偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜

草加奈呼

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第三章 束の間の幸せ

19 措置入院 sideポポロム

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 あの告白の日から数週間後、テオさんの措置入院が決まった。
 僕と叔父が何度か留置所に赴き、診断した結果だ。

 本当は別の医者が担当するはずだったのだが、叔父がどうしてもと言って聞かず、代わってもらった。
 叔父は、免許はあるが現役を退いた身だ。それ故、担当医はあまりいい顔をしなかった。
 それでも代わってもらえたのは、叔父の軍医としての活躍があったからだ。
 僕も、叔父がやけに熱心なので不思議に思っていたが、おそらくダニエルさんとの約束を果たすためなのだろう。

 幼い頃に聞いた記憶がある。
 叔父の身に何かあった時、「ポポロムのことよろしく頼む」と、電話で話していた。
 お互い約束しあっていたのだ。

 叔父に何かあったら……ダニエルさんはもういないが、僕はすでにゴンドル族として生きる術を身につけている。そのために医者になったのだ。
 医者になればリアさんを守ることもできる。
 僕はそれだけを胸に生きてきた。
 もう誰にも僕たちの邪魔はさせない──。

 病院の前で、僕は再びテオさんと対峙した。
 警察官二人に挟まれ、ゆっくりと歩いてくる。
 テオさんは手錠をかけられてはいるが、抵抗したりせず大人しいものだった。
 特に悲観的な表情でもなく、それどころか笑みを浮かべていた。
 本当に、見た目は好青年なのに。
 事件のことを知らなければ、僕だって表の顔に騙されそうだ。

 警察からテオさんを引き受けると、精神科の一室へ案内した。
 病室の構造は、他の通常病棟とぱっと見変わらないが、監視カメラが付いているのと、壁の一部がマジックミラーになっている。

「テオさん、あなたには入院してもらいます」
「入院? 俺、どこか悪いのかな?」

 テオさんはいたって普通の態度だった。
 裏の顔を知っているだけに、余計に腹が立つ。
 しかし、医者である僕がここで私怨を持ち込むわけにはいかない。
 僕の方こそ、平静を装う必要がある。

「あなたは、心の病気ですよ。自覚してくださいね」
「そっかー。心の病気かー」

 お互いにこやかに。まるで狐の化かし合いのようだ。

「これから、少しずつ治していきましょうね」
「俺、治るのかな?」
「そうですね……」

 ここは医者として、本当のことを言わなければならないだろう。

「本当の事を言いますね。“完治”という意味では、治りません」
「そうなんだ……」

 意外にも、テオさんは残念そうな顔をした。
 一体、彼の本心は何なのだろうか?
 会話を続けて、彼という人物を知らなくてはならない。

「でも、完治なんてしなくていいんです」
「どう言う意味?」
「社会復帰は無理でも、日常生活ができればいいんです。それこそ、お兄さんやお姉さんに迷惑をかけないように」

 実際、そういう人は多い。
 それに加え、テオさんは罪を犯している。社会に出ること自体がまず無理だろう。

「そっか。俺に、できるかな……?」
「焦らなくて大丈夫です。一緒に、頑張っていきましょう」
「ポポロム先生って優しいんですね。俺、好きになっちゃいそう~」

 僕が笑顔を作ると、テオさんも笑顔になった。

「そうですか。依存先が増えるのはいいことですね」

 これは嘘ではない。
 本気で好きになられるのは僕にとっては困るが、テオさんにとってはいいことだ。
 依存先が複数あれば、心の平穏が保たれやすい。

「先生って、彼女とかいるんですか?」
「いません。いても教えませんよ」

 笑顔で答えた。
 本当は、つい先日君のお義姉さんとお付き合いを始めたんですけどね。
 なんて言えるわけがないでしょう。
 テオさんは「好きな人の大切なものを壊してしまう」傾向がある。
 本当に僕に好意を持ち始めているなら、リアさんの身が再び危険に晒されることになってしまうのだ。

「先生ってゴンドル族なんでしょ? うちの姉さんとか、どうですか?」

 この話、まだ続くのか……?
 もしかして、何か探りを入れに来ている可能性もある。
 絶対に悟られるわけにはいかない。

「いいんですか? 大切なお姉さんなんでしょう?」
「いいんですー。俺、姉さんには幸せになってもらいたいので」

 ものすごく笑顔で言われたので、僕もつい苛立ちが表に出てしまった。

「……壊したくせに」

「え?」
「いいえ、なんでもありません」

 慌てて笑顔を作った。
 いけないいけない。
 医者が私怨を挟んではいけませんよね。
 
「テオさん」
「はい?」
「そろそろ、本音で話しませんか?」
「本音?」
「あなたから発せられる素敵な言葉は、すべて逆の意味に聞こえるんですよ」

 いけないのに。
 僕はつい目の前の患者に対して、高圧的な態度を取ってしまう。

「あなたの言う「好き」は、愛情ではありません」

 しかし、これは私怨ではない。
 彼を知るために必要な挑発だ。

「ふぅーん……」

 テオさんは、顎に手を当てて少し考えた後、

「先生、おもしろいね」

 普通の人なら騙されるであろう、とびきりの笑顔で言った。
 そしてすぐに、挑発を返すような不適な笑みに変わる。

「やっぱ、好きになりそうだなぁ……」

 僕の挑発に気づいている。
 これは絶対に、僕とリアさんの関係を悟られるわけにはいかない。

「はははは……。それはご遠慮いただきたいですね」

 腹の探り合いは終わりだ。
 僕は必ず、テオさんという人間を理解し、治してみせる。
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