【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI

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転生の旅を終える覚悟は、もう出来ている。

暁は、円形コロシアムの中央に設置された刑場の磔台に、引き上げられた。
自らの足で歩いて行けると、引っ立てられるのを固辞したのだが、それは許されなかった。手にも足にも枷を付けられ、まともに歩くことも出来ないオレを、罪人の様に惨めに刑場に引き摺り出すことが、光の聖女さまのリクエストだったらしい。

朝、眩しい程の光を称えていた美しい青い空は、これより行われる刑の執行を悼む様に灰色の雲に覆われている。太陽を覆い隠す雪雲のような分厚い黒雲は、今にも、その雫を大地に落としそうに影を作る。

黄麟とアルラキスが、コロシアムの豪華な玉座に姿を現した。光の神竜たる黄竜と光の聖女の登場に、コロシアムに集まった人々は沸き立ち、熱狂的な興奮がコロシアム全体にこだまする。口々に「黄竜様!」と「聖女様!」の叫び声をあげ、称え、崇める熱烈な声が、「聖女」のための生贄を求めているのがわかる。アルラキスを、光の聖女を女神とするための、オレを―――。

玉座の高みから、醜悪な笑顔を称えるアルラキスが、これ以上の愉しみはないといった下卑た目で、暁をあざ笑うように見下げて来る。

ぼろぼろの姿で引き摺られるオレの姿に興奮し、頬を紅潮させる下品すぎる光の聖女様の背後には、彼女の下僕である各地の竜の巫女たちがアルラキスの背後に並び始めた。皆一様にアルラキスと同じ表情で、こちらを見下げ、あざ笑っているのがわかる。

蒼天の宮で見た、水の巫女であるグリーゼの姿も見えた。
ああ、もう、懐かしいな。蒼天に無理やり風呂に付き合わされて、夜通し飲んで二日酔いになって、瑠璃に青い花を貰って―――。あの日がもう遠い昔の様に感じる。


瑠璃は、無事に幻夢の木に戻れただろうか。
蒼天と、もう一度あの悪夢のような酒盛りをしてみたいとも思う。
蘇芳の、大人の姿も見ていないし。
白漣に、沢山助けて貰ったのにちゃんと礼も言えていない。
翡翠に、もう一度抱き締めて欲しい。
黒羽と、精神の世界ではなくこの身で抱き締め合いたい。


ああ、情けない……。
こんな正念場で、未練がたらたらだ。
オレに残った望みは、一番星を還して六竜みんなを救う事だけだったはずなのに。


暁は恐怖に身を震わせることも、血の気を落とし青ざめることもせずに、ただ静かに、玉座の上に君臨する穢れた魂を持つ者に視線を向けた。


暁と黄麟の視線が、交錯する。


宝冠や宝石やらでごてごてにデコレーションされた「光の聖女仕様」のアルラキスの隣で、表情を暗く凍り付かせた黄麟が、ただ暁だけを見つめ、佇んでいる。

真っ直ぐに暁だけを見つめる、黄麟のオリーブ色の瞳が微かに揺れている。

オレを傍若無人に投げ捨てた筈の黄麟が。
オレを殺し続けた「黒竜」の冷たい面を被ったままの黄麟が……。
拳が白くなるほどにその手を握りしめ、耐えているのが、手の届く距離にいるかのように見て取れる。


駄目だ、黄麟。
今、その面を取っては、いけない。


お前は、一番星を復活させるために、ここまで耐えてきたのだろう?
オレを捨て駒にするんだ。
転生し続けるオレの命を狩って、救い上げて……一番星を復活させると決めたのは、他ならぬ、お前なのだから―――。

ショーアップされたオレの死刑執行を、万人の前で行うのを決めたのは、アルラキスだろう。万人の目の前で、一番星の最後の魂の欠片を手に入れ、真の一番星は自分であると見せつける。光の聖女が女神となるとの茶番を宣誓し、世界をその手中に収めるのが、アイツの望みなのだろうが、それは、オレが打ち砕く。


オレの大切なはじめの竜には、お前も入っているんだよ、黄麟。


お前たちを愚弄し、一番星を卑しめたアルラキスを、オレは、許しはしない。
アルラキスの穢れた魂は、二度と光の下には戻さない。
二度と生まれ変われない深淵の彼方に、オレが、必ず連れていく。



暁は、ただ真っ直ぐに、黄麟を見つめていた。
一点の曇りもない、澄み切った、夜明け色の瞳で―――。



「光の神竜たる黄竜様を睨み据えるなど!身の程知らずの所業を、わたくしは許すことは出来ません!無礼な黒き忌み人を跪かせなさい!!」


ヒステリックなアルラキスの叫び声に追随する様に、コロシアムに集う人々が声を上げ、刑場で大斧を構えていた武骨な死刑執行人が瞬時に反応した。

「無礼者を殺せ!」「首を撥ねろ!」と群衆が吠えるように罵声上げる渦の中心で、死刑執行人が、暁の両手を拘束した手枷の鎖を力任せに引っ張り膝を付かせ、暁の頭を抑え込もうとした、その時だった。

風のように現れた数人の影が死刑執行人と暁の間に割って入り、ひとつの影が膝を付き、暁に手を差し出してきた。


「お手を……」


暁は、瞬いた。目の前の顔には、見覚えがあった。確か……泉に向かう回廊ですれ違った、黄竜の宮に仕える神官だ。それだけではない、黄竜の一族の竜人が、眷属が、死刑執行人と暁の間に壁を作り、暁をその背に守ってくれる。


「なっ―――!アルラキス様の命に背く気か?!その黒き忌み人は、アルラキス様を女神と成すための贄である!」
「我らはただ―――この方の……尊厳を守っているのみ」


その言葉に、暁は居を突かれたように目を見張った。

何故、彼らが、オレを守るのか?
この宮に連れて来られてからずっと、誰もがまともに目も合わさずに、アルラキスの顔色を窺っていたというのに……。


何故だ?


暁の胸は詰まり、それを吹き飛ばす疾風のような風が吹き荒れた。
それは、暁の胸中だけでなく、暁の躰の外にも顕現し、ごうごうと吹きすさび辺りの音を飲み、すべての闇を吹き飛ばすように吹き荒れて、分厚く重い黒い雲をも切り裂いた。


疾風の風を継いだのは、光り輝く光風。
ふわりと香る穏やかで優しい風が、天からの光の一閃を暁のもとに連れて来る。


手を差し出してくれた神官を、自分を守り壁となる竜人たちを、言葉を無くし順々に見つめて、暁は、どうしてよいかわからず、泣きそうに顔を歪め小さく笑んだ。感謝の心を伝える気持ちで―――。


野辺に咲く、名もなき小さな花の様に、誰の目にも触れないはずの小さな微笑みは、暁を照らす、雲間から差し込む天からの光の様に、穏やかに彼らを照らした。



「……ありがとう」



暁の言葉に、彼らは眩しい光を見るように目を細めた。
胸の中に光を灯すような穏やかな暁の声に、彼らは息を呑んだ。あるものは振り返り、あるものは見下ろし、あるものは見上げ―――。その先にある、すべての感情を洗い流したかのような、暁の清廉な夜明けの光を思わせる眼差しに、彼らは魂に刻み込まれた光の名を言の葉に乗せた。



―――天に輝く一番星。



暁に手を差し出していた神官が、全身を震わせ両膝を付き最上の拝礼をとった。黄竜の一族の竜が、その眷属が、次々に膝を付き、頭を垂れる。


「星の君―――……!」


アイと赫羅が自分を称した呼称で呼ばれ、暁は困ったように苦笑するしかなかった。死刑執行人は、意味が分からずに顎が外れそうにポカンと口を開いている。そうだろうな。アルラキス曰く「黒き忌み人」である生贄のオレに向かい、竜族が膝を付いているだけでもびっくりだろうに、「星の君」が出てこれば、そんな顔にもなるだろう。でも、オレは違うんだ。


「我らは……星の君に、何と無礼な―――」
「あなた方の星の君は、オレの命と引き換えに降臨する。だから、オレに対しては、無礼も何もない」


立ってください、と、微笑んだら、彼らは涙を零し始めてしまった。
自分が彼らにどう映っているのかに全く気付かないまま、暁は静かに立ち上がる。

ああ、なんだろうか……。
凄く、頭がスッキリしているのに、全身が、痺れるように、酷く、熱い。

何とはなしに両手を胸元に上げて手のひらを見ようとしたら、アルラキス特製の重い金属製の手枷が、粉々に崩れ、砂の様に風に巻かれて消えた。足枷もだ。

手も足も、輪郭を消したようにぼんやりと輝いている。
雲間から差し込んだ光が、スポットライトみたいに、自分を照らしているのだろうか?


「……あれ?」


ふと、気付いた。
雲間からの光ではなくて―――どうやら、自分が発光しているようだ。


死刑執行人が腰を抜かしたみたい座り込み震えているのが見える。ぐるりと、コロシアムのすべてをゆっくりを見渡すと、先刻までの怒号みたいな「殺せ!」コールは収まって、水を打ったような静けさが、辺りに広がっていた。
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