異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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金糸の忘れ物

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エミリアは、窓辺で刺繍をしていた。陽光が柔らかく差し込み、彼女の金色の髪を輝かせた。窓の外には、緑豊かな庭園が広がり、鳥のさえずりが聞こえる。優雅で、穏やかな午後だった。しかし、彼女の心は穏やかではなかった。

数日前、婚約者であるアルフレッド卿から婚約破棄を告げられていたのだ。理由は、彼の口から直接聞けなかった。手紙に「私のような者が、お嬢様を幸せに出来るはずがない」とだけ書かれていた。エミリアは、その言葉の意味が分からなかった。アルフレッド卿は、彼女にとって、世界で最も優しく、誠実な人だった。

彼との出会いは、5年前。彼女は、森の中で迷子になっていた子犬を助けていた。その子犬を拾ってくれたのが、アルフレッド卿だった。彼は、泥だらけの彼女を心配そうに見て、優しい笑顔で話しかけてくれた。それから、何度か会ううちに、二人は恋に落ちた。身分は違えど、アルフレッド卿は、エミリアを心から愛してくれた。少なくとも、彼女はそう信じていた。

婚約破棄の知らせを受け、エミリアは深く傷ついた。しかし、彼女は涙を流さなかった。彼女は、アルフレッド卿の言葉に、何か隠された理由があると感じていた。彼は、決してそんな冷たい言葉を使うような人ではなかったからだ。

数日後、エミリアは、庭の手入れをしていた使用人の少年、レオと出会った。レオは、アルフレッド卿の従者だった。エミリアは、彼にアルフレッド卿の近況を尋ねた。

レオは、戸惑いながらも、正直に答えた。「卿は…大変お困りの様子です。毎日、お城の図書館にこもって、何かを探しているようです。そして、夜になると、一人、庭を歩いていることが多いです。」

エミリアは、彼の言葉に、何かを察した。アルフレッド卿は、彼女に何かを伝えようとしていたのではないだろうか。そして、その伝え方を、知らなかったのではないか。

その日の夕暮れ時、エミリアは、アルフレッド卿がいつも散歩する庭を訪れた。すると、彼がいた。いつものように、物憂げな表情で、何かを考え込んでいるようだった。

エミリアは、彼に近寄った。「アルフレッド卿…」

彼は、エミリアを見て、驚いた表情を見せた。「エミリア様…なぜ…」

エミリアは、優しく微笑んだ。「理由を聞かせてください。婚約破棄の…本当の理由を。」

アルフレッド卿は、言葉を詰まらせた。そして、ゆっくりと話し始めた。実は、彼は、貧しい貴族の出身だった。彼の家系は、代々、王室に仕える家系だったが、近年は没落し、借金を抱えていた。彼は、エミリアとの結婚によって、その借金を返済しようとしていたのだ。しかし、彼は、エミリアを、金銭的な理由だけで愛しているわけではないことを知っていた。彼は、エミリアの純粋な愛情に、罪悪感を感じていたのだ。

「エミリア様…私は、あなたを愛しています。しかし、私は、あなたを幸せにできないのです。私は、あなたにふさわしくないのです。」

エミリアは、彼の言葉を聞いて、涙を流した。しかし、それは、悲しみの涙ではなかった。彼女は、アルフレッド卿の心の痛みを理解したのだ。

「アルフレッド卿、私は、あなたの借金を気にしません。私は、あなたを愛しています。あなたのすべてを。」

アルフレッド卿は、エミリアの言葉に、驚き、そして、喜びでいっぱいになった。彼は、エミリアを抱きしめ、涙を流した。

それから、二人は、一緒にアルフレッド卿の家系の借金を返済する方法を探した。エミリアの家族は、二人の愛を理解し、彼らを支えた。そして、彼らは、貧しいながらも、幸せな生活を送った。

数年後、エミリアとアルフレッド卿は、美しい子供たちに恵まれた。彼らは、いつも一緒に笑い、語り合い、幸せな日々を過ごした。エミリアは、窓辺で、金糸で刺繍をした。それは、アルフレッド卿との幸せな日々を、永遠に記憶するための、大切な宝物だった。あの婚約破棄の知らせは、二人の愛をより深く、強くしたのだ。そして、それは、二人の心に、金糸のように、美しく輝き続けた。
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