聖女の母と呼ばないで

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2人は、アルベルトが先導する形で地下通路を抜け、別邸の図書室に戻った。

随分と長い間、地下通路にいたのだろう。図書室の窓から見える前庭は朱色に染まり、木々も草花も、その影を長くしている。

アルベルトは、遙香を図書室の隠し通路に入れると言った。

「2階まで行って、通路の中で待て。行きと同じように、俺が開けるまで動くなよ。」

「分かった。」

遙香が隠し通路の階段を登っていくのを見届けて、アルベルトは壁を閉じた。

図書室を出て廊下を進む。

別邸は、いつもの様子と変わらないようだった。

1階のホールを抜け階段を登っていく。アルベルトは、索敵の魔法を使った。握った手の中が一瞬ほのかに光ると、手を開くのに合わせてすぐに周囲にとけて散っていった。

遙香の部屋に1人、部屋の前に2人分の気配がある。部屋にいるのは、イザベルかリンジーのどちらかだろう。部屋の前は近衛騎士達だ。

階段を登りきり、アルベルトは近衛騎士に声をかけた。

「様子は?」

「変わりありません。お部屋でお休みのままです。」

「わかった。」

近衛騎士達には、遙香が外出していたことは気付かれていないらしい。

アルベルトは、遙香の部屋の扉を小さくノックすると、返事を待たずに中に入った。

「シェリスフォード様。」

青ざめた表情のイザベルが、部屋に入ったアルベルトに声をかけた。

「しっ!」

アルベルトは、イザベルに声を出さないように手振りで示し、部屋の扉を閉めた。部屋に防音の魔法をかける。

「いいぞ。」

アルベルトがイザベルに言うと、イザベルがアルベルトに詰め寄り聞いた。

「ハルカ様は一緒ではないのですか!?あんなものだけ残して出掛けるなんて。」

あんなものとは、アルベルトが本邸に出発する前に遙香のベッドにかけた認識阻害の魔法のことだろう。様子を見るために寝室を覗く位ならば、ベッドに誰かがいるように見えていたはずだ。寝ているはずの遙香に直接声をかけようとして、アルベルトの魔法が掛かっていることと、本人がいないことに気が付いたのだろう。

「隠し通路で待機している。ハルカを部屋に戻すために、近衛騎士をどうにかしたい。」

「ちゃんと無事でいらっしゃるのですよね?」

「あぁ。」

「では、ハルカ様がお部屋にお戻りになれる様、私が近衛騎士様方に早目の夕食をご案内してきます。」

「頼む。」

「・・・後で、ちゃんと話を聞かせて頂きますので。」

イザベルは、アルベルトに釘を刺し、部屋を出ようとした。

「待て。」

アルベルトは、イザベルを呼び止めて聞いた。

「気づいているのは、イザベルだけか?」

「・・・リンジーだったら、今頃別邸は蜂の巣をつついたようになっていますよ。私が先に気付いたので、リンジーには伝えずに外出する用事をお願いして外に出てもらっています。」

「すまない。助かった。」

「本当に、きちんと説明してもらいますからね。」

イザベルは、そう言って部屋を出ていった。




廊下の近衛騎士がイザベルとともに立ち去る音が聞こえた。

アルベルトは、念の為に索敵の魔法を使い2階に誰もいない事を確認してから、隠し通路に遙香を迎えに行った。

青い絵の下の壁を開くと、遙香は、通路に体育座りで座っていた。遙香は廊下を伺うように見てから、のそのそと通路の外へ出てきた。

アルベルトは、壁を閉じ、遙香の手を引いて急いで部屋に戻る。ソファに遙香を座らせてから、遙香に声をかけた。

「遅くなってすまなかった。冷えたりしていないか?」

「大丈夫。」

「イザベルが、ハルカの不在に気が付いていた。リンジーを上手くごまかしてくれていたらしい。」

「心配かけちゃったかな。」

「・・・説明を要求された。」

「そっか。そりゃそうだよね。いいよ、私から内容を選んで話すよ。」

「頼む。」

コンコンコン、と部屋の扉がノックされ、イザベルが台車を押して部屋に入ってきた。

ソファに座る遙香を見て、固かった表情が和らぐ。

「おかえりなさいませ、ハルカ様。」

「ただいま。何も言わずに出掛けてごめんね。」

「理由がおありなのでしょう。夕食をお持ちしました。食べながらお聞かせいただけますか?」

「リンジーは?」

「先程、外出から戻りましたが、本日はもう下がらせました。」

「気を遣わせてごめんなさい。じゃあ、3人でご飯にしよう。」


遙香はそう言って、ソファから立ち上がった。ダイニングテーブルへ向かおうとしたところで、イザベルが遙香を呼び止めた。

「ハルカ様。」

遙香が振り返ると、イザベルに優しく抱きしめられた。

「本当に心配したんですよ。」

イザベルは、抱きしめた腕を解き、遙香の肩に手を置いて、顔を覗き込むようにして言った。

「もう、急にいなくなったりしないで下さいね?」

イザベルの言葉が、色々な意味で遙香の胸を打つ。

真っ直ぐに見つめるイザベルの目を見ることができず、遙香は下を向いて呟いた。

「・・・心配かけてごめんなさい。」

遙香は、それだけしか言えなかった。









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