異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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鉄の棘と、春の芽生え

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冷たい石の床に、冷たい風が吹き付けていた。私の指先、いや、全身が凍えるように冷たい。

これは……あの日の、あの場所。

記憶が蘇る。エドリックの冷酷な笑み、妹リリアの虚ろな瞳、そして、私を責め立てる人々の罵声。全てが鮮やかに、そして痛ましく、脳裏に焼き付いていた。

私は、婚約者エドリックと妹リリアの密会を目撃した。そして、その結果、リリアはエドリックの子を身ごもった。当然、私は悪女として糾弾された。家族、友人、村人、皆が私を非難した。エドリックの冷酷な仕打ち、リリアの嘘と涙、そして、私への容赦ないバッシング。耐えきれず、私はこの井戸に身を投げたのだ。

しかし、目が覚めると、そこはあの日、リリアとエドリックが密会する直前の時間だった。

周りの様子は、あの時と全く同じ。リリアはいつものように無邪気な笑顔で私を迎え、エドリックは婚約者としての優しい言葉を囁く。だが、私は知っている。彼らの仮面の下に潜む、醜悪な真実を。

今回は違う。私は彼らに復讐する。ただ、復讐の方法は、以前とは違った。

まず、私は魔法を使った。生まれつき持っていた、ごく微弱な魔法の才能。それは、他人を操る魔法ではなかった。けれど、人の心を揺さぶる、ささやかな力を持っていた。

それを使い、エドリックとリリアの間に少しずつ、亀裂を入れていくことにした。些細な嘘や、不自然な行動を、魔法の力で彼らに植え付け、二人の関係を少しずつ蝕んでいった。

最初はうまくいかなかった。エドリックは疑り深い男で、リリアは巧妙な嘘つきだった。しかし、私の魔法は、彼ら自身の心の闇を映し出す鏡のようにも働いた。エドリックの冷酷さ、リリアの虚栄心、それらが次第に増幅され、二人の関係は次第に歪んでいった。

エドリックは、私を今まで以上に優しくしてくれた。まるで、罪滅ぼしのように。リリアは、私に嫉妬と憎しみの目を向けるようになった。

しかし、私は動じない。彼らの憐れな演技に、もはや心を揺さぶられることはない。

ある日、リリアは、エドリックとの関係を隠しきれなくなり、私に激しく詰め寄ってきた。

「あんたが邪魔なのよ!エドリック様は私を愛してるのよ!」

彼女は、泣き叫びながら、私を突き飛ばした。しかし、私は、魔法の力を使い、彼女の言葉を反転させた。

「私が邪魔? そんなことないわ。エドリック様は、あなたのことが大嫌いなのよ!」

リリアは、自分の言葉に驚き、混乱した。エドリックも、リリアの言葉に動揺を見せた。

二人の関係は、完全に崩壊した。エドリックは、私を愛するふりをしながらも、リリアへの愛情は冷え切っていた。リリアは、エドリックへの執着を失い、一人ぼっちになった。

そして、私は、村を離れた。

私の魔法は、決して強力なものではなかった。だが、人の心を揺さぶり、関係を壊すには十分だった。

私は、森の奥深くで、静かに暮らした。そこで出会った、優しい青年と、私は幸せな生活を送っている。

あの日の苦しみ、あの日の絶望。それらは、私を強くした。そして、私を自由にした。

もう、誰にも支配されない。もう、誰にも傷つけられない。

春の芽生えのように、私は新しい人生を歩み始めた。鉄の棘のような過去を乗り越え、私は、自分自身の幸せを掴んだのだ。そして、あの二人には、二度と近づかない。私の幸せを、彼らは決して奪えない。  あの井戸の底で見た、冷たい闇は、私を強くしてくれた。  そして、今は、春の温かい光の中で、私は笑っている。
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