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11-7.
しおりを挟む「軍隊を作り出す、だと?」
ディードリヒの言葉に、アルベルトが思わず声を上げた。
「そんな魔法陣は聞いたことがない。」
「そうだな。過去にも先にも魔の森以外には例がない。」
「なぜ、そんなものが作られたのですか?」
遙香の問いに、ディードリヒは答える。
「遥か昔のこの国は、大陸の統一を目論んでいた。いや、昔だけではない。いつの世も世界の王になろうとする者はいる。そして、それを武力でなそうとする者もな。」
ディードリヒは、フェリックスに「あれを」といった。フェリックスは、執務室から巻物を持ってきて広げる。大陸全土の地図だった。
「魔の森の位置はここだ。」
フェリックスは、大陸の中央付近、東寄りの位置を指差した。
「魔の森の北側は、現在は、グリーンバル王国の他に、エルランダ共和国のみがある。」
東側の1/3程を丸で囲む。
「魔の森の南側は、我が国の入口であるコーダード王国のほかは、地方自治の集合体だ。便宜上、ルーリー連合と呼んでいる。」
コーダード王国は、大陸の南西の僅かな部分、グリーンバル王国の1/4程度の大きさだ。
「今、王制をとっているのは、我が国とコーダード王国のみだが、かつては、大陸全土が王制の国だった。国土を広げることこそが、王の権威を高めることであり、国を繁栄させることだと考えられていた。」
遙香にも予想はつく。日本の歴史でも、世界史でも、国土拡大や利権をめぐる争いは例に事欠かない。
「魔の森の元となる魔法陣が生み出されたのは、そんな時代だ。領土を奪った敵国の兵士、国民を自国の兵士として従順に生まれ変わらせる、そんな研究がされていた記録がある。」
「そんな、非人道的なことを。」
「事実だ。しかし、今の国民は誰も知らない。塗り替えられた歴史だ。」
「・・・」
遙香はアルベルトを見た。アルベルトは、ディードリヒの言うことを知らなかったのだろう。ただ静かに首を振った。
「しかし、魔法陣は失敗した。制御が出来なかったのだ。そして、消滅させることも出来なかった。今、魔の森となっているものは、そういう歴史の負の遺産だ。」
ディードリヒは、一度言葉を区切り、遙香達にお茶を勧める。一口飲んだお茶は、随分ぬるくなっていた。
「魔法陣の失敗により、グリーンバル王国は大陸の南側への侵攻を断念した。だが、残った魔法陣によって、今のコーダード王国のところしか陸路がなくなったために、大陸の南側から攻められる危険も小さくなった。
魔法陣があることによって、思いがけず、大陸が南北に分断されたのだ。
グリーンバル王国は、コーダード王国と同盟を結び、大陸の北側の制覇に力を注いだ。結果が、今の地図だ。グリーンバル王国は、北側の2/3を占める国土を持つ大国となり、かつて北側にあった他の国々は、対グリーンバル王国のためにエルランダ共和国としてまとまり、一つになった。
対する南側は、争いの続く王制に反発した国民が、王や貴族を討ち、政権を奪取するような事態が相次いだ。内部崩壊した国や地域を市民の手で治めるようになった結果が、今の地方自治の集合体であるルーリー連合だ。その動きの中で、コーダード王国は、グリーンバル王国との同盟により、南側で唯一、国民に倒されなかった王国だ。」
遙香は、改めて地図を見た。
ディードリヒからの説明を受けたあとでは、地図の見え方も大分変わる。
「さて、ここからが本題だ。
先日まで5日間、貴族院が開会していた。王国の貴族達は、自らの栄誉と繁栄のために、聖女と聖女の母の取り込みに必死だった。
貴族達の目を聖女にそらしていたその間、国は何をしていたか。」
遙香には想像がつかなかったので、左右に首を振った。アルベルトを見ると、眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。
遙香は、アルベルトに尋ねた。
「思い当たることがあるの?」
「いや、確証はない。
ただ、貴族院にはヴァッハヴェル公爵が参加していたのだろう。そう考えると、フォン・ヴァッハヴェルが、「貴族院があるからハルカのところに来られない」と言っていたのは不自然な気がするんだ。
・・・魔術師団が動いていたのか?」
最後は呟くように、アルベルトが言った。
「良い洞察だな。」
ディードリヒが頷く。
「儂も同じことを考え、調査をさせた。貴族院の行われていた期間に、魔術師団が魔の森で遠征をしていたことまでは突き止めた。」
ディードリヒが、フェリックスに「あれを」と指示を出す。
フェリックスが出したのは、何かのリストだった。アルベルトが、内容を見て息を呑む。
「これは、我が国の囚人リストだ。このマーク付いた者が、この期間に刑を執行されている。」
ディードリヒが示したマークの付いた者は、ざっと数えても10人を超えている。
「明らかに人数がおかしい。こんな短期間で執行されるような人数じゃない。」
アルベルトが叫んだ。
「そうだ。加えて、これらの者は全て、身元を引き受ける者がいない者たちだ。」
遙香は、身震いした。ここから導き出される答えは。。。
「人体実験、か。」
「確証はない。だが、分かっている事実から導き出される結論としては、それが最も可能性が高い。
国は、魔の森の魔法陣で実験をし、軍隊を作ろうとしている可能性がある。」
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