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舞踏会の夜 前編
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満月が東の空に昇った。
初めての外国訪問でユージェニーは少なからず興奮していた。
横には盛装した夫であるサードがいた。
強い意思と美しさを兼ね備えた彼の存在を隣で感じるだけで幸福な気持ちになる。
いつになく素直にもなれた。
「今夜のあなた。とっても素敵よ」
「例えば?」
「そのジレと瞳の色が同じで映えてるわ」
「それから?」
「そう。それから金の髪がアポローン神のようだわ」
「それと?」
ユージェニーはキュと夫の宝石を縫いこんだ靴を踏んだ。いつものブーツでないだけに「痛っ」とサードが声を挙げる。
「何よ!わたくしばかり殿下を褒めてっ。殿下は何もないのですか?普通、男性が女性を褒めるものよ!舞踏会の夜なのに!」
「今すぐ自分の宮殿に帰り寝室のドアに鍵をかけ一晩中ベッドでそなたと過ごしたい。これでどうだ?」
真っ赤になった妃殿下は言葉に詰まった。その耳元に囁く「だが。今夜のパーティーで皆にそなたを自慢できるから、楽しみはとっておこう。さあ。いくぞ。次だ」
ファンファーレが鳴り響く。
ティターン帝国の皇子と妃との名が読み上げられる。
大階段を夫のサードにエスコートされたユージェニーは胸の緊張を隠してほほ笑んだ。
ゆっくり降りてくる二人に送る視線が段々と多くなり、軽いどよめきがおきる。
数百人はいるだろうハーバール公国の大舞踏会には近隣諸国からも大勢の王族・貴族が集っていた。
その他にも城下から招待状を手に入れたブルジョワも大勢いた。
色とりどりのルダンゴートとドレスは華やかだったが今夜のユージェニー程に美しい装いをした者はいない。
すべて手編みのレース生地で造られたアイボリー色のドレスは雲を纏った女神を思わせた。
それと共布のネックリボンが首に巻かれ高く結った髪の後ろで長くひらひらと靡いている。
あんなリボンが自分も欲しい!!
ユージェニーが横を通り過ぎると若い娘たちはなんとしてでも手に入れようと心密かに誓った。
そのユージェニーをエスコートするサードは自分『お伽噺の王子様よ』と焦がれた眼で見つめる娘たちなど全く眼中になく
ユージェニーに見惚れた男達の顔つきを眺めて内心穏やかでなかった。
背筋を走り抜けたーーーーヤな予感ーーーーー
「まあ。まあ。今夜はエリスがずっと付いているから安心してくださいサード。ね?エリス。あなたも愉しんで」
「とんでもございません!妃殿下はいつも自ら危険な穴に飛び込んでばかり。全く安心できませんわ」
「まあ。まあ。僕もいますから。ははは」最近、サードの執務補助を担当している男爵家の次男モリスが明るい笑顔で請け合った。
あっという間にこの機会に近づきになりたいという人々にユージェニーは囲まれ、サードもこの夜会に乗じて始まる『外交』の輪に加わった。
ユージェニーはあまりにネックリボンの販売先を聞かれるので困った。
シャンパングラスを片手に思案した。
どこかのドレスメーカーを紹介できれば良いのだが、これを作っているのは、侍女のアンナだ。いつもドレスの端切れで作ってくれている。
手作りだけあって工夫がある。
長いリボンが後ろで絡まったりしないよう。小さなクジラの骨を入れて張りを持たせるところだ。
「お褒め頂いて嬉しいわ。こんど侍女に頼んでお送りしましょう。名刺を戴けるかしら?」お愛想で一人目にそう請け合ってしまったら
名刺がエリスのバッグにも入りきれなくなった。
「これでアンナは一生食べていけそうね」
「ですわね」
二人は友達同士の様に笑った。
「もう直にダンスが始まりそうですわね。オーケストラの準備ができそう。殿下を探して来ましょう」とエリスがきょろきょろするも
「無理よ。この人ごみですもの。ファーストダンスは夫婦で踊るものだけどーーー仕方ないわ。殿下がわたくしを探し出すのが礼儀というものよ。ふん」
エリスは小声で「姫様。あの大階段を少しあがったら遠くが見えますわ。殿下の居場所もわかりますわ。きちんと殿下と踊らなければそれだけで仲がよろしくないなどと噂になります。絶対探しましょう」
忠義者の侍女の意見に負けたユージェニーは仕方なくさっきエスコートされて降りて来た階段を少し登ってみた。
見渡すと豪華絢爛な会場に圧倒されそうになった。
あの第二夫人バレンティーヌと張り合った夜会が懐かしく思い出された。
「あ!いたわ。あんなところ。ほら」
「窓際でどうされたんでしょう?サード様らしくないですわ。もしかしてお具合でも悪いのかしら?」
「そうね。なんとなく顔色悪い?急ぎましょう」
「サード。ここにおりましたの」ユージェニーは散々探したんだからと声をかけた。
え?ええええ!!
ち、違った!
そっくりなんですけど!
着ている服が全然違うし。
ジレは瞳と同じ青だったけど。この目の前にいるサードのそっくりさんは瞳もジレも淡い水色だ。
髪の色も金より銀色といった方が近い。
「ご。ごめんあそばせ」扇で顔を隠して立地去ろうとした。
いっ!痛いっ!!
偽サードに手首を掴まれた。
「探したよ。ビネシス」
「人違いでございます。わたくし。ユージェニーと申します。夫を探していて。あの。手をお離しになってください」ユージェニーは内心焦った。
こんなところにサードが来合せたら、丸く収まる面倒も収まらなくなる。
エリスは落ち着いた様子で「どちらの殿下でございましょう?」とその男に問いかけた。見た目からして王侯貴族に間違いない。
「何?我を知らぬか。我はハーバーレ・ド・ビーンの王太子ウィルフィーだ」
ユージェニーもエリスもそれを聞いてくらくらして来た。
このパーティーの主催国。その国の王子様!
オーケストラは音合わせも終わり美しいハーモニーを奏で始めた。幾組も男女が手を取り合い踊り出す。
ユージェニーは他国の王子に手を取られ踊りの輪に滑り込んだ。
ううう。
サードほどではないけど。
まあまあダンスは上手いわね。
どうしよう。
なんで人違いに気づかないの??
もしかして冗談で?
一曲踊ったら。おどけてみせるのかもしれない。ああーーそういう事か!
美しいユージェニーとなんとか一曲踊りたいという若者を沢山さばいてきた経験からそう判断した。
では。楽しく踊りましょう。
足元近くまである二本の長いリボンが躍るユージェニーと一緒に舞う。まるで意思を持った生き物のように優雅だ。ターンすれば二拍三拍遅れてリボンもターンする様は圧巻だった。
若い令嬢たちは扇の陰で溜息をつく。
「踊っているあの方はどこの王子様かしら?」
「あら恋人同士でなくって?息もぴったり」
「ですわねぇ。素敵」
「あなたは永遠の若さの泉を飲んだ人だ。愛しい人」
ううう。どう答えればいいの??
生気の無い草食系男子バージョンのサードというカンジ。
いやいやそんな失礼な比較をしてーーー
兎に角。ユージェニーはひきつりそうになる頬で懸命に微笑みを造った。
彼女の微笑みに感動しない男はいないだろうと、サードが寝物語にそんな事をいっていたのを思い出す。
あ!サード!!
助けてと目で合図する。
しかし、不動にして動かない。棕櫚の木の下でじっとこっちを睨んでいる。
ああ。変に拗れまくって誤解してる。完全に怒ってるわ。
曲が途切れるとサードが人波を縫って近寄って来た。
「王太子様!わたくしの主人ですの。サード。こちらは主催のハーバーレ・ド・ビーンの王太子様です」と愛想よく紹介した。
「ほお。今夜はお招き頂きその上妻がご迷惑をおかけしました。では失礼。ファーストダンスに間に合わくて妻は怒っている様だ。さあ。いこうユージェニー」
ひきつった顔を無理にほころばせ「では」とサードの腕に自分の腕をからませ去ろうとしたその時、
「衛兵!!この男を捕らえろ!!妻を誘拐する賊だ!!」
「ウィルフィー様!おやめくださいませ!ご冗談もほどが過ぎれば外交問題ですわ。わたくしはユージェニーと申します。王子のおしゃるビネシス様ではございません」
あっという間に衛兵にサードとユージェニーは近衛兵に囲まれた。
サードの腕の中でユージェニーは王太子の瞳がおかしいと気づいた。焦点が定まっていないとい感じがする。
小さな声で「あの王子様はきっと心のご病気ですわ。ここは大人しく会場をでましょうサード。事情を知る者が説明してくれるはずです」
「そうか。でなけりゃ。戦争だ」
二人は宮殿の中の大きな廊下を通り別な広間に案内された。
重厚なタペストリーで覆われた壁に高い天井は金襴だ。
そこには泣き崩れる女たちがいた。
「大変失礼致しました。わたくしはあの子の大叔母でございます。殿下。妃殿下。どうか矛を収め下さい。あの通り王太子は病気です」
ユージェニーは「お聞かせ下さい。もしや何があったのですか?」
一番奥の背もたれの広い古めかしい椅子に鎮座していた老婆が喋り出した。
「おお。聞いて下さるか」
着ているドレスはすっかり流行おくれの黒だったがどこか人を圧する威厳があった。
「ああ。あなた様を間違えたのも無理はない。そっくりだ。ほら。そこに肖像画がまだ残っているでしょう?」
老婆の指輪だらけの細い指が示す壁を全員が見上げた。
あら。まあ。
マントルピースの上に巨大な肖像画があった。
優し気で儚い薄幸な印象の少女が描かれている。
「おまえに似てるな確かに。そっくりだ」
「ええ。そうですわねえ」
老婆は「あの娘は5年前に亡くなりました。それ以来孫はおかしくなってしまいました。どうかお願いです。今少しここに留まってはいただけないでしょうか?」
「それはどういう意味だ?このままユージェニーにこの宮殿であの王太子の側で暮らせという意味か?なら断る」
「待ってサード。貴方様は?上皇后様ですわね?もし言われた通りにしてみても、
わたくしが側にいたら悪戯に生前を思い出すだけで別れ際には更につらい思いをされるわ」
その問いかけに誰も押し黙って答えない。
侍女がテーブルにお茶の支度を整えた。
礼儀的に口をつけようとするユージェニーの手からサードはカップを取り上げた。
「話にならん!口をつぐんだのはこのままユージェニーを返さぬ計画であろう!
賓客を衛兵に捕らえさせた挙げ句にまともな謝罪もない。
更にあり得ない要求をしてくる。我々もそう暇ではない。
もう国へ帰るぞ。あと一週間もここにいられるものか!」
「夫がこう申したらもうダメですわ。ごめんなさい力になれなくてーーーあ。あら。酔ったのかしら?くらくらするーーーーー」
必死な顔のサードが何か叫んでいるようだが聞こえない。段々意識が遠のく。
ーーーーーいかなでーーサードーーーそう思ったのが最後だった。
初めての外国訪問でユージェニーは少なからず興奮していた。
横には盛装した夫であるサードがいた。
強い意思と美しさを兼ね備えた彼の存在を隣で感じるだけで幸福な気持ちになる。
いつになく素直にもなれた。
「今夜のあなた。とっても素敵よ」
「例えば?」
「そのジレと瞳の色が同じで映えてるわ」
「それから?」
「そう。それから金の髪がアポローン神のようだわ」
「それと?」
ユージェニーはキュと夫の宝石を縫いこんだ靴を踏んだ。いつものブーツでないだけに「痛っ」とサードが声を挙げる。
「何よ!わたくしばかり殿下を褒めてっ。殿下は何もないのですか?普通、男性が女性を褒めるものよ!舞踏会の夜なのに!」
「今すぐ自分の宮殿に帰り寝室のドアに鍵をかけ一晩中ベッドでそなたと過ごしたい。これでどうだ?」
真っ赤になった妃殿下は言葉に詰まった。その耳元に囁く「だが。今夜のパーティーで皆にそなたを自慢できるから、楽しみはとっておこう。さあ。いくぞ。次だ」
ファンファーレが鳴り響く。
ティターン帝国の皇子と妃との名が読み上げられる。
大階段を夫のサードにエスコートされたユージェニーは胸の緊張を隠してほほ笑んだ。
ゆっくり降りてくる二人に送る視線が段々と多くなり、軽いどよめきがおきる。
数百人はいるだろうハーバール公国の大舞踏会には近隣諸国からも大勢の王族・貴族が集っていた。
その他にも城下から招待状を手に入れたブルジョワも大勢いた。
色とりどりのルダンゴートとドレスは華やかだったが今夜のユージェニー程に美しい装いをした者はいない。
すべて手編みのレース生地で造られたアイボリー色のドレスは雲を纏った女神を思わせた。
それと共布のネックリボンが首に巻かれ高く結った髪の後ろで長くひらひらと靡いている。
あんなリボンが自分も欲しい!!
ユージェニーが横を通り過ぎると若い娘たちはなんとしてでも手に入れようと心密かに誓った。
そのユージェニーをエスコートするサードは自分『お伽噺の王子様よ』と焦がれた眼で見つめる娘たちなど全く眼中になく
ユージェニーに見惚れた男達の顔つきを眺めて内心穏やかでなかった。
背筋を走り抜けたーーーーヤな予感ーーーーー
「まあ。まあ。今夜はエリスがずっと付いているから安心してくださいサード。ね?エリス。あなたも愉しんで」
「とんでもございません!妃殿下はいつも自ら危険な穴に飛び込んでばかり。全く安心できませんわ」
「まあ。まあ。僕もいますから。ははは」最近、サードの執務補助を担当している男爵家の次男モリスが明るい笑顔で請け合った。
あっという間にこの機会に近づきになりたいという人々にユージェニーは囲まれ、サードもこの夜会に乗じて始まる『外交』の輪に加わった。
ユージェニーはあまりにネックリボンの販売先を聞かれるので困った。
シャンパングラスを片手に思案した。
どこかのドレスメーカーを紹介できれば良いのだが、これを作っているのは、侍女のアンナだ。いつもドレスの端切れで作ってくれている。
手作りだけあって工夫がある。
長いリボンが後ろで絡まったりしないよう。小さなクジラの骨を入れて張りを持たせるところだ。
「お褒め頂いて嬉しいわ。こんど侍女に頼んでお送りしましょう。名刺を戴けるかしら?」お愛想で一人目にそう請け合ってしまったら
名刺がエリスのバッグにも入りきれなくなった。
「これでアンナは一生食べていけそうね」
「ですわね」
二人は友達同士の様に笑った。
「もう直にダンスが始まりそうですわね。オーケストラの準備ができそう。殿下を探して来ましょう」とエリスがきょろきょろするも
「無理よ。この人ごみですもの。ファーストダンスは夫婦で踊るものだけどーーー仕方ないわ。殿下がわたくしを探し出すのが礼儀というものよ。ふん」
エリスは小声で「姫様。あの大階段を少しあがったら遠くが見えますわ。殿下の居場所もわかりますわ。きちんと殿下と踊らなければそれだけで仲がよろしくないなどと噂になります。絶対探しましょう」
忠義者の侍女の意見に負けたユージェニーは仕方なくさっきエスコートされて降りて来た階段を少し登ってみた。
見渡すと豪華絢爛な会場に圧倒されそうになった。
あの第二夫人バレンティーヌと張り合った夜会が懐かしく思い出された。
「あ!いたわ。あんなところ。ほら」
「窓際でどうされたんでしょう?サード様らしくないですわ。もしかしてお具合でも悪いのかしら?」
「そうね。なんとなく顔色悪い?急ぎましょう」
「サード。ここにおりましたの」ユージェニーは散々探したんだからと声をかけた。
え?ええええ!!
ち、違った!
そっくりなんですけど!
着ている服が全然違うし。
ジレは瞳と同じ青だったけど。この目の前にいるサードのそっくりさんは瞳もジレも淡い水色だ。
髪の色も金より銀色といった方が近い。
「ご。ごめんあそばせ」扇で顔を隠して立地去ろうとした。
いっ!痛いっ!!
偽サードに手首を掴まれた。
「探したよ。ビネシス」
「人違いでございます。わたくし。ユージェニーと申します。夫を探していて。あの。手をお離しになってください」ユージェニーは内心焦った。
こんなところにサードが来合せたら、丸く収まる面倒も収まらなくなる。
エリスは落ち着いた様子で「どちらの殿下でございましょう?」とその男に問いかけた。見た目からして王侯貴族に間違いない。
「何?我を知らぬか。我はハーバーレ・ド・ビーンの王太子ウィルフィーだ」
ユージェニーもエリスもそれを聞いてくらくらして来た。
このパーティーの主催国。その国の王子様!
オーケストラは音合わせも終わり美しいハーモニーを奏で始めた。幾組も男女が手を取り合い踊り出す。
ユージェニーは他国の王子に手を取られ踊りの輪に滑り込んだ。
ううう。
サードほどではないけど。
まあまあダンスは上手いわね。
どうしよう。
なんで人違いに気づかないの??
もしかして冗談で?
一曲踊ったら。おどけてみせるのかもしれない。ああーーそういう事か!
美しいユージェニーとなんとか一曲踊りたいという若者を沢山さばいてきた経験からそう判断した。
では。楽しく踊りましょう。
足元近くまである二本の長いリボンが躍るユージェニーと一緒に舞う。まるで意思を持った生き物のように優雅だ。ターンすれば二拍三拍遅れてリボンもターンする様は圧巻だった。
若い令嬢たちは扇の陰で溜息をつく。
「踊っているあの方はどこの王子様かしら?」
「あら恋人同士でなくって?息もぴったり」
「ですわねぇ。素敵」
「あなたは永遠の若さの泉を飲んだ人だ。愛しい人」
ううう。どう答えればいいの??
生気の無い草食系男子バージョンのサードというカンジ。
いやいやそんな失礼な比較をしてーーー
兎に角。ユージェニーはひきつりそうになる頬で懸命に微笑みを造った。
彼女の微笑みに感動しない男はいないだろうと、サードが寝物語にそんな事をいっていたのを思い出す。
あ!サード!!
助けてと目で合図する。
しかし、不動にして動かない。棕櫚の木の下でじっとこっちを睨んでいる。
ああ。変に拗れまくって誤解してる。完全に怒ってるわ。
曲が途切れるとサードが人波を縫って近寄って来た。
「王太子様!わたくしの主人ですの。サード。こちらは主催のハーバーレ・ド・ビーンの王太子様です」と愛想よく紹介した。
「ほお。今夜はお招き頂きその上妻がご迷惑をおかけしました。では失礼。ファーストダンスに間に合わくて妻は怒っている様だ。さあ。いこうユージェニー」
ひきつった顔を無理にほころばせ「では」とサードの腕に自分の腕をからませ去ろうとしたその時、
「衛兵!!この男を捕らえろ!!妻を誘拐する賊だ!!」
「ウィルフィー様!おやめくださいませ!ご冗談もほどが過ぎれば外交問題ですわ。わたくしはユージェニーと申します。王子のおしゃるビネシス様ではございません」
あっという間に衛兵にサードとユージェニーは近衛兵に囲まれた。
サードの腕の中でユージェニーは王太子の瞳がおかしいと気づいた。焦点が定まっていないとい感じがする。
小さな声で「あの王子様はきっと心のご病気ですわ。ここは大人しく会場をでましょうサード。事情を知る者が説明してくれるはずです」
「そうか。でなけりゃ。戦争だ」
二人は宮殿の中の大きな廊下を通り別な広間に案内された。
重厚なタペストリーで覆われた壁に高い天井は金襴だ。
そこには泣き崩れる女たちがいた。
「大変失礼致しました。わたくしはあの子の大叔母でございます。殿下。妃殿下。どうか矛を収め下さい。あの通り王太子は病気です」
ユージェニーは「お聞かせ下さい。もしや何があったのですか?」
一番奥の背もたれの広い古めかしい椅子に鎮座していた老婆が喋り出した。
「おお。聞いて下さるか」
着ているドレスはすっかり流行おくれの黒だったがどこか人を圧する威厳があった。
「ああ。あなた様を間違えたのも無理はない。そっくりだ。ほら。そこに肖像画がまだ残っているでしょう?」
老婆の指輪だらけの細い指が示す壁を全員が見上げた。
あら。まあ。
マントルピースの上に巨大な肖像画があった。
優し気で儚い薄幸な印象の少女が描かれている。
「おまえに似てるな確かに。そっくりだ」
「ええ。そうですわねえ」
老婆は「あの娘は5年前に亡くなりました。それ以来孫はおかしくなってしまいました。どうかお願いです。今少しここに留まってはいただけないでしょうか?」
「それはどういう意味だ?このままユージェニーにこの宮殿であの王太子の側で暮らせという意味か?なら断る」
「待ってサード。貴方様は?上皇后様ですわね?もし言われた通りにしてみても、
わたくしが側にいたら悪戯に生前を思い出すだけで別れ際には更につらい思いをされるわ」
その問いかけに誰も押し黙って答えない。
侍女がテーブルにお茶の支度を整えた。
礼儀的に口をつけようとするユージェニーの手からサードはカップを取り上げた。
「話にならん!口をつぐんだのはこのままユージェニーを返さぬ計画であろう!
賓客を衛兵に捕らえさせた挙げ句にまともな謝罪もない。
更にあり得ない要求をしてくる。我々もそう暇ではない。
もう国へ帰るぞ。あと一週間もここにいられるものか!」
「夫がこう申したらもうダメですわ。ごめんなさい力になれなくてーーーあ。あら。酔ったのかしら?くらくらするーーーーー」
必死な顔のサードが何か叫んでいるようだが聞こえない。段々意識が遠のく。
ーーーーーいかなでーーサードーーーそう思ったのが最後だった。
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