異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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凍える公爵と春の予感

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凍える風が、ソフィアの頬を刺すように冷たい。街の灯りが、川面に揺らめく。いつもの酒場「酔いどれ猫」でアルバイトを終え、家路を急いでいた。

橋の下、凍てつく川面に何かが引っかかっているのが見えた。よく見ると、男だ。逆さまに、まるで巨大な魚が釣り上げられたように。

ソフィアは近寄って見てみた。男は、長い黒髪を水に浸し、意識を失っているようだった。薄汚れた服からは、貴族の紋章のようなものが、かすかに見えた。こんな寒空の下、放置すれば間違いなく凍死する。

ソフィアは迷わず男を助け出した。男は予想以上に重かった。必死に引っ張り上げ、なんとか橋の上に引きずり上げた。

「大丈夫ですか?」

声をかけたが、返事はない。ソフィアは、家まで男を背負って歩くことにした。普段は引きこもりで、運動なんてほとんどしないソフィアにとって、かなりの重労働だった。息が切れて、何度も休みながら、ようやく家にたどり着いた。

ソフィアの部屋は、本とぬいぐるみで溢れかえっていた。窓からは、雪化粧をした山々が見えた。暖炉に火をつけ、男をソファに寝かせた。凍えて硬直した体を、タオルで優しく拭いてやった。

男は、驚くほど美しかった。長いまつげ、整った顔立ち。貴族の血筋を感じさせる、気品のある顔だ。

朝、目が覚めると、男はすでにソファから消えていた。ソフィアは、ホッとしたと同時に、少し寂しさを感じた。

その日の午後、いつものように本を読んでいると、ノックが聞こえた。恐る恐るドアを開けると、昨日の男が立っていた。

「……あの、すみません」

男は、まるで昨日の出来事を何もなかったかのように、自然に部屋に入ってきた。

「え? あ、あの…またですか?」

ソフィアは戸惑った。男は、ソフィアが用意した温かいスープを、あっという間に飲み干した。

「…どうもありがとう」

男は、かすれた声で感謝を述べた。そして、奇妙なことを言い出した。

「実は…僕は、追われているんです」

男は、自分が「アルフレッド公爵」で、王宮からの追っ手から逃れていると説明した。何やら、王位継承を巡る陰謀に巻き込まれたらしい。

ソフィアは、公爵の話に驚きながらも、なぜかそれほど怖くなかった。世間知らずの引きこもりだったソフィアは、世間の怖いものを知らず、むしろ、公爵の秘密を共有できることに、奇妙な興奮を感じていた。

数日後、ソフィアの部屋に兵士たちが押し掛けてきた。王宮の兵士だ。アルフレッド公爵を捕まえに来たのだ。

「公爵様は、ここにいません!」

ソフィアは、勇敢にも兵士たちに嘘をついた。アルフレッドは、ソフィアの作った秘密の隠れ場所に隠れていた。

その後、アルフレッドはソフィアの助けを借りながら、身を隠しながら暮らすことになった。アルフレッドは、魔法使いだった。しかし、その魔法は、どこかぎこちなく、不器用だった。魔法で料理を作ろうとすると、爆発したり、変な色になったり。

そんなアルフレッドの不器用な魔法と、ソフィアの世話を焼く姿は、奇妙なほどにマッチしていた。ソフィアは、アルフレッドの魔法の練習を手伝ったり、一緒に料理を作ったりした。時には、失敗した魔法で部屋がめちゃくちゃになったりもしたが、二人はいつも笑っていた。

ある日、アルフレッドはソフィアに言った。

「君と出会えて、本当に良かった」

アルフレッドの言葉に、ソフィアは頬を赤らめた。

そして、春が来た。雪解けの水が流れ、鳥がさえずる。アルフレッドの追っ手は、ついに彼を見つけることはなかった。アルフレッドは、ソフィアと穏やかな日々を送り、二度と王宮に戻ることはなかった。

ソフィアは、引きこもりから抜け出し、アルフレッドと小さな魔法の店を開いた。二人の魔法は、相変わらず不器用だったが、それはそれで、人々を笑顔にした。

二人の幸せな生活は、春の陽射しのように、暖かく、そして優しく、永遠に続いた。
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