聖女の母と呼ばないで

文字の大きさ
52 / 75

11-1.

しおりを挟む

リンジーの推測は当たり、翌日、朝食を終えた時間に、フォン・ヴァッハヴェルが遙香の部屋へやってきた。

「ご無沙汰致しております。お変わりはなかったでしょうか?」

相変わらず微笑みを貼り付けたようなフォンの表情からは、何を考えているのか分からなかった。

「快適に過ごしています。」

遙香からも、特に伝えることもない。


「本日は、貴族院での結果と、今後のことを少しお伝えにきました。」

「座っても?」とフォンが言ったので、遙香はソファまで移動し、フォンに座るように勧めた。フォンの向かいに座った遙香の後ろに、アルベルトが控える。

イザベルが2人分のお茶を用意し、机に並べる。そして、一緒に聞きたそうにしているリンジーを伴って、部屋から退出していった。



「早速ですが、」

「ちょっと待って下さい。」


すぐに本題に入ろうとしたフォンを両手で制し、遙香が言った。

「メモを取っても良いですか?それとも、残したら拙いことがあったりします?」

「問題ありません。お好きにどうぞ。」


フォンの答えを受けて、遙香は立ち上がり書斎からメモ帳を取ってきた。

「お待たせしました。お願いします。」

遙香の準備が整うと、フォンが徐ろに口を開いた。

「次からは、侍女をお呼びください。」

遙香は、首を傾げた。フォンが何について言っているのか分からなかったからだ。


「書き物の準備などは、侍女を呼んでやらせてください。聖女の母が自ら動かれるのは、よろしくありません。」


フォンは、遙香に伝わるように言い直した。
そして、遙香が、呆気に取られているうちに、「それでは、」と話し始めた。

「まず、貴族院での結果ですが、王令草案は全て廃案となりました。かわりに、聖女の養育期間が長く、包括的検討を行う部署が必要とのことから、「浄化院」の設置が決定されました。」

「はぁ。」

「我がヴァッハヴェル公爵家は、浄化院が設置され聖女および聖女の母に係る検討が行われるようになるまでの間、暫定的に聖女の母をこの別邸にてご支援致します。」

「・・・」

「つきましては、召喚後にお話させていただいた教育は、浄化院での検討の後に改めて開始いたしますので、当面のご予定は週1回の医局での検診のみとなります。」


「何かご質問は?」とフォンは言った。


フォンの流れる様な説明の間に遙香が取ったメモは、「王令 廃案」だけだった。脳内での処理が追い付かず、遙香が固まったままでいると、

「ご質問がなければ、これで。」

と、言ってフォンが席を立とうとした。


「ちょっと待ってください。」

遙香は辛うじてそれだけ言うと、フォンを引き止めた。

ソファに座り直したフォンを正面から見据えて、遙香は一言ずつ区切るように言った。


「申し訳ありませんが、私が分かるように、詳しく、丁寧に、説明してください。」


遙香の言葉に、フォンは微笑みを深くする。

「ご不明な点がありましたか?」

フォンの言い方は、遙香の癇に障った。

「・・・」

「最初から全部わからんわ!」と言いたい気持ちをなんとか抑え込む。しかし、ここで「説明してください」と、もう一度言うのは癪だった。


「アルベルト!」

遙香は、フォンを見たまま言った。

「フォンさんに、お帰り頂いて。」

アルベルトは無言のままフォンへと近づく。
フォンはそれを手で制し、自ら立ち上がってドアへ向かって行った。

ドアの前に立つと、フォンは振り返り優雅に礼をしてみせる。そして、顔を上げると、遙香に向かって言った。

「私では聖女の母である貴方様のご期待に添えないようですので、明日からは代わりの者を寄越します。では、失礼。」

最後まで微笑を浮かべたまま、フォンは遙香の部屋を出ていった。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

二度目だから容赦なし!元聖女のやり直し冒険記

ゆう
ファンタジー
金曜の夜。仕事を終えた私は、最寄り駅から自宅までの道を歩いていた。 今日も残業。クタクタだ。 だけど、コンビニで買った缶ビールがカバンに入っていると思うと、それだけで足取りが少し軽くなる。 (あー早く帰ってシャワー浴びて、ぐいっといきたい……!) そんなことを考えながら信号を渡ろうとした時だった。 よくある召喚ものです。 カクヨム様で柊ゆうり名義で公開していたものをリメイクしつつ公開します。 完結していないので、完結は同じとこに落ち着く予定ですが中は修正しつつ公開します。 恋愛…になかなかならない、、むしろ冒険ものに、、、 ファンタジーに変えました(涙) どうぞよろしくお願いします。 ※本作は、他投稿サイト(カクヨム様/小説家になろう様)にも掲載しています。 他サイトでは一部表現や構成を調整した改稿版を公開しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...