【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI

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32:翡翠3

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創主との【賭け】を承諾した時から、俺の目には、アキの魂の欠片を持つ生まれ変わりが、視えるようになった。

こことは違う世界に、その世界の身体を持って生まれ落ち、生涯を終え、そしてまた、違う世界に生まれる、俺のアキとは違う、もうひとりのアキ。

最初は、それを視られることが、嬉しかった。
アキではないけれど、その身に潜める魂の欠片は、間違いなく大切なアキの一片であり、愛すべき大切な光で、その生命が、違う世界といえども、生きている。ただ、それだけのことが、嬉しかったのだ。

創主のいう、100の贖いが済めば、アキは、理を破った贖罪を終え清浄な魂を取り戻し、生まれ変わることが出来る。
俺は、その時アキを迎えに行くのだと……あろうことか、『贖い』という言葉の意味を、俺は、完全に履き違えて理解していたのだ。


―――アキの転生は、凄絶なものだった。


生まれ落ちる場所は、いつも、その世界の最下層。
与えられるべき両親の愛情など無く、打ち捨てられ、唆られ、泥水の中を生きる、人としての尊厳など無い、生涯。守ってくれる者など誰一人居ない。たったひとりで生きて、ただ、決められた生の期限を生きるだけ。そうして、いつも最後は壮絶な死を迎え、その世界での生を終え、また、次の世界に生まれるのだ。

―――全ての、記憶を、持って。

あれほどに美しく優しい、稀有な魂を持っているのだ。世界から祝福を受け生まれ落ち、誰よりも幸せな生涯を送り、その命を終え安寧を得る権利が、アキにはあるはずだ。それがどうだ?アキに用意されているのは、それとは真逆の地獄のような生涯で、一生を全うすることも無く、いつもいつも……その命を、踏み躙られ、狩られ、散らされてしまうのだ。

アキの命を狩るのは、いつも同じ黒い竜だ。
アイツではない、真っ黒の竜の正体がなんなのか、俺にもわからない。
どうして、アキを、殺すのだ?
怒りが、悲しみが、湧き上がる……。
いつもいつも、アキの魂の欠片を持つアキの転生者を殺し、そうして、去っていく。闇よりも黒い竜。

転生を繰り返すごとに、アキの目は空虚になり、感情は擦り切れて、心を無くしていった。

ガラス玉みたいな目には、もう、何も写ってはいない。
あんなにも優しくて温かかった、大好きだったアキの瞳は、もう、何処にもない。

翡翠の目から、涙が溢れた。

もう、見ていられない。
今すぐにアキのもとに飛んでいって、抱き締めて上げたいが、それすら、叶わない。
今の俺には、何も、出来ないのだから。


「いっそ、俺を、殺せ―――」


何度、創主に願ったかしれない。
けれども、そんな俺に、創主は冷たい目を向けるだけ。

「これが、君の罪だ。僕の一番星に、触れた、罪」
「俺が―――全ての罪を贖う」
「それはできない。100の転生は、一番星が自分で望んだ、選択だからね」

なんだと?
血を涙を流さんが如くの俺の目を、静かに見つめてくる創主の目は、悲しみに暮れていた。

「……僕と一番星も、【賭け】をしている」

自分には視えない、違う世界を見つめているような創主の目が、不意にキツク閉じられた。

「この【賭け】の勝者が、いったい誰になるのか、僕にもわからないが、ひとつ、君にヒントをあげよう、翡翠」
「―――ヒント、だと?」
「いつもいつも―――一番星を殺しにくる、黒い竜。アレが何者で、何を目的として一番星の命を奪っているか、それを、考えるんだ」
「―――な、にを?」
「そして、その正体に辿り着くことができれば、あるいは……」

創主はそこで口を噤むと、眉を寄せ、唇を噛み、口の中だけで、何かを語った。

「いったい、何を言っている―――?!」
「僕としたことが、敵に塩を送りすぎた。ああ、そろそろ刻限だよ、翡翠?」
「少しは、こっちの話を―――」
「覚えているかい?僕が話した事を一番星に伝える事は、禁止だからね。それを破ったら、君の負けだ。この【賭け】からは脱落となる」

創主の声が遠のいて、視界がぐにゃりと歪んだ。
何かに、何処かに、飲み込まれるように、自分が無くなり、意識が遠のいて行く、感じがする。





「一番星の100度目の転生の時がきた。最後は、傍らに在れるように整えてあげると、言っただろう?僕は、約束は違えない。として、産まれておいで―――」





何も、みえない―――。

ここは……何処だろう?

とてもゆったりとした、温かな海の中のような、不思議な浮遊感。
薄い光に包まれて、自分は、その時を待つように目を閉じ微睡んでいた。

不意にまた、抗えないなにかの本流に流され、押し出され、辛く狭い道を抜け、温かな海の中から、知らない世界に放り出された。

寒い。
息が出来ない。

空気を、吸わなければいけない。
このままでは、緑の竜たるこの俺が、息が出来ずに死んでしまう!

瞬間、大きく口を開けると、肺に空気が流れ込んできて、俺は、声をあげていた。「おぎゃあ」と。



「元気な男の子です。お母さん頑張りましたね!」



なんだと?
コレは、どういうことだ?

よく見えない視界には、全てが巨大な世界があった。
創主のやろう……やりやがったな……。
ただの人として産まれておいでって、赤子からのスタートなんて聞いていないぞ。

こんなんでは、アキの生まれ変わりを探すことなど、簡単ではない。

見知らぬ世界に生まれ落とされた翡翠は、大変不本意ではあるが、産湯でキレイに洗われ、産着を着せられて、小さなベッドの上に寝かされたようだ。

ヤレヤレとも、やり切れないとも感じる、やり場のない感情を持て余し、なんとはなしに顔を右に向けた翡翠は、赤子の身体を衝撃に震わせて、小さな目を見開いた。


――目の前に、アキが、いた。


自分と同じく、おそらくは生まれたばかりの赤ん坊。けれども間違いない、アキの魂を持った、自分のただひとつの光が、ぽかりと目を開いて、翡翠を、見てきた。
その瞳は、黒に近い群青に、ジワリとうすく赤が散る。夜明けの空を思わせる色をしていた。
その瞳が、翡翠を見て、柔らかく笑んだ。


――アキが、笑った。


翡翠の眼から、涙が流れた。
涙が溢れて、止まらなかった。

どれだけ焦がれたかしれない、ただひとり大切なたったひとつの光が、今、自分の傍らにいる。
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