【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

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5:さいしょの神様と6匹の竜

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「本来は、僕は君の転生には関与してはいけないんだ。だけどその禁忌を破り、君の生まれた最初の世界を『さいしょの神様と6匹の竜』という絵本にして、100回目の世界に存在させた」


何故だかわかるかい?と天狼は暁の目を静かに見つめてきたが、暁は首を振った。
神様の考えなど、わかるはずもない。
あの、幼い時に読んだ絵本が、自分自身初めて生まれ落ちた世界の話だなんて、考えたこともなかった。



考えつくはずもない。
 


そこまで考えて、暁は思い出した。
絵本の中の黒い竜は、自分を99回殺した黒い竜に似ていると、自分は思ったのではないか?
翠月が怪獣のように泣いた。あの時だ。


「君が、黒い竜に殺されるのには、理由がある。そして、99回それを繰り返したのも、同じく理由がある」


黒い竜は、やはり毎回自分を殺しに来ていたのだ。あの竜は自分にとり何よりも恐ろしい存在で、死神でもあったのかと、寒気がする。


「僕はね、『初回の記憶』を取り戻して、君の心を取り戻してほしかったんだ」
天狼の言葉に、暁は呟く。
「どうしてだ?あなたは、いったいオレのなんなんだ?」


心を感情を知りたい。今、思うのは、ただそれだけだ。
だからこそ、ゲートを潜った。
それを知るためにここに来たのだ。

暁の問いには答えず、天狼は話し続けた。


「人というのはね、魂と体と、そして心の、3つが揃わないといけない。これが揃わないと健やかに生きていくことが出来ないんだよ。どう転生してもどこに転生しても、君は、どうしても『心』を持つことが出来ないようで、心が欠けたまま99回の転生を繰り返した。100回目は竜のいない世界だったろう?竜に命を奪われることなく、100回目の転生を終えたら、ここに戻ってこれるはずだったのに、心を取り戻さなければ、このままでは、それがかなわない」


「戻ってこれるはずってなんだ?ここが、オレのスタート地点だとでも言うのか?」


暁の問いに、天狼はあいまいな笑みを浮かべた。相変わらず核心に関わることは口にはしないのだな。と暁は半ば諦めの境地に達するしかない。
尋ねたところで、答えはきっと出はしない。


「君は、僕の大切な一番星だと言ったろう?僕はね、君が本当に大切なんだ」


暁の両手が天狼の両手で包まれた。
強い力で握られて、手を引こうにも動かなかった。


「御託はいい。オレが知りたいのは――――」
「君が知りたいだろう『初回の記憶』は、君の中に眠っている」 


さいしょの神様だという天狼が、はっきりと暁にそう告げた。


「君は本当は憶えているんだ。ただ、それは、そうだね。君がゲートを潜ってきた前の世界の言い方で喩えるならば、パスワードが掛かっていて、中身が確認できない状況だと言えば、理解しやすいかな?だから、記憶にないはずなのに、僕をみて身構えた。記憶になくても、憶えている証拠だよ」



言葉が、出ない。



自分の最大の問題点であり、最大の憤りであり、自分のすべてに終わりを与えるために必要な、手に入るはずもないと思っていた『初回の記憶』。

それが本当に自分の中にあるのだとしたら………。
暁は自らの心臓が熱を持ち始める気配を感じていた。


「君が知りたいことは、たくさんあるだろう。長い輪廻の輪の中で、憤りも、たくさんあっただろうことは、、僕はわかっている」
「ずいぶんと、簡単に言ってくれる」


さらりと話す天狼に、暁はきつい光を帯びた目を向けた。心臓が、腹の奥が熱い。内臓が焼かれる感覚が身体を襲う。


その時だ。


藤色の花びらが数枚、視界を霞めたような気がした。
あの時垣間見た、あの人が、頭の中にぼんやりと投影された。


瞬間理解した。
天狼の言う、パスワード―かぎ—は、あの人だと。


「君は一番最初に生まれた世界で、心を盗まれた、いや……持っていかれた?、いや、そんなロマンス満載な言葉ではないな。う~ん、うん。取られた。にしよう。スリにあったようなものだ」


先刻までの真面目な雰囲気はどこへやら。怜悧な美貌の両こめかみをぐりぐりしながら、天狼はうそぶいた。


「転生の間に、心を取り戻すことを期待していたけど、それが出来なかった今、パスワードを解かなければいけない。あの世界の6匹の竜に会う必要がある。1匹は、ペナルティを与えるから、まずは5匹。どうする?決めるのは、アカツキ、君だ」


天狼は軽く尋ねてきた。


「行くかい?」
「行く」


それ以上の事は何も話してはくれないが、相手の考えは読める。天狼の目が、「名残惜しい」と言っている。「行かせたくない」と訴えてくる。

それは、ゲートを潜る前に自分を見つめてきた、翠月の姿と重なった。


「不本意だが、君を生かすためには行かせるしか選択肢がない。よし。出発前に、に、マーキングしよう。そうでないと行くことは許せない」


神様を名乗るこの男は一体何を言っているのか?


長く転生人生を送ってきた暁だ。転生する度、様々な経験を送ってきた自分であっても、天狼の言動は目に余ることが多く、まだ少々の時間を共に過ごしただけの間柄だが、この男のことはきっと今後も理解できることはないだろうと思う。

そんなことをぼんやり考えていたら、がしっ!とばかりに天狼に抱き込まれた。気付いたときには、目の前に天狼の首筋があり、自分の体は彼の腕の中にあった。

骨が軋むのではないかと思うほど、力強く抱きしめられ、そして……。
肩口にぐりぐりと顔をこすりつけられた。



「………い、いったい、何を?」
「所有権の行使だよ」



意味が分からなくて怖い。ひとまず離れたいが、細身の体のわりにがっちりした体は鋼のようでびくともしない。諦めてされるがままになっていると、背後から声が聞こえた。


あるじ様」


声をかけてきた人を、暁は天狼の肩口からギリギリ見ることが出来た。
天狼の着衣の子供版みたいな灰色の服を着た、見た目高校生くらいのその子は、大きく大きくため息をついて言った。


「一番星様を殺す気ですが。あなた様の腕力は星をも砕くというのに」
「そんなわけない。アルコルは大袈裟だなあ」


いえ、骨が折れるかと思いました。やっとの思いでその腕の中から逃れて、暁は、アルコルと呼ばれた彼を見た。


「助かった」
「お助け出来て光栄です」


彼はぴしりと背を伸ばしうやうやしく頭を下げ礼をとる。

なんとはなしに返礼で背を正し頭を少し下げると、チョコレート色の髪と目をしたアルコルは、暁に向けにこりと笑み、「主様」と天狼に視線を向けた。


「用意はできた?」
「こちらに」


天狼の言葉にアルコルは手にした小箱を両手で彼の主に捧げ上げた。完全なる主従関係がその所作から見て取れる。自分には関係がなさそうと、窓の外に目を向けて暁は思わずそこを二度見した。

さっき見た紺碧の海が、夕暮れの色を映している。
ここの時間軸は、どうなっているのか?

と、首にひんやりとした手が触れてきて体がびくりと反応してしまう。


「ここの風景は、僕の心を映しているからね。今は黄昏て――――こんな感じ。これから大雨が降って大荒れになるだろうよ」


天狼が彼の銀糸の髪を思わせる色の組紐を暁の首にかけてきた。
それはネックレスのようで、彼の瞳と同色の涙型をした小指の先ほどの石が下がっていた。


「ずっと準備はしていたんだけれど、こんなに早く渡すことになるとは、思わなかった。これは、君の魂を隠すお守りだ。………君が、君の魂を持っていることがわかれば、黒い竜は、君を殺すだろう。今までの99回と同じにね」


肌身離さず持っていてね。と悲しそうに笑う天狼に、暁は「行くのだな」と我知らず決意を固めた。


これから行くのは、自分が最初に生まれた世界だ。


「必ず、戻っておいで」


最後に祝福。と、天狼は暁の額に右手の人差指と中指で印を付けた。

額が、温かい。


「戻る……わからないな」


これから行くところも、それからどこへ向かうことになるのかも、今の自分には何もわからないのだ。


「わからなくていいよ。ただ、最後には僕の所に、戻ってくれればいいんだ」


天狼の銀に水色の雨粒を垂らしたような瞳が、あるものと重なった。

翠月と過ごした世界で眺めるのが好きだった、夜の星。
流浪の民みたいに世界をめぐる自分にとり、どの世界でも夜は安らぎの時だった。目を閉じて眠れば、誰もいない、誰しもひとりだからだ。


ずっとひとりきりだった。


夜はいつでも変わらず自分を見守り、夜の空をいろどる星々の中ひときわ輝く星を、巡る季節の中探すことが好きだった。

その星の名は。



「シリウス」



天狼—セイリオスの真の名前。
『シリウス』も『アルコル』も、星の名だ。
ここは、そういう世界でそういう領域なのだろうと、暁は静かに思った。

天狼はちょっとびっくりした表情をしてそれから相好を崩した。


「その名は、君が心を取り戻してから呼んで欲しいな。僕の唯一のただ一人の人に呼んでもらいたい、名だからね」


どの世界でも自分を天から見ていてくれた、たった一つの存在に、感謝の意を表して右手を差し出すと、明らかに破顔した天狼に右手を引かれ抱き込まれた。


「さあ、行っておいで」





***





いきなり、視界が切り替わった。

ゲートのぬるく不愉快な闇の中から、見ていた画面を切り替えたように次元圖書館に来た時と同じく、また、視界が切り替わったのだ。

足元が抜けた感じがして、あったはずの床は消えた。
目の前は、青しかない。



「空だ――――」

 

髪が、すべて逆立ち、ものすごい風圧の中、息すらまともにできない。



これは、空を、落ちてるな………。
眼下には、緑豊かな広い大陸と、青い海が見える
緑の大地の中、木々の間に、小さな青。 

――――湖だろうか?

この状況でも冷静な自分が、心底おかしくて、今までの自分歴で初めて、大口を開けて笑ってしまう。

………いきなり、死にそうだ。

だが。と暁は考えた。



「生まれて初めて思うけど―——………今回だけは、死ねないっ—————!!」



叫んだ瞬間、暁の体には得体のしれない何かが全身を一気に駆け抜け浸食し、意識が飛んだ。

体を真綿の様なやわらかいなにかが包み込んだ。
『あたたかいな』と感じた時には、暁は青い水の中にダイブしていた。
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