異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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泥濘の灯火

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テオドールは、アルカディアの賑やかな市場の喧騒を背に、路地裏へと足を踏み入れた。いつもなら、妖精のいたずらや、ドワーフの喧嘩など、日常茶飯事の騒動に巻き込まれるアルカディアだが、今日の騒動は違った。それは、凄まじい怒号と、物音だった。

路地の奥で、男と幼女が激しく言い争っていた。男は、ボロボロの服を着て、酒臭い息を吐き出しながら、幼女を罵倒する。幼女は、男の言葉を無視して、地面に落ちた小銭を拾い上げようとしていた。その姿は、まるで野良猫のようだった。

「父ちゃんが働きもせんと、女にうつつ抜かしとうで、稼ごうと思うたんじゃっ!」男の怒号が、路地裏に響き渡る。「ほたえなっ! そんで騎士団の世話になっとうたら埒かんわっ!!」幼女の反論も、悲壮感に満ちていた。

テオドールは、この親子がアルカディアの移民であることを知っていた。故郷を追われ、この地で必死に生きているらしい。しかし、その生活は悲惨なものだった。男は、日雇い労働でわずかな金を稼ぎ、女郎宿で時間を潰す。幼女は、スリや盗みを働いて生活費を補う。そして、毎日のように激しい喧嘩を繰り返す。

テオドールは、見て見ぬふりをしようとした。アルカディアには、彼以上に不幸な人々が大勢いた。だが、幼女の悲しげな瞳が、彼の心を揺さぶった。このままではいけない。何かしなければならない。

テオドールは、まず、親子に食事を与えた。温かいスープとパンを差し出し、静かに隣に座った。男は、警戒しながらも、空腹には勝てなかった。幼女は、警戒しながらも、スープを美味しそうに飲んだ。

食事の後、テオドールは、男に話を聞いた。男は、元は鍛冶職人だったという。しかし、故郷の戦争で全てを失い、家族と離れ離れになった。アルカディアにたどり着いたときには、もう何も残っていなかった。

幼女は、男の娘だった。名前はリリアという。リリアは、父を憎んでいるわけではなかった。ただ、生き残るために、盗みを働いていたのだ。

テオドールは、リリアに読み書きを教え始めた。最初は、抵抗していたリリアだったが、テオドールの優しい教え方と、読み書きの楽しさに次第に心を奪われていった。

テオドールは、男にも仕事を斡旋した。最初は、簡単な仕事だったが、男は真面目に働き始めた。そして、少しずつ、アルカディアの生活に慣れていった。

しかし、彼らの問題は、それだけではありませんでした。彼らは、故郷で迫害を受けていた少数民族だったのです。アルカディアでも、差別的な扱いを受け、仕事が見つかりにくかったのです。

テオドールは、彼らのために奔走しました。騎士団に訴え、差別をなくすように働きかけました。それは、容易ではありませんでした。しかし、テオドールは諦めませんでした。

長い時間と努力の末、少しずつ状況は変わっていきました。男は、安定した仕事に就き、リリアは学校に通い始めました。親子は、喧嘩をすることも少なくなりました。笑顔が増え、幸せそうな姿を見るようになりました。

アルカディアの路地裏は、以前と変わらぬ騒がしさで賑わっていました。しかし、テオドールは、路地裏の片隅に、小さな灯火がともっているのを感じていました。それは、希望の灯火でした。リリアの笑顔が、その灯火を輝かせていました。そして、その灯火は、テオドールの心にも、温かい光を灯していました。それは、彼がアルカディアで出会った、かけがえのない宝でした。
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