聖女の母と呼ばないで

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見慣れない天井、見慣れない部屋。

部屋の奥に広く取られている窓からは、光が差し込んでいる。既に日がだいぶ高くなっているようだ。

遙香は、ベッドから降りて伸びをした。昨日召喚されたばかりにもかかわらず、気持ちは随分とすっきりしている。

熟睡できたのも、あの日以来初めてだった。


「よしっ。」

自分自身に気合いを入れる。

新たな生活の始まりだ。





**************************************
遙香が寝室のベルを鳴らすと、すぐにリンジーが部屋へとやって来た。

「おはようございます!ゆっくりお休みになれましたか?」

「はい、久しぶりに夢も見ずぐっすり眠れました。」

「それは良かったですね。」

リンジーは、遙香と会話しながらも、きびきびと準備を進めていく。

「本日のお洋服なのですが、どちらになさいますか?」

リンジーが、昨日のワンピースと似た色合いの紺のロングスカートと、カーキー色のロングスカートの二つを遙香に見せた。

遙香は、紺のロングスカートを選んだ。裾回りにシルバーのラインが入り、歩く度に軽やかに膨らむようなデザインだ。

リンジーは、遙香の選んだスカートに合わせ、ブラウスや靴や小物を準備していった。遙香はそれらを身につける。落ち着いた色合いの、オフィスカジュアルなコーディネートとなった。

髪は動きやすいよう、ポニーテールにした。

リンジーが遙香に化粧を施し、身支度を終え、寝室を出ると、既にイザベルとアルベルト・シェリスフォードが部屋で待機していた。

「おはようございます。ハルカ様。朝食の準備が整っています。今朝のフルーツは、シェリスフォード様に取られてしまうことはありませんよ。」

イザベルが、昨夜の出来事を茶化すように言って、遙香に挨拶をした。

アルベルトは、その言葉に、ちらっとイザベルを見たものの、
「おはようございます。」
と、遙香に挨拶をするにとどまった。

「おはようございます。」

遙香も二人に挨拶をする。


部屋には、昨夜はなかったテーブルと椅子が運び込まれ、一人分の食事が置かれていた。

遙香は「いただきます。」と、手を合わせ、遅めの朝食を食べ始めた。並んでいたのは、スープとパンとサラダとオムレツに、小皿に盛られたフルーツ。いずれの料理も、見た目、味ともに慣れ親しんだものと大きく変わらなかった。

遙香は、少しずつ食べ進めながら、「食文化は、西洋に近いのかな。ご飯が美味しいのはありがたい。」と考えていた。


全部は食べきれなかったものの、しっかりとお腹を満たした遙香は、手を合わせ「ごちそうさま。」と言った。

イザベルが、柑橘系の香りのする水をグラスに注いで渡してくれる。ダイニングテーブルの上の食器は、リンジーの手によって片付けられていった。


遙香は、給仕をしてくれているイザベルとリンジー、そして、ドアの近くで待機しているアルベルトに向かって声をかけた。

「イザベルさん、リンジーさん、シェリスフォードさん、この後、お時間ありますか?」

「はい、ハルカ様。セド爺のところに行くのは昼食の後ですから、この後暫くは時間があります。」

イザベルが答えた。

「昨日、ヴァッハヴェル様から、昼食をご一緒してその際に本日の予定などをお知らせすると伺っています。それまでは、自由な時間です。」

「二人の予定は?」

「私達は、ハルカ様と一緒にいることがお仕事です!」

リンジーが、食い気味に返事をする。

「シェリスフォードさんは?」

「・・・護衛対象から離れるような予定はない。あと、敬称は不要だ。アルベルトでいい。」

「うっ。わかりました。気を付けます。
あの、皆さんに教えてもらいたいことがあるんです。」








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