聖女の母と呼ばないで

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雨の音を聴きながら、遙香はソファに座り、冊子とメモ用紙の束を見ていた。

確か出産までは35週から40週。日数にすると280日。
メモ用紙は、10日目から250日目まで10日ごとに25枚、その他にレシピや運動、マッサージなども記載され、30数枚にもおよんでいた。

妊娠の日数は大体おんなじなのかな、と、遙香は内容を見て思った。日本の妊娠週数の数えかたの始まりと、この国の妊娠1日目の数え方が異なるようだが、その他は、知っている内容と大きく異なることはなかった。

ちゃんと調べておけばよかったなぁ、と、遙香は思った。結婚してからはいつ授かってもいいと思ってはいたが、インターネットからいつでも情報を得ることが出来る環境だったため、事前に調べることはしていなかった。


昨日、医局の検査と説明を受けてからも、まだ実感はわいていない。冊子とメモ用紙を見比べながら、「これから大変だなぁ」と、他人事のように遙香は思った。





午前中は、それぞれがゆったりと過ごした。

雨はシトシトと降り続いている。

遙香は、時々窓の外を見ながら、午後からの教育について考えていた。




**************************************

昼食を部屋でとったあと、イザベルが遙香に予定を連絡する。

「まもなく、ミッドリード夫人が到着されます。本日は、サロンへお通しするように準備しています。」

「参りましょう。」と、イザベルが遙香を案内する。
遙香は、メモ帳を手に取りイザベルの後に続く。
その後ろにアルベルトがついていった。


別邸の1階にはサロンが3部屋設けられている。それぞれ、暖色系、寒色系、そしてモノトーンの調度品で統一されていた。

世話係との面談は暖色系のサロンで行われたが、今日はモノトーンのサロンに案内された。
外の雨も相まって、寒々しい印象を受ける。

遙香を案内して、イザベルがサロンを辞そうとする。

「イザベルは残らないの?」

遙香は、少し不安そうな様子でイザベルに聞いた。
イザベルも、困ったように眉を寄せながら、

「私は同席出来る立場にありません。」

と、言い、

「代わりに、甘い焼き菓子を準備して、お部屋でお待ちしています。」

と、答えてサロンを去っていった。


遙香は、ちらりと後ろのアルベルトを振り返る。

アルベルトは、目を細めて遙香を見下ろした。

遙香は、ふぅと深呼吸をして正面を向く。
フォンは、「遙香の状態を3日間で確認する」と、言っていた。
どんなことをするのだろう。

新しい取引先との商談に臨む前のような、不安と緊張が入り交じった気持ちになった。




それからすぐに扉がノックされ、ジーナ・ミッドリードが姿を現した。

金色の髪を上品にまとめ、アクアブルーと群青色を使った袖のあるドレスを優雅に着こなしている。

遙香の数歩前まで近づくと、膝を折るように腰を低くした。

「綺麗。。。」

遙香は、映画のワンシーンの様なジーナの流れる動きに圧倒された。

「ジーナ・ミッドリードでございます。聖女の母となられるコバヤシ・ハルカ様の教育を拝命致しましたこと、大変光栄に存じます。」

ジーナは、膝を折った姿勢のまま、遙香に挨拶を述べた。

遙香も、我に返り、挨拶を返す。

「小林 遙香です。至らないことも多々あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。」

背筋を伸ばして、丁寧に礼をした。


ジーナは、すっと立ち上がると、遙香を見て微笑んだ。

「お掛けになって。今日はお話をいたしましょう。」

ジーナは呼び鈴を鳴らすと、給仕の者に目で指示を出した。









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