君の幸せ、僕の不幸

good-bye my world．

明かりを灯していない真っ暗なバスルーム。バスタブに張られたのは湯ではない。
トマトスープのような赤い液体。
いったいどれくらいそうしていたのだろう。
バスタブの中で膝を抱えたキィの体は冷めきっていた。


この世界では幸せになれない。
だから別の世界に行くんだ。


戦いのない世界、そこで恋人と幸せに暮らしているはずの自分を"殺す"
そして、入れ替わる。

体は冷えきって凍えそうだったが、もうすぐ願いが叶うと思うとキィは幸福だった。

手のひらに赤い液体を救い上げ微笑む。




その頃、 キィの言動に不安を覚えていた恋人はキィを探していた。
仲間から部屋に戻ったと聞いて後を追ってきた。

部屋には誰もいない。
恐る恐る真っ暗なバスルームを覗く。
キィはただ膝を抱えていた。

驚いて駆け寄る。
バスタブからキィを引き上げようとして抱きかかえる。  
冷えた体にゾッとする。

キィは、笑みを浮かべている。
「もう眠いから、寝るね」そんなことを言いたそう。

持ち上げた腕が崩れ、肌を滑り落ちる。 
落下。粒子レベルで分解されていく体。
驚く間もなくキィの全てが泡のように消えていく。
抱きしめた体がなくなってしまった。

もし別の世界だったらと夢想していたキィ。
自分の能力を使ってとうとう枠を越えてしまった。

「バカ、戻ってこいよ…」

ただ真っ赤な液体を残して、
彼はこの世界のどこにもいなくなってしまった。