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第一章
番外編11: 当て馬(?)現る(後編)
しおりを挟む昔々(?)、あるところに、魔王様と勇者から逃げまくり、無駄な足掻きで旅を続ける、真っ白い髪をした往生際の悪い賢者(見習い?)がおりました。
流れ流されるままに大陸を縦横無尽に歩き回る白い賢者は、人族・魔族・神族の区別なく微笑みを与え、人族どころか他種族をも魅了していきました。
それは、魔力を行使してのことではありません。
にこにこと農作業を手伝い子守を代行し日銭を稼ぎ、ある日は旅芸人と歌って踊っておひねりを稼ぎ、またある時はエール早飲み大会で優勝し賞金をもぎ取る。そんな白い賢者の周りには、いつでもどこでも笑顔が広がっていきます。
なんで、魔力も魔術も使わず、人族も他種族も分け隔てなく、誰もが白い賢者に魅了されるのか?
魔国の東の辺境を納める、七大悪魔【色欲】のアスモデウス公爵である『ワタクシ』としては、それが本当に心底怒髪なくらい面白くなかったのです。
魅了は【色欲】のアスモデウスの十八番の魔術です。
それを奪われたりなんかしたら、七大悪魔の名が廃るというものです!
ちょっと顔が良いからと言って(魔鏡で見たら物凄い美人だった)
とても性格が良いからと言って(聞かなくとも耳に入ってきた)
本当に優しいからと言って(情報集めに行っ配下が心酔した)
私に喧嘩を売るのであれば、滅っするのみ。
魅了は私の専売特許ですからね~。
同じフィールドで戦う者は、誰であろうと許しはしません!
どこで殺そうか? と配下を城に集め作戦会議を開こうとしたのだが、難題が勃発した。私の配下が、七大悪魔【色欲】のアスモデウスの誇り高き配下であるはずの魔人共が、全員バツマークを提示で「嫌です!」と言って首を縦に振らないのである。
なんということでしょう?
「殺すぞ?!」と凄んでみても、「オラに力を貸してくれ!」と嘆願しても、だ~れも「うん」とは言ってくれません。
どうしたものかと、白い賢者暗殺計画が暗礁に乗り上げかけたその時、チャンスが到来しました。白い賢者が、ワタクシの領地である魔国の東の辺境に足を踏み入れたのです。
これは神(?)が与えたもうた最初にして最後のチャンス!!
「私はもう、白い賢者――現、魔王様のお隣にいらっしゃる放浪の大賢者殿のことですよ! を殺すべく気張って張り切って夜しか眠れませんでした! やっと、目障りな白い賢者を殺していつでもどこでも眠れる時がやって来る! と取るモノもとりあえず、白い賢者を迎え撃つべく、魔の森の闇に身を潜めましたのに―――ッ! 私はッ、マイベストラバーなベターハーフと出会ってしまったんです!!」
……コイツ、この場で息の根を止めていいだろうか。
アンバーはアスモデウスを睨みつけ、本気の本気でそう考えた。
白い賢者って、ミカのことだよな?
当時ミカを探しまくっていた魔王である俺に、その得難い情報を伝えもせずに、よりによってミカを殺す気だった。だと? それだけで万死に値するというのに、何をくねくねと気持ち悪く身をよじり、頬を赤らめていやがるんだコイツは……。
「ケイにぼこぼこにされたんだよね……アスモ」
「―――ケイはいい仕事をしたな」
ミカに続いてケイへの感想を述べたちびっ子が、「ケイにならって、コイツこの場でぼこぼこにしていいか?」と、続けて尋ねて来る。
聞かんでいい。
完全に完膚なきまでにぼこぼこにして、みじんこにして、最果ての海にでも捨ててきてくれ。俺の滅多にない頼みだ。頼む、セルリアン。
「そうなんです! あの時のケイ殿の拳といい、蹴りといい……! 私の魔術を弾きまくり、私を打ちのめし足蹴にしまくり、汚物でも見るような蔑んだ目を向けるケイ殿に、私はもうッ! 見も世もなくメロメロになってしまったのです~~!!」
たいそう腕っぷしの良い、オレンジ髪のミカの従者が、物凄く可哀そうになってきた。こんなヤバい魔人に惚れられるとは……ご愁傷さまも良いところである。
「マオーの配下……恐るべき人材の宝庫だな」
「殺すぞちびっ子。こんなん、俺の配下にした覚えはない」
七大悪魔は気付いたら俺の前に膝を付いていたから、配下と任命した記憶も、部下にした覚えもない。
ミカを見失って、魔力が爆発した時に現れた三魔人から聞いたが、魔力量がモノを言う魔人の世界では、最大値の魔力を持つモノを魔王にするという、慣例があるらしい。
それからいけば、コイツも、配下? になるのか。イヤだなあ。
「あのね、アスモ。ケイは君の求婚を丁重に断ったよね?」
「良い質問です大賢者殿! 只今、10〇回目のプロポーズの真っただ中でございます!!」
「ひゃく……」
ミカが珍しく言葉と無くし、眉間の辺りを押さえた。
放浪の大賢者を黙らせるとは、アスモデウス……恐るべし……。
「このキ〇ガイ。マオーの配下だろ? マオーがどうにかしろ。ミカ、疲れたろう? 一緒にお風呂に入ろう。肩も頭も揉んであげるよ」
「待てちびっ子! 俺を置いてゆくな!」
ミカをセルリアンに取られたくなくって、ぎゅうっと腕の中に抱き込んだら、ミカが俺の耳元に唇を寄せてきた。
「―――ケイは、あれからずっと逃げまくってるんだ」
こそりと耳打ちしてくるミカの小さな声が耳を擽る。ああ、ミカは今日も最高に可愛いな。
うんうん? このテンションで足に縋られ「抱いて?!」と騒がれて、ケイは確実に引いたと……。さもあらん。
んんん??
ソレ、無理だろ。
だってさ。ケイってさ。エルドにさ。
くるりとセルリアンに振り向くと、俺とおんなじことを考えていたらしいちびっ子が、こくりと頷いた。だよなあ~。
玉座の間の柱に隠れて、こっそりこちらを伺っていた三魔人が、顔面蒼白で騒ぎ出す。
「我らのケイ殿に横恋慕?!私は許しません!!」
と、ひとつ角が宣えば。
「ケイ殿は我らのアイドルですよ?!」
と、ふたつ角が叫び。
「しかし……コレはエルド殿の耳には入れられんな」
と、みつ角が珍しくも慌て出す。
ケイ―――モテモテだなあ。
ミカに飛び火しないならば、俺はどうでもいいが。
「エルドの耳に入れられないって、どういうこと―――?」
ミカがきょとんと眼を丸めている。ああ、ミカはまだ気付いてないのか。うん。ミカは色恋沙汰に疎いところがあるからなあ。教えてもいいけど、この空を切り裂く翼の音は、言わなくて目の前で全部わかるかな。
がしゃーん!! という物凄い音と共に、魔王城の大窓を破り、というか、大窓の周辺ごと破壊して、燃えるような真っ赤な竜が玉座の間に飛び込むなり―――ぷちッ! と、アスモデウスを踏み潰した。
『……不愉快な言葉が聞こえたと思ったのは、気のせいでいいな?』
赤竜エルドの瞳孔が爛々と輝き、攻撃色を放っている。
ひとつ角が「また城が破壊された!」と騒ぐのを、ふたつ角とみつ角が口を塞いで縛り上げた。素晴らしいコンビネーションである。
「エルド。急に降下したらさすがにびっくりなんだけど。何を踏みつけたんだ?」
エルドの背からひらりと降りて来るケイに、流石に驚いた。すっかりソコがお前の定位置なんだな、ケイよ。エルドは、ちびっ子の守護に付けたのに、今やすっかりケイの守護者になっちまったもんだな。
『ケイが気にすることではない』
「いきなりだから流石に気になるって。あ! 師匠! 只今帰還致しました。相変わらずお綺麗で安心安心」
ケイが両手を広げてミカに飛びつこうとするのを、セルリアンと二人して防御しようとしたら、不要だった。
「ケイ。ミカと言えども俺の前で他の男に触れるのは許せん」
赤竜エルドが一瞬にして真っ赤な髪の人型になって、ケイを肩に担ぎ上げた。おお。竜が人型になるってことは、やっぱりそういうコトなんだな。
竜という種族は、生涯ただひとりの番を持つと言われている。
そして、竜の番は竜だけだと、限ったコトでもない。
生涯を番う相手が竜意外だった場合、竜は、番と同じ種族に、その姿を変化させることが出来るようになる。
エルドが人型に変化して、ケイに対し異常な執着を見せているということは、ケイが、エルドの番とみて間違いはないだろう―――。
「―――………エルド。俺の師匠だぞ。ヤキモチ焼く必要はないって」
「ある。行くぞ」
意味深な視線を流し、すたすたと歩きだしたエルドが、三魔人の前でぴたりと足を止め、口を開いた。
「アレ。片付けといてくれ」
「「「しょ……承知いたし、ました……」
人型に変化したエルドの肩に担ぎ上げられたまま、ケイが困り顔で手を振って、二人(?)は破壊した大窓をそのままに、玉座の間から退場した。
大理石の床に、絵姿を転写したような、ぺったんこなアスモデウスを残して……。
「……エルドって、男前だね」
感心したように呟いたミカは、ハッ! と、自らの失言に気付いたが、時すでに遅し……。瞬時に形相を変えた魔王と勇者に担ぎ上げられたミカは、この後一週間、魔王の居室から出ることは叶わなかった。
追記:ケイの姿もミカと以下同文。
ーーーーーーーーーー
またも三連作となった番外編ですが、これにて終了となります。
これまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。
ついに・・・本編と番外編の本数が並んでしまいました。
こうなったら―――。
【次回緊急予告(?)】
需要はないと思うのですが、二章始めようかと思います。
※相変わらずの不定期更新です。
(ムーンさんの方で先行公開予定でおります)
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