聖女の母と呼ばないで

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「皆さんに教えてもらいたいことがあるんです。」

遙香の言葉に、イザベル、リンジーの二人は首肯した。

「書くものを用意してもらえますか?あの、アルベルトさんもこちらに来て座ってください。」

遙香がダイニングからソファーに移動しながら言う。昨夜と同じようにイザベルとリンジーが遙香の向かい側にならんで座り、アルベルトは近くに椅子を運んで座った。

イザベルが小さな錠の付いた、しっかりと装丁された本と、片手に収まる程の巻物状の紙、それとペンを持ってきた。

イザベルが小さな鍵で錠を開け、遙香に本を渡した。遙香はぱらぱらめくった。中は真っ白だった。

「こちらをハルカ様に。鍵がかかるので、日記帳としても使えます。そしてこちらの巻物は、メモや文字の練習のときにお使いください。」

イザベルが巻物を何やら小さなバインダーのようなものにセットすると、必要な分だけ紙が引き出せるメモ帳になった。


少し試し書きをして、遙香は姿勢を正す。

「これから、まず、ここに来てから説明を受けたことを、整理します。

それから、皆さんには私のこと、私が今までいた環境を簡単に話したいと思います。

それを聞いて、これから私がここに慣れていくにあたって必要だと思うことを皆さんに教えてもらいたいのです。

この国のことや、マナーなどは、きっと昨日紹介があった教育係の方が順々に教えてくれるのだと思います。でも、私はここの「常識」がわからないので、今、日常生活ですら手伝ってもらわなければままならない状態です。大人として、常識はずれなことをしたり思いがけず相手に失礼をしてしまうのは、できるだけ避けたい。

協力してくれますか?」


遙香が尋ねると、リンジーが言った。

「もちろんです。明かりの消し方、トイレの使い方、何でも来いです。」

昨日の夜のことを言い、また、隣のイザベルから肘打ちをくらう。

「ふふっ。ありがとうございます。

あと、私、皆さんには、単純に自分のことを知ってほしい。こんな生活していたんだとか、こんな考え方をするんだということを全部受け入れなくてもいいから、知ってほしいと思ったんです。」

遙香は、少し照れくさそうに言うと、メモ帳に何やら書き出した。





「よし。こんな感じかな。

私が昨日、フォンさんから説明を受けた内容をまとめると、こんなところですかね。」

「あの、ハルカ様。」


イザベルの申し訳なさそうな顔を見て、遙香は思い出した。

「そうか。言葉の翻訳は、口頭だけって言ってたっけ。

この文字は読めないですか?」

遙香はメモ帳を3人に見せる。

イザベルとリンジーは、残念そうに首をふる。

アルベルトを見ると、眉間に皺を寄せながらなにかを考えている。


「その言葉は、「日本語」で合ってるか?」

「!?わかるんですか?」

「全部は読めない。だが、過去の聖女が残した書物の解読や聖女自信が教えたりしたため、「日本語」は、この国で聖女に関わるものたちは学ばされている。」

ふむ、と遙香は考え、メモ帳にペンを走らせた。


[あなたの なまえは なんですか。]


遙香は、アルベルトにペンを渡す。

アルベルトは、眉間に皺を寄せたまま、「いきなりテストかっ」と呟きつつも、考えながら書ききり、遙香にメモ帳を返した。


[あ  るべる と]


精悍な見た目と異なり、ひらがなで可愛らしい丸文字の名前を見て、遙香は吹き出した。


「ぶっっ。あるべると!そして丸文字。」

こほん、と

「吹き出してごめんなさい。確かにアルベルトです。この文字の形は、過去の聖女の残したものですか?」

「そうだ。」

「確かに日本語なのですが、この文字の形は、女子高生、10代中頃の女の子が使う形です。可愛らしい字、と認識されます。」

遙香はメモ帳に、今度は違う書き方をした。

[What is your name? ]

再び3人に見せる。

今度はアルベルトも首をふった。
英語は馴染みがないようだ。










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