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43:夜明けの時
しおりを挟む「お久しぶりです、皆様。そして、はじめまして?渡り人様」
過去の自分が、美しい微笑みを浮かべて、今の自分を蔑んでくる。
色と性別は違えど、同じ顔をした、自分だったもの。
美しい姿に見惚れるほどの微笑みを浮かべていても、その瞳の色は、暗く淀み、冷たく下卑ていて、嫌悪感しか感じない。
この目に、暁は見覚えがあった。
はじめの自分ー一番星ーに纏わりついて、6竜に愛される存在がどれだけ幸せか幸運かを説きながらも、いつも自分を羨み、隙あらば成り代わろうとしていた、古代の悪霊アビゲイル。蛇が獲物に牙を剥く時に見せる陰鬱な攻撃色をしたその瞳は、別の躰を得ようとも、その本質は変わらない。
魂が転生し、違う躰で別の時を生きようとも、魂の記憶というものは、変わりはしないのだろうか?
では、俺は、どうなのだ?
俺は―――どうしたら、良いのだろうか……。
はじめの記憶を思い出し始めても、それが、自分の中で融合しない違和感。
今までの98回の記憶は、今の自分と同一で、同じ自分であると疑いようもない。
俺は、俺で……はじめの俺は―――。
暁は、アビゲイルを目の前にして、混乱の真っ只中に遭った。
自分であったものの躰の中に存在する別の魂であるアビゲイルは、自分とは違い、躰と魂の違いに違和感も感じず、完全に融合しているように見える。
あの躰は、もう、彼女のモノなのだろう。
それを証明するように、そんな顔、自分がその身体にあった時に等、見たこと事もないとしかいえない、ひたすらに下品な笑みを浮かべて、アビゲイルが暁を蔑んでくる。
「創世神様に生み出され6竜様に愛された、尊いあなたの躰はいまや私のモノ。あなたを滅し、最後の欠片を我が身に取込み、黄竜様が求め続けた世界に愛されるべき一番星に、世界を照らす唯一の光となって輝く―――それが、わたくしです」
芝居がかって両手を胸に当て、神の御使いのように穏やかな笑みを浮かべたアビゲイルが、悦に入った大根役者のように宣誓を始め、竜達が舌打ちし、口々に呆れ声を上げる。
「馬鹿もここまでくると天に上るか」
「青。はっきり言ってもマヌケには通じないぞ」
「アカツキ。狂人の狂言など聞く必要はありませんからね」
蒼天と蘇芳に続き、白漣までもが、瞳が竜体変化直前の攻撃色に爛々と輝き始め、瞳孔が縦に割れている。
そんな青赤白の竜三体の殺気を浴びながらも余裕で微笑むアビゲイルから隠すように、翡翠が俺をキツク抱き締めて来た。胸に張り付いた瑠璃が、アビゲイルに向かって威嚇に牙を鳴らしている。
決して渡さないと、絶対にこの腕から離すことなどないと、翡翠と瑠璃の全身が俺に伝えてくれる。
胸が熱い。
今までの99回の転生の中で、こんなにも胸が熱くなることなど、一度としてなかった。
どうしていいかわからない。
ココにいたいと、そんな思いだけが俺の心を焼く。
心。
俺が一番に欲しかった心が、今、この胸を焼いているのに、『一番星の贖いよりも、悲惨な運命が君を待っている』といった、天狼の言葉が頭にこだまする。
今、ここで命を落としたら、もう、生まれ変わることはできない。
それでもいいと、思った。自分が一番欲しかった心が、今、ここに在る。この心を取り戻させてくれたのは、騒がしくも優しい青と赤と白い竜と、この世界に来てからずっと俺に笑いかけてくれた瑠璃の存在と―――はじめの俺から心を奪ったままの愛しい黒い竜と、心の無い俺に愛をくれた緑の竜。
彼らの心を守りたいと、今、強く思う。
それが、今の自分の終わりを迎えることになっても、いい。
それは、はじめの自分である、一番星の望みであり、今の自分の、望みでもあるから。
「―――黄麟が、ソノ躰を、再生したのか……?」
彼らの愛した一番星の躰を持った悪霊アビゲイル。
俺の大切な竜達の心を傷付け続けるお前を、俺は、許すことは出来ない。
彼らが大切にしている、一番星との記憶を、お前が汚すことなんて、絶対に許しはしない。
「恐れ多くも創生神様を裏切る大罪を犯し、その身を塵芥に砕かれ、異世界に魂を散らされた、忌むべき百分の一の魂の欠片でしかないあなたが、贄の分際で!黄竜様を呼び捨てにするなんて、おこがましいにも程がある!!お控えなさい!!」
「全てを汚すお前に言えた言葉ではないな、アビゲイル」
「なっ―――なんですって?!」
俺の言葉にアビゲイルが醜く顔を歪め、翡翠以外の竜達が驚愕に表情を変えた。
「思い出したよ―――悪霊アビゲイル」
暁の瞳が光を帯びた。
群青の瞳に赤が滲み、夜明けの暁の空の様にジワリと色を変えて、その目で静かにゆっくりと世界を見渡して、蒼天を蘇芳を白漣を、瑠璃を、そして翡翠を見つめ、今なお空で戦い続ける黒い竜を見上げて、微笑む。
「アキ……」
名を呼ぶ翡翠に安心させるように綺麗に笑って立ち上がる暁を、竜達は声を無くして見つめるしかなかった。
神々しいまでの威厳を纏った暁は、明らかに今までの暁ではなく、彼らの記憶の中に眠る、ただひとりの大切な人の面影と完全に一致していた。
「俺の大切な竜達を、悲しませるな。ソコから、出ていけ」
夜明けの光が、黒雲を切り裂き、暗闇の空が暁色に包まれた。
空と同じ色の瞳が、真っすぐに世界を見つめ、空にあった二体の黒竜が動きを止めて、驚愕の眼差しで暁を見つめ返してくる。
夜明けの時だ。
夜の空から戻った一番星が、はじめの世界を静かに見据え、全てを慈しむ様に優しく微笑んだ。
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