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1、出会い
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「プルルルルル」
「東京行き発車します」
「あ、乗ります」
女の子が乗り込んできた。
僕は奥に体を押し込むと、そのすきまに女の子が立った。
女の子はスケッチブックを抱えていた。
僕は学生鞄を抱えて、立ち尽くしていた。
「ありがとうございます」
女の子は顔が見えないけれど僕にお礼を言った。
「別に」
僕はそれ以上何も言わなかった。
女の子の制服は僕の近所で有名なFランクの女子校だった。
頭の悪い奴にはあまり関わりたくない。
僕は鞄から文庫本を取り出して読み始めた。
「きゃあ」
列車が揺れた。
女の子が僕にもたれかかる。
あったかくて良い匂いがした。
「大丈夫? 」
「はい。すみません 」
「あ、、」
僕にもたれた反動で、彼女のスケッチブックが開いて床に落ちた。
僕はそれを拾って、反射的にパラパラとめくってしまった。
それはとても綺麗で、プロが描いたイラストのようだった。
「あの、すいません」
僕が夢中で見入っていると彼女が僕に声をかけた。
「あ、ああ。かってに見て失礼しました」
僕はほこりをはたいてスケッチブックを彼女に返した。
「絵が、とても上手なんですね」
彼女は顔を真っ赤にして手を振った。
「そんなこと。私他に取り柄ないんです」
「絵を描いている時間だけは自由になれるんです」
彼女はかみしめるように言った。
「あ、そうなんですか」
僕はなんと言って良いか分からなかった。
「そんなことより、その制服、あたま良いんですね」
「それしか取り柄がないので」
僕の制服をみて彼女がため息をついた。
それは、全国でもトップクラスに東大合格者が名を連ねている高校の制服だったからだ。
「あの、君の絵をもっと見てみたいんだけどライン交換できる? 」
「え、いいですよ」
彼女が携帯をだすと、僕とラインを交換した。
僕が勉強のこと以外に興味を持つのは、おじさんに鉱石を初めてもらったときぶりのような気がする。
彼女はふふふと笑って、ラインを送った。
「よろしく」
名前の欄にはカレンと表示されていた。
僕の名前は伊藤一樹いとう かずき。
高校二年生。
高校は誰もが知っている進学校だ。
「僕、なんであんな事したんだろう?」
僕は新しく増えたラインのユーザー、カレンを眺めながら呟いた。
「あの絵、印象的だったな」
カレンのスケッチブックの最後の方にあった、海にたたずむ少女の絵のことだ。
まっすぐに、何かを見つめている少女の口元はわずかに開いていて、今にもしゃべり出しそうだった。
「まあいいか。それより宿題と予備校の復習をしよう」
僕は勉強が好きだった。
計算はパズルみたいだし、地理や歴史はクイズみたいだ。
それに、勉強はどれだけやっても無駄にならないというか、文句を言われない。
中学の時は勉強が出来ない奴に、やっかみからいじめられたりもしたけれど。
今は同じように、もしくはとんでもなく勉強が出来る奴に囲まれて刺激的な日々を過ごしている。
でも、ほんの少し物足りない気持ちに襲われることもあった。
まるで、パズルのピースが一つ欠けているみたいな気分。
そこにカレンの絵が、ピタリとはまり込んだ。
<ヴィーン>
スマホが鳴った。
カレン、と表示されている。
<伊藤さん、勉強教えて?>
僕は急な申し出に、戸惑った。
<勉強ってどんなこと?>
<また、電車で会ったら、話したいです>
ちょっと考えてから、返事をした。
<話を聞くくらいならできるかも。その代わり、また絵を見せてくれるかな?>
カレンからはすぐ返事が来た。
<そんなことなら、いくらでも出来ます>
僕はカレンと明日の夕方に会う約束をした。
「東京行き発車します」
「あ、乗ります」
女の子が乗り込んできた。
僕は奥に体を押し込むと、そのすきまに女の子が立った。
女の子はスケッチブックを抱えていた。
僕は学生鞄を抱えて、立ち尽くしていた。
「ありがとうございます」
女の子は顔が見えないけれど僕にお礼を言った。
「別に」
僕はそれ以上何も言わなかった。
女の子の制服は僕の近所で有名なFランクの女子校だった。
頭の悪い奴にはあまり関わりたくない。
僕は鞄から文庫本を取り出して読み始めた。
「きゃあ」
列車が揺れた。
女の子が僕にもたれかかる。
あったかくて良い匂いがした。
「大丈夫? 」
「はい。すみません 」
「あ、、」
僕にもたれた反動で、彼女のスケッチブックが開いて床に落ちた。
僕はそれを拾って、反射的にパラパラとめくってしまった。
それはとても綺麗で、プロが描いたイラストのようだった。
「あの、すいません」
僕が夢中で見入っていると彼女が僕に声をかけた。
「あ、ああ。かってに見て失礼しました」
僕はほこりをはたいてスケッチブックを彼女に返した。
「絵が、とても上手なんですね」
彼女は顔を真っ赤にして手を振った。
「そんなこと。私他に取り柄ないんです」
「絵を描いている時間だけは自由になれるんです」
彼女はかみしめるように言った。
「あ、そうなんですか」
僕はなんと言って良いか分からなかった。
「そんなことより、その制服、あたま良いんですね」
「それしか取り柄がないので」
僕の制服をみて彼女がため息をついた。
それは、全国でもトップクラスに東大合格者が名を連ねている高校の制服だったからだ。
「あの、君の絵をもっと見てみたいんだけどライン交換できる? 」
「え、いいですよ」
彼女が携帯をだすと、僕とラインを交換した。
僕が勉強のこと以外に興味を持つのは、おじさんに鉱石を初めてもらったときぶりのような気がする。
彼女はふふふと笑って、ラインを送った。
「よろしく」
名前の欄にはカレンと表示されていた。
僕の名前は伊藤一樹いとう かずき。
高校二年生。
高校は誰もが知っている進学校だ。
「僕、なんであんな事したんだろう?」
僕は新しく増えたラインのユーザー、カレンを眺めながら呟いた。
「あの絵、印象的だったな」
カレンのスケッチブックの最後の方にあった、海にたたずむ少女の絵のことだ。
まっすぐに、何かを見つめている少女の口元はわずかに開いていて、今にもしゃべり出しそうだった。
「まあいいか。それより宿題と予備校の復習をしよう」
僕は勉強が好きだった。
計算はパズルみたいだし、地理や歴史はクイズみたいだ。
それに、勉強はどれだけやっても無駄にならないというか、文句を言われない。
中学の時は勉強が出来ない奴に、やっかみからいじめられたりもしたけれど。
今は同じように、もしくはとんでもなく勉強が出来る奴に囲まれて刺激的な日々を過ごしている。
でも、ほんの少し物足りない気持ちに襲われることもあった。
まるで、パズルのピースが一つ欠けているみたいな気分。
そこにカレンの絵が、ピタリとはまり込んだ。
<ヴィーン>
スマホが鳴った。
カレン、と表示されている。
<伊藤さん、勉強教えて?>
僕は急な申し出に、戸惑った。
<勉強ってどんなこと?>
<また、電車で会ったら、話したいです>
ちょっと考えてから、返事をした。
<話を聞くくらいならできるかも。その代わり、また絵を見せてくれるかな?>
カレンからはすぐ返事が来た。
<そんなことなら、いくらでも出来ます>
僕はカレンと明日の夕方に会う約束をした。
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