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40.夕食
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大翔は自分で作った干物を焼いて夕食に並べてくれた。
アイラは最初、干された魚を珍しそうに観察し、おっかなびっくり指先で突いていたが、大翔と俺が上機嫌で食べているのを見て、覚悟を決めたようにかじりついた。
「うわあ、美味しい!」
アイラは満面の笑みで干物を食べている。
俺も干物を一口食べて、頷いた。
「うん、美味いな」
「良かった! こっちもどうぞ」
大翔はニンジンの浅漬けと、イノシシ肉で作った肉じゃがを俺たちにすすめた。
「新鮮な魚や貝もおいしかったけど、大翔の作る食事はやっぱり特別だな」
「ありがとう」
俺はごはんをおかわりして、半分残しておいた干物と肉じゃがと共に味わった。
「健、にんじんは苦手だった?」
「いや、最後に食べようと思って」
「そう? 苦手なものは無理しないで教えてね」
大翔の言葉に、俺は「ああ」と笑って答えた。
大翔は食べ物の好き嫌いがほとんどない。俺は少し苦手なもの(たとえば生の人参)もあるけれど大翔の作ったものを残すのは嫌だったから、普通の表情で出されたものは全て平らげた。
「健、大人になったね」
「急になんだ?」
「だって、健、生の人参苦手だったでしょ? うちでご飯食べた時に、僕のかあさんに「ニンジンのサラダも残さないの」って、怒られてたじゃない」
「……俺が小学校入ったばかりのころの話だろ? よく覚えてるな」
「ふふっ」
大翔は楽しそうに笑った後、急に表情を曇らせた。
「……? どうした?」
「え? あ、何でもないよ。……ごちそうさまでした」
大翔は空になった食器を片付け始めた。
俺は大翔が一瞬見せた寂し気な表情が気になったけれど、なんと言えば良いかもわからず、ただ黙って食事の片づけを手伝った。
「アイラ、もう寝る。おやすみ」
「おやすみ、アイラちゃん」
「おやすみ」
アイラは食堂の隅のタオルケットにもぐりこみ、すやすやと寝息を立て始めた。
「大翔も疲れただろう? 風呂に入ったら、もう寝たほうがいいんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、お先に」
大翔が風呂に入っている間に俺は洗い場に出された食器を洗った。
食器洗いがすんで、食堂でぼんやりしていると大翔が風呂から出てきた。
「お風呂いただきました。あれ? 食器洗ってくれたの?」
「ああ。いつも食事を作ってもらってるからな。してもらってばかりじゃ、悪いだろ?」
「そんなこと気にしなくていいのに。でも、ありがとう」
大翔のとろけるような笑顔を見て、俺も気分が良かった。
俺も風呂に入ってから、寝間着に着替える。風呂から出て、ふと食堂を見ると大翔が椅子に座ってまどろんでいた。
「おい、こんなところで寝たら風邪ひくぞ?」
「ああ……健が出てくるの待とうと思って。……なんか眠くなっちゃった」
「今日はもう寝たらどうだ?」
「そうする。おやすみ、健」
大翔は自分の部屋に戻っていった。後を追うように、俺も自分の部屋に戻った。
ベッドに入って、瞼が重くなった頃、ドアがノックされた。
「……健、まだ起きてる?」
アイラは最初、干された魚を珍しそうに観察し、おっかなびっくり指先で突いていたが、大翔と俺が上機嫌で食べているのを見て、覚悟を決めたようにかじりついた。
「うわあ、美味しい!」
アイラは満面の笑みで干物を食べている。
俺も干物を一口食べて、頷いた。
「うん、美味いな」
「良かった! こっちもどうぞ」
大翔はニンジンの浅漬けと、イノシシ肉で作った肉じゃがを俺たちにすすめた。
「新鮮な魚や貝もおいしかったけど、大翔の作る食事はやっぱり特別だな」
「ありがとう」
俺はごはんをおかわりして、半分残しておいた干物と肉じゃがと共に味わった。
「健、にんじんは苦手だった?」
「いや、最後に食べようと思って」
「そう? 苦手なものは無理しないで教えてね」
大翔の言葉に、俺は「ああ」と笑って答えた。
大翔は食べ物の好き嫌いがほとんどない。俺は少し苦手なもの(たとえば生の人参)もあるけれど大翔の作ったものを残すのは嫌だったから、普通の表情で出されたものは全て平らげた。
「健、大人になったね」
「急になんだ?」
「だって、健、生の人参苦手だったでしょ? うちでご飯食べた時に、僕のかあさんに「ニンジンのサラダも残さないの」って、怒られてたじゃない」
「……俺が小学校入ったばかりのころの話だろ? よく覚えてるな」
「ふふっ」
大翔は楽しそうに笑った後、急に表情を曇らせた。
「……? どうした?」
「え? あ、何でもないよ。……ごちそうさまでした」
大翔は空になった食器を片付け始めた。
俺は大翔が一瞬見せた寂し気な表情が気になったけれど、なんと言えば良いかもわからず、ただ黙って食事の片づけを手伝った。
「アイラ、もう寝る。おやすみ」
「おやすみ、アイラちゃん」
「おやすみ」
アイラは食堂の隅のタオルケットにもぐりこみ、すやすやと寝息を立て始めた。
「大翔も疲れただろう? 風呂に入ったら、もう寝たほうがいいんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、お先に」
大翔が風呂に入っている間に俺は洗い場に出された食器を洗った。
食器洗いがすんで、食堂でぼんやりしていると大翔が風呂から出てきた。
「お風呂いただきました。あれ? 食器洗ってくれたの?」
「ああ。いつも食事を作ってもらってるからな。してもらってばかりじゃ、悪いだろ?」
「そんなこと気にしなくていいのに。でも、ありがとう」
大翔のとろけるような笑顔を見て、俺も気分が良かった。
俺も風呂に入ってから、寝間着に着替える。風呂から出て、ふと食堂を見ると大翔が椅子に座ってまどろんでいた。
「おい、こんなところで寝たら風邪ひくぞ?」
「ああ……健が出てくるの待とうと思って。……なんか眠くなっちゃった」
「今日はもう寝たらどうだ?」
「そうする。おやすみ、健」
大翔は自分の部屋に戻っていった。後を追うように、俺も自分の部屋に戻った。
ベッドに入って、瞼が重くなった頃、ドアがノックされた。
「……健、まだ起きてる?」
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