13 / 30
13、月に照らされて
しおりを挟む
「雅也さん? 」
「今さら鬼なんて時代錯誤も甚だしい。」
冷たく言い捨てて雅也は、二人に向き直った。
「この話は、帰ってからにしましょうね」
「そ、そうですね」
「はぁ~疲れた。ここの浄化は誰か他の人に任せたいな」
「もちろんです。香坂、」
「手配済みです。そろそろ浄化担当が来る頃だと思います」
「さすがですね~! ありがとうございます」
妖し退治が終わってもそれで終わりではない。
瘴気が残っていれば、それを餌にまた怪異が集まってしまう。
骸を片付け、場を清める「浄化」も大切な仕事だ。全て請け負うときもあるが今回は、場が広いので香坂が先に浄化専門の術者を手配していたらしい。
その手際の良さに雅也も安心したように頷く。
「まあ、雅也さんがやる仕事でもないですよ。」
次期当主である雅也自らが疲弊してまでやる仕事ではなかった。
「早く帰りましょう! 」
「ですね」
ようやく肩の荷が下りたのか軽く腕を伸ばしていつもの明るい笑顔を浮かべる。
鬼が陰の気なら雅也は陽の気が強い。
見る者に惜しみなく当然というように光を与えてくれる。
伊坂は無邪気な笑顔を見る度、まだ年若いこの子を支えていこうと思うのだった 。
ふと、香坂と目が合う。
顔を見合わせた二人も雅也につられて微笑んだ。
「帰りは寝てても良いですよ」
「わ~、ありがとうございます! 伊坂さんも疲れてるのにすみません」
「いいんですよ、それも俺の仕事ですから」
「安全運転で頼むよ、兄貴」
「もちろん。」
任せろと頷く伊坂の表情は、柔らかい。
ようやく玄関先まで戻ると先に外に出ていた上尾一行が出迎えてくれる。
望、湊は無傷とはいかないものの大きな怪我はなさそうで雅也を安心させた。
京子は、預かっていたブレザーを渡すと折り目正しい礼で見送ってくれた。
派遣組は集まっていた低級の妖しを祓い庭掃除にいそしんでいる。
鈴木に軽く挨拶して門前まで戻ってきたところで香坂が姿勢を正す。
「じゃあ俺は浄化班の到着を待ってから帰りますからここで。お疲れ様でした雅也さん」
「香坂さんもお疲れ様です。後は、お願いしますね」
「頼んだぞ香坂」
「はいはい。」
申し訳なさそうに微笑む雅也に香坂は、笑顔で手を振った。
なぜか伊坂が微妙な顔をしたが雅也の手前、何も言わずに背を向ける。
二人を見送って香坂は「さて、もう一仕事するか」と大きく伸びをした。
香坂と分かれた後、車を回してきた伊坂は雅也を乗せて速やかに帰路についた。
「ここの浄化と後処理は香坂に任せれば問題ないでしょう」
「そうですね」
「依頼主にはあとで結果をお伝えしないと」
「ですねぇ」
「あとは警察と協会ですが」
「……はい……はい、」
「雅也さん? 」と声をかけようとして伊坂は口をつぐむ。
信号待ちでバックミラー越しに後部座席の雅也を見やった伊坂は、小さく笑った。
「疲れた」と言っていたのは本心だったようだ。
雅也は、すでにコクコクと船を漕いでいる。
(無理もない。昼間は学校で今日は休む暇も無かったんだからな。お疲れ様です雅也さん。……なるべく安全運転で帰ろう)
とっくに街は夜の装いだ。
閑静な住宅街を出て交通量の少なくなった大通り。伊坂は、少しゆっくり帰っても良いだろうと思った。
できれば雅也を起こしたくない。
(ほんの少し。戦士の休息、かな。それくらい許されてもいいでしょう)
あどけない寝顔に伊坂は「おやすみなさい、雅也くん」と小さく声をかける。
信号は青、静かにアクセルを踏み込む。
路面を滑るように再び走り出した車。
大きな月がその行く先を優しく照らし出していた。
End.
「今さら鬼なんて時代錯誤も甚だしい。」
冷たく言い捨てて雅也は、二人に向き直った。
「この話は、帰ってからにしましょうね」
「そ、そうですね」
「はぁ~疲れた。ここの浄化は誰か他の人に任せたいな」
「もちろんです。香坂、」
「手配済みです。そろそろ浄化担当が来る頃だと思います」
「さすがですね~! ありがとうございます」
妖し退治が終わってもそれで終わりではない。
瘴気が残っていれば、それを餌にまた怪異が集まってしまう。
骸を片付け、場を清める「浄化」も大切な仕事だ。全て請け負うときもあるが今回は、場が広いので香坂が先に浄化専門の術者を手配していたらしい。
その手際の良さに雅也も安心したように頷く。
「まあ、雅也さんがやる仕事でもないですよ。」
次期当主である雅也自らが疲弊してまでやる仕事ではなかった。
「早く帰りましょう! 」
「ですね」
ようやく肩の荷が下りたのか軽く腕を伸ばしていつもの明るい笑顔を浮かべる。
鬼が陰の気なら雅也は陽の気が強い。
見る者に惜しみなく当然というように光を与えてくれる。
伊坂は無邪気な笑顔を見る度、まだ年若いこの子を支えていこうと思うのだった 。
ふと、香坂と目が合う。
顔を見合わせた二人も雅也につられて微笑んだ。
「帰りは寝てても良いですよ」
「わ~、ありがとうございます! 伊坂さんも疲れてるのにすみません」
「いいんですよ、それも俺の仕事ですから」
「安全運転で頼むよ、兄貴」
「もちろん。」
任せろと頷く伊坂の表情は、柔らかい。
ようやく玄関先まで戻ると先に外に出ていた上尾一行が出迎えてくれる。
望、湊は無傷とはいかないものの大きな怪我はなさそうで雅也を安心させた。
京子は、預かっていたブレザーを渡すと折り目正しい礼で見送ってくれた。
派遣組は集まっていた低級の妖しを祓い庭掃除にいそしんでいる。
鈴木に軽く挨拶して門前まで戻ってきたところで香坂が姿勢を正す。
「じゃあ俺は浄化班の到着を待ってから帰りますからここで。お疲れ様でした雅也さん」
「香坂さんもお疲れ様です。後は、お願いしますね」
「頼んだぞ香坂」
「はいはい。」
申し訳なさそうに微笑む雅也に香坂は、笑顔で手を振った。
なぜか伊坂が微妙な顔をしたが雅也の手前、何も言わずに背を向ける。
二人を見送って香坂は「さて、もう一仕事するか」と大きく伸びをした。
香坂と分かれた後、車を回してきた伊坂は雅也を乗せて速やかに帰路についた。
「ここの浄化と後処理は香坂に任せれば問題ないでしょう」
「そうですね」
「依頼主にはあとで結果をお伝えしないと」
「ですねぇ」
「あとは警察と協会ですが」
「……はい……はい、」
「雅也さん? 」と声をかけようとして伊坂は口をつぐむ。
信号待ちでバックミラー越しに後部座席の雅也を見やった伊坂は、小さく笑った。
「疲れた」と言っていたのは本心だったようだ。
雅也は、すでにコクコクと船を漕いでいる。
(無理もない。昼間は学校で今日は休む暇も無かったんだからな。お疲れ様です雅也さん。……なるべく安全運転で帰ろう)
とっくに街は夜の装いだ。
閑静な住宅街を出て交通量の少なくなった大通り。伊坂は、少しゆっくり帰っても良いだろうと思った。
できれば雅也を起こしたくない。
(ほんの少し。戦士の休息、かな。それくらい許されてもいいでしょう)
あどけない寝顔に伊坂は「おやすみなさい、雅也くん」と小さく声をかける。
信号は青、静かにアクセルを踏み込む。
路面を滑るように再び走り出した車。
大きな月がその行く先を優しく照らし出していた。
End.
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる