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3、カレン

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「カレン、どうしたの? 最近付き合い悪いじゃん」
「理沙、どうって勉強始めたの」
「はあ? カレンが勉強!?」
理沙は笑った。

「だって、どうしても美大行きたいんだもん」
「確かにカレンは絵がうまいからね。でもこんなFランクの学校から行けるの?」
「うーん、そう言われると辛いけど」
そう言いながらカレンは、一樹に選んでもらった問題集を取り出した。

「あれ? それ中学生用じゃん」
「うん。勉強できる人に選んでもらった」
カレンはそう言って、ノートと問題集を開いた。
「えー? 休み時間だよ? 勉強すんの!?」
理沙はつまらなそうに言った。

「うん。でも、中学生の勉強、結構難しい」
「だよね、ここ入試の時、名前書ければ入学できるって言われてたもんね」
「うん」
カレンは理沙の言葉を受けながら、勉強を始めた。
しかし、中一のレベルから躓いてしまう。

「どうしよう、もっと分かると思ってたのに」
カレンは唇をかみしめた。
「諦めて、玉の輿狙うか、専門行くかにしようよ」
理沙はカレンの問題集を見て、ため息をついた。
「これ、英語ばっかすすんでるじゃん。カレン英語は得意だもんね」
「うん、数学とか国語とか、進まない」
カレンはそう言いながらも数学のページを開いた。

「絶対値って何?」
「忘れた。アタシ美里みりのとこ行くわ」
理沙は勉強をしているカレンの元から去って行った。

「一樹君に聞いてみよう」
カレンはスマホを取り出し、一樹にラインを送った。
<ごめん、この前の問題集、やっぱり難しい>
ラインを送信したが、すぐには返事が来なかった。

「帰りまでに連絡来るかな?」
カレンは問題集を閉じて、机に突っ伏した。

***

一樹は学校が終わってスマホの電源を入れた。
カレンから、ラインが届いている。
慌てて開けると、一行だけメッセージが書かれて居た。

<ごめん、この前の問題集、やっぱり難しい>

「あれで難しいなら、もう小学生の問題集からになっちゃうなあ」
一樹はそう呟いてから、カレンに返信した。

<それなら、今日の帰りにもう一度本屋に行きますか?>
カレンからはすぐ返信が来た。
<はい、お願いします>
一樹が駅に向かっていると、上田が追いかけてきた。

「おい、一樹。たまには一緒に帰ろうぜ?」
「上田、僕は用事があるんだ。本屋に寄らなきゃ」
「本屋なら一緒に行くよ」
「うーん」
僕は上田なら、カレンを紹介しても良いかと思って了解した。

一応カレンにラインを送る。
<友達が一緒に来たいって言うんだけど良いかな?>
<いいよ>
カレンのラインの返信はいつも早い。

「上田。今日、人と会うんだ。だけど出来たら内緒にして欲しい」
「なんだ? 彼女が出来たのか?」
上田はニヤリ、と笑った。
「そんなんじゃないよ」

僕と上田は三件隣の駅で電車を降りた。
駅前には、カレンが立っていた。
「カレン、遅くなってごめん」
「一樹さん、私こそ急にごめんなさい」
「これ、上田元気うえだ げんき。ついて来ちゃった」
「はじめまして、元気さん」

上田は僕が女の子と待ち合わせしていたのが意外だったのか、固まっていた。
「はじめして。えっと?」
「加賀美カレンです」
「加賀美さん、初めまして」
「その制服、学校のお友達ですか?」
「はい」

自己紹介を終えると僕は本題に入った。
「中学生用の問題集だと難しかった?」
「はい、やってみたら意外と解けなくて」
「じゃあ、小学生からやり直してみよう」
「・・・・・・はい」
上田は僕たちの会話を聞いて、驚いていた。

「今から小学生の勉強なんてしていて、大学受験間に合うの?」
「大丈夫だよ」
そう言いながら三人で本屋に入った。
「あ、これなんか良いんじゃない?」
上田が持ってきたのは、V会の問題集だった。
「基礎から始めるシリーズの方が良いと思うよ」
僕はそう言って、小学校高学年向けの問題集を手に取った。

「私、本当に勉強できないんですね」
ぽつり、とカレンがこぼした。
「元気出して。笑ってたほうが可愛いよ」
元気はそう言ってカレンを励ました。

カレンは僕が渡した、小学校高学年用の問題集を見て、頷いた。
「これならまだ何とかなります」
「それじゃ、これ2週間で解き終わらせられる?」
「2週間ですか!?」
元気がパラパラと問題集を見て頷いた。
「これなら、一日でも出来るかな?」
「一日!?」

元気もカレンの制服からFランクの女子校だと分かっていた。
カレンは一日で解けると言われて泣きそうになっている。
「慌てなくて大丈夫。2週間かけて良いよ。そのかわり、内容を良く理解して解いて」
僕がそう言うと、カレンは震えながら頷いた。
カレンがレジに問題集をもっていくと、元気が僕に言った。

「なあ、なんでF女の面倒なんて見てるんだ?」
「カレンのこと? カレンは凄く絵が上手で憧れてるんだ」
「へー。一樹、それは恋愛感情?」
「違うよ」
「俺、カレンちゃん結構気に入ったかも」
元気はそう言ってスマホを取り出した。

カレンが戻ってくると本屋を出た。
「ライン、交換しない?」
元気がそう言うと、カレンは僕の表情を伺った。
「カレンがしたいようにすれば良いよ」
僕がそう言うと、カレンはスマホを取り出し、元気とラインの交換をした。

「また、暇なときにでも連絡してね」
元気はそう言いながら、スマホをカバンにしまった。
「今日はありがとうございました」
カレンは僕と元気に頭を下げると、電車に乗って帰って行った。

「一樹、余裕だな」
「何が?」
「俺たちだって、学年考査が近いじゃん」
「毎日勉強してれば、いつも通りの成績が取れるだろ?」
僕が元気にそう言うと、元気は笑った。

「そりゃそうか。ま、あんまり深入りしない方が良いかもしれないぜ」
「そうだな」
僕と元気は電車に乗った。
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