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47:暁の目覚めの時
しおりを挟む「リン……」
暁は、ただ静かに、黄麟の名を呼んだ。
黄麟は、一番星の魂の欠片を抱いての贖罪の転生の旅路の中で、オレを殺し続けた、恐怖の象徴である黒い竜だ。憎みこそすれ、救ってやる義理なんてない。今だって、玩具みたいに犯されるギリギリ寸前だ。
だが、自分の体を奪われそうになって、何も考えられなくなって救いを求めた、ないと思っていた心の中にいつの間にか住み着いていた愛しく大切な人が、オレの名を呼び、ソレを教えてくれた。
誰かを好きになるということは、残酷なことだ。
たった一人を選んでしまったら、もう、他は、何も見えなくなってしまう。
一番星は、まさにコレの典型だった。
彼女は黒竜を選び、天狼を、他のはじめの竜たちを、そして自分の生涯すらも、振り返ることなく、全て捨てたのだ。
自分は、黄麟が求める一番星ではないし、一番星のツケを払う義理もないけれど、けれど、すこしだけ、手を伸ばしてやりたいと、思ってしまった。
今だって酷いことをされているし、殺され続けた憎しみが消えたわけではない。
でも、一番星を失い、切り付けられ開いたままの傷口から今なお流れ続けている血を、拭ってやりたいと思う。
その気持ちを、オレの心から感じているのか、一番星の心から感じているのかは、わからないが、見て見ぬフリは、今のオレには、もうできない。
黄麟を真っ直ぐに見上げる暁の瞳は、静かに凪いでいた。
名前通りの夜明けの暁色のオレの瞳は、黄麟の知る一番星の瞳の色ではない。
でも、オレは、お前を見逃さない。
お前だって、皆と同じく、一番星が愛した大切なはじめの6竜の一人なのだから。
声すら発せず瞬きもせずに凝視してくる黄麟に向かい、痛む両手を伸ばして暁は彼を柔らかく抱き締めた。
「お前の心は―――変わらず幼いままだな……」
黄麟がひゅっと息を吞むのがわかった。
はじめの竜たちとこの地に生きたはじめの自分が、表面上は明るく優しいけれど、心の根っこの部分でどの竜よりも幼く、我儘だった黄麟を抱き締めて、甘やかすときによく使った言葉だからだろうか?
黄麟が呼吸すら止まるくらいに、全身を硬直させた。
ラスボスが、そんなわかりやすくてどうするんだよ……。
本当にお前は幼いままで、欲しいものを欲しいと皆に言えないくせに、誰よりも欲しがって、それを飲み込んで自家中毒みたいに自分の心を澱ませていく。
だけど―――……。
「オレは、そんなお前の幼い心が、愛しいと思っていたよ。リン」
それはお前が、自分にだけ正直だから。
誰よりも正直で真っ直ぐなのに、歪んでしまう。それを助けてあげたかったけれど、オレは、いや、一番星はお前を選ぶことはなかった。
「―――興醒めだ。玩具にもならん」
オレの両腕を力任せに払いのけ、扉に向かい歩き出す黄麟の背に、拭いきれない動揺の色が見える。
お前は、幼い時からそうだったな、黄麟。
一番星に自分の心を言い当てられると、顔を見られないように背を向ける。顔を見せたくないのはわかるけど、耳が、赤くなってるから、丸わかりだ。
「……僕の風花の、言葉を使って―――命乞いなど見苦しくて、反吐が出る。だけど、明日の儀式に死体を出すわけにはいかなから、明日まで生かすため、白竜に、監視をさせる」
両耳を赤くした黄麟が、扉を壊す勢いで部屋から出て行った。
どうやら、今を乗り切ったようだが、オレの命の刻限は明日までのようだ。
だけれど、なんとかこの身は守れた安堵は大きい。
99回も転生しまくって、今世は男として生まれていても、一応の貞操観念は、ある。
嫌だと、死んだ方がましだと、舌を噛もうとすらした。
命を捨ててでも、嫌だと、考えたのだ。
―――オレは、アイツのために、この身を守ったのか……?
「は」
なんだ、この感情は。
こんな自分を、オレは知らないぞ。
大きく息をついて柔らかいベッドに体を沈めると、全身の裂傷は痛みを通り越して、もう感覚として体には何も感じなくなっていた。
「……死ぬ、のかな?」
ここで命を落としたら、オレの魂は完全に消滅すると、天狼が言っていた。
完全に消滅するのは、いい。
それこそが、99回の転生人生の中で、オレが何よりも求めていたものだ。
だが―――。
瑠璃は、どうしているのだろうか?
瑠璃は、オレの命に代えても、絶対に助けなければ……。
皆は、どうしているのだろう?
血の誓いの縛りを、解いてやりたい。今のオレには、それができるから。
クロウは、スイは―――。
次元すら超えて、オレを探してくれたのに……オレの魂が消滅したら……。
ちょっとまて、未練だらけじゃないか?
自分はいったいどうしてしまったんだ……。
心だけ見つけて、自分を消滅させたくて、この世界に来たというのに、今、どうしてこんなに、命が、惜しい……。
「―――に、逢……いたい……」
口に出したら、涙まで出てきてしまった。
女々しいどころの話ではない。
逢いたくて逢いたくて……もう、どうしようもない。
これはやっぱり……自分の体を守ったことと合わせても、そういう、ことなのだろうか……?
「―――アカツキ!目を覚まして!息を吸って!!お願いです?!」
白漣の声に、意識がゆっくりと浮上していくのがわかる。
ああ、今、本当に危なかった……。
白漣がオレを呼んでくれなかったら、思考の深淵の向こうに足を踏み入れるところだった。
「……ハ……ク…?」
「アカツキ!息吸って!呼吸を止めちゃ駄目です!!」
黄麟は、どうやら本当に白漣を寄こしてくれたようだ。
白漣の治癒能力は、はじめの竜の中で一番だから、オレはどうやら命拾いしたらしい。
「ああっ眠っちゃダメです!起きて、痛くても起きて!痛みがあるのは生きてる証拠です!ああ……本当に何ですかこの傷だらけの体は?!私の全竜力を行使してでも絶対に!全部キレイに直します!!―――っが、なんで裸なんですか?!黄竜の野郎っぶっ殺してやる!!」
青くなったり赤くなったりの百面相の白漣に、今ここで犯される寸前だったなんて言ったら、白竜の逆鱗に触れて、ひどい騒ぎになるのは目に見えている。自由に動かない指先を何とか伸ばして、白漣の真っ白で長い髪をつんっと引っ張る。
「……アカツキ?」
「……あ…した、殺される、みたい……だから、無理―――しないでいいけど、ちょっとだけ、動けるように……」
「死なすわけがないでしょう?!絶対に守りますし、絶対に助けます!あの馬鹿ども総動員して、こんな城破壊して、あの頭のいかれた悪魔の申し子どもを、皆殺しにしてくれます!!」
白漣があまりにも白漣らしくて、ちょっとだけ笑えて、ちょっとだけ、元気が出た。
うん。そうだ、まだ死ねないし、死にたくない。
やっとわかった、この心の奥底を、アイツに伝えないと、死んでも死にきれない。
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