『好きになったら負け』のはずなんだけど、もしかするとお互いにずっと好きだったのかもしれない

α作

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#過去の物語編 #クリスマス #勉強会2

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「春樹、一緒に帰ろ。今日もするでしょ、勉強会」
「そろそろ休みがほしいんだけど」
「ダメだよ。春樹はすぐにゲームやっちゃうから」
 学校終わり。部活に向かう生徒たちの喧騒の後。
 放課後の教室に残っているのは数人の生徒。春樹と蒼依は静かになった教室で、勉強会の話をしていた。

「今日はどうしようか。図書館にする?」
「英語と社会をやろうと思ってるんだけど」

 楽しそうに語尾を上げながら、蒼依が鞄の中からメモを取り出した。こないだの勉強会で張り切って書いていたのを、春樹は知っているのだが、このメモには各教科の単元と進捗の目標が書いてある。

「図書館で良いか。静かだし」
「寝ないでよ?」
 念を押すように、蒼依が春樹に視線を向けた。

「寝ないって。蒼依がうるさく言うから、最近はゲームもやれてないしな」
「うるさくは言ってない。授業中寝るのはダメだけど、家でゲームやるのは春樹の自由だよ」
 蒼依が持っていたメモを、制服の胸ポケットにしまうと、何かを思案した後に、春樹の肩を軽く叩いた。

「今日さ、帰りにファミレス行こうよ。うちのお母さんと、春樹のお母さん、朝から一緒に出かけてるでしょ?」
「遅くなるから、二人で一緒にご飯でも食べてきたらって、言ってたの」
 ワークやプリントをまとめながら、英語と社会の教科書を春樹が探していると、蒼依が机の前に回りこんできて、さっとしゃがみこんだ。

「勉強頑張ってるからご褒美だって。春樹も行くよね」
「だな。行かないと晩飯ないし」
「やった、決まり。何食べようかなー」
 もし蒼依からの誘いがなければ、中華チェーンか、最寄駅近くにある、お気に入りの味噌ラーメン屋にでも行こうかと思ったのだが、上機嫌でファミレスのメニューをつぶやく姿を見ていると、さすがに春樹もこれを口にすることは出来なかった。

 図書館本館の自習スペースに、閉館の案内が聞こえてきた。柱の時計は十九時の十分前を指している。静かに勉強していた人たちが、身の回りの整理を始めると、徐々に椅子だけになっていき、自動ドアの開閉する音が連なっていった。

「結構進んだね。今日は特にしっかりやれたかも」
「そうだな。英語のワークもほとんど終わったし」
 春樹は教科書プリントとワークをまとめると、さっさと鞄に押しこんだ。先に準備を終えた蒼依が椅子を静かに机に戻すと、春樹に視線で合図する。

「張り切ってるよな、ほんと。どんだけ楽しみにしてるんだよ」
「遅いよ、春樹。私、先に外出てるから」
「寒いだろ。そんなに時間かからないから、ちょっと待っててくれ」
「良いの。なんか焦ったいし、私の方が春樹より片付け早かったし」
「……こんなのに勝ち負けなんてないだろ、まったく」
 椅子を机に戻した頃には、すでに蒼依は自動ドアの向こうにいた。春樹も急いで、その背中を追いかけていく。

 自動ドアが開いた瞬間、冷たい空気が春樹の顔に当たる。十二月に入って一週間経つと、暖かさの混じっていた晩秋から、すっかり冬へと変わっている。
「さむ……夜は冷える」
「もう冬だもん。テストまであと一週間だし、それが終わったらクリスマスだよ」
 本館前の駐輪場近くに立っていた蒼依が、嬉しそうに歩いてくる。春樹は坂道通りに植えられているけやきの並木たちを見ながら、冬になったんだなと、白い息を吐きながら思っていた。

「駅前で良いよね。ここからだと、坂降りればすぐだし」
「混んでないか。あんまり並びたくないんだけど」
「喋ってればすぐだよ。それか名前書いといて、席が空いたら呼んでもらおうよ」
 蒼依も白い息を吐きながら、春樹の隣に並んだ。

 駅前はすっかりクリスマスの雰囲気だった。イルミネーションでライトアップされたロータリーに、街灯にはクリスマス仕様のフラッグが飾られている。
 クリスマスに合わせたBGMが静かに流れていて、人気のパティスリーや洋菓子店には、クリスマスケーキの告知が出ていた。

「お腹空いたなー。寒いから、あったかい飲み物も飲みたくなるし」
「何食べよう。クリスマス限定メニューとかありそう」
 マフラーを深く巻いた蒼依が、手をこすり合わせるようにしながらつぶやいた。

 ああ、と軽く返事をしてから、春樹が周りを見ていると、寒いね、と戯れるカップルの姿が目に入る。
 自分たちよりも、もちろんお互いの距離が近く、最終的には、身を寄せ合って、腕を組みながら横を歩いていった。

「春樹、見た?」
「今の人たちだろ。めっちゃイチャイチャしてた」
「違うよ、バカ。クリスマス限定メニューの看板」
 蒼依が指さしたのは、ファミレスの立て看板。赤と緑のクリスマスカラーを背景にしながら、リースやツリー、ベルやサンタのイラストが散りばめられている。

「ローストチキンとか、オードブルのセットだって。あんなに食べきれないよね」
「よく見ろ、蒼依。ホームパーティ向けって書いてあるぞ」
「食い意地張りすぎて、そんなことも見落とすなんて」
「う、うるさい! ちょっと見間違っただけ!」
 春樹が笑いながら言うと、蒼依がムキになって続ける。

「カップル見てた春樹の方が変だし!」
「見てたわけじゃなくて、向こうから歩いてきたから……」
「私、先行ってるから! そこでずっとカップルでも見てれば良いし!」
 ふんっと白い息を吐きながら、蒼依がさっさとエスカレーターに乗っていってしまった。
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