魔王と勇者と放浪の大賢者【一章完結済】

MINORI

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第一章

番外編9:当て馬(?)現る(前編)

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北の果て、滅びの国の魔王城の魔王に、一通の黒色の親書が届いた。

差出人を知らせる、真っ赤な封蝋を見て、アンバーは顔を顰める。
玉座のアンバーに親書を届けた、ひとつ角の姿はもうない。最近のひとつ角は、相変わらずの失言は減らないものの、逃げ足だけは速くなった。


「渋い顔だね、アンバー」


良くない知らせ? と顔を覗き込んで来るミカの顔を見たら、親書の差出人のコトなど何処へやら、だ。今日も今日とてミカは可愛くて凄く綺麗だ。

ミカの雪みたいに真っ白な髪が頬に落ちてくる。それを一房指に絡めて、チュッとキスを落とすと、ミカが頬を染める。

うーん、良い……。
これぞ新婚って感じだ。

ミカの手を引き、膝の上に引っ張り込んで、ぎゅうっと抱き締める。アンバーはミカの肩口に顔を埋め、ミカの香りを体中に染み込ませるように大きく吸い込んだ。

うん。俺、幸せ。この世の春はココにある。

ちびっ子が城に居ないと、ミカを独占出来て良いなあ。まあ、居ないと居ないで、ちょびっと心配でもあるが、アイツはミカを残して簡単に死にはしないので問題はない。


「その紋章。アスモデウスの印だね」


封書の封蝋に押された印を見て、ミカが瞬く。
大当たり。これは、俺の配下の七大悪魔、【色欲】アスモデウスからの親書だ。


「どうして知ってるんだ? ミカ」
「コレでも一応、世界を廻った放浪の賢者だったからね。アスモデウスは、東の辺境の城に籠ってた事があっただろう?――その時に、ちょっと、ね」


自分の腕の中で、困り顔で苦笑を溢すミカは気が遠くなる程に可愛いが、一応賢者って、良く言うなミカ。世に名を知ら占める、俺の愛する「放浪の大賢者」様は、大層謙虚である。

だがなミカ。今さ、聞き逃せない言葉を聞いた気がするぞ。
アスモデウスは確かに、東の辺境城に籠っていたことがある。だけれどもその時に、ミカとアスモデウスが対面していただなんて、あの野郎から報告を受けていないぞ。


「―――ちょっと、って……何があった?」
「う~~んとね、何と言ったらよいか……」
「ミカ」


ミカとあの野郎に接点があったなんて、アイツはやっぱり殺した方が良さそうだな。


「アンバーがそんなに顔をするってコトは、アスモデウスが苦手なの?」
「……苦手というよりか、世界から抹殺した方がいいって感じかな」


俺がミカを探しまくっている時に、「たかだか人間一人に入れ込み過ぎ」と、要らぬお節介をアスモデウスに焼かれ、セルリアンと二人して半殺しの目に合わせたことがある。ソレがトラウマとなり、アイツは東の辺境城で引籠ったのだが、そんなことすっかり記憶の彼方に消えていた。これは、ミカには伝えないでおこう。

そもそも、それ以前から、アスモデウスとはソリが合わない。
アイツが俺に連絡を入れてくるなんて、間違いなくロクなことではないはずだ。

親書の内容は嫌な予感しか浮かばないが、このまま読まずに燃やして、面倒ごとが起きては困る。内容確認の上、ミカがいる我らが魔王城スイートホームに、強力な防衛施術を施さねばならぬようだ。

心配げに首を傾げる、可愛いが過ぎるミカに、ドッキュンと胸を突かれながら、仕方なく真っ赤な封蝋を開き、アンバーは親書に目を走らせた。



----------

我が主たる魔王様へ

宣戦布告
放浪の大賢者を奪いに近日参上
首を洗って待っていてね

BY アスモデウスより

----------



よし。アイツ、殺そう。


きょとんと美しい群青の瞳を丸めるミカはとても愛らしいが、まずはバカったれ・アスモデウスを抹殺するのが先である。

ミカを奪うだと?
お前なんぞ、消し炭も残さず、業火で焼き尽くしてくれる!!

ミカの守りを固める為に、魔王城の防衛を最大級にしても、まだ足りない。
攻撃は最大の防御というから、を出動させるとしよう。


「アンバー……?」
「ごめん、ミカ。ちょっとだけ待ってね」


膝の上に抱いたミカの唇にチュッとキスをして、アンバーはミカを抱いていた右手を虚空に伸ばし、魔力を込める。

手元から発した魔力を練り上げ、空間を歪める。

こういう時のために、には鈴を付けている。
世界の果てに居ようとも、有事の際に俺の元に引き戻せるように開発した、【セルリアンほいほい】。今こそ、その威力を発揮する時だ―――。


見つけた!!


ずぶっと歪めた空間に手を突っ込んだら、手応えアリだ。恐らくは戦闘服の革鎧っぽい襟元を引っ掴んで、一本釣りの要領で引き上げる。


「セルリアン! 東の引籠りをこの世から消滅させるぞ!」


【セルリアンほいほい】から、首だけがにゅっと出ている状態のセルリアンに怒鳴りつける。そうしたら、何処の魔獣を狩っていたのか?ってくらい、紫色の鮮血に塗れたセルリアンが、殺意の籠った半目顔で片方の眉を上げ、額に怒りの血管を浮き上がらせた。


「ソレはいいけど、は頂けない」


【セルリアンほいほい】から飛び出して来た、血塗れのセルリアンが、これまた血塗れの大剣を俺の喉元に突き付けてきた。


「俺は、と、仕方ないから養っているの為に、金を稼いでいるというのに、は許さんぞ。マオー!」


ん?


ああ、はいはい。
俺が玉座で膝の上にミカを抱いてるのが気に入らないのだな?

悔しかったらやってみろというのだ、ちびっ子め。


「その苦情は受け付けん。まず、コレを読め」
「ミカおいで。マオーの首取るから、血が掛かったらいけない」
「お前の血塗れの手でミカに触るな! 先ずこっちだ!」


俺が差し出す親書に目もくれず、ミカを抱き上げよう近付くセルリアンの頭をぶっ叩く。殺意を込めて俺を睨みつけて来るセルリアンの目の前数センチに、ソレをびらりと突き付けてやったら、セルリアンの目が仄暗く鈍く光った。


「あのド阿呆。、死にたいらしいな?」
「簡単に殺せば、また復活するからな。今回は慎重に、完全に潰すぞ」
「了解だ」


にやりと笑う、セルリアンに頷いて、アンバーは声を上げる。


「角魔人! 集合!」
「「御前に」」
「ひとつ角は、東の辺境城を壊滅させる準備をしろ。ふたつ角は、東の辺境城を更地にする準備。みつ角は、魔王城うちの防衛魔法レベルを最大出力にしろ。蜘蛛の子一匹侵入させるな!―――って、頭数が足りないな……?」


瞬時に玉座の前に現れ膝を突く角魔人の頭数が足りない。いつもならば、ひとつ角の右側で頭を垂れているはずの、みつ角の姿が、ない。失言大魔王のひとつ角と、ひとつ角のフォローに忙しいふたつ角と違い、行動派のみつ角が、俺の呼び出しに即時に応じないことは非常に珍しい。

ひとつ角とふたつ角が、顔を見合わせ首を捻ったその時に、在りし日のあの日を彷彿とさせる、みつ角の大声が玉座の間に響き渡った。


「魔王様~~! アスモデウス様がいらっしゃいました~! お土産がいっぱいです!!」


空気を読まないのはひとつ角の専売特許だったのだが、今日の外れくじは、みつ角の様だ。


目の前に現れるだろう獲物に、即座に臨戦態勢に入ったアンバーとセルリアンは、「げ」と珍しい声を上げたミカの声を聞き逃していた。
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