8 / 24
#第三話 #良いところ #雰囲気
しおりを挟む
『——試練:お互いの良いところを三つ挙げよ! 二人の距離が近づくかも?』
スマホが震えて、新たな試練が表示される。そのメッセージを読んだ瞬間、蒼依の表情が固まった。そしてわずかに眉間にしわが寄った。
「春樹の良いところを三つもあげるの?」
「なんで不満そうなんだよ。俺だって蒼依の良いところを三つもあげるのは大変だし」
揃って、微妙な空気から始まってしまったが。
「可愛い、たまに優しい、すぐ怒る」
春樹が指でカウントしながら、ゆっくりと述べていく。
「は? 最後の要らないんだけど」
「しまった。負けず嫌いだから、物事を簡単に諦めないとかにしとけば良かった」
「すぐ怒るとはぜんぜん関係ないじゃない」
「似たような意味だと思うんだけどな」
不満そうに抗議している蒼依とは対象的に、春樹は彼女の意図をいまいち汲み取れていなかった。
「じゃあ、私から言うわよ」
「さっきのは無し?」
「当たり前でしょ。きちんと考えてから発言してよ」
「分かった。俺も蒼依の良いところをきちんと考えてみる」
うん、と頷いてから、蒼依はすこし頬を赤くしながら、ゆっくり口を開いた。
「一つ目——記憶力が良い」
「色々なことを覚えててくれるっていうか。そういうのって、結構嬉しいから」
「色々なことを覚えてる?」
「私が話したこととか、ちゃんと覚えててくれるところ。細かいだけかもしれないけどね」
蒼依の言葉に、春樹はすこし驚きながら頷いた。
「蒼依が何度も喋るから、忘れられないだけだと思うぞ。俺、大事なこととかでも結構忘れちゃうし」
「そういう余計なこと言わなくていい」
蒼依はムッとした表情を見せたが、すぐに次の良いところを考えているのか、頬に手を当てていた。
「二つ目——……意外と、優しいところ?」
「意外と優しいって。俺、別に厳しくはないと思うぞ」
「意外と、が大事なのよ。普段は適当なくせに、すごーく、たまーに、ほんのちょっとだけ気を使ってるところが優しいっていうか……」
「もはや褒めてないだろ」
春樹が呆れつつ答える。
「う、うるさい。いいから黙って聞いてなさいよ」
照れ隠しのように声を上げた蒼依に、春樹は苦笑していた。
「三つ目……」
蒼依はすこし目を泳がせながら続ける。
「まあ、その……喧嘩しても、なんだかんだでいつも謝ってくれるところ」
「おい、それって俺が悪い前提じゃないか」
「そういうことじゃないし。素直に受け取ればいいでしょ」
「俺の脳内で、お前が言うなが駆け巡ってるんだが」
「う、うるさい。もう二度と言わない」
蒼依が顔を赤らめながらそっぽを向く。なんだかんだで、ちゃんと考えてはくれたみたいだった。
「じゃあ、次は俺の番だな」
ほんのり赤い蒼依の横顔を見ながら、春樹はちょっと考える。そして、なるべく自然に口に出した。
「一つ目——勝ち気だけど、ちゃんと努力家なところ」
「……なによ、それ」
「何か始めたら最後までやりきるし、頑張るところは素直にすごいと思うよ」
春樹が頭をかきながら続けていく。
「中学の時に、クラスリレーの代表に選ばれた時とか、放課後までずっと走りこんでたし」
「お前の負けず嫌いは、他の人たちの期待に対してもなんだって、校庭の端で走り続けてる蒼依を見ながら思ったよ」
「あれ見られてたのね。すごく恥ずかしいんだけど」
「別に悪いことじゃないだろ。クラスの奴らも普通に知ってたし、皆、応援してたぞ」
春樹がさらっと言うと、蒼依は俯きながら、すこし黙りこんでいた。
「二つ目——さっきと同じだけど、やっぱり優しいところ」
「私と同じじゃん。ほんとにちゃんと考えたのかしら」
蒼依が少し不満そうにつぶやく。
「蒼依の優しさって、厳しさでもあると思う。だから俺も蒼依の写真を待ち受けにしてたっていうか」
「今のままじゃダメな時って、今のままでも良いって、言ってもらっちゃいけないと思ってたんだ」
「何それ、褒めてる感じしないんだけど。は、春樹はやっぱり優しい子の方が好きなのかしら」
春樹のことを横目で見上げながら、蒼依が小さくつぶやいた。
「明日から蒼依がめちゃくちゃ優しくなってくれても、それはそれで嬉しいけど……」
「や、やっぱり貶してるじゃない。もう二度と口聞かないから」
「おい、なんでだよ! まだ次のもあるって!」
腕を組みながら、不満そうに睨む蒼依に対して、春樹はなんで怒ってんだよ、と、宥めるような仕草をしながら続けていく。
「み、三つ目——……やっぱりすごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」
その瞬間、蒼依の顔がボンっと真っ赤になった。誰が見ても動揺しているのが分かる。
「ちゃんと聞いてくれ。可愛いっていうのは、猫とか、そういうのと近い感覚っていうのかな……」
「愛嬌があるとも言えるんだけど、なんか蒼依のことって、怒れないっていうかさ」
「……ね、猫って何よ。私、別に愛玩動物じゃないんだけど」
意味が分からないんだけど、といった様子で、蒼依が半目で蔑むように春樹を見る。
「これだ! この感じなんだよ!」
「素直じゃなさすぎるところも、めっちゃ可愛い」
「やっぱり褒めてない。うん、今は素直に春樹に馬鹿って伝えられる」
呆れた様子で蒼依がつぶやいていた。
『——試練クリア! 絆が深まりましたね! 春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』
画面には、器にキラキラした液体が注がれるアニメーションが流れている。
「あー、変な試練だった。一瞬照れちゃったのが、バカみたい……」
蒼依が前髪をいじりながら、小さくつぶやく。その横顔は、どこか照れくさそうで、でも楽しそうでもあり——。
「……たまには、こういうやりとりも必要かもね」
「いつも喧嘩になっちゃうもんな」
「春樹が悪いんでしょ」
「蒼依がすぐムキになるからだって」
「知らない」
何だか、いつもとすこし違う雰囲気に、互いの鼓動が早くなっていた。
スマホが震えて、新たな試練が表示される。そのメッセージを読んだ瞬間、蒼依の表情が固まった。そしてわずかに眉間にしわが寄った。
「春樹の良いところを三つもあげるの?」
「なんで不満そうなんだよ。俺だって蒼依の良いところを三つもあげるのは大変だし」
揃って、微妙な空気から始まってしまったが。
「可愛い、たまに優しい、すぐ怒る」
春樹が指でカウントしながら、ゆっくりと述べていく。
「は? 最後の要らないんだけど」
「しまった。負けず嫌いだから、物事を簡単に諦めないとかにしとけば良かった」
「すぐ怒るとはぜんぜん関係ないじゃない」
「似たような意味だと思うんだけどな」
不満そうに抗議している蒼依とは対象的に、春樹は彼女の意図をいまいち汲み取れていなかった。
「じゃあ、私から言うわよ」
「さっきのは無し?」
「当たり前でしょ。きちんと考えてから発言してよ」
「分かった。俺も蒼依の良いところをきちんと考えてみる」
うん、と頷いてから、蒼依はすこし頬を赤くしながら、ゆっくり口を開いた。
「一つ目——記憶力が良い」
「色々なことを覚えててくれるっていうか。そういうのって、結構嬉しいから」
「色々なことを覚えてる?」
「私が話したこととか、ちゃんと覚えててくれるところ。細かいだけかもしれないけどね」
蒼依の言葉に、春樹はすこし驚きながら頷いた。
「蒼依が何度も喋るから、忘れられないだけだと思うぞ。俺、大事なこととかでも結構忘れちゃうし」
「そういう余計なこと言わなくていい」
蒼依はムッとした表情を見せたが、すぐに次の良いところを考えているのか、頬に手を当てていた。
「二つ目——……意外と、優しいところ?」
「意外と優しいって。俺、別に厳しくはないと思うぞ」
「意外と、が大事なのよ。普段は適当なくせに、すごーく、たまーに、ほんのちょっとだけ気を使ってるところが優しいっていうか……」
「もはや褒めてないだろ」
春樹が呆れつつ答える。
「う、うるさい。いいから黙って聞いてなさいよ」
照れ隠しのように声を上げた蒼依に、春樹は苦笑していた。
「三つ目……」
蒼依はすこし目を泳がせながら続ける。
「まあ、その……喧嘩しても、なんだかんだでいつも謝ってくれるところ」
「おい、それって俺が悪い前提じゃないか」
「そういうことじゃないし。素直に受け取ればいいでしょ」
「俺の脳内で、お前が言うなが駆け巡ってるんだが」
「う、うるさい。もう二度と言わない」
蒼依が顔を赤らめながらそっぽを向く。なんだかんだで、ちゃんと考えてはくれたみたいだった。
「じゃあ、次は俺の番だな」
ほんのり赤い蒼依の横顔を見ながら、春樹はちょっと考える。そして、なるべく自然に口に出した。
「一つ目——勝ち気だけど、ちゃんと努力家なところ」
「……なによ、それ」
「何か始めたら最後までやりきるし、頑張るところは素直にすごいと思うよ」
春樹が頭をかきながら続けていく。
「中学の時に、クラスリレーの代表に選ばれた時とか、放課後までずっと走りこんでたし」
「お前の負けず嫌いは、他の人たちの期待に対してもなんだって、校庭の端で走り続けてる蒼依を見ながら思ったよ」
「あれ見られてたのね。すごく恥ずかしいんだけど」
「別に悪いことじゃないだろ。クラスの奴らも普通に知ってたし、皆、応援してたぞ」
春樹がさらっと言うと、蒼依は俯きながら、すこし黙りこんでいた。
「二つ目——さっきと同じだけど、やっぱり優しいところ」
「私と同じじゃん。ほんとにちゃんと考えたのかしら」
蒼依が少し不満そうにつぶやく。
「蒼依の優しさって、厳しさでもあると思う。だから俺も蒼依の写真を待ち受けにしてたっていうか」
「今のままじゃダメな時って、今のままでも良いって、言ってもらっちゃいけないと思ってたんだ」
「何それ、褒めてる感じしないんだけど。は、春樹はやっぱり優しい子の方が好きなのかしら」
春樹のことを横目で見上げながら、蒼依が小さくつぶやいた。
「明日から蒼依がめちゃくちゃ優しくなってくれても、それはそれで嬉しいけど……」
「や、やっぱり貶してるじゃない。もう二度と口聞かないから」
「おい、なんでだよ! まだ次のもあるって!」
腕を組みながら、不満そうに睨む蒼依に対して、春樹はなんで怒ってんだよ、と、宥めるような仕草をしながら続けていく。
「み、三つ目——……やっぱりすごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」
その瞬間、蒼依の顔がボンっと真っ赤になった。誰が見ても動揺しているのが分かる。
「ちゃんと聞いてくれ。可愛いっていうのは、猫とか、そういうのと近い感覚っていうのかな……」
「愛嬌があるとも言えるんだけど、なんか蒼依のことって、怒れないっていうかさ」
「……ね、猫って何よ。私、別に愛玩動物じゃないんだけど」
意味が分からないんだけど、といった様子で、蒼依が半目で蔑むように春樹を見る。
「これだ! この感じなんだよ!」
「素直じゃなさすぎるところも、めっちゃ可愛い」
「やっぱり褒めてない。うん、今は素直に春樹に馬鹿って伝えられる」
呆れた様子で蒼依がつぶやいていた。
『——試練クリア! 絆が深まりましたね! 春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』
画面には、器にキラキラした液体が注がれるアニメーションが流れている。
「あー、変な試練だった。一瞬照れちゃったのが、バカみたい……」
蒼依が前髪をいじりながら、小さくつぶやく。その横顔は、どこか照れくさそうで、でも楽しそうでもあり——。
「……たまには、こういうやりとりも必要かもね」
「いつも喧嘩になっちゃうもんな」
「春樹が悪いんでしょ」
「蒼依がすぐムキになるからだって」
「知らない」
何だか、いつもとすこし違う雰囲気に、互いの鼓動が早くなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる