異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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昏き宰相と木端の令嬢

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皆様ご機嫌よう、ヘレンです。自他共に認める木端貴族の、地味令嬢です。容姿は…まぁ、悪くはないかな?と、自分では思ってます。でも華やかさはないし、貴族社会で目立つタイプじゃないんです。だから、先日、父が夜の社交場で宰相閣下、あの有名な美形、アルフレッド・グラント卿にボコボコにされた(武器は言葉です、念のため)時は、正直、驚きを通り越して呆然としました。

そして、数日後。父から衝撃的な事実を告げられました。「アルフレッド卿が、お前の婚約を申し込んできた」と。

意味が分かりません。本当に分かりません。アルフレッド卿は、あの冷徹で、権力に飢えた、まるで氷の彫刻のような美しい宰相です。父を言葉でボコボコにした、その直後ですよ?一体何がどうなって、そんな展開になるんでしょうか?

「私と婚約してください」

アルフレッド卿の、あの美しい顔で言われたら、普通は舞い上がって「はい!」って言うんでしょうか?でも私は、即答しました。「え、ごめんなさい、無理です」。



アルフレッド・グラント。人々は私を「氷の宰相」と呼ぶ。確かに、感情を表に出すことは少ない。だが、それは冷酷さを意味しない。ただ、感情の波を、己の理性で厳しく制御しているだけだ。ヘレン・フォスター。その令嬢は、私の計画にとって、必要不可欠な存在だった。

彼女の父、フォスター伯爵は、私の政敵、レオン公爵の腹心だ。レオン公爵を弱体化させるには、フォスター伯爵の力を削ぐ必要がある。そして、その最適な手段が、ヘレンとの婚約だった。彼女の父を、言葉でボコボコにしたのは、あくまで交渉の始まり。威嚇と、同時に、私の誠意を示すためのパフォーマンスだったのだ。

しかし、ヘレンの反応は、予想外だった。即答で断ってきたのだ。あの冷たい瞳に、わずかな揺らぎもなかった。予想外の展開に、私は少しだけ、戸惑いを覚えた。



「無理です、って、どういうことですか?」

父は、アルフレッド卿からの求婚を、まるで宝くじが当たったかのように喜んでいました。けれど、私は、全く嬉しくありません。むしろ、怖いです。あの人の、底知れぬ冷たさが、私を震え上がらせていました。

「あの…宰相閣下は、一体なぜ私と婚約したいのですか?」

私は、アルフレッド卿に直接、理由を尋ねました。

「貴女の父を、私の政治的野望の足枷から解放するためだ」

彼は、淡々と、まるで機械のように説明しました。愛とか、そういう感情とは、全く無関係な話です。

「つまり…私を、駒として見ているんですね?」

「そうともいえる。しかし、駒として扱うには、貴女は、あまりにも魅力的だ」

彼は、私の目をじっと見つめて、そう言いました。



ヘレンは賢い。私の真意を見抜いている。だが、それでも、彼女は拒否するだろうと思っていた。なぜなら、彼女は私にとって、単なる駒ではないからだ。

彼女の知性、彼女の芯の強さ、そして、あの少し生意気な態度。それらは、私を惹きつけるものだった。父をボコボコにしたのは、彼女の反応を見るためでもあった。予想外の反応こそが、私を、彼女に惹きつけたのだ。

彼女は、私の計画を狂わせる可能性のある、唯一の存在だ。だが、同時に、私の計画を成功に導くかもしれない、唯一の存在でもある。



アルフレッド卿の言葉は、氷のように冷たかったけれど、同時に、どこか、真実を感じました。私は、彼にとって、ただの駒なのかもしれません。だけど、同時に、彼にとって、特別な存在でもあるような気がしました。

それからというもの、アルフレッド卿はしつこく、私に婚約を迫ってきました。彼の執拗な求婚は、まるで、私の心を解きほぐそうとする、繊細なゲームのようでした。そして、私は、そのゲームに、少しずつ巻き込まれていく自分に気づきました。

彼の策略、彼の野望、そして、彼の、私に向けられた、奇妙な感情。それらすべてが、私を、この危険なゲームへと引きずり込んでいったのです。



最終的に、私はアルフレッド卿と婚約しました。それは、彼の策略に屈したわけではありません。彼の、私への、奇妙な執着と、彼の野望を、利用することにしたのです。彼の野望を達成する手伝いをすれば、その見返りに、私の家族、そして、私自身を守ることができる。

そう考えたのです。

そして、婚約発表の宴の後、私はアルフレッド卿にささやきました。「あなたのゲーム、面白かったです。でも、勝ったのは私ですよ」と。

彼の、少しだけ驚いた表情を見て、私は、静かに微笑みました。この結婚、きっと、面白くなるだろうと。

私の、小さな、ささやかな、復讐劇の始まりです。
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