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#過去の物語編 #クリスマス #ファミレス
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エスカレーターを上がっていくと、店の前には四、五人が待っていた。待つのが嫌だと言っていた春樹も、これなら多分、嫌がらない。
蒼依は順番待ちの名簿に、『さくらば』とひらがなで書きこんでから、待機席に座る。
しばらく待つと、やれやれといった様子で店に向かってくる春樹の姿が現れた。
「……遅い。案内されちゃったらどうするのよ」
「普通だろ。怒って早足になったのはどっちだよ、もう」
「別に怒ってない。それより春樹、あんまり待ってる人いなかったよ。私の前に五人くらい」
「五人も待ってるのかよ。どっかで時間潰す?」
春樹が面倒くさそうな顔でつぶやいた。
別にそれくらいいいじゃんと思いながら、蒼依は膝の上の鞄をぎゅっと抱きしめる。
「俺も座りたい。ごめん、詰めてくれ」
春樹が床にリュックを置くと、それを自分の脚の間へと引き寄せる。すこし肩が当たってちょっと痛かったが、蒼依は黙っていた。
「賑わってるな。席空かなそう」
「もう、さっきからそればっかり。会計に二組並んでるから、そんなに時間かからないって」
「分かってるけどさ、気になるんだよね」
「何が?」
「あの人すぐ食べ終わりそうとか、ドリンクバーで粘ってるとか。こういうのってはっきりとした時間が分からないじゃん」
春樹が笑いながら、話を続けていく。
「店内に美味しそうな匂いがしてるし、賑やかな様子を見てると、だんだんお腹空いてくるんだよね」
「それはちょっと分かるかも。春樹も楽しみってことでしょ?」
「だな。早く席空いてほしいって思ってる」
当たり前のことを春樹が真剣につぶやいた。
ちょっとズレたところがムカつくこともあるけど、こういうところは面白いなと思いつつ、蒼依は自分の揃った靴の先を見ていた。
◇
「お待たせいたしました。二名様でお待ちの『さくらば』様」
若い女性の店員が、高めの声で呼びかける。
蒼依は手を挙げながら、私ですと告げると、急いで立ち上がって、店員の元に向かう。
春樹もゆっくりと立ち上がってから、蒼依の隣に並ぶと、店員が二人を確認して、慣れた様子で席へとスムーズに案内していく。
「こちら窓際のお席になります。ごゆっくりどうぞ」
案内されたのは、ロータリーが一望できる席。
蒼依はイルミネーションが綺麗に見えて、良い席に座れたなと、内心で喜んでいたが、春樹は特に興味もなさげに座ると、卓上でメニューを開く。
「何食おう。ステーキは高いし、ハンバーグとかにしようかな」
蒼依は巻いていたマフラーとコートを丁寧に畳むと、ソファ席へと静かに置く。
コートを脱ぐとちょっと寒かったが、食べてるうちに暖かくなるだろうと思って、メニューに夢中な春樹の向かいへと、ゆっくり座った。
◇
「これ美味しそう。クリスマスシーズン限定の三種のベリーとブッシュ・ド・ノエル」
「トマトクリームパスタも美味しそうだけど、このグラタンみたいなパスタも美味しそう」
「ここに説明書いてある。ミートグラタン風のパスタで、釜焼きパスタだって!」
蒼依はメニューを何度も見比べていた。
春樹はすでに決まったらしく、ロータリーの景色をぼーっと眺めている。
「春樹、どれにする?」
「俺に聞くなよ。蒼依が食べるもんだろ」
「えーっ、どうしようかな。せっかくお母さんが何でも食べてきなさいって言ってたし……」
「全部頼めば。蒼依って割と大食いだから、食べられるんじゃない」
「はあ? 別にそんな大食いじゃないし」
春樹の適当な言葉に、思わずムッとしてしまう。
しかし、何を頼むかが楽しみだったので、そこまで気にならなかった。春樹がいつもこんな感じなのは、蒼依もよく知っている。
「春樹はもう決まってるんだよね」
「うん。腹減りすぎて死にそう」
「もうちょっと待ってて」
「早くしてくれよ。先頼んどいてもいいか?」
春樹が注文用の卓上タブレットを手に取る。
自分の注文を先に入れておくようだが、蒼依は相変わらず自分の注文に迷っていた。
「……別に良いけど、せっかくなら一緒に食べたいかな」
「はいはい、分かったよ」
春樹が肘をつきながら、退屈そうにロータリーの景色を見ている。さすがにちょっと申し訳なくなった蒼依は、ごめんね、春樹と小さくつぶやいた。
「見れば見るほど迷っちゃうんだけど」
蒼依は香ばしく焼けたチーズも食べたいし、トマトクリームパスタのコクと酸味も良いなと思いつつ、春樹とピザをシェアするのも楽しそうだなと延々と迷っている。
「どうしよう。全部食べるわけにもいかないし……」
デザートは決まっていたが、追加でクリスマス限定メニューにある、苺ピューレの入ったドリンクも頼もうかなとも思っていて、蒼依の心はなかなか決まらなかった。
「……決めた。この釜焼き風パスタにする」
「春樹もポテト食べる? クーポンで安くなるから」
「良いね。もう俺の注文入ってるから」
春樹が注文用のタブレットを手渡す。
それを受け取った蒼依は、釜焼き風パスタとポテトフライ、デザート、ドリンクを注文に入れていく。
「……頼みすぎでは? さすがに太っちゃうぞ」
「うるさい。別に今日くらいはいいでしょ」
「また部活が始まったら、どうせ運動するんだし」
そうは言いつつも、テスト後に終業式で、冬休みの部活が顧問の都合でほとんどないことを考えると、蒼依は若干心配になっていた。
蒼依は順番待ちの名簿に、『さくらば』とひらがなで書きこんでから、待機席に座る。
しばらく待つと、やれやれといった様子で店に向かってくる春樹の姿が現れた。
「……遅い。案内されちゃったらどうするのよ」
「普通だろ。怒って早足になったのはどっちだよ、もう」
「別に怒ってない。それより春樹、あんまり待ってる人いなかったよ。私の前に五人くらい」
「五人も待ってるのかよ。どっかで時間潰す?」
春樹が面倒くさそうな顔でつぶやいた。
別にそれくらいいいじゃんと思いながら、蒼依は膝の上の鞄をぎゅっと抱きしめる。
「俺も座りたい。ごめん、詰めてくれ」
春樹が床にリュックを置くと、それを自分の脚の間へと引き寄せる。すこし肩が当たってちょっと痛かったが、蒼依は黙っていた。
「賑わってるな。席空かなそう」
「もう、さっきからそればっかり。会計に二組並んでるから、そんなに時間かからないって」
「分かってるけどさ、気になるんだよね」
「何が?」
「あの人すぐ食べ終わりそうとか、ドリンクバーで粘ってるとか。こういうのってはっきりとした時間が分からないじゃん」
春樹が笑いながら、話を続けていく。
「店内に美味しそうな匂いがしてるし、賑やかな様子を見てると、だんだんお腹空いてくるんだよね」
「それはちょっと分かるかも。春樹も楽しみってことでしょ?」
「だな。早く席空いてほしいって思ってる」
当たり前のことを春樹が真剣につぶやいた。
ちょっとズレたところがムカつくこともあるけど、こういうところは面白いなと思いつつ、蒼依は自分の揃った靴の先を見ていた。
◇
「お待たせいたしました。二名様でお待ちの『さくらば』様」
若い女性の店員が、高めの声で呼びかける。
蒼依は手を挙げながら、私ですと告げると、急いで立ち上がって、店員の元に向かう。
春樹もゆっくりと立ち上がってから、蒼依の隣に並ぶと、店員が二人を確認して、慣れた様子で席へとスムーズに案内していく。
「こちら窓際のお席になります。ごゆっくりどうぞ」
案内されたのは、ロータリーが一望できる席。
蒼依はイルミネーションが綺麗に見えて、良い席に座れたなと、内心で喜んでいたが、春樹は特に興味もなさげに座ると、卓上でメニューを開く。
「何食おう。ステーキは高いし、ハンバーグとかにしようかな」
蒼依は巻いていたマフラーとコートを丁寧に畳むと、ソファ席へと静かに置く。
コートを脱ぐとちょっと寒かったが、食べてるうちに暖かくなるだろうと思って、メニューに夢中な春樹の向かいへと、ゆっくり座った。
◇
「これ美味しそう。クリスマスシーズン限定の三種のベリーとブッシュ・ド・ノエル」
「トマトクリームパスタも美味しそうだけど、このグラタンみたいなパスタも美味しそう」
「ここに説明書いてある。ミートグラタン風のパスタで、釜焼きパスタだって!」
蒼依はメニューを何度も見比べていた。
春樹はすでに決まったらしく、ロータリーの景色をぼーっと眺めている。
「春樹、どれにする?」
「俺に聞くなよ。蒼依が食べるもんだろ」
「えーっ、どうしようかな。せっかくお母さんが何でも食べてきなさいって言ってたし……」
「全部頼めば。蒼依って割と大食いだから、食べられるんじゃない」
「はあ? 別にそんな大食いじゃないし」
春樹の適当な言葉に、思わずムッとしてしまう。
しかし、何を頼むかが楽しみだったので、そこまで気にならなかった。春樹がいつもこんな感じなのは、蒼依もよく知っている。
「春樹はもう決まってるんだよね」
「うん。腹減りすぎて死にそう」
「もうちょっと待ってて」
「早くしてくれよ。先頼んどいてもいいか?」
春樹が注文用の卓上タブレットを手に取る。
自分の注文を先に入れておくようだが、蒼依は相変わらず自分の注文に迷っていた。
「……別に良いけど、せっかくなら一緒に食べたいかな」
「はいはい、分かったよ」
春樹が肘をつきながら、退屈そうにロータリーの景色を見ている。さすがにちょっと申し訳なくなった蒼依は、ごめんね、春樹と小さくつぶやいた。
「見れば見るほど迷っちゃうんだけど」
蒼依は香ばしく焼けたチーズも食べたいし、トマトクリームパスタのコクと酸味も良いなと思いつつ、春樹とピザをシェアするのも楽しそうだなと延々と迷っている。
「どうしよう。全部食べるわけにもいかないし……」
デザートは決まっていたが、追加でクリスマス限定メニューにある、苺ピューレの入ったドリンクも頼もうかなとも思っていて、蒼依の心はなかなか決まらなかった。
「……決めた。この釜焼き風パスタにする」
「春樹もポテト食べる? クーポンで安くなるから」
「良いね。もう俺の注文入ってるから」
春樹が注文用のタブレットを手渡す。
それを受け取った蒼依は、釜焼き風パスタとポテトフライ、デザート、ドリンクを注文に入れていく。
「……頼みすぎでは? さすがに太っちゃうぞ」
「うるさい。別に今日くらいはいいでしょ」
「また部活が始まったら、どうせ運動するんだし」
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