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第三章

【秘密がいっぱい 06】

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 アニキとの思い出は、アルバンの中で大切なものになっているようだ。
 優しく細められた青い目に、寂しげなものが過ぎる。
「このヒメカの街では、年に一度盛大なワイン祭りが開かれます。前年に収穫したブドウで作られたワインを開けてエダに捧げ、その後は住民や観光客で飲み食いして騒ぐものですが、丁度アニキがその祭りに初めて参加することになった年に、お忍びでやって来た王族がいまして」
「ま、まさかイスト様、じゃあ……」
 若子が青ざめたので、恋唯が咄嗟に手を繋いだ。アルバンが慌てて首を振る。
「いいえ、違いますよ。イスト様と現王の姉である……今は亡きフェードゥンの王女です」
「王女様……ですか?」
「ええ。美しく聡明で、彼女が次の王になれば、この国は間違いなく安泰だと言われていました。アニキと王女は祭りの日に出逢い……そして、恋に落ちたのです」
「恋に?」
「えっ、ロマンチック~!」
 若子がはしゃいで、恋唯と繋いだままの手をブンブンと振り始めた。
 あまりの変わりように恋唯は思わず笑ってしまう。
「あの二人が出会った瞬間に恋に落ちたのを、私は見ていました。視界に入った瞬間からお互いのことしか見えないような、熱っぽい眼差しを交わし合っていた。あれが運命の出逢いでなければなんだというのか……。あの二人はその日から、唯一の恋をしていたのです」
「ええ~! そういう話、もっと聞きたい!」
 若子が目を輝かせている。
「アニキはその日、お付きの従者たちを撒こうと逃げていた王女をそうとは知らずに助け、それが彼の付与スキル……風の飛行スキルが初めて発動するきっかけとなりました。お祭りの音楽が鳴り響く空の上で抱き合う二人の姿を、私は今でもすぐに思い出すことが出来ますよ」
「そのお二人、今はどうされているのですか?」
「あっ、そうだ……王女様は、亡くなったんですよね……?」
 若子が今度は不安そうに恋唯と目を合せる。
「王女には当時、婚約者がいました。しかしアニキと恋に落ちた王女は全てを捨てる決意をして、アニキとの駆け落ちを図ったのです。まだ子どもだった私もほんの少しですが、二人の逃避行に協力していました」
「……それ、巧くいきましたか?」
「いいえ。国境を目指していた二人には、すぐに追っ手が掛かりました。王女を抱えて飛んでいたアニキは弓矢に射たれ、そのまま落下して亡くなり……連れ戻された王女は……」
 アルバンの昔話に、若子が固唾を呑んで聞き入っている。
「表向きは病死とされていますが、本当は悲しみから自害なさったのだと、聞いています」
「そんな……! 悲劇じゃないですか……」
「ええ。私も後悔しています。聡明過ぎた王女は大いなるものの存在に気づき、常に絶望を抱えていました。当時の私は若く、あまりにも浅はかだった。アニキに……二人で幸せになって欲しかったのに……。だからこそ……」
 アルバンは何かを考える眼差しをして、恋唯と若子に、控えめな笑みを向ける。

「償いをしたいのです。……あなた方が幸せになって下されば、私も嬉しいのですよ」
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