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第一章
番外編10: 当て馬(?)現る(中編)
しおりを挟む「アロ~ハ~~! デス! 魔王様!」
俺様魔王様と赤竜を連れた勇者の、全てを焼き尽くす、業火の様な殺気を全身に浴びながら、のほほんと頭に一輪の花を咲かせた間抜け面の男が、玉座に着くアンバーに向かってずかずかと歩み寄ってきた。
……スゴイノガキタゾ。
七大悪魔、【色欲】のアスモデウスは、頭に鋭く長い二つの角を持った、黙っていれば色男、な、見目麗しい大悪魔である。が、中身が酷すぎて……アンバーはこの男が、本当に嫌いだった。
一に、言葉が通じない。
二に、言うことを聞かない。
三に、美しいものに目がない。
いつもは、一と二が問題過ぎて手に負えず、ブチ殺して城の外に投げ捨てるのだが(すぐ再生する)、本日は、三が一番の問題となりそうだ。
―――【色欲】のアスモデウスからの、あの親書。
本気でミカを俺達から奪い取る気であるのならば、セルリアンと手を組み、骨も残さず滅しきり、再生の暇など与えはしない。
背には大黒様の様にでっかい大袋を背負い、満開の笑顔でお花畑を脳天に咲かせる、全身黒ずくめのアスモデウスに、アンバーの額には怒りの血管が浮かび上がる。
「……今生から消滅したくなければ、帰れ!!」
「え~~? なんでですかあ。魔王様の忠実なる僕、七大悪魔の色欲公爵アスモデウスがただいま参上~~!!って、どうしてココ、こんなにアッチイんですか、ちょこっと冷やしますね?!」
誰が誰の僕だと? 最早、どこから突っ込めばよいかがわからないが、俺は、本当に心底コイツの事が嫌いである。ちなみに、隣で俺と同じく眉間に深い皺を刻んでいるセルリアンも、確実に以下同文なのが丸わかりだ。
この世の厄災と悪夢を浴びてもビクともしない、空気の読めなさは、七大悪魔中最高位。失言魔人ひとつ角が「心の師匠」と慕うアスモデウスが両手を掲げ、玉座の間にホワイトアウトのブリザードが吹き荒れる。
「はっはっは。これでスッキリクールダウン!」
何事かをやり切った達成感に太陽の笑顔を振りまき、額の汗を拭うアスモデウスの前で、アンバーは口元を歪め乾いた笑いをこびり付かせる。
「もう一度言う。即刻帰れ」
「魔王様!! イケズなこと言わんといて下さい! あなたのアスモデウスですよ~~っ!」
「……ご指名だぞ、アンバー。後は任す。ミカ、一緒にお風呂入ろっか?」
「待てッ!セルリアン!! コイツをぶっ殺してから一人で入れ!!」
アスモデウスのブリザードのせいで、白い髪がくちゃくちゃになって目が点になっているミカが、アンバーの膝の上に抱かれたまま、困り顔で呟いた。
「相変わらずだね……アスモ……」
「おお! 放浪の大賢者殿もいらっしゃるだなんて、なんたる僥倖!! 玉座に座る魔王様を尻で敷くなどお見事です! 恐悦至極の万々歳です!!」
「お前はッ、もう少し声を小さくして言葉の勉強をして出直してこい!!」
怒鳴り声を上げてから、ハタと気付く。
……ところで、だ。
「アスモってなんだ―――? なんでこんなクソ悪魔を、愛称で呼んでいるんだ、ミカ?」
「あっ。説明の途中だったね。ケイと、東の辺境を旅してた時に、ちょっとした因縁というか、愛憎劇というかがあってね……」
「―――ひとまずコイツを殺してからミカに続きを聞かないか、マオー?」
「気が合うな。セルリアン」
アスモデウスに向かい大剣を構えるセルリアンに続き、アンバーは左腕にミカを抱き立ち上がった。聞きたくないが耳に入った、「愛憎劇」という言葉が、自分達の地雷のスイッチをオンしてしまったのだ。
魔国の主たる魔王と今世最強の呼び名も高い勇者が、首を狙っているというのに、相変わらず空気の読めないアスモデウスは、にこにことアンバーに向かって右手を胸に臣下の礼をとり深々と頭を下げた。
「先ぶれの親書はお読み頂けましたか魔王様? 魔王城に来る前に、絶対に先ぶれを寄こせとの約束を守り、わたくしアスモデウスが、張り切って頑張って書きました!!」
この馬鹿は、何度殺しても頭の神経回路が正しくなることはないようだ。
「俺に殺されに来るって裏読みが出来るアレを、頑張って書いただと? 良い度胸だ。即刻首を刎ねてやる」
「えええ? そんなこと書いてないですよ?! 他の七大悪魔が、魔王様の右腕の私に嫉妬して親書を入れ替えたとか、そういうことじゃないですかあ?」
頬に指を一本添えて、あざとくこてんと首を倒すアスモデウスに、セルリアンがブッと吹き出す。
「この馬鹿太郎が右腕……良かったなマオー」
「ンなわけあるかッ?! ぶっ殺すぞ?!」
「ちょっと待って二人とも」
肩を震わせ笑うセルリアンと、ブチ切れの自分を制して、ミカがするりと俺の手を抜け出た。ミカの目が困り顔でこちらを見てきて、怒りのあまり握りしめ、ぐしゃぐしゃに握りつぶしていた馬鹿からの親書をするりと引き抜いた。
「あのね、アスモ」
「はい! 大賢者殿!!」
「アンバーへの親書は、君なりに頑張って、言葉を選んで文章にしたとは思うんだけど、君の言いたかったことを、口頭で伝えてくれる?」
「はい! お任せあれ! です!」
ミカの、子供に語り掛けるような優しい声に、馬鹿太郎アスモデウスが直立不動で胸を張り、歌を歌うみたいに朗々と言葉を紡いだ。
「(宣戦布告)ご挨拶申し上げます
(放浪の大賢者を奪いに近日参上)大賢者様をお借りしたいのでお邪魔します
(首を洗って待っいてね)どうかよろしくお願いします」
うん?
「大賢者」という名称以外、何一つ親書の文章と同じところがないのだけれど、どういうことだ?
「そのまま書けば良かったのに……。文字にして文章に書くと、どうしてそうなるんだろうね。アスモ、零点だ」
「ええええ? 公爵らしい文章になるように頑張ったんですけどねえ~」
はああ~~~っと肺の空気が完全になくなるほどに、ミカが大溜息を吐いた。
「俺を借りたいって、もしかしなくても、やっぱり?」
「あ! 遅くなりました! コレ、結納の品です!!」
結納の品?
結納って、アレか。
結婚する前に、互いの結びを確かめるために、嫁を貰う新郎が、結婚に備え、金銭やら記念品やら、給料(?)の三か月分の婚約指輪を渡すとか何とかいう、アレ、のことだよな。
全身の血が、余りの怒りで沸騰する。
血の涙が流れる程に、目の血管に勢いよく血が流れるのがわかる。
視界は、真っ赤だ。
消し炭も残らず、この愚か者を今世から焼却してくれる。
言葉にせずともわかる。
今、俺とセルリアンの頭の中は、完全一致している。
俺は火力を全開にするために魔力を丹田で燃やし、セルリアンは手にした大剣に魔力を纏わせた、その瞬間。アスモデウスが、ミカの前に背にしょっていた大袋の中身をぶちまけた。
金銀財宝が、がらがらと音をたて、限度知らずで山積みとなっていく。大袋の容量を軽く超えてる所を見ると、それが魔術を擁したマジックバックであることがわかった。ただの大袋にしか見えないが……。
俺とセルリアンの前で、ミカに「結納」だなどと、良い度胸を通り越して、世界最強の阿呆である。これは、簡単に殺すことはできないな。生かさず殺さず、死よりもツラい生き地獄の中で、闇の業火で魂も躰を生涯焼き続けるしかないようだ。
「コレ。俺にじゃないからね?」
勘違いしてるでショ? とミカが、続ける。
勘違いも何も、この場で「結納」に該当する人間は、ミカしかいないだろう。
この阿呆な馬鹿太郎が、俺かセルリアンに求婚するなんてことは、世界が終ろうともないだろうから。
「将を射んとする者はまず馬を射よ! デス。大賢者殿、ケイ殿はどちらに?! あの日のお約束を守るため、アスモデウスが参上仕りました!! 我が愛するベターハーフ! ケイ殿!! 私が来ましたよ~~~!!」
恋に恋する乙女の様に、頬を染めその身をくねらすキモチワルイ色欲公爵アスモデウスに、アンバーとセルリアンは顎が外れそうになる顔を見合わせた後、ミカに向き直った。
「「―――ケイ?」」
極限まで目を見開いた、アンバーとセルリアンに、ミカが困り顔で静かに頷いた。
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