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46:記憶のカケラ2
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小さな黄色い竜が、膝を抱えて一人で星空を眺めている。
その背は、幼いながらに寂しそうな孤独の色が濃くて、心配になった。
黄色の竜は、太陽と大地に色を付けた光の、その代名詞のような竜なのに、どうしてそんなに寂しそうに、一番に輝く星を見つめているのだろうか。
黄麟は、誰にでも明るく優しいけれど、底の読めない所がある。
「リン」
自分だけが呼ぶことを許されている愛称で黄麟を呼ぶと、ぴくりと一瞬その背に緊張を走らせて、彼が振り返る。
振り返った顔は、いつもの優しい穏やかな顔だ。
先刻の、孤独を湛えた後ろ姿など一片たりとも、見受けられはしない。
「―――風花、こんな夜更けに、どうしたの?」
にこりと微笑む、黄麟の顔が、どうしてか痛ましい。
百の齢を重ねても、創主のもとで星の宿命を生きる自分にとっては、まだまだ幼い竜の仔だ。
世界を創造し、はじめの6竜として世界を統べる幼い黄の竜が、今どんな孤独を抱えているのかは、自分にはわからない。わからないが、このまま、知らないフリをすることは出来なかった。
「どうもしてない」
何も聞かずに静かに手を伸ばして、黄麟の体を抱きしめる。
「風花……?」
「私が寂しくて、悲しいだけだ」
君たちの導き手として傍らにいる私には、意外と出来ることは少ない。
傍らで見守り、君たちの成長を見守ることしかできない、結構な役立たずなんだ。
自分自身が不甲斐なくて仕方がない。
そんな思いを言葉には出さず、ただ、黄麟を抱き締めていたら、小さな笑い声が胸の中からくすりと聞こえてきた。
「……風花はどうして僕のことがわかるの?」
「わからないから困っている」
「いいや。わかってる」
背に回った黄麟の幼い手が、ぎゅうっと強く力を込めてくる。
「僕は今、風花に抱き締めて欲しかった。そしてね」
抱き締めた胸の中から、ゆっくりと顔を上げた黄麟のオリーブ色の瞳が、真っ直ぐに自分を見つめて、ゆっくりと近付いてくる。
鼻先が触れるほどに、唇が触れるほどに近付いて、瞬間身を引く自分の前で、幼い黄麟の姿が、大人の姿に変貌した。
「風花を、僕のものにしたい……」
・・・
ぱちりと目が覚めたら、鼻先が触れるほどの距離から、暗い緑みの黄色い双眸が自分を射ていた。
鈍い光と、その奥に読み取れない仄暗い闇が見える、オリーブ色の瞳。
黄麟の目は、言葉よりも本心を語る。
口から発する言葉は相手を思いやる優しい美辞麗句だとしても、彼の本心は決してそれとイコールではない。彼にとって大切なものは、昔も今も、きっと変わらず一番星だけ。
それは、幼い頃から全くといっていい程に変わらないと、その優しいフリをした鋭い双眸が、恐ろしいほどの冷たさで伝えてくる。
「……色と性別を別とすれば、僕の風花とそっくり同じ顔をしているんだね」
微笑んでいる顔の下に、隠しきれない、憎しみが見える。
いや、違うか……。
憎しみというよりは、怒り、だ。
……大切な一番星と、同じ顔をしたオレを憎み、憤怒にかられて叫びだす、寸前なんだろう?
どうやら場所は移動させられたようで、あの陰気で光も差さない苔むした石畳ではない、柔らかなベッドの上にはいるようだが、ここがどこかはわからない。瑠璃も、いない。状況が全く掴めない……。
ひとまず、距離が近すぎる。
身を引こうとして全身に雷に撃たれたように痛みが走り、あまりの衝撃に歯を食い縛り声を殺す。
背中が、全身が、焼け付くように痛む。
首の拘束具は先刻のまま嵌められていて、息をするのも辛い位だ。
全身を貫く痛みと同じくらい、喉が、苦しく、拘束具を両手で掻き毟る。
「残念ながらそれは外せないし、あの女の鞭で体中が裂かれている。動かない方がいい。身じろぐだけでも、辛いでしょう?」
言葉だけを読めばこちらの身を心配している様だが、声音は正反対だ。
―――隠しきれない喜悦の響き。
大切な一番星の姿を映すオレが、痛みに耐えているのが、楽しくて仕方がない。そんな声音だ……。
瞬間的に、その理由を理解した。
一番星の魂の欠片を持つ存在を、黄麟は、憎んでいるのだ。
先刻、意識を失う寸前に「白竜に、治療をさせようか?」と言っていたくせに、そんな気はほんの少しもないのだろう。
そうだな。異界に転生するオレを殺し続けた黒い竜は、お前だったな、黄麟?
一番星の100に砕けた魂を搔き集め、彼女を再生させることしか頭にないお前にとっては、大切な一番星の魂の欠片をその身に宿した、一番星の記憶を持たない転生体など、憎しみと嫌悪の対象でしかなかったのだろう。いつもいつも……これ以上の楽しみはないといったくらいに、喜びに打ち震えながら、オレを殺し続けるお前が恐ろしくて、それを忘れたフリをしていたけれど、その仄暗いオリーブの双眸を見て、今、全てを思い出した。
お前は、一番星の欠片を持つ転生体を、心の底から憎み抜いていた。
どうしてそんなに、お前の心は歪んでしまったのだろうか?
そんなふうにお前を歪めてしまったのが一番星だとしたら、そんなお前をオレは救うことができるのだろうか……。
助けてあげたいと、思う。
お前だって、一番星が大切にしていた、はじめの竜の一人なのだから。
「いつもは、この顔ではなかった……。どうして君は、僕の風花の顔をしているんだい?」
ついっと伸ばしてきた黄麟の手は、氷のように冷たかった。
凍るような指先が、左の頬に触れ、指先に力が込められたと思ったら、ギリッと爪を立てられて、頬に熱が広がり、鋭い爪に裂かれたソコから、血が流れ始めたことを知る。
全身が焼かれるように痛いから、そんな痛みはもう、熱を持ったくらいにしか感じない。
「……かな、しいな」
「大丈夫だよ、君を殺すのは明日にした。風花の最後の魂の欠片を迎えるんだもの、厳かに静謐に、神聖な儀式を執り行って、優しく、君を殺してあげよう。僕の風花を100に砕いた、憎むべき創主に、君の最後を―――見せつけるためにね」
やはり、そうか……。理を破った一番星を100に砕き、自らの作った異界へと転生させ魂の浄化をさせようとした天狼と、その転生体である99人のオレを、黄麟は、憎み続けている。
そして、こんな運命を選び、黄麟ではない竜を選んだ一番星をも憎み、彼は、自分だけの一番星を生み出そうとしているんだろう。
黒と緑の竜は、戻ると約束した一番星を取り戻すために、オレを追ってくれた。
青と白と赤の竜は、戻ると約束した一番星を待ち続けて、オレを迎えてくれた。
でも、黄の竜であるお前は、戻ると約束した一番星を否定し、自分だけの一番星を再生させようとしている。
でもね?
そんなこと、無理なんだよ。
失ったモノは、戻らない。
割れた器からこぼれた水が、流れ出てしまうのと同じ。
魂は同じでも、残った魂と、流れ出て生き続けた魂は、同じではない。
お前の求める、お前の欲しい一番星の魂の在る所は、あの時と変わらないあの場所だ。
「……リン」
膝を抱えて一人で星空を眺めていた、遠い昔のあの時の、寂しそうな孤独な背中を見せてきた幼いお前と、今のお前が、重なって見える。
オレを痛めつけ愉悦にふけるお前が、可哀そうでならない。
「―――お前が、呼ぶな」
竜の力で軋むベッドに背中から押し倒されて、骨は軋み、背は業火に焼かれるように痛む。それを耐えるために唇を嚙み締めたら血が滲み、口の中に鉄の味が広がった。でも、オレの最後のプライドだ。絶対に叫び声など出してやるものか!
「その名を呼んでいいのは、風花のみ。偽物のお前など、僕が風花にのみ許した名を呼ぶことなど、許すはずもない!控えるがいい!」
「……オ、レは―――お前が、憐れ、だ」
「な―――んだと?!」
がつん!とした衝撃を頭に受けて、意識が混濁する。
殴られたのだと、ぼんやりとどこか遠くで理解し始めた時、アビゲイルの鞭打ちで、肌もろともぼろ布と化していた着衣が強引に剝ぎ取られ、あまりの痛みに遠のく意識が瞬時に戻った。流れた血により傷口に張りついた布を力任せに剝がされたのだ。鉄ごてを体に焼き付けられるほどの熱さと痛みが脳天を突き破る。
「っぐ、ぅ―――!!」
息すらできない衝撃の中、痛みに漏れた自分の声にもかまわず、黄麟は何を思ったのか、全身に纏わる着衣だった布をすべて剝ぎ取っていく。
痛い……。皮膚をはぎ取られるみたいな痛みに意識が飛びそうになる中、考えもしなかった黄麟の言葉が耳を掠め、暁は、痛みに歪む視界の中で皮肉に暗く笑む相手を、見据えた。
―――今、黄麟は、何と言った?
「聞こえなかったのか?君を犯すのも一興、と言ったのだ。君は転生体でありながら僕の風花と、性別が違っても姿は同じ……。僕は、僕の聖なる神たる風花に邪な意味で指一本触れることは出来ない。でも、君は、違う。風花の姿を持っていても、君は男で、風花では、ないからね?」
あまりの衝撃の言葉に、全身を焼き付ける痛みすら忘れ、自分を押し倒し獣のような目を向けてくる黄麟を、ただ見上げるしかなかった。
「明日、君は殺してしまうし。チャンスは今だけだ。風花の姿を盗んだ君を犯し、殺す。明日再生される風花に、良い餞になるとは思わないかい?」
自分を襲う目の前の黄色い竜の雄の顔に、暁は言葉も出なかった。
ここまで、歪んでしまったなんて……。
どうしてよいかの糸口さえ見えない。
黄麟のこの歪みを正せるのは、この世に一番星ただ一人。
でも、彼の人はもうこの世に生きてはいないし、その魂は、ただひとりのもとから動くことはない。
裂傷が塞がらないままの胸元を舐めつけられ、自由を奪う『呪』付の魔具拘束具を嵌められた首元に上がってくる黄麟の舌の感触に、総毛立つ。自分の体を拘束する相手の体を押し返そうと、痛みに力の入らない両手で抵抗するが、簡単にひとまとめにされて、頭上に縫い留められる。あいた手で、ぼろぼろの体を弄られて身を捩れば、自分自身をその手で包まれやんわりと揉みしだかれて、暁は自分の体が反応してしまう事に差恥を禁じ得ず唇を噛み締めた。
「……や、めろっ」
「全身傷だらけでも、この反応……君は、こういうのが好みなのかい?」
その手で言葉で凌辱されても、それを止める手立てなんかなくて、あまりの怒りに涙すら滲んでくる。
いやだ。
こんなことで、体を奪われるなど……好きでもない相手に、それも雄に組み伏せられて、憎しみを昇華するためのおもちゃみたいに玩ばれる等、死んだ方が、ましだ。
「―――っや」
「嫌だって?こんなに体は反応しているっていうのに。浅ましいね?やはり、君は僕の風花ではない、僕の欲を満たすには、本当に良いおもちゃだよ、君は」
こちらのことなどお構いなしに、どんどん体を暴かれて、黄麟の欲をこの身に受けていく……。
傷だらけの体に、感じたことのない快楽への喜悦が沸き上がり、吐息に甘さが滲んでいくのが自分でもわかり、そんな自分に嫌悪感を抱き吐き気が喉元まで上がってくる。
いやだ……。
絶対に、嫌だ……。
オレは、オレは―――……!!
『――キ』
自分の名を呼ぶ愛しい声に、目が覚めた。
「―――リン」
暁は静かに、その名を呼んだ。
先刻の「リン」呼びには激怒した黄麟が、びくりと全身を震わせて、暁を嬲る手を止めひたりと寄せていた半身を上げ、目を見開いた。
暁が黄麟を呼んだその響きは、自分を犯す相手を諫めるでも宥めるでも憐れむでもなく、ただ静かに黄麟を止めた。
黄麟は、その響きを覚えていた。
その響きは、一番星が、黄麟の大切な風花が、ただひとり彼を止める時に呼び掛けた声音と同じ……。
「―――か、ざ……はな?」
暁であって暁ではない、一番星の欠片を宿した、命を奪うべき相手の変貌に、黄麟は声を震わせ驚愕に目を見開いた。
その背は、幼いながらに寂しそうな孤独の色が濃くて、心配になった。
黄色の竜は、太陽と大地に色を付けた光の、その代名詞のような竜なのに、どうしてそんなに寂しそうに、一番に輝く星を見つめているのだろうか。
黄麟は、誰にでも明るく優しいけれど、底の読めない所がある。
「リン」
自分だけが呼ぶことを許されている愛称で黄麟を呼ぶと、ぴくりと一瞬その背に緊張を走らせて、彼が振り返る。
振り返った顔は、いつもの優しい穏やかな顔だ。
先刻の、孤独を湛えた後ろ姿など一片たりとも、見受けられはしない。
「―――風花、こんな夜更けに、どうしたの?」
にこりと微笑む、黄麟の顔が、どうしてか痛ましい。
百の齢を重ねても、創主のもとで星の宿命を生きる自分にとっては、まだまだ幼い竜の仔だ。
世界を創造し、はじめの6竜として世界を統べる幼い黄の竜が、今どんな孤独を抱えているのかは、自分にはわからない。わからないが、このまま、知らないフリをすることは出来なかった。
「どうもしてない」
何も聞かずに静かに手を伸ばして、黄麟の体を抱きしめる。
「風花……?」
「私が寂しくて、悲しいだけだ」
君たちの導き手として傍らにいる私には、意外と出来ることは少ない。
傍らで見守り、君たちの成長を見守ることしかできない、結構な役立たずなんだ。
自分自身が不甲斐なくて仕方がない。
そんな思いを言葉には出さず、ただ、黄麟を抱き締めていたら、小さな笑い声が胸の中からくすりと聞こえてきた。
「……風花はどうして僕のことがわかるの?」
「わからないから困っている」
「いいや。わかってる」
背に回った黄麟の幼い手が、ぎゅうっと強く力を込めてくる。
「僕は今、風花に抱き締めて欲しかった。そしてね」
抱き締めた胸の中から、ゆっくりと顔を上げた黄麟のオリーブ色の瞳が、真っ直ぐに自分を見つめて、ゆっくりと近付いてくる。
鼻先が触れるほどに、唇が触れるほどに近付いて、瞬間身を引く自分の前で、幼い黄麟の姿が、大人の姿に変貌した。
「風花を、僕のものにしたい……」
・・・
ぱちりと目が覚めたら、鼻先が触れるほどの距離から、暗い緑みの黄色い双眸が自分を射ていた。
鈍い光と、その奥に読み取れない仄暗い闇が見える、オリーブ色の瞳。
黄麟の目は、言葉よりも本心を語る。
口から発する言葉は相手を思いやる優しい美辞麗句だとしても、彼の本心は決してそれとイコールではない。彼にとって大切なものは、昔も今も、きっと変わらず一番星だけ。
それは、幼い頃から全くといっていい程に変わらないと、その優しいフリをした鋭い双眸が、恐ろしいほどの冷たさで伝えてくる。
「……色と性別を別とすれば、僕の風花とそっくり同じ顔をしているんだね」
微笑んでいる顔の下に、隠しきれない、憎しみが見える。
いや、違うか……。
憎しみというよりは、怒り、だ。
……大切な一番星と、同じ顔をしたオレを憎み、憤怒にかられて叫びだす、寸前なんだろう?
どうやら場所は移動させられたようで、あの陰気で光も差さない苔むした石畳ではない、柔らかなベッドの上にはいるようだが、ここがどこかはわからない。瑠璃も、いない。状況が全く掴めない……。
ひとまず、距離が近すぎる。
身を引こうとして全身に雷に撃たれたように痛みが走り、あまりの衝撃に歯を食い縛り声を殺す。
背中が、全身が、焼け付くように痛む。
首の拘束具は先刻のまま嵌められていて、息をするのも辛い位だ。
全身を貫く痛みと同じくらい、喉が、苦しく、拘束具を両手で掻き毟る。
「残念ながらそれは外せないし、あの女の鞭で体中が裂かれている。動かない方がいい。身じろぐだけでも、辛いでしょう?」
言葉だけを読めばこちらの身を心配している様だが、声音は正反対だ。
―――隠しきれない喜悦の響き。
大切な一番星の姿を映すオレが、痛みに耐えているのが、楽しくて仕方がない。そんな声音だ……。
瞬間的に、その理由を理解した。
一番星の魂の欠片を持つ存在を、黄麟は、憎んでいるのだ。
先刻、意識を失う寸前に「白竜に、治療をさせようか?」と言っていたくせに、そんな気はほんの少しもないのだろう。
そうだな。異界に転生するオレを殺し続けた黒い竜は、お前だったな、黄麟?
一番星の100に砕けた魂を搔き集め、彼女を再生させることしか頭にないお前にとっては、大切な一番星の魂の欠片をその身に宿した、一番星の記憶を持たない転生体など、憎しみと嫌悪の対象でしかなかったのだろう。いつもいつも……これ以上の楽しみはないといったくらいに、喜びに打ち震えながら、オレを殺し続けるお前が恐ろしくて、それを忘れたフリをしていたけれど、その仄暗いオリーブの双眸を見て、今、全てを思い出した。
お前は、一番星の欠片を持つ転生体を、心の底から憎み抜いていた。
どうしてそんなに、お前の心は歪んでしまったのだろうか?
そんなふうにお前を歪めてしまったのが一番星だとしたら、そんなお前をオレは救うことができるのだろうか……。
助けてあげたいと、思う。
お前だって、一番星が大切にしていた、はじめの竜の一人なのだから。
「いつもは、この顔ではなかった……。どうして君は、僕の風花の顔をしているんだい?」
ついっと伸ばしてきた黄麟の手は、氷のように冷たかった。
凍るような指先が、左の頬に触れ、指先に力が込められたと思ったら、ギリッと爪を立てられて、頬に熱が広がり、鋭い爪に裂かれたソコから、血が流れ始めたことを知る。
全身が焼かれるように痛いから、そんな痛みはもう、熱を持ったくらいにしか感じない。
「……かな、しいな」
「大丈夫だよ、君を殺すのは明日にした。風花の最後の魂の欠片を迎えるんだもの、厳かに静謐に、神聖な儀式を執り行って、優しく、君を殺してあげよう。僕の風花を100に砕いた、憎むべき創主に、君の最後を―――見せつけるためにね」
やはり、そうか……。理を破った一番星を100に砕き、自らの作った異界へと転生させ魂の浄化をさせようとした天狼と、その転生体である99人のオレを、黄麟は、憎み続けている。
そして、こんな運命を選び、黄麟ではない竜を選んだ一番星をも憎み、彼は、自分だけの一番星を生み出そうとしているんだろう。
黒と緑の竜は、戻ると約束した一番星を取り戻すために、オレを追ってくれた。
青と白と赤の竜は、戻ると約束した一番星を待ち続けて、オレを迎えてくれた。
でも、黄の竜であるお前は、戻ると約束した一番星を否定し、自分だけの一番星を再生させようとしている。
でもね?
そんなこと、無理なんだよ。
失ったモノは、戻らない。
割れた器からこぼれた水が、流れ出てしまうのと同じ。
魂は同じでも、残った魂と、流れ出て生き続けた魂は、同じではない。
お前の求める、お前の欲しい一番星の魂の在る所は、あの時と変わらないあの場所だ。
「……リン」
膝を抱えて一人で星空を眺めていた、遠い昔のあの時の、寂しそうな孤独な背中を見せてきた幼いお前と、今のお前が、重なって見える。
オレを痛めつけ愉悦にふけるお前が、可哀そうでならない。
「―――お前が、呼ぶな」
竜の力で軋むベッドに背中から押し倒されて、骨は軋み、背は業火に焼かれるように痛む。それを耐えるために唇を嚙み締めたら血が滲み、口の中に鉄の味が広がった。でも、オレの最後のプライドだ。絶対に叫び声など出してやるものか!
「その名を呼んでいいのは、風花のみ。偽物のお前など、僕が風花にのみ許した名を呼ぶことなど、許すはずもない!控えるがいい!」
「……オ、レは―――お前が、憐れ、だ」
「な―――んだと?!」
がつん!とした衝撃を頭に受けて、意識が混濁する。
殴られたのだと、ぼんやりとどこか遠くで理解し始めた時、アビゲイルの鞭打ちで、肌もろともぼろ布と化していた着衣が強引に剝ぎ取られ、あまりの痛みに遠のく意識が瞬時に戻った。流れた血により傷口に張りついた布を力任せに剝がされたのだ。鉄ごてを体に焼き付けられるほどの熱さと痛みが脳天を突き破る。
「っぐ、ぅ―――!!」
息すらできない衝撃の中、痛みに漏れた自分の声にもかまわず、黄麟は何を思ったのか、全身に纏わる着衣だった布をすべて剝ぎ取っていく。
痛い……。皮膚をはぎ取られるみたいな痛みに意識が飛びそうになる中、考えもしなかった黄麟の言葉が耳を掠め、暁は、痛みに歪む視界の中で皮肉に暗く笑む相手を、見据えた。
―――今、黄麟は、何と言った?
「聞こえなかったのか?君を犯すのも一興、と言ったのだ。君は転生体でありながら僕の風花と、性別が違っても姿は同じ……。僕は、僕の聖なる神たる風花に邪な意味で指一本触れることは出来ない。でも、君は、違う。風花の姿を持っていても、君は男で、風花では、ないからね?」
あまりの衝撃の言葉に、全身を焼き付ける痛みすら忘れ、自分を押し倒し獣のような目を向けてくる黄麟を、ただ見上げるしかなかった。
「明日、君は殺してしまうし。チャンスは今だけだ。風花の姿を盗んだ君を犯し、殺す。明日再生される風花に、良い餞になるとは思わないかい?」
自分を襲う目の前の黄色い竜の雄の顔に、暁は言葉も出なかった。
ここまで、歪んでしまったなんて……。
どうしてよいかの糸口さえ見えない。
黄麟のこの歪みを正せるのは、この世に一番星ただ一人。
でも、彼の人はもうこの世に生きてはいないし、その魂は、ただひとりのもとから動くことはない。
裂傷が塞がらないままの胸元を舐めつけられ、自由を奪う『呪』付の魔具拘束具を嵌められた首元に上がってくる黄麟の舌の感触に、総毛立つ。自分の体を拘束する相手の体を押し返そうと、痛みに力の入らない両手で抵抗するが、簡単にひとまとめにされて、頭上に縫い留められる。あいた手で、ぼろぼろの体を弄られて身を捩れば、自分自身をその手で包まれやんわりと揉みしだかれて、暁は自分の体が反応してしまう事に差恥を禁じ得ず唇を噛み締めた。
「……や、めろっ」
「全身傷だらけでも、この反応……君は、こういうのが好みなのかい?」
その手で言葉で凌辱されても、それを止める手立てなんかなくて、あまりの怒りに涙すら滲んでくる。
いやだ。
こんなことで、体を奪われるなど……好きでもない相手に、それも雄に組み伏せられて、憎しみを昇華するためのおもちゃみたいに玩ばれる等、死んだ方が、ましだ。
「―――っや」
「嫌だって?こんなに体は反応しているっていうのに。浅ましいね?やはり、君は僕の風花ではない、僕の欲を満たすには、本当に良いおもちゃだよ、君は」
こちらのことなどお構いなしに、どんどん体を暴かれて、黄麟の欲をこの身に受けていく……。
傷だらけの体に、感じたことのない快楽への喜悦が沸き上がり、吐息に甘さが滲んでいくのが自分でもわかり、そんな自分に嫌悪感を抱き吐き気が喉元まで上がってくる。
いやだ……。
絶対に、嫌だ……。
オレは、オレは―――……!!
『――キ』
自分の名を呼ぶ愛しい声に、目が覚めた。
「―――リン」
暁は静かに、その名を呼んだ。
先刻の「リン」呼びには激怒した黄麟が、びくりと全身を震わせて、暁を嬲る手を止めひたりと寄せていた半身を上げ、目を見開いた。
暁が黄麟を呼んだその響きは、自分を犯す相手を諫めるでも宥めるでも憐れむでもなく、ただ静かに黄麟を止めた。
黄麟は、その響きを覚えていた。
その響きは、一番星が、黄麟の大切な風花が、ただひとり彼を止める時に呼び掛けた声音と同じ……。
「―――か、ざ……はな?」
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