100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI

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41:天狼の一番星

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やっと思い出した。
自分が何故、99回もの転生を課されたのかを……。


それは、罰。


自分は、創生神てんろうよりこの世に生を受けた唯一の星。
創生神の傍らに座すべく生み出された、ただ一つの星だった。

創生神が創造する新たな世界の「はじめの神」の導き手としてその地に降り立ち、導きの終わりと共に、創生神のもとに戻る。決して、誰にも真名を明かしてはならない。真名を明かすということは、自分の全てを相手に与えることに他ならないから。それは、天狼と交わしたことわりであり、絶対の約束だった。

自分は、それを破ったのだ。


六竜の住まうあの世界で、黒い竜と、恋に落ち、真名を明かした。
自らに課せられたことわりを破り、恋に身を投じた、愚かで幸せだった自分。

覚悟は、していた。

あの金色に輝く瞳から、目が離せなくなったあの時から。
別れの時は、悲しかったけれども、恋し愛する心を持つことが出来て、自分は幸せだったと、思う。

自分の躰が分子となるまでに微細に散って、魂が100に砕けても、後悔はなかった。

自分の心は、黒い竜のもとに置いてきた。
一生、共にいられる。

それだけでいいと命を終えて、目を開いたら、目の前に天狼がいて、【賭け】を持ち掛けられたのだ。



「はじめの君にも問うたけど、今回がファイナルアンサーだよ僕の一番星。あの世界に戻り命を落とせば、今の君の魂は、完全に消滅する。過酷で苛烈な運命が待っているんだよ?ここに残れば、僕の寵愛を受け、悲しみや痛みを感じることもなく、今の君のまま、僕と同じく創造の神となれる」



そうだ。あの時も、今と同じく天狼と【賭け】をした。

オレが全てを思い出し次にを訪れる時、黒い竜を変わらずに愛していればオレの勝ち。それを捨て去っていれば―――天狼の勝ちだ―――。

たった一度の過ちだと。
自分の傍らに戻るのならば、理を破った大罪は帳消しにして、隣の席を用意する。

そうやって優しく諭してくれた天狼に、は、こう、尋ねたのだった。
もしも、自分が【賭け】に勝ったのならば―――。



「―――もう一度、戻ることが出来るのか?」



涙が、はらはらと落ちていく。
ああ、はじめの自分のあの時とまるで同じだ。

諦めると決めて、自分が消滅することを選択したというのに、もう、あのあたたかな場所に戻りたいのだ。あの腕の中に戻りたいと思う心は、暁のモノなのか、一番星のモノであるのかも、わからないのに……。

「……は、黒い竜とは言葉すら交わしていないくせに、愛していると、同じ選択をすると言うのかい?」

その通りだ。黒い竜の姿を見た時に溢れた感情は、一番星のモノの感情ではない。今、オレに涙を流れさせているこの感情は、翠月の――翡翠の腕の穏やかで優しい温もりと、瑠璃を抱き締めた時の柔らかくも優しい温もりと、オレを、大切にしてくれて、「暁」と名を呼んでくれる騒がしくも優しい青い竜と赤い竜と白い竜たちによるものだ。

でもそれらが全部混ざり合って、皆が、自分を呼ぶのだ。

「戻りたいと……が、言ってる……」
胸が痛んで、爪痕が残る程に掻きむしる。俺が持っていないと、何よりも欲していた、心が、感情が、躰の中で膨らんで破裂しそうだ。


「一番星の贖いよりも、悲惨な運命が君を待っているとしても?」


天狼の背後に浮いている大きな天球儀の中に、皆の姿が見えた。


オレのはじめの魂が愛した黒い竜クロウがいる。
オレの転生体を殺し続けた黒い竜の正体が誰かなんて、もう理解した。
二体の黒竜が、荒れ狂う雲間の間で火を吹き雷を落とし、世界を闇色で染め、黒く澱んだ空に破れたままの時空の裂け目から、赤い竜と青い竜と白い竜が現れる。
オレを抱いた緑の竜が戦線を離脱し、彼の領域たる緑の地に降り立ち、どんどん精気を失っていくオレを救おうと、持てる全ての力を、注ぎ込んでくれているのがわかる。

白漣が、瑠璃が、翡翠に同調し、オレを助けようと、血を吐く様に叫んでいる。

仔竜から大きく成長したとはいえ、瑠璃は瑠璃だ。オレの大好きな瑠璃色の目に一杯の涙を溜めて、瑠璃が、オレを呼んでいる。

翡翠の体温を感じる。
瑠璃の涙が自分を濡らすのがわかる。
白漣が己の治癒能力の全てを俺に注いでくれている。
蒼天がオレを呼んでる。
蘇芳が戻れと怒鳴る声が耳に響く。
黒羽クロウが「暁」と呼ぶ声が俺の胸を焦がす―――。


躰はまだ、皆のところにあって、ここにいるオレは魂だけを、天狼に連れてこられているのだと、はっきりと理解した。そして、まだ、躰と魂が繋がっていることも―――。


「あそこに戻って待っているのは、躰を失くし魂を100に砕かれ、98回命を奪われ99回もの人生を生きてきた君でも、耐え難い程の、運命だ……。前回は、99回の生まれ変わりの贖罪のあとで、このチャンスを与える賭けをしたが、でもね、今回は、今の君が命を落としたら、もう二度と、生まれ変わることは―――出来ないんだよ?」


それは、魂の完全なる消滅を意味する。


「それでも、あの黒い竜の元に戻りたい?」

たとえ一瞬の時しか生きれなくとも、彼らの側で息耐えたいと瞬間思ってしまって、暁は自嘲気味に苦笑するしかなかった。

竜のいない前の世界で、心を持たず、感情というものすら理解できなかった自分が、彼らの傍で自分を消滅させたいだなどと、こんな事を自分が思う日が来るなんて、本当に思いもよらなかったのだ。

「僕は行かせたくない、僕と生きよう、一番星。どうか、僕を選んで欲しい―――僕は、君を失いたくはないんだ」

懇願するような天狼の声に、ひどく懐かしい気持ちが蘇る。
自分は確かにこの人のことが大切だった。
この人は、自分に命をくれた創世神だ。
本当であれば、この神に仕え、この神の傍らで共に生きるはずの自分の運命を、魂を100に砕くという罰はあっても、他の運命を選ぶ権利を、選択をを与えてくれた、自分にとっては親とも言える、大切な人なのだ。

この神がいなければ、自分はあの世界で、愛する人と出会うことはなかったのだ。

「99回の転生で別の人生を歩んでも、オレは、クロウへの気持ちを消すことは出来なかった」
「―――君は……」
「オレの、勝ちだ……」

あなたとの賭けにオレは勝った。
クロウへの気持ちが完全に消えたら、天狼の勝ちで、自分は一番星の役割に戻る。
それが、オレたちで交わした【賭け】だったのだ。

「更に、プラスされてしまったし」
「翡翠か……ヤラれたなあ。僕としたことが、彼へのペナルティが悪い方に作用してしまったな」

もう何を言っても無駄だね。と悲しく微笑んで「最後の護法だ」と天狼がオレの額にキスを落としてきた。今の自分は魂のみで、実体がないというのに、天狼の唇はとてもあたたかくて、まるでエールを貰っているみたいだった。

「ごめん」
一言呟いて、銀糸の髪を引っ張って、天狼の額にキスを返したら、銀に水色の雨粒を垂らしたような瞳が驚いたように見開かれた。

「お前の為に生まれたのに、お前を選べなくてごめん」
「恋ってのは、創生の神にだってどうすることもできない不可思議な感情だ。もう、仕方がないと諦めるよ。二度もフラれたら、三度目なんて絶対にないだろう?」

顔を見られたくないのか、自分を抱き込んできた天狼が、オレの肩口に顔を埋めて呻いた。

「ところで、今世の一番星に聞きたいことがある」
「―――何だ?」
「どちらを選ぶんだい?」

クロウを好きなはじめの自分。そして 翡翠を好きな最後いまの自分。これは、自分で言うのも何だが、もうどうしようもないし、どうにも出来ないようだ。

そして、瑠璃だ。

瑠璃は、この世界で初めて出会った仔竜で(今はなんでか大きくなっているが)、この世界の何者からも自分を守り、温もりをくれて、笑顔をくれて、オレに感情をくれた大切な竜だ。

誰かを大切に想う感情なんて、ついさっき気付いたばかりの初心者に、誰よりも大切な三人(匹)から唯一を選べなんて、なんとも大変な事をいきなり投げて来るものである。

「クロウと翡翠と瑠璃の事を言ってるのか?」
「黒と緑だよ。チビ竜は、倫理的にも無理だろう」
「倫理?」

一応聞いてみたオレに向かい、天狼が「ああ~~~」っと天を仰いだ。

「僕は負け犬で悔しくて遠吠えを叫ぶしかないから、こればっかりは教えてあげない。向うで、聞きなさい」
「あっちに戻ったら死ぬだの、苛烈な運命が待ってるだの、大層なことで怖がらせておいて、聞けなんて、さすがにどうかと思うぞ」
「生きて欲しいってことだよ。なので、もうひとつ、僕から最高の祝福と最強の加護をあげよう」
「――――――っ」

声を上げるよりも早く、天狼に唇を奪われていた。

それは、親愛の情を示すもの。
愛欲というよりは、旅立つ子供に、幸多かれとの願いを贈る様な、今までの100の転生の中で初めて感じる、「親」からの愛情だった。

一番星として天狼の傍らで生きた記憶。
クロウとの愛し愛された記憶。
最後の世界での翠月との大切な記憶。
あの世界に戻って来てからの瑠璃との優しい記憶。

天狼の唇が自分から離れても、まるで熱に浮かされた様に、暁の躰は、熱かった。

「黒竜との記憶は、全部は完全に戻ってはいないだろう?君が、幻夢の木の花弁に隠した欠片は、黄竜に盗まれているからね?取り戻すには、行かなければいけない。そして、パンドラの箱の最後の鍵は、チビ竜だ。覚えておくんだ、暁」
「……瑠璃が?」

ぼんやりと尋ねる暁に、天狼は満面の笑みで彼の躰をくるりと反転させて、背中を押して送り出した。

「向こうでちゃんと生涯を終えて、ここに戻っておいで。その時に、もう一回口説くから、覚悟しておいてね?」

三度目なんて絶対にないといった舌の根が乾かない間に、そんなことを言った天狼が、どんどんと遠のいていった。
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