64 / 75
13-2.
しおりを挟むダイニングテーブルの上には、豪華な夕食が並ぶ。遙香が昼食をとらなかった事を気にして、料理長が腕をふるい、いつもよりも品数を多くしたのだ。
実際には本邸で昼食をとったが、考え事をしていたためあまり食べた気がしなかった。並べられた料理はどれも美味しそうだ。
アルベルトが遙香の隣に座り、イザベルは遙香の前に座った。
「いただきます。」
遙香は手を合わせてから食べ始めた。
スープ、サラダを食べ、メイン料理に進む頃、遙香は、イザベルに話しかけた。
「今朝、本邸から執事のフェリックスさんが来たでしょ?あの時に、急ぎ本邸に来るように言われたの。」
「ヴァッハヴェル様からの呼び出しですか?」
「んー、フォンさんじゃなくて、現ヴァッハヴェル家当主のディードリヒ・ヴァッハヴェル公爵。」
「えっ?公爵閣下ですか?」
「そう。」
「・・・ご本人にお会いになられたのですか?」
「名乗ってたから本人だと思うけど、初めて会ったからなぁ。アルベルトは面識あった?」
「王城で見かけたことはある。影武者かどうかまでは、考えなかったな。」
「いえ、そうではなく、公爵閣下の直々のお呼び出しだったのですか?」
「そうね。」
「王に次ぐ地位をお持ちの方が、ハルカ様を呼び出されたのですか?」
「そう。」
「どの様なご用件だったのでしょうか?」
「んー、今まで挨拶できずにすまないってことと、生活に困ってることはないかってことかな。」
遙香は、メインの肉料理を切りながら言った。アルベルトは、黙々と料理を食べ進めている。
イザベルは、遙香の言葉の続きを待った。しかし、遙香は切り分けた肉料理を口に運び、そして両手に持ったナイフとフォークを使って次の一口を切り分けている。イザベルはアルベルトを見たが、こちらも料理を口にするばかりで、話をする気がなさそうだ。
イザベルは、意を決して遙香に尋ねた。
「それだけですか?」
遙香は、イザベルを見ずに自分のお皿だけを見つめ、料理を口に運んでいる。
「ハルカ様。」
少し強い口調のイザベルの声に、遙香はびくっと固まる。肉を切っていた手を止め、口の中の物を飲み込んでから、遙香は言った。
「ごめん、話せることはそれだけ。」
遙香は正直にイザベルに言った。召喚された初日から、遙香の心の機微に気づくイザベルを、ごまかし通すことはできなかった。
だが、安易に魔の森の真実を明かすことはできない。
「そうですか。」
イザベルは、少し寂しそうな顔をしながら、自身の皿の方に目線を下げた。手に持ったカトラリーを握ったままで、食事を口に運ぶ様子はない。
イザベルは、遙香の方を見ずに聞いた。
「話せない理由を伺っても?」
遙香は、アルベルトをちらっと見た。アルベルトは、遙香の困った表情を見て、かわりにイザベルに答えた。
「理由は、本邸での話の内容が、国の機密事項に触れるからだ。」
「・・・」
「知ることで、危険にさらされる可能性がある。」
イザベルは、ばっと顔を上げてアルベルトに聞いた。
「ハルカ様は?お話を聞かれたハルカ様に危険はないのですか?」
「ハルカは、聖女に関わる当事者だ。・・・知ることで危険が増えたのではなく、危険があることを知らされたんだ。」
「そんな。ハルカ様に危険が生じるなんて、一体どういう状況ですか!」
イザベルは、カトラリーを持った手を握りしめ、ドンとテーブルを叩く。菫色の瞳が、キッとアルベルトを見据えていた。
普段冷静なイザベルの感情的な行動に、遙香は少し驚いた。
「イザベル、落ち着いて。深刻にならなくて平気だよ。公爵家の別邸で保護されているなら、滅多なことは起こらないだろうし。」
遙香は、イザベルに心配をかけないよう、努めて明るく言った。
「詳細が話せないから、イザベルの不安を解消出来ないかもしれないけど、大丈夫だから。」
「ハルカ様。。。」
イザベルは、気丈に振る舞う遙香を気遣うように問いかけた。
「公爵閣下から、無理な依頼はされてないですか?」
「ないない。依頼とかはなかったし、個人的な望みとしても、「聖女を生んで欲しい」っていう事しか言われてないよ。」
「本邸で、嫌な思いはしませんでしたか?」
「ディードリヒさんもフェリックスさんも、丁寧に対応してくれたから、大丈夫。」
「悲しかったり、辛かったりすることはありませんでしたか?」
「・・・アルベルトがいてくれたから、大丈夫。」
「あったのですね。」
「いや、あのね、酷いことをされたりした訳じゃないよ。考え方とか価値観とかが合わなかっただけで、相手に悪気がないのは分かってるの。で、ちょっと、落ち込んだだけだから。」
イザベルが悲しそうに言った。
「ハルカ様の気持ちに添えないことが、悲しいです。私の事を案じてくださるのは分かります。でも、それと同じ様に、それ以上に、私もハルカ様のことを案じています。」
「イザベル。」
「悲しいこと、辛いこと、楽しいこと、嬉しいこと、ハルカ様には、この部屋にいる間だけでもご自分の心が一番自然な状態でいて欲しい。」
「・・・」
「無理には聞きません。ですが、ハルカ様が私達を気遣うあまり、部屋で寛げず、気持ちを吐き出すことができなくなってしまうのは、ハルカ様にお仕えしている私にとっては何よりも辛いことなのです。」
「・・・ごめんね。」
「謝るのは、私の方です。ハルカ様のお力になれず、不甲斐ないです。」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
二度目だから容赦なし!元聖女のやり直し冒険記
ゆう
ファンタジー
金曜の夜。仕事を終えた私は、最寄り駅から自宅までの道を歩いていた。
今日も残業。クタクタだ。
だけど、コンビニで買った缶ビールがカバンに入っていると思うと、それだけで足取りが少し軽くなる。
(あー早く帰ってシャワー浴びて、ぐいっといきたい……!)
そんなことを考えながら信号を渡ろうとした時だった。
よくある召喚ものです。
カクヨム様で柊ゆうり名義で公開していたものをリメイクしつつ公開します。
完結していないので、完結は同じとこに落ち着く予定ですが中は修正しつつ公開します。
恋愛…になかなかならない、、むしろ冒険ものに、、、
ファンタジーに変えました(涙)
どうぞよろしくお願いします。
※本作は、他投稿サイト(カクヨム様/小説家になろう様)にも掲載しています。
他サイトでは一部表現や構成を調整した改稿版を公開しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる