9 / 24
#春樹視点 #ep3
しおりを挟む
放課後。
校舎の階段を下りながら、春樹はスマホをポケットにしまう。
さっきの試練が終わったあとから、なんだか落ち着かない。
普段どおりのつもりだったのに、蒼依の照れた顔を思い出すたび、なんとなく笑ってしまう。
別に深い意味なんてない。……はずだった。
「お前さ、最近桜庭と仲良いよな」
昇降口に差し掛かったとき、不意に声をかけられる。
振り向くと、クラスメイトの藤崎友也がにやにやしながらこっちを見ていた。
軽音部に所属している藤崎とは、そこそこ仲が良い。
……が、こういう時にはあまり出会いたくなかったというか。
「昔から知ってるしな。ただの幼なじみだから」
「前は普通に仲良い友達って感じだったけど、最近のお前らって、雰囲気が違うっていうか」
「普通にイチャついてるよな」
「そ、そんなわけないだろ!」
思わず声が上ずる。
そんな俺の反応が面白かったのか、藤崎はさらに質問を続けてきた。
「いやいや、桜庭があんな風に誰かと仲良く絡んでるの、見たことねえし」
「いや、それはただ……」
「ただ?」
言葉に詰まる。
小さい頃は、もっと仲が良かった。
けれど、高校に入ってからは、会えば喧嘩のようなやり取りを繰り返している。
アプリを使ってからというもの、毎日のように、顔を合わせて、言い合って、からかって、照れて……。
(……いや、何考えてんだ、俺)
「お前さ、まさか気づいてないのか?」
「何がだよ」
「桜庭って、お前のこと好きだろ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
でも、頭の中にさっきの試練の光景がフラッシュバックする。
「すごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」
あの時、蒼依の真っ赤になった顔。
視線をそらした仕草。
照れながらも、どこか嬉しそうな様子。
(まさか、な……)
「お前が、桜庭のことを好きなのは知ってるけど」
藤崎が、何かを知っているかのような口調でつぶやいた。
「は?」
「授業中とかにさ、たまにぼーっと見てんじゃん」
「いや別に、そんなつもりじゃ」
「へぇ、"そんなつもり"じゃねぇんだ」
藤崎のにやにやした顔が、妙に腹立たしかった。
「こんなの普通、っていうか」
「普通じゃねえよ。少なくとも、俺はそんなことしないけど」
普通じゃない。
いや、そんなはずはない。
俺は、ただの幼なじみとして——
……ただの幼なじみとして、なんだ?
(……違う、のか?)
無意識に、ポケットの中のスマホを握りしめた。
"恋むすび"の試練。
蒼依とのやり取り。
そして、俺があいつを「可愛い」と思った瞬間。
でも、もし……もし、それがゲームじゃなくなったら?
「二人とも、さっさと素直になった方がいいんじゃねぇのか」
藤崎の言葉が、まるで残響のように。
素直になった方がいい——俺は一体、何を求めて、この勝負をしているのだろうか。
校舎の階段を下りながら、春樹はスマホをポケットにしまう。
さっきの試練が終わったあとから、なんだか落ち着かない。
普段どおりのつもりだったのに、蒼依の照れた顔を思い出すたび、なんとなく笑ってしまう。
別に深い意味なんてない。……はずだった。
「お前さ、最近桜庭と仲良いよな」
昇降口に差し掛かったとき、不意に声をかけられる。
振り向くと、クラスメイトの藤崎友也がにやにやしながらこっちを見ていた。
軽音部に所属している藤崎とは、そこそこ仲が良い。
……が、こういう時にはあまり出会いたくなかったというか。
「昔から知ってるしな。ただの幼なじみだから」
「前は普通に仲良い友達って感じだったけど、最近のお前らって、雰囲気が違うっていうか」
「普通にイチャついてるよな」
「そ、そんなわけないだろ!」
思わず声が上ずる。
そんな俺の反応が面白かったのか、藤崎はさらに質問を続けてきた。
「いやいや、桜庭があんな風に誰かと仲良く絡んでるの、見たことねえし」
「いや、それはただ……」
「ただ?」
言葉に詰まる。
小さい頃は、もっと仲が良かった。
けれど、高校に入ってからは、会えば喧嘩のようなやり取りを繰り返している。
アプリを使ってからというもの、毎日のように、顔を合わせて、言い合って、からかって、照れて……。
(……いや、何考えてんだ、俺)
「お前さ、まさか気づいてないのか?」
「何がだよ」
「桜庭って、お前のこと好きだろ」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
でも、頭の中にさっきの試練の光景がフラッシュバックする。
「すごく可愛いところ」
「——っ!? な、何言ってんのよ!」
あの時、蒼依の真っ赤になった顔。
視線をそらした仕草。
照れながらも、どこか嬉しそうな様子。
(まさか、な……)
「お前が、桜庭のことを好きなのは知ってるけど」
藤崎が、何かを知っているかのような口調でつぶやいた。
「は?」
「授業中とかにさ、たまにぼーっと見てんじゃん」
「いや別に、そんなつもりじゃ」
「へぇ、"そんなつもり"じゃねぇんだ」
藤崎のにやにやした顔が、妙に腹立たしかった。
「こんなの普通、っていうか」
「普通じゃねえよ。少なくとも、俺はそんなことしないけど」
普通じゃない。
いや、そんなはずはない。
俺は、ただの幼なじみとして——
……ただの幼なじみとして、なんだ?
(……違う、のか?)
無意識に、ポケットの中のスマホを握りしめた。
"恋むすび"の試練。
蒼依とのやり取り。
そして、俺があいつを「可愛い」と思った瞬間。
でも、もし……もし、それがゲームじゃなくなったら?
「二人とも、さっさと素直になった方がいいんじゃねぇのか」
藤崎の言葉が、まるで残響のように。
素直になった方がいい——俺は一体、何を求めて、この勝負をしているのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる