野球将棋 ー野球盤上の戦ー

えびまよ

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千日完全試合

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宵闇に浮かぶは、大盤の土俵、野球将棋スタジアム。九筋九段、八十一の升目が、そのまま戦国の野と化す、奇しき格闘技の聖地なり。
今宵、ここに立つは、二つの頂。
東の横綱、オオニタ・ショウヘイ。
その雄姿は、野球と将棋の理を一つに収めた二天一流の龍王。打てば飛車玉となり、盤上の兵を木っ端微塵に砕く、究極の剛。
西の横綱、フジコ・ソウタ。
その面差しは、深淵の知恵を宿した盤上の七冠。八十一の升目に、鉄壁の九九入玉を築き、いかなる猛攻も受け流す、究極の柔。
初戦。龍王、先駆けの刻。
大谷が、吼える。手にするは、常軌を逸した長柄の得物。
狙うは、フジコが布陣せし将棋の陣立て。
ドォォン! ガシャア!
一打、二打、三打。嵐の如き一撃は、フジコの陣に立つ角行、銀将を塵芥となし、さらに玉を護る金将の頭上を越え、後方の観覧席へと消え去る。
「三連の凱歌!龍王、いきなりの千人斬り!七冠の布陣、最早風前の灯火なり!」
熱狂の波が、大土俵を洗い流す。フジコの玉は、危機一髪。
フジコ、静かに息を吐き、盤面を見据える。その眼裏には、数多の戦局が星の如く廻る。この剛、受け切る秘策はただ一つ。
「九九、玉、籠城せよ」
フジコ、手番。生き残った兵たちは、玉を護るべく、盤の隅、最奥の九九の地に、身を寄せ合う。彼の指し手は、さながら千年の昔より伝わる兵法の写し絵。
玉、無事に九九の升目に囲る。
「九九入玉、発動!七冠の築く、金剛不壊の鉄壁なり!」
オオニタ、四打席目。剛力は変わらず、必殺の飛車玉を放つ。
ゴオォ!
しかし、将棋の理に極まったフジコの守りは、その一撃を呑み込む。飛車、角、金、銀、すべての駒が、一つの巨大な盾と化し、その剛を己が内に収める。
オオニタの投じる球筋は、もはや玉に届かず。十度、二十度… 打ち込まれた飛車玉は、ただフジコの盾を鳴らすのみ。
終局の報。
【オオニタ・ショウヘイ:十の空振り 無益の功】
「九九入玉が成った今、いかなる剛力も、盤上の理には抗えませぬ」フジコ、静かに告げる。
二戦。七冠、切り崩しの手。
今度はフジコが攻める。七冠の叡智を込めた駒たちは、オオニタの守る陣を、まるで水が土を穿つかのごとく、緻密に責め立てる。
対するオオニタ、矛を剣に持ち替え、二刀流の守りで見せる。
マウンドに立つ彼の姿は、千軍万馬を前にしても揺るがぬ大将。
「我が陣は、やすやすとは破らせぬ!」
オオニタは、自らの剛腕から飛車玉を繰り出す。その剛球は、フジコの攻撃駒を正確に撃ち砕く。
だが、フジコの兵法は尽きない。破壊された駒の後を、新たな駒が引き継ぎ、その詰み筋を緩めることはない。
攻防、白熱す。
フジコがと金を捨て駒にすれば、大谷は角の球で討ち取る。
オオニタが飛車の打球で道を拓けば、フジコは銀を差し出し、玉を巧みに遠ざける。
そして、戦局は奇妙な均衡に達した。
フジコがこの手を指せば、オオニタがこの球を投げ、駒は元の位置へ。
オオニタが次の手を繰り出せば、フジコがこの駒を動かし、駒は前の位置へ。
三度、四度と、全く同じ局面が繰り返される。
「…これは、まさか」
実況の声が、天を仰ぐ。
「千日手!盤上のいくさ、決着つかず!龍王の剛と七冠の柔、互いに極まりて、永久の拮抗に陥る!」
究極の矛は、究極の盾を、ただの一寸も貫けず。
究極の盾は、究極の矛を、ただの一歩も屈服させられず。
二人が織りなす盤面は、勝者も敗者もない、永遠に続く攻防の絵巻をもって、その夜の帳を閉じたのである。
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