【完結】無能な婚約者なんて要りません!

山葵

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婚約者フィルダーが無能なせいで、私がランダス伯爵領地に来て3ヶ月が経っていた。

「アイリス様、ありがとうございます。これで何とか目処が立ちました。旦那様もフィルダー様でなくアイリス様を寄越して下さって感謝しても…コホンッ。申し訳御座いません。口が過ぎました。」

「大丈夫よ。明日には王都に戻るけれど、何か有ったら直ぐにランダス伯爵様に連絡して頂戴。」

本来なら災害に見舞われた領地の立直しなど、次期当主フィルダーの婚約者である私がする事ではない。

当主であるランダス伯爵様がする事なのだが、ランダス伯爵様は、この国の財務大臣。
とてもお忙しい上に、この時期は各領地からの税金処理の審査と重なり王宮からも帰って来れない日々が続く。
更に、ランダス伯爵領地と同じく3ヶ月前に台風で災害被害にあった領主からの災害支援援助金の申請が出ており、領地が心配であるけれど動けないのだ。

子息であるフィルダーが当主代理として動くのが普通なのだけれど、これが馬鹿というか無能というか…。

誰が見ても聞いても、フィルダーに任せるのは無理!と思う程なのだ。

次代のランダス伯爵家を心配した伯爵様に頼まれた私との婚約。
お母様とお兄様は、反対したけれど、人の良いお父様は、親友であるランダス伯爵様の申し出を断る事が出来なかった。
そのお陰で、お母様には1ヶ月も口を聞いてもらえなかったのだけれど。

ランダス伯爵様から領地ヘ私を向かわせると聞いてもフィルダー様は何も言わなかった。
下手な事を言って自分が行かされるのが嫌なのだろう。

そう思っていたのだけれど…。

伯爵様は、王宮に缶詰と聞いている。
ランダス伯爵家で報告書作成し執事長に預けてから、屋敷に戻る事にした。

私がランダス伯爵家に着くと使用人達が青ざめた。

珍しく執事長は、伯爵様の着替えを届けに王宮に出掛けていると言う。

おかしい…。

家主が留守の間、執事長が屋敷を離れる事は余程の事がない限り有り得ない。

火急、伯爵様に知らせなければならない大事が有ったという事か?

「フィルダーは部屋に居るのかしら?」

使用人がビクッと身構えた。

どうやらフィルダーが何かした様だ。
まったく伯爵様が忙しい時期に何をしているのだか…。

何も出来ないのなら、大人しくしていて欲しいものだ。

フィルダーの部屋の扉をノックしようとすると「あぁ~ん♡」と破廉恥な声が聞こえたような?

気の所為よね?と思いながらも、再度ノックをしようとすると「あぁリンダ、こんなに俺を夢中にして、なんて君は小悪魔なんだ♪」とフィルダーの声が聞こえてきた。

リンダは、私の友達だ。
いや、だった人に今、変わった。

私は気を取り直りして、ノックをする。

「誰だ!?俺は今、忙しいんだっ!!用なら後にしろっ!!」

「一体、何に忙しいのかしら?執務をするわけでもないし…あぁ腰を動かすのに忙しいのね?」

ベットの上で一糸まとわぬ姿の2人に吐き気がする。
それでも逃げ出すわけには行かない。

このチャンスを逃してなるものかっ!

「「ア、アイリス!?」」

「なぜお前が此処に!?領地に行っているのではないのか?はっ!まさか再建するのが困難で逃げ出して戻って来たかっ!?」

『誰に物を言っているの?貴方じゃないんだから、そんな事が有るはずないじゃないっ!』と言ってやりたい気持ちを押さえる。

「取り敢えず、服を着て応接室に来てくれるかしら?話はそれからよ!」

執事長が伯爵に会いに行った理由が分かった気がした。

私が戻る前に2人の仲を終わらせたかったのだろう。

応接室で、使用人の淹れたお茶をのんびりと飲んでいた。

ノックもせずに扉を開き、不機嫌な態度で入って来たフィルダーは、私の前のソファーにドカッと座る。

気不味そうに入って来たリンダも、当然の様にフィルダーの横に座った。

「説明してくれるかしら?」

「見れば分かるだろう?俺とリンダは愛し合っているんだ。俺の様な男には、お前の様な気が利かない上に男を馬鹿にした様な態度を取る可愛げのない女よりも、俺を頼り守ってやりたくなる可愛いリンダの方が似合う。そういう訳だから、お前との婚約は破棄する!俺はリンダと結婚するんだっ!」

「フィルダー、嬉しい。私も貴方を愛しているわ♡…アイリス、ごめんなさいね。フィルダーが貴女の婚約者と分かっていたけれど、彼を愛する気持ちを抑える事が出来なかったの。フィルダーは私の運命の人だと気が付いてしまったの。親友の貴女なら私の気持ちを分かってくれるでしょう?」

さっきまで浮気がバレた事にオドオドしていたくせに、フィルダーが結婚すると言った途端に勝ち誇った顔をして嘲笑っている。

親友ねぇ~。
まぁ良いわ。リンダには感謝はしないとね。

「婚約破棄は了承するわ!愛する2人を引き裂くなんて出来ないもの。2人の幸せを祝福するわ。…リンダ、ごめんなさいね。貴女との付き合いは今日までにさせて頂戴。2人の結婚式に招待なんてされたくないもの。」

「そ、そうよね…。さすが貴女でもフィルダーが自分ではなく私を選んだのにはショックよね!じゃあ、もう話す事もないから言うけれど、私は、ずっと貴女が嫌いだったの!優秀な事を鼻にもかけずに、誰にでも優しく世話を焼いて、誰に何を言われてもブレなくて…そんな貴女と一緒に居ると自分が馬鹿で鈍臭くて醜い心の持ち主だと落ち込むのよ。そんな貴女と縁が切れると思うと清々するわぁ~!」

「そうだったのね…。私は親友とは思っていなかったけれど、友人くらいには思っていたのよ。私が嫌だったのなら、私達の中に入って来なくて良かったのよ。皆も困惑していたし…。それから、フィルダーに振られてショックなんて受けるわけないじゃない。リンダには感謝しているわ。」

私は、急いで帰ってお父様に婚約解消の手続きをお願いしないといけない。
長居してランダス伯爵と会うわけにはいかないのだ。

馬車を走らせるとランダス伯爵の馬車が走って来るのが見えた。
ギリギリセーフだ。

私は帰宅すると、そのままお父様の執務室に向かい、ランダス伯爵家での出来事を話し婚約解消の手続きをお願いした。

ランダス伯爵家とリンダの子爵家に殴り込みに行こうとするお兄様に、その必要はないと告げる。
だって向こうからやって来る筈だもの。

私を、いえ、我が家を馬鹿にした代償は、貴方達が思っているよりも高いのよ。
貴方達が無事に貴族のままで居られるかしら?

うふふ。私にはもう関係のない事だったわね。




End


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