20 / 27
第一章
番外編9:当て馬(?)現る(前編)
しおりを挟む北の果て、滅びの国の魔王城の魔王に、一通の黒色の親書が届いた。
差出人を知らせる、真っ赤な封蝋を見て、アンバーは顔を顰める。
玉座のアンバーに親書を届けた、ひとつ角の姿はもうない。最近のひとつ角は、相変わらずの失言は減らないものの、逃げ足だけは速くなった。
「渋い顔だね、アンバー」
良くない知らせ? と顔を覗き込んで来るミカの顔を見たら、親書の差出人のコトなど何処へやら、だ。今日も今日とてミカは可愛くて凄く綺麗だ。
ミカの雪みたいに真っ白な髪が頬に落ちてくる。それを一房指に絡めて、チュッとキスを落とすと、ミカが頬を染める。
うーん、良い……。
これぞ新婚って感じだ。
ミカの手を引き、膝の上に引っ張り込んで、ぎゅうっと抱き締める。アンバーはミカの肩口に顔を埋め、ミカの香りを体中に染み込ませるように大きく吸い込んだ。
うん。俺、幸せ。この世の春はココにある。
ちびっ子が城に居ないと、ミカを独占出来て良いなあ。まあ、居ないと居ないで、ちょびっと心配でもあるが、アイツはミカを残して簡単に死にはしないので問題はない。
「その紋章。アスモデウスの印だね」
封書の封蝋に押された印を見て、ミカが瞬く。
大当たり。これは、俺の配下の七大悪魔、【色欲】アスモデウスからの親書だ。
「どうして知ってるんだ? ミカ」
「コレでも一応、世界を廻った放浪の賢者だったからね。アスモデウスは、東の辺境の城に籠ってた事があっただろう?――その時に、ちょっと、ね」
自分の腕の中で、困り顔で苦笑を溢すミカは気が遠くなる程に可愛いが、一応賢者って、良く言うなミカ。世に名を知ら占める、俺の愛する「放浪の大賢者」様は、大層謙虚である。
だがなミカ。今さ、聞き逃せない言葉を聞いた気がするぞ。
アスモデウスは確かに、東の辺境城に籠っていたことがある。だけれどもその時に、ミカとアスモデウスが対面していただなんて、あの野郎から報告を受けていないぞ。
「―――ちょっと、って……何があった?」
「う~~んとね、何と言ったらよいか……」
「ミカ」
ミカとあの野郎に接点があったなんて、アイツはやっぱり殺した方が良さそうだな。
「アンバーがそんなに顔をするってコトは、アスモデウスが苦手なの?」
「……苦手というよりか、世界から抹殺した方がいいって感じかな」
俺がミカを探しまくっている時に、「たかだか人間一人に入れ込み過ぎ」と、要らぬお節介をアスモデウスに焼かれ、セルリアンと二人して半殺しの目に合わせたことがある。ソレがトラウマとなり、アイツは東の辺境城で引籠ったのだが、そんなことすっかり記憶の彼方に消えていた。これは、ミカには伝えないでおこう。
そもそも、それ以前から、アスモデウスとはソリが合わない。
アイツが俺に連絡を入れてくるなんて、間違いなくロクなことではないはずだ。
親書の内容は嫌な予感しか浮かばないが、このまま読まずに燃やして、面倒ごとが起きては困る。内容確認の上、ミカがいる我らが魔王城に、強力な防衛施術を施さねばならぬようだ。
心配げに首を傾げる、可愛いが過ぎるミカに、ドッキュンと胸を突かれながら、仕方なく真っ赤な封蝋を開き、アンバーは親書に目を走らせた。
----------
我が主たる魔王様へ
宣戦布告
放浪の大賢者を奪いに近日参上
首を洗って待っていてね
BY アスモデウスより
----------
よし。アイツ、殺そう。
きょとんと美しい群青の瞳を丸めるミカはとても愛らしいが、まずはバカったれ・アスモデウスを抹殺するのが先である。
ミカを奪うだと?
お前なんぞ、消し炭も残さず、業火で焼き尽くしてくれる!!
ミカの守りを固める為に、魔王城の防衛を最大級にしても、まだ足りない。
攻撃は最大の防御というから、最終兵器を出動させるとしよう。
「アンバー……?」
「ごめん、ミカ。ちょっとだけ待ってね」
膝の上に抱いたミカの唇にチュッとキスをして、アンバーはミカを抱いていた右手を虚空に伸ばし、魔力を込める。
手元から発した魔力を練り上げ、空間を歪める。
こういう時のために、アイツには鈴を付けている。
世界の果てに居ようとも、有事の際に俺の元に引き戻せるように開発した、【セルリアンほいほい】。今こそ、その威力を発揮する時だ―――。
見つけた!!
ずぶっと歪めた空間に手を突っ込んだら、手応えアリだ。恐らくは戦闘服の革鎧っぽい襟元を引っ掴んで、一本釣りの要領で引き上げる。
「セルリアン! 東の引籠りをこの世から消滅させるぞ!」
【セルリアンほいほい】から、首だけがにゅっと出ている状態のセルリアンに怒鳴りつける。そうしたら、何処の魔獣を狩っていたのか?ってくらい、紫色の鮮血に塗れたセルリアンが、殺意の籠った半目顔で片方の眉を上げ、額に怒りの血管を浮き上がらせた。
「ソレはいいけど、ソレは頂けない」
【セルリアンほいほい】から飛び出して来た、血塗れのセルリアンが、これまた血塗れの大剣を俺の喉元に突き付けてきた。
「俺は、俺の配偶者と、仕方ないから養っている扶養家族の為に、金を稼いでいるというのに、ソレは許さんぞ。マオー!」
ん?
ああ、はいはい。
俺が玉座で膝の上にミカを抱いてるのが気に入らないのだな?
悔しかったらやってみろというのだ、ちびっ子め。
「その苦情は受け付けん。まず、コレを読め」
「ミカおいで。マオーの首取るから、血が掛かったらいけない」
「お前の血塗れの手でミカに触るな! 先ずこっちだ!」
俺が差し出す親書に目もくれず、ミカを抱き上げよう近付くセルリアンの頭をぶっ叩く。殺意を込めて俺を睨みつけて来るセルリアンの目の前数センチに、ソレをびらりと突き付けてやったら、セルリアンの目が仄暗く鈍く光った。
「あのド阿呆。また、死にたいらしいな?」
「簡単に殺せば、また復活するからな。今回は慎重に、完全に潰すぞ」
「了解だ」
にやりと笑う、セルリアンに頷いて、アンバーは声を上げる。
「角魔人! 集合!」
「「御前に」」
「ひとつ角は、東の辺境城を壊滅させる準備をしろ。ふたつ角は、東の辺境城を更地にする準備。みつ角は、魔王城の防衛魔法レベルを最大出力にしろ。蜘蛛の子一匹侵入させるな!―――って、頭数が足りないな……?」
瞬時に玉座の前に現れ膝を突く角魔人の頭数が足りない。いつもならば、ひとつ角の右側で頭を垂れているはずの、みつ角の姿が、ない。失言大魔王のひとつ角と、ひとつ角のフォローに忙しいふたつ角と違い、行動派のみつ角が、俺の呼び出しに即時に応じないことは非常に珍しい。
ひとつ角とふたつ角が、顔を見合わせ首を捻ったその時に、在りし日のあの日を彷彿とさせる、みつ角の大声が玉座の間に響き渡った。
「魔王様~~! アスモデウス様がいらっしゃいました~! お土産がいっぱいです!!」
空気を読まないのはひとつ角の専売特許だったのだが、今日の外れくじは、みつ角の様だ。
目の前に現れるだろう獲物に、即座に臨戦態勢に入ったアンバーとセルリアンは、「げ」と珍しい声を上げたミカの声を聞き逃していた。
10
あなたにおすすめの小説
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに愛されます
ひと息
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。
睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。
驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった!
そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・
フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる