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#第六話 #正解 #言い方
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とある日の昼休み。
屋上にやってきた春樹と蒼依は、四人がけの青いベンチに肩を並べて座っていた。
『——試練:これから相手についての簡単な選択肢が表示されます』
スマホが震えると同時に、画面に新たな試練が表示される。それを見た二人は、いつものように顔を見合わせた。
「今度は……選択の試練だってさ」
「選択って、どういうこと?」
「ほら、ここに出てるだろ。お互いに関する質問に答えて、正解を選ぶんだってさ」
春樹はスマホを蒼依に向けながら、それを見せる。画面上では『二人の理解度をチェック! これで絆が深まるかも?』というふきだしを指差しながら、巫女のキャラクターが内容を説明している。
「理解度ねえ。どうせ簡単な質問でしょ」
「いや、意外と難しいかもしれないぞ。ほら、最初の問題は——」
画面に表示されたのは、蒼依に関する質問と、三つの選択肢だった。
『蒼依が「集中してる時」に無意識にやることは?』
A. 髪を指でくるくるする
B. 口数が減る
C. 眉間にしわが寄る
「何なのよ、これ」
「事前にアンケートみたいなのがあっただろ? そこから蒼依みたいな性格の人がやりがちなことが出てるらしい」
「誰でもやるといえば、やることかもしれないが」
真に受けていない春樹とは対照的に、蒼依はすこし不満そうに画面を眺めていた。
「髪を指にまいて、くるくる。テス勉前とか、受験前に行ってた図書館で年中見てたから」
「そんなにやってないわよ。変な真似しないでくれるかしら」
春樹が自分の髪を指に巻きつけるような仕草をすると、蒼依はふんっと顔をそらしてしまった。
「……大体、そんなのばっかり見てるから、受験前に成績が伸びずに、どんより落ちこむ羽目になるのよ」
「正解で良いんだよな?」
「私に聞かないで。タップすれば分かるわよ、きっと」
「正解だな。どうやって分かったんだろう」
正解を祝うエフェクトの後に、次の質問へと切り替わる。
『春樹が「誤魔化してる時」に出やすい反応は?』
A. 口数が増える(言い訳が長い)
B. 逆に冷静ぶって淡々とする
C. 視線を外して頭をかく
「次、私の番だ。春樹が誤魔化してる時……これは簡単すぎるじゃない」
「俺、こんなことしてたかな。どれも当てはまらない気がするけど」
「何言ってんのよ。むしろ全部当てはまってるくらいじゃない」
なぜか浮かれ気味の蒼依に対して、春樹はいまいち納得できないといった様子で。
「正解はCの視線を外して頭をかく、に決まってるでしょ」
蒼依が自信満々に言い切る。その表情には、絶対に外さないという余裕が漂っていた。
「ほんとか? そんなのやった覚えがないんだけどな……」
「ふふっ、外すわけないし。ほら見て、春樹」
蒼依のスマホの画面には正解の表示。
「そんなことしてたかな。自分じゃ分からないんだけど」
「何でもお見通しなのよ。春樹が単純なだけかも」
「蒼依だって、人のこと言えないだろ」
「うるさい。別に良いでしょ、もう」
「俺たちは二人揃って単純ってことだな」
楽しそうな蒼依を見ていると、不意に胸が高鳴る。こうやって柔らかい顔をしていると、なんだかんだで可愛いんだよな——とか、春樹は口に出せるわけもなかった。
『蒼依が「春樹にだけ言いがち」な口癖は?』
A. 「知らない」
B. 「ばか」
C. 「うるさい」
「どれも聞いたことあるんだが……常に言ってないか、これ」
「うるさい。知らないわよ、ばか」
「ほら、やっぱり。一つになんて絞れないじゃん」
蒼依がはっとするような顔をした後に、口元を隠すようにして、黙りこんでしまった。
その後も、わざと喋らないようにしているのか、自身の揃えた靴の先をじっと眺めている。
「白々しいな、まったく。正解はB。蒼依が俺以外に『ばか』なんて言ってるところを見たことがないし」
「でも、アプリにまでツンツンって判定されてるなんて、やっぱり蒼依は分かりやすいんだな」
春樹が画面をタップすると、正解のエフェクトと共に、最後の質問が表示される——
『二人が「いつも通り」に戻る合図は?』
A. 蒼依が「もういいでしょ」と言う
B. 春樹が「ごめん」と先に謝る
C. お互いに相手の良いところをいう
「私、これには自信がある。正解は絶対B」
「そうか? 俺はAな気がするけど。蒼依にもういいでしょって言われると、それ以上怒れないっていうか」
「好きなんだよな、あの言い方。いつもの俺たちだなって感じがしてさ」
「——っ!? な、何をそんなに恥ずかしいこと言ってんのよ!」
驚いたように春樹を見た後、蒼依がしばらく動揺していた。
「恥ずかしいことじゃないだろ。普通だと思うけどな」
「わ、私も春樹の『ごめん』に救われてるから。すぐムキになっちゃうし、余計なこと言い過ぎたかもって、自分が嫌になることもあったんだけど」
「春樹が変わらずに『ごめん』って言ってくれるから、こうやって、た、楽しく二人で居られるっていうか……」
蒼依がぽつりぽつりとつぶやいていく。
「だから私にとっての正解はBなの。春樹になんて言われようとも、ここは絶対に負けないんだから——」
一度だけ春樹に微笑んだ後、蒼依がスマホの画面を軽やかにタップした。
正解のエフェクトの後に、二人のスマホが震えると、新たな通知が表示される——
『試練クリア! 絆が深まりました。春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』
画面には、いつものようにキラキラした液体が、器に注がれていくアニメーションが表示されている。
「なんか、ちょっと疲れたかも」
「意外と面白かったけどな。アプリでお見通しって感じだったしさ」
「ほんとにそう思ってるの?」
互いの肩が触れないくらいの距離から、蒼依は春樹の顔をすこしだけ見上げていた。
屋上にやってきた春樹と蒼依は、四人がけの青いベンチに肩を並べて座っていた。
『——試練:これから相手についての簡単な選択肢が表示されます』
スマホが震えると同時に、画面に新たな試練が表示される。それを見た二人は、いつものように顔を見合わせた。
「今度は……選択の試練だってさ」
「選択って、どういうこと?」
「ほら、ここに出てるだろ。お互いに関する質問に答えて、正解を選ぶんだってさ」
春樹はスマホを蒼依に向けながら、それを見せる。画面上では『二人の理解度をチェック! これで絆が深まるかも?』というふきだしを指差しながら、巫女のキャラクターが内容を説明している。
「理解度ねえ。どうせ簡単な質問でしょ」
「いや、意外と難しいかもしれないぞ。ほら、最初の問題は——」
画面に表示されたのは、蒼依に関する質問と、三つの選択肢だった。
『蒼依が「集中してる時」に無意識にやることは?』
A. 髪を指でくるくるする
B. 口数が減る
C. 眉間にしわが寄る
「何なのよ、これ」
「事前にアンケートみたいなのがあっただろ? そこから蒼依みたいな性格の人がやりがちなことが出てるらしい」
「誰でもやるといえば、やることかもしれないが」
真に受けていない春樹とは対照的に、蒼依はすこし不満そうに画面を眺めていた。
「髪を指にまいて、くるくる。テス勉前とか、受験前に行ってた図書館で年中見てたから」
「そんなにやってないわよ。変な真似しないでくれるかしら」
春樹が自分の髪を指に巻きつけるような仕草をすると、蒼依はふんっと顔をそらしてしまった。
「……大体、そんなのばっかり見てるから、受験前に成績が伸びずに、どんより落ちこむ羽目になるのよ」
「正解で良いんだよな?」
「私に聞かないで。タップすれば分かるわよ、きっと」
「正解だな。どうやって分かったんだろう」
正解を祝うエフェクトの後に、次の質問へと切り替わる。
『春樹が「誤魔化してる時」に出やすい反応は?』
A. 口数が増える(言い訳が長い)
B. 逆に冷静ぶって淡々とする
C. 視線を外して頭をかく
「次、私の番だ。春樹が誤魔化してる時……これは簡単すぎるじゃない」
「俺、こんなことしてたかな。どれも当てはまらない気がするけど」
「何言ってんのよ。むしろ全部当てはまってるくらいじゃない」
なぜか浮かれ気味の蒼依に対して、春樹はいまいち納得できないといった様子で。
「正解はCの視線を外して頭をかく、に決まってるでしょ」
蒼依が自信満々に言い切る。その表情には、絶対に外さないという余裕が漂っていた。
「ほんとか? そんなのやった覚えがないんだけどな……」
「ふふっ、外すわけないし。ほら見て、春樹」
蒼依のスマホの画面には正解の表示。
「そんなことしてたかな。自分じゃ分からないんだけど」
「何でもお見通しなのよ。春樹が単純なだけかも」
「蒼依だって、人のこと言えないだろ」
「うるさい。別に良いでしょ、もう」
「俺たちは二人揃って単純ってことだな」
楽しそうな蒼依を見ていると、不意に胸が高鳴る。こうやって柔らかい顔をしていると、なんだかんだで可愛いんだよな——とか、春樹は口に出せるわけもなかった。
『蒼依が「春樹にだけ言いがち」な口癖は?』
A. 「知らない」
B. 「ばか」
C. 「うるさい」
「どれも聞いたことあるんだが……常に言ってないか、これ」
「うるさい。知らないわよ、ばか」
「ほら、やっぱり。一つになんて絞れないじゃん」
蒼依がはっとするような顔をした後に、口元を隠すようにして、黙りこんでしまった。
その後も、わざと喋らないようにしているのか、自身の揃えた靴の先をじっと眺めている。
「白々しいな、まったく。正解はB。蒼依が俺以外に『ばか』なんて言ってるところを見たことがないし」
「でも、アプリにまでツンツンって判定されてるなんて、やっぱり蒼依は分かりやすいんだな」
春樹が画面をタップすると、正解のエフェクトと共に、最後の質問が表示される——
『二人が「いつも通り」に戻る合図は?』
A. 蒼依が「もういいでしょ」と言う
B. 春樹が「ごめん」と先に謝る
C. お互いに相手の良いところをいう
「私、これには自信がある。正解は絶対B」
「そうか? 俺はAな気がするけど。蒼依にもういいでしょって言われると、それ以上怒れないっていうか」
「好きなんだよな、あの言い方。いつもの俺たちだなって感じがしてさ」
「——っ!? な、何をそんなに恥ずかしいこと言ってんのよ!」
驚いたように春樹を見た後、蒼依がしばらく動揺していた。
「恥ずかしいことじゃないだろ。普通だと思うけどな」
「わ、私も春樹の『ごめん』に救われてるから。すぐムキになっちゃうし、余計なこと言い過ぎたかもって、自分が嫌になることもあったんだけど」
「春樹が変わらずに『ごめん』って言ってくれるから、こうやって、た、楽しく二人で居られるっていうか……」
蒼依がぽつりぽつりとつぶやいていく。
「だから私にとっての正解はBなの。春樹になんて言われようとも、ここは絶対に負けないんだから——」
一度だけ春樹に微笑んだ後、蒼依がスマホの画面を軽やかにタップした。
正解のエフェクトの後に、二人のスマホが震えると、新たな通知が表示される——
『試練クリア! 絆が深まりました。春樹の恋ごころ+20、蒼依の恋ごころ+20』
画面には、いつものようにキラキラした液体が、器に注がれていくアニメーションが表示されている。
「なんか、ちょっと疲れたかも」
「意外と面白かったけどな。アプリでお見通しって感じだったしさ」
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