【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

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66:天狼の想い

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両の目の色が違う瑠璃が、手にした藤色の幻夢の木の花を、白い光の中に消えようとしたオレの胸に押し込んできた。


ああ、あたたかい……。


幻夢の花があたたかくて、もう無い筈の心臓が、とくん、と、音をたてる。
そんなはずはないのに、オレにはもう鼓動を伝える心臓もないのに。


その時だった。


一輪の藤色の花がオレの胸から溢れ出し、まるで吹雪の様に、白い世界に吹き荒れ、視界のすべてを藤色に塗り変えてゆく。


藤色の幻夢の木の花の花弁が舞っている。
幻夢の木の花吹雪は、形を無くしたはずのオレを包み込み、空っぽになった筈のオレの躰に、粉雪の様に降り積もる。


オレの躰が、形作られてゆく……。


少しづつ少しづつオレを満たしてゆく藤色の花弁と一緒に、黒羽と黄麟の記憶が、オレの中に浸透してくる。


これは、誰の記憶?
黒羽のモノでも、黄麟のモノでもない。




自分であって自分でないモノの、記憶―――。
深海の様に光も差さない真っ暗な記憶の中に、暁は、沈んでいった。




どこまでも書棚が続く世界の中に、二人の姿が見える。

一人は、星の瞬きのような銀糸の髪に、銀に水色の雨粒を垂らしたような瞳を持つ、美しい男。
一人は、光が透ける銀糸の髪に、太古の海の青を映した瞳を持つ、美しい女。


「君は、僕が僕だけのために生み出した、星だ」


男の言葉に、女はくすくすと笑う。


「もう幾千回と聞いております天狼様。私は天狼様のために生まれ、天狼様の作る新たな世界に、最初はじめの光を照らす一番星のお役目を頂いております。これから、まだ目を覚ましていない世界に光を灯しに行くのですから、これ以上の足止めは、お役目の妨害とみなしますよ」


ワザとらしく、それでいて可愛らしく頬を膨らます一番星を、天狼がへにゃりと眉を下げて柔らかく抱き締める。


「そんな役目を君に与えなければ良かったよ。世界を照らし、新たなる世界を統べる神が育ったら、すぐに戻っておいでね。君は、僕の大切な一番星なのだから」
「わかっております。天狼様」


天狼の腕の中で、にこりと一番星が微笑む。


「僕以外の誰も好きにならないで。僕との理を破ったら、君の魂は100に砕けてしまう」
「それも幾万回とお聞きしましたよ。天狼様」
「もしも、君が僕との理を破り魂が100に砕けたら、君は、僕の作った他の世界に99回転生を繰り返し、贖いの旅を続けることになる」
「100に魂が砕かれるのに、99回の転生で良いのですか?」
「100回目の転生は、一番星として、僕の元に生まれるからね。それで、君の贖いは終わり、僕の元に戻ってくる―――。だが、万が一……」


天狼が、一番星の深い海の様な瞳を見つめ、小さく呟く。


「君の転生体を殺め、魂の欠片を搔き集る者がいたとしたら……君は魂と並ぶほどに大切な『心』を失い、欠片の結晶体が集められた世界に、『心』を取り戻しに行かなければいけなくなる」


見た事もない程に悲し気な顔を見せる天狼に、一番星は尋ねた。


「『心』を取り戻しに行った私は、どうなりますか?」
「―――………その世界で、命を奪われるようなことがあれば、君の全ては、終わる。人の言うトコロの『死』だ……。君は、もう二度と、僕の元には戻れない。君の魂は、死した世界の帰属となり……その世界の神の手の中に、堕ちる」




その世界の神の手の中に、堕ちる。




その言葉一つで、暁の意識が一瞬にして戻った。


「ヤラレたよ……。まさか、僕の一番星がこの手段を、黒竜に伝えていたとはね。愛とは、本当に厄介なものだね……」


不意に聞こえた天狼の声に、暁は振り返った。
そこは、宝石箱の内側の様なアーチ状の天井の下、整然と並ぶ本棚と、うずたかく積み上げられた重厚な本の山が並ぶ、自分の99回に渡る転生の意味を何も知らない暁が、前の世界からゲートを抜け一番最初に立った、次元圖書館の中だった。


「……天狼?」
「流石は……君が初めて愛した相手―――というべきか。創主としても、一番星の魂の主である僕としても、本当に面白くないけれどネ」


ああ、行かせたくないなあ。と大きく溜息をついて、天狼は暁をぎゅうっと抱き締めた。


「……娘を嫁に出す気持ちって、こんな感じなのかな?」
「―――………ごめんなさい」


自分を生みだし、役目をくれて、今までずっと、長い転生の時もずっと見守っていてくれた創主であり、父ともいえる大切なひとを、自分は裏切り、あの世界で、竜を愛してしまった。それも―――、


「では、最後の最後にもう一度聞こうか。『暁』は、選べるのかな?」


天狼の居を突いた質問に、暁は心を読まれたとばかりに眼を見開いてしまう。
動きを止めた暁を見逃さず、チュッと額に口付けを落とした天狼が、悪戯に微笑んだ。


「竜の執着を甘く見ていた。あの六竜、だ~れも君を諦める気はなさそうだよ、暁?」
「へ?」


素っ頓狂な声しか出ない暁に、遂に天狼は笑い声を上げる。


「本当に騙されたよ。全次元世界の創主たる天狼ぼくがね? ちび竜は、黒竜と一番星の子だと思っていたら黒竜のド根性転生体だし、黄竜は黒竜と手を組んで、君を手に入れるべく異界に君の魂を狩りにいったのがわかったし。翡翠も狙いすましてゲートに君を送り込んで、あげく、他の竜とも談合済みだなんて、本当にあっぱれって位に騙された。酷い竜神たちだ」
「他の、竜……て、まさか……」
「見てごらん。君の記憶に流れ込んできた、黒竜と黄竜の記憶の欠片だ。アイツら……最初っから、僕を出し抜こうとしていたらしいよ」


するりと、暁の頭上を指差す天狼に促されるままに、暁は顔を上げた。
そこには、星の様な丸い球体があって、その中に、皆の姿が見えた。

はじめの竜たちが、泣いている。
涙が枯れ果てるほどに泣いて、一番星の『死』を悼んでいる。

これは、自分が100に砕けてみんなの前から消えた直後だと、すぐわかる。


『創主から、一番星を奪う方法を見つけた』


黒羽の言葉に、蒼天が、白漣が、蘇芳が、これ以上ない程に目を見開き、黒羽に食って掛かる。吊し上げ、殴りつけるように黒羽に詰め寄る三竜の前で、黄麟と翡翠は黙ったままだ。



「恐らくは……緑竜と黄竜には、先に伝えてあったんだろうね。あの二竜の動きは、早かったし……」



背後から聞こえる天狼の言葉は、すとんと暁の胸の中に落ちてきた。
一番星が砕けた後に、即行動を起こした翡翠と黄麟に、黒羽は事前に情報を伝えてあったのだろう。


『100に砕けた一番星の魂は、異界で生を受け、99回の転生を繰り返す。その転生体の命を奪い、魂の欠片を集め、転生体の心を奪い続ければ―――一番星の転生体は、心を取り戻すために、俺達の世界に戻らなければいけなくなる』


黒羽の言葉に、蒼天が怒りの声を上げる。


『アステルの転生体を殺すだと?!』
『待ってください。そうすれば宵姫は、戻ってくるのですか?!』
『愛しの君が戻って来ても、また創主に取られたら元も子もない!!』


白漣と蘇芳の叫びに、黒羽と翡翠、黄麟が目配せし合い、黄麟が口を開く。


『創主を出し抜く作戦を黒羽が考えた。僕が、黒羽の力を使って異界に飛び、風花の転生体を狩り、魂の欠片を集める。その間、翡翠は創主の所で、風花を見守り』
『首尾よくいけば、アキの元に飛ばして貰う。そしたら、俺達の世界に、アキを必ず送りこむから、お前らは、コッチで創主を騙すために守りを固めてくれ』


蒼天は、一番星が現れるであろう、『秘された竜の涙』の守り人の任を。
白漣は、狂気に落ち一番星の転生体を狩る黄麟の監視の役割を。
蘇芳は、闇に眠ったフリをする黒羽の思念体の守り人の任を。


『このあと、全員の記憶を俺が封印し、必要行動のみ暗示を掛ける。創主には絶対に漏らすわけにはいかない。少しでも漏れれば、一番星は、俺のアカツキは、この世界に戻ってくることはない。全員心しろ』
『お前のアカツキではない。僕の風花だ』
『違う黄。俺のアステルだ』
『何を言っているんですか青竜。私の宵姫ですよ』
『お前ら殺されたいか。俺の愛しの君を勝手に自分のモノにするな』
『お前も間違いだ蘇芳。アキは俺のモンだ。今度こそ―――黒羽になんて渡さない!』


六竜は互いを小突き合い肩を組み、意を決した。


『この世界でアカツキが命を終えれば』
『アキの魂は、死した世界の帰属となる。つまり』
『アステルはその世界の神の手の中に、堕ちる!』
『つまり、宵姫は私達のモノになるってことですね?!』
『魂が黄泉の世界に旅立つ前に、風花の魂を僕が必ず捕まえる。その時は』
『俺が、愛しの君にすべての祝福を注ぎ込む!』


全員の祝福だ! と、六竜が声を上げる。


「酷いよね? 神の大神たる創主の僕を謀るなんて、全員まともには死ねないよ。もちろん君もね? 暁」


創主たる天狼の怒りの言葉だというのに、その声音には恐ろしさなど一欠けらもなく、感じるのは、あたたかな、新たなる旅立ちへの、祝福のみ。


「行っておいで。僕はずっと、君を見守っているからね」


頬に両手を添えられて、暁は天の神たる天狼から、額に、祝福の口付けを貰った。


「君の新たなる魂は、に」


すうっと落ちた天狼の視線の先を暁が追う。
天狼の視線の先にあるのは、初めて訪れたで次元圖書館で、天狼が暁の首にかけてくれた、天狼の銀に水色の雨粒を垂らしたような瞳と同色な、涙型の守護石だった。

オレの魂を隠すお守りと聞いた、守護石。


「……最初から、全部、わかってたのか?」
「僕を誰だと思ってるんだい?」


悲し気に、それでいて温かな優しさを称えた、銀に水色の雨粒を垂らしたような美しい瞳が、微笑んだ。


「アイツラがウザくなったらすぐに僕を呼んで? あの世界を潰してでも、必ず君を迎えに行くからね」


何よりもオソロシイお言葉を下さった天の神が、


「行ってらっしゃい。あの悪霊は僕が処分しておくから心配しないでね」


と、暁の背中を押した。
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