずに聞いている平の横で僕は恐怖から手足が小刻みに震えていた。


  「ふうん、それが原因で捕まったんだ」


  「ええそうよ、結局私は一番にはなれなかった…」


  「それが日暮さんが九条さんを嫌う理由なんだね、聞かせてくれてありがとう!」


  「別にお礼なんていらないけど、他に聞きたいことがないならさっさと失せなさいよね」


  「はいはい、俺達も蕎麦にしようか」


  「うっ…うん」


  「咎愛?大丈夫か?蕎麦嫌いか?」


  「蕎麦は嫌いじゃないよ!」


  「なら決まりだな」


  僕が震えているのも、何故震えているのかも平にはお見通しらしい。僕を少しでも和ませようと平は平然と振舞っている。
 平のお陰で僕は落ち着きを取り戻せた。


 蕎麦を二つ頼んでから五分ほどでつゆの香りを漂わせながら暖かい蕎麦が運ばれてきた。


  「いただきます!」「いただきます」


 僕達は手を合わせてから蕎麦に箸をつけた。日暮さんは腕時計型の端末を熱心に触っていて席を離れる様子はなかった。


  「おやおや、皆さん蕎麦を食べていらっしゃるのですか、それでは僕も蕎麦をいただきますかね」


  僕達が蕎麦を堪能しているのを見つめながら牡丹一華さんが席に着いた。


  「牡丹さんも食べましょうよ」


  「そうしますか」


  牡丹さんは芙蓉さんと雰囲気が似ていて、気さくに話せる人物だ。今もこうやって僕達に優しく接してくれている。
 そんな僕達に深い溜息をついた日暮さんは勢いよく立ち上がり食堂から出て行った。


  そんな日暮さんを不安気に見つめながら牡丹さんは呟いた。


    「おや、日暮さんを怒らせてしまいましたかね」


  「大丈夫ですよ、きっと賑やかな雰囲気が苦手なだけだと思いますから」


  「僕もそう思います」


  日暮さんの退席を気にしている牡丹さんを二人で慰めながら蕎麦を完食した。
 牡丹さんは食事中も日暮さんのことを気にかけていてしきりにチラチラと食堂の出口を見つめていた。


  「牡丹さんは優しいんですね」


  僕が牡丹さんにそう言うと牡丹さんは不思議そうに首を傾げた。


  「そうかな?」


  「そうですよ、だってさっきからずっとひぐらしさんのこと心配してるじゃないですか」


  「そうですね…心配するなんて余計なお世話なんだろうけど彼女のことはすごく気になりますね…楽団にいた時はオーケストラのメンバーの全員の心配をしてましたから、そのくせですかね」


  牡丹さんの表情は切なげで見ているこっちまで感化されそうになる。
 罪人(カナリア)でも人間なのは変わらない。
  それぞれが同じ人間に対してこうまで違う意見を持つなんて僕はまだまだ未熟者だと実感させられた。


  「オーケストラの全員なんて言ったらすごい人数ですよね」


  「そうですね、だけど、一人一人が重要なんですよ、演奏中は皆で意識を合わせないといけないし、一人欠けちゃうだけで曲が大きく変わりますからね」


  「へぇすごいなぁ」


  僕と平は蕎麦をすすりながら牡丹さんの話に耳を傾けた。牡丹さんが音楽が大好きだということが表情からも話している声色からも伝わってくる。


  どうしてこんな立派な人が罪人(カナリア)になってしまったのだろう。


  僕は話を聞くうちにそんな疑問を抱いてしまっていた。
 

     牡丹さんの話が終わる頃、僕達三人の器は綺麗に空になっていた。


  「日本食は久しぶりでした!二人ともご一緒してくれてありがとうございます」


  「そんなっこちらこそ」


  「本当に素敵なお話、ありがとうございました!」


  牡丹さんは僕等に微笑むとゆっくりと立ち上がった。


  「よし、僕はそろそろ部屋に戻りますね、暇つぶしに楽器を作ってるんですよ、いいパーツを見つけましたから力作に巡り会えそうです!」


  「自分で作ってるんですか!?」


  「そうです、カナリアになる前もよく作ってたんですよ、今回、作れそうなのはファゴットですかね」


  「ファゴット?」


  「そうです、ファゴット、一番近いのはオーボエかな見た目は全然違いますけど、深みがある音が素晴らしい楽器なんですよ」


  「へぇー見てみたいな」


  キラキラした瞳で見つめる僕等に牡丹さん優しく微笑んだ。


  「愛美君も萩野目君も完成したら見に来てください!張り切って完成させますね」


  「はい!楽しみにしてます!」 「俺も!」


  「ふふっ、じゃあ失礼します」


  笑顔で歩き始めた牡丹さんに手を振って、僕等は次に行くあてを話し始めた。


  「すげーな牡丹さんって」


  「演奏出来るだけじゃないんだね」


  「あんなに格好いいのに楽器も出来るってモテそうだよな」


  「確かにね!」


  「よし、俺達もそろそろ移動するか」


  「うん」


  「黄瀬さんからも連絡こねーしそこらをうろうろしてるしかないか」


  僕と平はふらふらと中庭にやってきた。
  庭木や花壇で飾られている中庭に美しいシルエットが一つ、ベンチで煙管を燻らしていた。


  「蝶番さんこんにちは」「ちわっーす」


  「あら、あんさんら珍しいな」


  ベンチで寛いでいた様子の蝶番さんは僕等の声に優しく長い指をひらひらとさせ軽く挨拶を返した。


  「さっきもここに来たんだけど長居しなかったから情報収集のためにもう一度来てみたんだ」


  「そうかいな、うちが見た限りではおもろいことはなんかかもあらへんけど」


  「そうですか…平?」


  僕が平の顔を見ると平は真剣な表情で何やらメモを取り始めていた。いつも歳上の人に対して敬語を使う平が蝶番さんにはラフに話しかけていることに対して、僕はこの時、違和感を感じた。



  「蝶番さんは他のカナリアの経歴とか悪魔のカナリアについて知ってますか?」


  「ふーん、愛美はんは可愛い顔して怖い事言いはるなぁ…悪魔のカナリアなんて此処ではトップシークレットやで…最初の質問についてはノーやな…」


  「じゃあ二番目の質問は…?」


  「イエスゆーたら…?」


  「話してくれますか?」


  「あんたらにだけ特別やで…」


   僕は二人のやり取りを生唾を飲んで見守っていた。不思議な緊張感が二人を包み、僕には口を出す余裕もなかった。


  「愛美はんは五十一番の釘井アリスは知ってはる…?」


  「ああ、知ってるよ」


  「釘井アリスは最近、ペアで動いてるって噂があるんよ…それもカナリア達には禁句レベルのやつや…」


  「ペア…?禁句?」


  「噂では新しい悪魔のカナリアの仲間らしいで…それも釘井のお気に入り…そして釘井よりも残酷な死刑のやり口で有名…」


  「そんな奴がいるのか?」


  「まあ、飽くまで噂やけどな…」


  「釘井より残酷ってどんな死刑方法なんだよ…」


  「聞いた話によると同じやり方…」


  「同じ?」


  「そう、死刑するカナリアと同じやり方…カナリアが放火魔なら火で殺し、殺傷なら殺傷、目には目を歯には歯を…ということや…」


  「そんな話初めて聞いた」「そんなカナリアが…」


  「まあ、鳥籠の幹部も内密にしてはるみたいやし…滅多に使われないらしいけど…聞いた話ではカナリアのデスゲームに勝ち残った人が悪魔のカナリアになるらしいから此処にもおりはるかもな…」


      恐怖心、人間に対してはっきりと恐怖を感じたのは初めてかもしれない。
  そんな僕の様子に気が付いた蝶番さんは僕の肩を綺麗な手で優しく撫でてくれた。


「すみません…ありがとうございます…」


  「萩野目はんはカナリアとは思えへんわ…」


  「そんなっ、僕だって此処にいる以上はカナリアですよ」


  「ふふっ冗談や…」


  蝶番さんが僕をリラックスさせようとしてくれていると気が付くのに時間がかかった。
 きっとそのくらい動揺していたし、さっきの話が影響しているのだろう。
  そんな僕に蝶番さんの視線が当たり続けないように平が口を開いた。


 蝶番さんは僕から平に向き直り宝石のような黒髪を指で掬ってからサラサラと零した。



  「蝶番さんはこの噂をどこで聞いたんですか?」


  蝶番さんは平の質問に顔色一つ変えずに煙管を燻らしてから答えた。


  「うちが聞いたんは、刑務作業中に監視員が話してるのを聞いたんよ…だから確証はないこともないかな…」


  「そうですか、貴重なありがとうございます!」


  「うちが持ってる話はこれくらいやなぁ…」


  「助かりました」


  「また話しようや…あんさんらは他の人らより怖ないからうちも気が楽や…」


  「そんな風に言ってもらえると有難いです、それでは失礼します!」


  「ほなまたなぁ…」


  蝶番さんは歩き始めた僕達に長くて細い指をひらひらと蝶のように振りながら煙管を燻らした。
 蝶番さんからだんだんと離れていくと平が興奮気味に僕に話しかけてきた。


  「なあ、咎愛!蝶番さんの話が本当ならビッグニュースだぜ!マジですごい話だぜ!正直、話聞いているだけで緊張した!」


  「僕は正直怖かったよ…もしこのゲームの中に悪魔がいたら…」


  「まあ、保護対象には刺激の強い一日だったよな…日暮さんの話は生々しいし、蝶番さんの話は聞いてるだけで震え上がるレベルだったしな…なんだ、まあ、咎愛は深く考えずに気楽に過ごせとしか言えないけど、いざとなったら俺が守ってやるからな!」


  「ありがとう…なんか恥ずかしいよ」


  「照れんなって!友達だろ?」


  「友達…?嬉しい…友達か」


  「だってそうだろ?今更なんだよ」 


      「あ、ありがとう!」


  「おいおい、照れるからやめろよ!はっ、早く歩けよな!」


  「はぁい」


  平は去り際に中庭の端にある花壇に注射器を隠した。遠目から誰かが僕らを不安そうに見つめていた。だけど僕等はそれを知らない。今は知らない。
  
 

*若い彼等の背中を見ながら蝶番は煙管を口に咥え煙を燻らせた。


  「ふぅっ、あかんな…どうするつもりなんかな…」


  蝶番の椿の花弁の様に赤い妖艶な瞳は一人の青年の背中を捉えていた。
  そして、紅を引いた美しい口から煙を吐くと感慨深気に溜息をついた。


  「釘井はん…本当に連れて来てくれはった…おおきに…うちの死に時は自分で決めとかな…せやかて、うちの制約は軽すぎや…誰が決めはったんやろ…」


  そう言いながら手元の煙管に目を走らせる。


  蝶番は宝石のような髪を指に巻きつけ暫く眺めていた。


  この中に悪魔がいる蝶番はそれが誰なのか知っていた。罪人(カナリア)になった以上、どうやって殺されても否定は出来ない。
  それがどんなに残酷なやり方でも。


  蝶番は悪魔の存在を否定しなかった。
  いつか、釘井アリスから聞かされた悪魔の話。
  少しでも生き方が違っていれば他の人生の選択肢があったに違いないのに…。


  「哀れやな…釘井はんもあの子も…長くても後、五年か…生まれ変わったら幸せにしてあげたいわ…」


  人は誰しもいつか死ぬ。
  生まれてきて、産声を上げたその日から死に向かって時は進んでいるのだ。
  確実に止まることなく。


  蝶番はゆっくり立ち上がると煙管を胸元にしまい歩き始めた。


  「楽しみやなぁ…やっとこの時が来たんや…」


  不敵に浮かべた笑みは誰の瞳に映ることもなかった。ただ彼女はこれから起きる最期のストーリーを堪能する覚悟を胸に刻んだ。


  罪人(カナリア)何を抗っても此処にいる以上は私達は罪を背負わなければいけない。


  *「なぁ、そろそろ黄瀬さんから連絡くるかな」


  「良くなってるといいけど…あの様子じゃかなり弱ってたみたいだし…」


  僕の言葉に平は急に難しい顔になる。


  「本当にそうなのかな、演技の様な気もするんだよな…」


  「えぇっ!何言ってるの!?あんな状態だったのに?」 


    「俺には彼方さんの方が被害者に見えたんだ」


  「えっ、それって、どういう…」


  僕の言葉を遮るように黄瀬さんからの着信が入った。
  
ピピピピッピピピピッ。


  「詳しくはまた後で話すわ、取り敢えず今は黄瀬さんだなっ」


 平は指で操作して黄瀬さんからの着信に応答した。


  「黄瀬さん?大丈夫?」


  『愛美君?迷惑かけてごめんね…?もう良くなったから此処に来てくれると嬉しいな』


  「分かったよ今から行く」


  『ありがとう』


  黄瀬さんの声はいつもよりか細く感じたけど昼間の今にも倒れそうだった状況よりは明らかに良くなっていた。
  僕達は黄瀬さんの部屋に向かって中庭から歩き出した。


  「なあ、咎愛?」


  「ん?」


  「黄瀬さんと一人で会ったりするなよ」


  「ん??」


  「多分…確信はないけど…一対一だと殺されかねないからな…」


  「え…?」


  「此処にいるのはカナリアなんだ…俺だって咎愛だって、だから油断は禁物だろ」


  「分かった…ありがとう平」


   情けないことに僕には平がどうしてそこまでの考えに至るのか分からなかった。
 もし僕が保護対象じゃなかったら平とは友達じゃなかったのかもしれないと思うと自分の立場が不安定なものに感じてくる。


  この胸の内はまだ笑顔で歩く平に伝える日は来ないだろう…。


  平と僕が黄瀬さんの部屋に着き鍵を開けると黄瀬さんはベッドに腰掛けていて僕たちを見ると笑顔になり手を振ってくれた。


  「愛美君、萩野目君、本当にありがとう」


  「いやいや、黄瀬さんが気にすることないよ!もう動けそう?」


  「うん、大丈夫!夕飯には顔出すつもり」


  「そっか、ならいいけど、なんかあったらいつでも言ってくれよな!じゃあ俺たちは行くわ」


  「黄瀬さんまたね」


  「うん、またね」


  平が先を急いだのはやはり、壁一面のあの絵の存在感が強かったからかもしれない。
 僕も正直、居心地が悪くて気が焦った。 


    「黄瀬さんはあの絵について違和感はないのかな…」


  「ないんだろうな…というかああしてないといけない理由があるんだろうけど…常人には理解できない理由だろうな…もしかして、制約とか」


  平はしばらく考えていたようだったけど諦めたように僕に笑いかけた。
 そんな平に笑顔を返して僕達は一旦各自の部屋へ戻った。


  色々なことがあった一日だった。
 そう感じていた僕は甘かったのかもしれない。
 この日を境に僕達を取り巻く環境は目紛しく変わっていくなんて僕はまだ知らない。


  きっと今日まで何も起きなかった方がおかしかったんだと気付くのはもっと先の僕だった。


  翌朝、食堂で朝食を摂っていたカナリアの姿に櫓櫂さんと日暮さんの姿がなかった。


  櫓櫂さんの姿がないのは日常化しているため気にならなかったが、日暮さんが居ないのは違和感があった。


 日暮さんは一番に拘る人間だからこういう場に来るのも大抵一番目で、僕達が来る頃には食べ終えて何処かへ行くのが日常だったのに何だかその姿がないだけで不思議と不安を煽られた。


  いつも日暮さんと言い争いをしている九条さんはアン君の膝の上に座り桃色の髪を指先でくるくると弄っていた。


   「なぁんかうるさい虫がいないのも変な感じぃ」


  「百合と茉里は似た者同士デース!」


  「はぁ!あんなのと一緒にしないでよ!アンのバカ!」


  「ソーリー百合!」


  二人の会話からも日暮さんがいない違和感について話しているのが窺えた。


  「ねぇ平?日暮さんどうかしたのかな」


  「んー?具合でも悪いんじゃないか?」


  平は然程気にならないのか朝食のスクランブルエッグを頬張っていた。


  「それより気になるのは黄瀬さんの方だな」


  「黄瀬さん?」


  「普通なら考えられないだろう」


  平が口をもごもごさせながら顎で黄瀬さんの方を差してみせた。
 平が見せたかった光景は昨日の出来事を知っている人であれば必ず違和感を抱く光景だった。


  黄瀬さんの向かいのテーブルには黄瀬さんに乱暴なことをしようとしていた彼方さんが平然と居座っていて驚く事に二人は和やかに談笑していた。


  普通なら昨日のことがあってから加害者と話したりはしないと思う。 


   言葉を発することが出来ずに呆然と目を丸くする僕の肩を平が優しく叩いた。


  「ほらな、やっぱり黄瀬さんは普通じゃない」


  「やっぱり…カナリアなんだね…」


  此処にはカナリアしかいないという漠然とした事実が僕を苦しめた。
 重く、重く、僕にまとわりついて息が苦しくなる。


  「咎愛?大丈夫か?顔色悪いぞ?」


  「うん…大丈夫!」


  平には毎日心配をかけているからこれ以上は迷惑をかけられない、そう思った僕は両手で頬を叩いて気を紛らわせた。


  「変なやつだな、よし!今日も情報収集頑張ろーぜ!」


  「うん!ご馳走さまでした」


  僕達は食器を空にしてから食堂を後にした。


  「ねぇ平?今日は何処に行くの?」


  「今日も決めてねーけど…」


  平の行き当たりばったりは緊張しなくて心地よい。


  そんな思いを抱きながら僕達がカナリア達の個室の前を通った時だった。


  「なんで君はいい音で鳴けないんだ!!!!」


  「いやぁ…いやぁ…きぁぁゃぁぁ……」


 怒りを露わにした男の叫び。
  耳を劈く様な女の悲鳴。


 僕達の耳に入ったのは生々しい男女の声だった。
 その声は常人なら身の毛もよだつ様な恐ろしさを秘めていた。


  「平…今の…」


  僕が静寂に耐えきれず声を漏らした僕を平はじっと見つめた。
 平はサッと僕の口元を手の平で覆うと身が隠せる様なスペースに僕を誘導した。


  「咎愛、お前にはちょっと刺激が強すぎるかもしれないから、俺の側を離れるなよ」


  「う…うん…」


  僕達は声のした方向を見つめ続けたがあれ以来女の声がすることはなかった。
 ただ聞こえるのは男の怒鳴り声のみだ。


  「なんで綺麗な音で鳴けないんだ!!!このゴミ屑が!!!使えない道具なんて要らないんだよ!!!なあ、早く鳴けよ!なあ?なあ?」


  ドンっという鈍い音を最後に男の怒鳴り声も聞こえなくなった。
 鈍い音…。鈍い音…聞いたこともない…聞いただけで心臓が抉られそうな嫌な音だった。


    ガチャ。


 あの声がしなくなってから五分程してから部屋の中から姿を現したのは牡丹一華だった。


 牡丹さんの姿を見た僕の心臓は吐き気がする程動き始め、僕の口を塞ぐ平の手にも力が入った。


  牡丹さんは部屋から出ると何事もなかったように部屋の鍵を閉め廊下を歩き出した。
 向かっているのは音楽室の方向だ。


 牡丹さんの姿が完璧に見えなくなると僕達は姿勢を楽にしてお互いの顔を助けを求めるように見つめた。


  「咎愛…言いたくないけど…牡丹さんは誰かを監禁して多分…」


  「こっ…こ…殺した…?」


  僕は震える声で平に確認した。
 きっと答えは聞かなくても分かってる。


  あんな悲鳴を聞いて生きてると思う方がおかしい。


  「何の為に殺したのかはわかんねーけど…憂さ晴らしとかかな」


  「何で鳴けないとか言っていたね 」


  「よくわかんねーよ、カナリアの考えは!!!本当に!」


  声を荒げ怒りを露わにした平を見るのはこれが初めてだ。平は下唇をキュッと噛むと僕の肩を優しく叩いてから口を開いた。


  「とりあえず俺たちに出来ることがあるか探そうぜ…」


  「うん」


  僕達は牡丹さんの動向を探る為に音楽室に向かった。音楽室には芙蓉さんと月華ちゃんがいて牡丹さんから楽器の使い方を教わっている様子が外からでも窺えた。


  「おっ、愛美君に萩野目君!丁度今、牡丹さんから楽器の使い方を教わっていたんだ、アコーディオン何て初めて触ったよ」


  「ふふっ芙蓉君はセンスがいい!」


  「ありがとう牡丹さん!月華ちゃんも出来たかい?」


  「月華は難しいから夏彦お兄ちゃんのアコーディオンを見てるよ」


  「ははっ月華ちゃんったら諦めちゃだめだよ、牡丹先生に教わってごらん」


  「はい」


  「月華ちゃんの楽器はリコーダーなんだけど試作品だからいまいちですねぇ…完成品を使って見てください!はいどうぞ」


  「ありがとう!」


  月華ちゃんは新しい楽器を手にするとゆっくりと息を吹き込み音を出した。
  牡丹さんが試作品と話したリコーダーはやけに白く輝いていた。


  「愛美君達も何か使ってみますか?」


  牡丹さんは笑顔で僕達に語りかけてきた。
 平はそんな牡丹さんに首を横に振り提案を丁寧に断った。

  「俺達は通り縋りなんですぐ行きますから大丈夫です!」


    牡丹さん達に頭を下げた僕達に優しく微笑む牡丹さんはいつもの優しい牡丹さんだ。
  今朝の怒りに満ちた声の主とは到底思えない。


  「おやおや、また来てくださいね」


  「はい!失礼します」


    牡丹さんに変わった様子はなかった。
 いつもの様に優しく、笑顔が素敵で格好良くて…。


  何にも変わらないのに…。


  だけど耳に残っているあの声は牡丹さんの声で…。


  僕には何が起こったのか、何が出来るかよく分からないままだった。


  「なあ、咎愛?俺調べたいことあるから今日は別行動しようぜ?もしなんか不安だったら俺の部屋に来いよ!独りで悩むなよな!」


  「う…うん」


  「多分、牡丹さんに下手に近づかない限りは何もしてこないと思うから…それに…」


  「平…?」


  「いや、ちょっと試したい事があるんだ…それには単独行動したくてな」


  「分かったよ…だけど、無理はしないで…僕、平が居なくなったりしたら…」


  今にも震え出しそうな僕の頭を優しく撫でた。
 まるで幼子を宥めるみたいに優しく、母の手のように撫でてくる。


  「平、恥ずかしいよ…」


  「よし!また会おうぜ!」


    平の笑顔に嘘はなくて、僕は平の言葉に笑顔を返して部屋に戻った。


  平が一人で調査をしている間、僕は借りてきた爬虫類の図鑑に目を通していた。


  「これ…なんだろ…見たことある気がする…寄生虫…と共存して…なんでだろう…」


  僕は記憶をなくす前もこうやって図鑑を見たりしていたのだろうか、何故だか分からないけれど図鑑に載っている生物達を見るのは初めてではないと脳が覚えている様に感じた。


  「そうだ!ノートに書いておいたら記憶がもどりやすいかも!」


  僕は備え付けの質素な木目調の机からノートとペンを取り出して自分が感じたことを書き記した。


  『爬虫類が好き、見覚えがある』


  「取り敢えず今はこれだけか…」


  僕は深呼吸をしてから再び図鑑に目を通した。


  「平、大丈夫かな…」


  僕は不安に駆られながらも平を待ち続けた。 


  
  *  僕が平と再会したのは午後七時過ぎの事だった。


  トントンッ!トントンッ!


  僕の部屋を激しく叩く音で図鑑から顔を上げると手首が見えないように袖を伸ばしてからドアノブに手を掛けた。


  「いっ、今開けます!!!」


    僕が扉を開けると同時に顔を出したのはずっと待っていた平だった。


 僕は平を部屋に招き入れると平は辺りを確認してから扉を閉めた。


  「咎愛!分かった事があるんだ!」


  「平、とりあえず座らない?」


 興奮気味の平を椅子に座らせて、自分はベッドに腰掛けた。
 椅子に座った途端、平は勢いよく語り始めた。


  「二つ分かった事があるんだ」


  「うん?取り敢えず落ち着かない?聞きたい!」


  平は自分を落ち着かせるために深く深呼吸をすると僕に視線を合わして口を開いた。


  「一つは黄瀬さんの事、もう一つは牡丹さんの事」


    「えっ?半日でそんなに調べたの!?」


  「俺を舐めたら大間違いだぜっ、咎愛と違ってハイスペックだからな俺」


  笑顔で僕を貶す平に苦笑いを返して言葉の続きを待った。


  「んじゃー本題話すわ、」


  「うん」


  「黄瀬さんの話は彼方から直接聞いてきた、やっぱり俺の勘は正しかったらしい」


  「あの日のことを聞いてきたの?」


  「あぁそうだ、あの日黄瀬さんに乱暴しようとしたのは事実らしいけど、続きがあるんだ」


  「うん」


  「あの日の俺たちが来る前に彼方さんと黄瀬さんはあの場所で談笑していたらしいんだ、それで…」


  そこから平が話し始めた内容は普段の黄瀬さんを知っている僕には信じられない内容だった。


『 あの日、温室にいた彼方に話しかけてきた黄瀬は彼方としばらく談笑していたが、話はいつしかお互いの犯罪歴についての内容に変わっていて、黄瀬は彼方の犯罪歴を聞くと笑顔で自身に触れて欲しいと話し始めたらしい。


  最初は断っていた彼方だったが、黄瀬の執念に負け彼女に触れようとした時、僕等がその場にやって来た。
 すると黄瀬の態度は一変し、彼方が濡れ衣を着せられそうになった彼方は無理矢理彼女に乱暴しようとした。』


  という話だった。


  話を聞き終わった僕は平に気になることを聞いてみる。この話を自分から聞きたくはないけれど、知っておきたいという自分もいた。


  「ねぇ平?黄瀬さんの犯罪歴って」


  「ああ、それはな」

  ごくりと喉を鳴らし、平の言葉を待った。
 僕達の間には奇妙な緊張感が走り、背筋がゾクゾクと震え始める。


  「黄瀬さんの犯した犯罪は幼児殺人だ」


  「幼児?」


  「黄瀬さんは保育教諭だったらしい、被害者はその…」


  「うん、分かった」


  「黄瀬さんについてはまだこれくらいしか分かってないけど彼方さんは全部話してくれた」


  「彼方さんが?」


  「ああ、彼方さんはレイプ魔として此処に捕まったらしい…だから黄瀬さんは彼方さんの犯罪歴を聞いてから目の色を変えて自ら触れる様に話を持ちかけたらしいけど、そこからは黄瀬さんにしかわかんねー話だ」


  「そっか…」


  「まあ、何かしらの意図があるんだろうな…」


  平は普段、見せないような真剣な表情だった。話しかけるのすら躊躇われる雰囲気が漂う中、僕は思い切って口火を切った。


  「ねぇ平、黄瀬さんの殺害動機とかは分からないの?」


    「んー、そこまでは彼方さんも聞いてないみたいだった、俺の推測だけど黄瀬さんの奇抜な行動に共通していくのは子供だよな」


  「子供?」


  「そう、男女が肌を重ねて行き着くのは子供だろ」


  「えっ?!そっそれだけじゃない気もするけど…」


  僕の言葉に平は苦笑いしながら頭を掻いた。


  「今のは無理矢理過ぎだったな、まぁ今のところは核心に迫る材料はまだ不充分ってことだな」


  「何にせよ平が無事で良かったよ…」


  「そんなに心配すんなよな、子供じゃあるまいし」


  そう言いながらも平は僕に優しく微笑む。


  「まっ、ありがとうな」


  「どういたしまして」


  「あっ!まだ話しは終わらねーからな!」


    話が終わりかけたところで平が再び真剣な表情で僕を見つめてきた。


  「咎愛、もう一つの話も聞いてくれよ」


  「そうだったね、牡丹さんの話」


  「俺、検証してみたんだ…牡丹さんが標的にしてるのは単独行動しているカナリアのような気がしたから」


  「えっ?」


  「だからあの後、俺一人で音楽室に顔だしたんだど…そしたらビンゴだったぜ」


  嬉しそうに親指を立てて笑う平を僕は不安気に見つめた。
 僕の表情に気付いた平は眉を下げて心配するなと言葉を紡いだ。


  「咎愛の心配は嬉しいけど、手柄立てたんだぜ?もっと喜んでくれよな」


  「うん…それで続きは?」


  「音楽室に行ったら芙蓉さんたちはいなくて牡丹さんと二人きりだったんだ、そしたら今晩部屋においでって誘われたんだ、君の音を聞きたいからって、多分、今朝もそうやって捕まった誰かが殺されたんだろうな…誰かなんて他にいないけどな」


  「日暮…さん」


  「まあ、櫓櫂さんと二択しかなくて女性だと分かってるんだから被害者日暮さんしかいないよな…」


  「そっか、彼女は一人で行動してたから牡丹さんの目に付いたんだ」


  「ご名答」


  「それで…?平は今晩牡丹さんの部屋に行くの?」


  「考察が纏まって安全だと判断したら行くよ、そうじゃなきゃ行かないさ」


  「平の方が僕よりしっかりしてるから信じてるよ」


  「ありがとう」


  僕達はこの日の夜、夕食を食べた後、午後22時にはそれぞれの部屋に戻った。
 平が牡丹さんの部屋に行ったのかどうかは分からなかった。
 だけど僕は平を信じて待つことしか出来ない。


  だから僕はいつもの様に日記を書き終わるとゆっくり目を閉じた。


僕が夢の世界に招かれるのに時間はかからなかった、きっと色々と疲れていたからだろう。


  今日の僕はまだ何も知らない…。
 何が起こったのかも何も知らない…。


 
    *時刻は午前零時、真夜中の静寂に身を委ねて皆が眠る中、悪魔は独り歩き始めた。
 右手には指の間に収まるような小さな注射器を握りしめて。


  コンコンコン。


  悪魔が男性の部屋を訪れノックをする。


  間も無くして部屋の主で嘗ては天才音楽家として名を馳せた男性…牡丹一華『ぼたんいちか』が姿を現した。


  牡丹は迷いもなく悪魔を部屋へと招き入れた。


  「やあ×××来てくれたんだね」


  牡丹は恐れもせずに×××と悪魔の名を呼んだ。


『夜分遅くにすみません』


 「良いんだよ君にも見せたかったし」


  『じゃあ早速見せてもらっても良いですか?』


  「うん、じゃあ音が漏れないように部屋は鍵掛けるね」


  『はい、お願いします』


  悪魔は柔らかい笑みを浮かべた。
 笑みの理由はただ一つ、今から始まるコンサートが楽しみだからだ。


  「じゃあそこに座ってよ」


  『立ったままで大丈夫です』


  「そうかい、じゃあ見せるよ、これが完成したファゴットだ!」


  『うわぁ、最高にインモラルですね…』


  「君達には分からないのかもな、この素晴らしい楽器が」


 インモラル…悪魔は独りでに笑い始める。
 牡丹はその様子を気にせずにうっとりと楽器を撫でる。


  目で撫で、手で撫で、唇で撫で、愛おしいものを見るような目で楽器を見つめている。


  「君達には分からないんだ、この子達の良さが」


  『そういうの、笑えます』


  「失礼しちゃうな…でも君も直ぐにこうなるんだよ?」


  『へぇー日暮さんみたいに?』


  「君はそうだね、ヴァイオリンにでもなってみるかい?その前にチューニングしておかないと…」


 牡丹は普段の優しい顔を濁らせた。


  カナリアに相応しい顔付きになって見せると悪魔に近寄り悪魔を床に押し付けた。


  「さあ、叫ぶんだ、助けて、怖いよと」


  『馬鹿馬鹿しい…じゃあさ…お手本見せてよ』


  「うるさいガキだな!!黙って泣いて怯えてればいいものを」


 『だからお手本見せて?』


  悪魔は手に握っていた注射器を牡丹に突き刺した。


  「っっ!何をしたんだっ!?」


  『ん?知りたい?』


  「ガキのくせに舐めやがって!お前には痛い目合わせてやるからな!」


      『それは困るな…痛いの嫌いだし…それに痛い目って具体的に何か見せてもらわないとね』


  牡丹には容易だった。大人だろうが、子供だろうが男性だろうが女性だろうが、誰だって殺して生まれ変わらせてきた。それなのに目の前の相手に少しずつだが恐怖している自分がいる。


  理由ならはっきりと分かっていた。
 目の前の悪魔がしようとしていることが何か分かり始めてしまったからだ。


  『じゃあ、始めようか、私、×××が牡丹一華の死刑を執行致します…』


  悪魔はそう言うと、腰の辺りから不気味な仮面を取り出して身に付けた。


 茶色のトラ模様の愛らしい猫の仮面。


  悪魔は不気味に笑うと身動き出来なくなった牡丹に諭すように囁いた。悪魔の声は冷淡そのもので、耳に入ると不思議と吐き気を催すくらい恐怖した。


  『ねぇ、牡丹さん麻酔効いてきたでしょ?意識はあるのに身体は自由に動かせない…あんたが葬ってきた人達がしてきた恐怖を味わう気分はどうかな?』


  「や…やめろ…や…やめ…て…く…れ」


  『うーんまだ良い音じゃないな…?まずは足からチューニングしないとね』


  「やめろ!!!」


  『おお!今の音は六十点かな』


  牡丹は涙が溢れる目で悪魔を見つめる。
 悪魔は部屋の中から鋸を持って近づいてくる。


  『でも、まだ足りないよね?』


  「いっ…いやだ…こんな残忍なこと…正気か?…やめろ…」


  『痛みはないだろう?あんたと同じやり方で楽器を作ってるだけだから文句言われる筋合いはないんだけどしかも、あんたと違って麻酔まで打ってあげてるんだから感謝してよ』


  悪魔は容赦なく牡丹の足に鋸を当てがった、
 鋸は不気味な音を立て牡丹の足を体から引き剥がしていく。鋸が深く沈むにつれ、牡丹の足元からは少しずつ赤い染みが広がり始める。


  赤い染みを確認した牡丹は目が虚になり声も発さなくなった。
 その様子を悪魔は退屈そうに眺めながら鋸を動かした。


  『よく切れる鋸だな…骨まで簡単に切れちゃうや…まあ、もう音もならなくなったみたいだけど…』


  悪魔は鋸を捨て牡丹の髪を持ち上げ息も絶え絶えの牡丹に微笑んだ。


 『ねぇ、もう死んじゃうの?あんたはこうやって何体も楽器にしてきたくせに、あんたはやっぱり演奏する方が上手みたいだね、楽器には向かなかったなはぁ、つまらないよ』


  「は…ぁ…は…ぁ」


  悪魔は歪な笑みを牡丹に向けると再び牡丹に鋸を当てがった。


  この日から牡丹一華の演奏を誰も聴いていない。
 誰も…。


 *  翌朝、可愛いとは言えない女性の悲鳴がカナリア達の目覚ましになった。


  「何だっ!何の声だっ?」


 僕が慌てて部屋から出ると少し先の部屋の前で蹲る月華ちゃんとそれを優しく宥める芙蓉さんの姿があった。


  どうしたの?と問いかけようと、月華ちゃんに近づこうとしたその時、僕も目の前の光景に体がぴしゃりと凍りついた。


  「あ…っ…あ…な…」


  僕は声も出せずにただただその場に目を伏せて立ち尽くした。


  そういえば以前、牡丹さんは前にファゴットを作ると僕等に語ってくれた。
 それがこんな形で披露されるなんて思ってもみなかった。


  「何だよ…これ…」


  僕の目に映ったのは骨が組み合わさってまるでファゴットの様な形を模した日暮茉里だった。
 ファゴットの様な形の先端に茉里の首が生々しく飾られて見ていると吐き気を催した。


  僕は動けずにただひたすら目の前の光景を見つめていた。
 日暮さんのすぐ隣には変わり果てた日暮さんを抱きかかえる様な状態の牡丹さんの死体があった。


 牡丹さんの死体は足は切断されて、更に皮膚が抉られ、骨が剥き出しになっていた。
 目は虚のまま見開かれ、頬には涙の跡なのか乾いた筋がいくつも浮かんでいる。


  この光景の目の前で月華ちゃんの悲鳴に誘われてカナリア達がどんどんと部屋から現れては目の前の光景に目を見開き、言葉を失う。


  どうして、昨日まで仲良く話していた人達がこんな風になってしまうのだろう。
  理由はどうあれ倫理観という概念が目の前の光景には感じられない。


  「いやだいやだいやだいやだ!!!だってまた遊んでくれるって言ったのに!!!また楽器見せてくれるって約束したのに…どうして…」


  集まって来たカナリア達に響いたのは月華ちゃんの心からの悲しみと怒りだった。


  「月華ちゃん…」


  芙蓉さんは泣き叫ぶ月華ちゃんの背中を優しく撫でながらも、その表情はどこか切なげだった。


      何も出来ずに立ち竦んでいる僕等の前で、慌ただしくセキュリティハンターがやって来て何事もなかったかの様に死体を回収し始めた。


  芙蓉さんは泣きじゃくる月華ちゃんを抱き上げた。


  「月華ちゃん、行こうか…」


  月華ちゃんは芙蓉さんの言葉に頷くことすらなく、ただ人形のように力なく項垂れている。
  芙蓉さんは僕等に軽く会釈をして部屋の方に歩き去った。


  その光景を見つめながら、呆然としている僕に誰かが背後から声をかけて来た。


  「咎愛?大丈夫か?」


  僕は聞き慣れた声にそっと振り返った。
 そこには不安気な表情を浮かべた平が立っていた。


  「咎愛に話しかけるタイミング見計らってたけどさ…こんな事になるなんてな…」


  平の表情と声は暗くて、だけど僕を元気付けようと無理に明るくしているのがわかる。
  こんな時にも優しくしてくれるなんて…。


  「ありがとう僕は何とか大丈夫だよ、それより月華ちゃんが…」


  「ああ、暫く落ち込むだろうな…牡丹さんに懐いてたみたいだし…」


  「そうだね…」


  僕等は何も出来ずに何も分からずにこの場を去った。ただ、今は居なくなった二人の存在が僕等カナリア達を狂わせていくとは知らずに…。


  悪魔に嘲笑われた様な一日だった。
  少しだけ平の言葉の意味を理解出来るような気がした。
  僕達は皆、罪人(カナリア)、百パーセントの信頼は有り得ない。


  午後十八時、部屋に戻った僕の左腕の端末が聞いたことのあるメロディと共に小さく振動した。
  僕はゆっくりと端末に視線を落とし、指で端末を操作する。メールボックスに一件のメールを受信した。そう表示されていた。

  僕は受信したメールを開いて内容を確認した。
  送り主を見て背筋に寒気が走る。
  このメールの送り主はガエリゴだった。


  『選ばれたカナリアの皆様へ


 本日の死者について情報を解禁いたします。


 端末のデータ更新を致しましたのでご確認下さい。


  さあ、残すは十名…誰が最後に笑うのか、


  楽しみですね…。』


  端末を閉じると僕は歯を食いしばった。
  抱え切れない怒りを覚えて部屋にある椅子を思い切り蹴飛ばし叫んだ。


  「ふざけるな!遊びみたいに言いやがって…こんなの間違ってるよ…」


  僕の叫びはどこにも届かず、情けなく部屋に反響した。


    同じ人間なのに、殺し合って、ゲームのように扱われて、まるで見せしめのようにコロッセオで戦わされているようなそんな気分。
  後味が悪く、逃げ場のないこのゲームに勝つには生き残るしかない!


  僕は目の前に広がる恐怖に体が震えた。
  見えない敵、分からない悪魔。


  『飼われているカナリアが居る』


  蝶番さんの言葉を思い出す度に心底、恐怖に飲み込まれそうになる。


  ガエリゴからのメールを受信した五分後、僕の端末は再びメールを受信したことを知らせるメロディが鳴り響いた。
  恐る恐る、メールを開いて内容を確認する
 メールの内容は今日、居なくなってしまった二人の詳細な情報だった。


  『日暮茉里   二十五歳 囚人番号四百七十三


   制約一日一回 爪を切ること


  彼女は幼い頃から誰よりも負けず嫌いで努力家だった。勉強も、運動も歌もお洒落も。誰よりも一番になりたくて毎日毎日、努力を続けていました。


  そんな彼女は十七歳の時に持ち前ねルックスと高身長を買われ、読者モデルとしてモデルデビューを果たします。


  そんな彼女は学業と仕事を両立しながらモデルとして確実に人気を集めていった。


  だが、彼女は初めて、自分が簡単には一番になれない世界を身をもって経験することになった。


  努力しても視聴者や読者は日暮茉里の魅力を簡単には分かってくれなかった。
 そんな歯痒さを感じながらも努力を怠らず、仕事に精を出した。


  そんな彼女が二十歳になる頃、化粧品の広告に出演したことをきっかけに人気急上昇、日本だけでなく、少しずつ海外にも注目をされるようになった。


  やっぱり私が一番なんだ。
  私じゃなきゃだめなんだ。


  彼女はそんな愉悦感に浸るようになっていく。
  だがしかし、彼女は有名にはなったものの、トップという言葉が飾られることはなかった。


  何の為に私は生きているの?
  このままでいいの?


  疑心暗鬼になった彼女はトップという言葉を手にする為に手段を選ばなかった。
 

    彼女はその言葉が欲しいがためにどんな手段も使った。金銭の取引、枕営業…。


  それでも彼女にトップという飾りは付けられることがなかった。


  最後に彼女が選んだ手段が身の回りのモデル達の殺人だった。


  彼女は迷わなかった。
  何をしてでも自分がトップになる。


  そして、彼女が気付いた時には十人程の女性モデルを殺して解体、土に埋めて処理していた。


  彼女の犯行が分かったのは彼女と関わるモデルが次々と消息を絶っていたことが理由だった。彼女はカナリアになってからも周りとの諍いが絶えなかった。一番になりたい。それは限りなく遠い願い。』


  日暮さん…。
 僕達に話してくれたのは事実だったんだ…。


彼女が間違った道を歩まなければ今頃…。


  きっと此処ではない、広い舞台に立っていたのかもしれないのに。


  僕は深呼吸をして、もう一つの情報に目を走らせる。


  『牡丹一華 三十六歳  囚人番号四百八十二


  制約、一日三時間以上、楽器を演奏する事。


  牡丹一華は絶対音感の持ち主で触った楽器は生まれ変わるという例えがされる程、演奏家として名を馳せていた。


 そんな彼が一変したのは二十九歳のある日だった。


  きっかけは彼の才能に嫉妬した楽団の仲間からの嫌がらせだった。


  彼のコントラバスが本番の演奏前に弦を切られ、木目には穴を開けられ、見るも無残な姿に変えられていたことをきっかけに彼は犯人を突き止めてコントラバスの修復を目的に殺害した。


  死体をコントラバスの修復に使える様に自宅で加工し、その快感を覚えてしまった彼は殺人をしては楽器を作る様になった。
  敢えてすぐに殺さずに、時間をかけて痛みを与え、苦痛を味あわせてから殺す。
  彼は日に日に殺人者に変わっていった。


 彼は殺人を繰り返すうちにある被害者の悲鳴を聴くことで快感を得る様になり恐ろしい手段で被害者を楽器に変えていった。


  彼の作った楽器は二十作品を越え彼を怪しんだ楽団の仲間が通報し、彼はカナリアとなった。』


  僕は全てを読み終わると端末から視線をあげた。
 残酷な二人の物語の終わりもまた残酷なものだった。


  僕が思うより世界は残酷に出来ている。


 この日のカナリアの僕の日記は後から読み直しても残酷な内容になることは間違いなかった。


  それでも僕は日記を綴り続けた。
 僕に明日が来る限り。
 
  

 
  

  
 
 
   
 






 


  









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