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帰還
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しおりを挟む第70層以降への突入。
空気は灼け、魔力の流れは狂い、重力すら不安定になる。
志願者たちは増加耐性装備を背負い、全身の筋肉が軋むのを感じながら一歩ずつ進む。
行軍は地獄だった。足を止めた瞬間、魔力嵐に呑まれる。
汗は蒸発し、呼吸は痛みと共に焼けつく。
途中、何名かが倒れた。装備の重量と魔力圧に耐え切れず、通信が途絶える。
しかし立ち止まることは許されない。
それがこの任務の掟であり、そして彼らが誓った覚悟でもあった。
やがて、空間の歪みの中に核の気配が見え始める。
その光は、まるで太陽の断片を地底に押し込めたかのようだった。
一歩進むごとに視界が白く染まり、体中の神経が悲鳴を上げる。
そして、辿り着いたのは半数。
他の者は、名もなく散った。
だが彼らは知っている。
ここからが、「ディープゲート計画」の真の始まりだということを。
70層――この地は、もはや“地上の延長”ではなかった。
空間は歪み、魔力の密度が重力のように身体を圧する。
一歩ごとに脚が沈み、増加耐性装備の重みは総計400kgを超えている。
それでも、誰ひとり止まらない。
ここで立ち止まれば、全てが無になる。
核の輝きが遠くに見える。
それは太陽ではない。
世界そのものを“焼き尽くす意思”のような光。
「これ以上は……装備がもたない!」
通信越しに悲鳴が上がる。
だが、進むしかない。
脱落者が出るたびに、無線がひとつ、またひとつ途切れていく。
命令もなく、誰も振り返らない。
ただ前へ――。
やがて、残ったのは志願者の半数。
全員、限界を超えた顔をしていた。
その前に立つのは、研究班の代表として同行していた宇宙だった。
「……ここが限界だ」
彼はそう言い、掌に魔法陣を展開する。
空中に淡く光る座標式が浮かび上がる。
「この座標を渡す。転移魔法が発動できれば――帰ってこれるかもしれない」
“かもしれない”という言葉が重く響く。
志願者の一人が問う。
「宇宙さん、あんたは来ないのか?」
宇宙は首を横に振った。
「俺は、戻る道を残す役目だ。
誰かが座標を監視していなければ、二度と帰れなくなる」
その言葉に、誰も反論できなかった。
彼らもわかっている。
核に近づけば、転移座標すら狂う可能性があることを。
そして――。
志願者たちは、一人、また一人と光の中へ踏み込んでいった。
魔力の奔流が彼らを包み、肉体も装備も光の粒となって消えていく。
通信が途切れる直前、誰かの声が聞こえた。
「――必ず、戻る」
光が収束し、静寂が訪れる。
残された宇宙は、ただその座標を見つめ、
“この世界と彼らをつなぐ最後の線”を握りしめていた。
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