『好きになったら負け』のはずなんだけど、もしかするとお互いにずっと好きだったのかもしれない

α作

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#第三話 #良いところ #雰囲気

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『——試練:お互いの良いところを三つ挙げよ! 二人の距離が近づくかも?』

 スマホが震えて、新たな試練が表示される。そのメッセージを読んだ瞬間、蒼依の表情が固まった。そしてわずかに眉間にしわが寄った。

「春樹の良いところを三つもあげるの?」
「なんで不満そうなんだよ。俺だって蒼依の良いところを三つもあげるのは大変だし」

 揃って、微妙な空気から始まってしまったが。

「可愛い、たまに優しい、すぐ怒る」
 春樹が指でカウントしながら、ゆっくりと述べていく。

「は? 最後の要らないんだけど」
「しまった。負けず嫌いだから、物事を簡単に諦めないとかにしとけば良かった」
「すぐ怒るとはぜんぜん関係ないじゃない」
「似たような意味だと思うんだけどな」

 不満そうに抗議している蒼依とは対象的に、春樹は彼女の意図をいまいち汲み取れていなかった。

「じゃあ、私から言うわよ」
「さっきのは無し?」
「当たり前でしょ。きちんと考えてから発言してよ」
「分かった。俺も蒼依の良いところをきちんと考えてみる」

 うん、と頷いてから、蒼依はすこし頬を赤くしながら、ゆっくり口を開いた。

「一つ目——記憶力が良い」
「色々なことを覚えててくれるっていうか。そういうのって、結構嬉しいから」
「色々なことを覚えてる?」
「私が話したこととか、ちゃんと覚えててくれるところ。細かいだけかもしれないけどね」

 蒼依の言葉に、春樹はすこし驚きながら頷いた。

「蒼依が何度も喋るから、忘れられないだけだと思うぞ。俺、大事なこととかでも結構忘れちゃうし」
「そういう余計なこと言わなくていい」

 蒼依はムッとした表情を見せたが、すぐに次の良いところを考えているのか、頬に手を当てていた。

「二つ目——……意外と、優しいところ?」
「意外と優しいって。俺、別に厳しくはないと思うぞ」
「意外と、が大事なのよ。普段は適当なくせに、すごーく、たまーに、ほんのちょっとだけ気を使ってるところが優しいっていうか……」
「もはや褒めてないだろ」
 春樹が呆れつつ答える。
「う、うるさい。いいから黙って聞いてなさいよ」
 照れ隠しのように声を上げた蒼依に、春樹は苦笑していた。

「三つ目……」
 蒼依はすこし目を泳がせながら続ける。

「まあ、その……喧嘩しても、なんだかんだでいつも謝ってくれるところ」
「おい、それって俺が悪い前提じゃないか」
「そういうことじゃないし。素直に受け取ればいいでしょ」
「俺の脳内で、お前が言うなが駆け巡ってるんだが」
「う、うるさい。もう二度と言わない」

 蒼依が顔を赤らめながらそっぽを向く。なんだかんだで、ちゃんと考えてはくれたみたいだった。

「じゃあ、次は俺の番だな」
 ほんのり赤い蒼依の横顔を見ながら、春樹はちょっと考える。そして、なるべく自然に口に出した。

「一つ目——勝ち気だけど、ちゃんと努力家なところ」
「……なによ、それ」
「何か始めたら最後までやりきるし、頑張るところは素直にすごいと思うよ」
 春樹が頭をかきながら続けていく。

「中学の時に、クラスリレーの代表に選ばれた時とか、放課後までずっと走りこんでたし」
「お前の負けず嫌いは、他の人たちの期待に対してもなんだって、校庭の端で走り続けてる蒼依を見ながら思ったよ」
「あれ見られてたのね。すごく恥ずかしいんだけど」
「別に悪いことじゃないだろ。クラスの奴らも普通に知ってたし、皆、応援してたぞ」

 春樹がさらっと言うと、蒼依は俯きながら、すこし黙りこんでいた。

「二つ目——さっきと同じだけど、やっぱり優しいところ」
「私と同じじゃん。ほんとにちゃんと考えたのかしら」
 蒼依が少し不満そうにつぶやく。

「蒼依の優しさって、厳しさでもあると思う。だから俺も蒼依の写真を待ち受けにしてたっていうか」
「今のままじゃダメな時って、今のままでも良いって、言ってもらっちゃいけないと思ってたんだ」
「何それ、褒めてる感じしないんだけど。は、春樹はやっぱり優しい子の方が好きなのかしら」
 春樹のことを横目で見上げながら、蒼依が小さくつぶやいた。

「明日から蒼依がめちゃくちゃ優しくなってくれても、それはそれで嬉しいけど……」
「や、やっぱり貶してるじゃない。もう二度と口聞かないから」
「おい、なんでだよ! まだ次のもあるって!」

 腕を組みながら、不満そうに睨む蒼依に対して、春樹はなんで怒ってんだよ、と、宥めるような仕草をしながら続けていく。

「み、三つ目——……やっぱりすごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」

 その瞬間、蒼依の顔がボンっと真っ赤になった。誰が見ても動揺しているのが分かる。

「ちゃんと聞いてくれ。可愛いっていうのは、猫とか、そういうのと近い感覚っていうのかな……」
「愛嬌があるとも言えるんだけど、なんか蒼依のことって、怒れないっていうかさ」
「……ね、猫って何よ。私、別に愛玩動物じゃないんだけど」

 意味が分からないんだけど、といった様子で、蒼依が半目で蔑むように春樹を見る。

「これだ! この感じなんだよ!」
「素直じゃなさすぎるところも、めっちゃ可愛い」
「やっぱり褒めてない。うん、今は素直に春樹に馬鹿って伝えられる」
 呆れた様子で蒼依がつぶやいていた。

『——試練クリア!  絆が深まりましたね! 春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』

 画面には、器にキラキラした液体が注がれるアニメーションが流れている。

「あー、変な試練だった。一瞬照れちゃったのが、バカみたい……」

 蒼依が前髪をいじりながら、小さくつぶやく。その横顔は、どこか照れくさそうで、でも楽しそうでもあり——。

「……たまには、こういうやりとりも必要かもね」
「いつも喧嘩になっちゃうもんな」
「春樹が悪いんでしょ」
「蒼依がすぐムキになるからだって」
「知らない」
 何だか、いつもとすこし違う雰囲気に、互いの鼓動が早くなっていた。
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