『好きになったら負け』のはずなんだけど、もしかするとお互いにずっと好きだったのかもしれない

α作

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#第五話 #真剣 #昔から

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『——試練:相手を褒めてみよう! 二人で肯定感を爆上げしちゃおう!』
 スマホが震えると同時に、画面に次の試練が表示された。
 それを見た瞬間、蒼依と春樹は顔を見合わせる。

「相手を褒めろ……だって」
「これまでで、一番簡単かもしれないわね」
「でも、一つあげるって難しくないか?」
「そういうのは全部アプリが判断するんじゃないかしら」
 蒼依が不思議そうに画面を覗きこむ。
 軽く首を傾げながら、よく分からないといった様子だった。
「言われて嬉しかったとか、丸わかりなのか」
「だと思う。ヘルスモニタリングのデータ利用に同意する欄があったでしょ?」
「あったけど。そんなんで本当に分かるのかな」
「そうじゃなかったら、ここまで流行らないと思うけど」
 蒼依が早くやりましょうよと、催促するように言った。

「お互いに褒め合うってことだよな。そんなこと普通やらないよ」
「言葉にすると、なんか恥ずかしくなってくる……」
 蒼依の顔がほんのり赤く染まる。
 『良いところを三つ挙げる試練』と、やること自体はそう変わらない。
「もしかしたら、それが大事なのかもな。二人だとさ、余計なことを言葉にしちゃうし」
「……今も、十分余計なことを言ってるけど」
「ちゃんとやらなきゃダメなんだよな、きっと」
「ふ、ふーん、なんか真剣で良いかも。そういうところ、き、嫌いじゃないっていうか……」
 蒼依が放課後の空き教室のどこかに消えてしまうかのような声でつぶやいた。

 多分、これは「きちんと言葉にする」というのが大事なのだろう。
 でも、改めて言うのは——確かにちょっと恥ずかしいかもしれない。

「じゃあ、俺から行く」
「うん、私もちゃんと聞いてるから……」
 いつもよりしおらしい蒼依の様子とは対照的に、春樹は自然と言葉を紡いでいく。

「蒼依は最後まで頑張れるところが良い。前にも言ってるけど、負けず嫌いはやっぱり諦めないって意味もあると思う」
「頑張ることって、当たり前なのかもしれないけど、ただ続けるだけとは違うと思うんだ」
「そんなの自分じゃ分からないけど。でも、ありがと」
 思ったよりも素直な蒼依。
 その様子に、春樹は内心ですこし驚いていた。

「努力なんて認めてもらうものじゃなかったとしても、良いところを褒めるくらいはしても良いと思ったから。出来ない俺に言われても、嬉しくないかもだけど」
「ど、どうかしら。別に嬉し……」
 別に、特別なことを言ったつもりはない。
 でも、蒼依は何か言い返そうとして——結局、小さくうつむいた。
「な、何でもない。別に何でもないから……」
 耳が赤い。
 照れているのか、喜んでいるのか。
 春樹はその様子を見ながら、すこしだけ笑った。

「じゃあ、次は私の番」
 蒼依が顔を上げた。
 その目は、普段よりも優しく見えた。
「し、真剣なところ。今みたいにっていうか……」
「お、おう……」
 恥ずかしさを意識してなのか、どこか落ちつかない様子の蒼依に、春樹の鼓動も早くなっていく。
「いつもはダメで、適当で、だらしないけど、春樹は根っこの部分では真剣だから」
「そ、そういう春樹だから、昔から信頼してたっていうか……」
「たぶん、自分では気づいてないんだろうけど、私、そういうところ、ずっと嫌いじゃない」
 最後の一言だけが、妙に小さかった。
 それでも、春樹の耳にはっきりと届いていた。
 言葉の意味を噛みしめる前に、蒼依が手のひらで春樹の視界を遮る。
「も、もう変な空気にしないでよ!」
 蒼依がふんっと顔をそらす。

 その瞬間、スマホが震え、画面に試練達成の通知が表示された。
『——試練クリア! 絆が深まりましたね! 春樹の恋ごころ+20 蒼依の恋ごころ+20』
 画面には、器に液体が注がれるアニメーションが流れている。

「さ、さっさといつもみたいに、適当な春樹に戻りなさい」
「戻りなさいって、そういうつもりはないんだけど」
「知らない。早く戻って!」
「無茶言うなって、もう……」
 スマホをポケットにしまいながら、二人は、何とも言えない沈黙を共有していた。
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