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4.生贄(いけにえ)
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月明りのない空には、星が目に痛いほど輝いていた。
「時姫、気を付けて歩くのだよ。転んで土がついては大変だからね」
「はい、父上」
四人の家来に守られて、松明の明かりに照らされた道を清隆(きよたか)と時姫は、歩いていた。
清隆たちが向かっていたのは、川向こうの山だった。その頂のそばの洞窟にある祠(ほこら)にアメノコヤネの命(みこと)が祭られている。時姫は嫁入り衣装を身に着け、その祠に生贄として連れていかれる。
静かな夜だった。ときどき、山から獣の鳴き声が聞こえる。松明をかざし、道を確かめながら、清隆たちは歩みを進めた。時姫の歩く速度に合わせて、清隆たちはゆっくりと山を登っていく。
草がしげる道を歩き、山頂近くの洞窟に着いた。家来たちが道を松明で照らし、清隆が時姫を先に歩かせた。祠の前に着くと、清隆は家来に持たせていた塩と酒で祠の周りを清め、ご神体である鏡の前に絹で出来た敷布を置き、その上に時姫を座らせた。
「時姫、お前はもう神のものとなった。疫病が止むように祈りを捧げ、神のものになった幸せに感謝しなさい」
「……はい、父上」
清隆は神饌(しんせん)を供(そな)え終えると時姫を残し、家来を連れ洞窟を出た。洞窟の入り口を板で塞ぎ、清隆たちは屋敷へと帰って行った。
時姫は一人残った真っ暗な洞窟の中で、膝を抱えて震えていた。
目を閉じても、目を開いても、見えるのはただ、暗闇ばかりだ。
時姫は洞窟の外から聞こえてくる、くぐもった獣の声や、鳥の羽ばたく音におびえた。
時姫は立ち上がり、洞窟の外をうかがおうとしたが、板の隙間から覗いても、見えるものは、やはり闇ばかりだった。
「……影彦……助けて……」
時姫の言葉は、だれにも届くことはなかった。
「時姫、気を付けて歩くのだよ。転んで土がついては大変だからね」
「はい、父上」
四人の家来に守られて、松明の明かりに照らされた道を清隆(きよたか)と時姫は、歩いていた。
清隆たちが向かっていたのは、川向こうの山だった。その頂のそばの洞窟にある祠(ほこら)にアメノコヤネの命(みこと)が祭られている。時姫は嫁入り衣装を身に着け、その祠に生贄として連れていかれる。
静かな夜だった。ときどき、山から獣の鳴き声が聞こえる。松明をかざし、道を確かめながら、清隆たちは歩みを進めた。時姫の歩く速度に合わせて、清隆たちはゆっくりと山を登っていく。
草がしげる道を歩き、山頂近くの洞窟に着いた。家来たちが道を松明で照らし、清隆が時姫を先に歩かせた。祠の前に着くと、清隆は家来に持たせていた塩と酒で祠の周りを清め、ご神体である鏡の前に絹で出来た敷布を置き、その上に時姫を座らせた。
「時姫、お前はもう神のものとなった。疫病が止むように祈りを捧げ、神のものになった幸せに感謝しなさい」
「……はい、父上」
清隆は神饌(しんせん)を供(そな)え終えると時姫を残し、家来を連れ洞窟を出た。洞窟の入り口を板で塞ぎ、清隆たちは屋敷へと帰って行った。
時姫は一人残った真っ暗な洞窟の中で、膝を抱えて震えていた。
目を閉じても、目を開いても、見えるのはただ、暗闇ばかりだ。
時姫は洞窟の外から聞こえてくる、くぐもった獣の声や、鳥の羽ばたく音におびえた。
時姫は立ち上がり、洞窟の外をうかがおうとしたが、板の隙間から覗いても、見えるものは、やはり闇ばかりだった。
「……影彦……助けて……」
時姫の言葉は、だれにも届くことはなかった。
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