【意味が分かると怖い百合】ハズレ異世界人は美味しいパンが食べたい

第四章

【許すということを 01】

　アルバンが話したアニキと王女の昔話が相当好きになったのか、若子は診療所の手伝いを始めた。
　転んで肘を擦りむいたり、お湯を触って火傷をしてしまったという子どもをスキルで治療するのが主な仕事だったが、誰かの役に立てているという実感が、若子にいい影響を与え始めたらしい。
「じゃじゃーん！　アリッサさんに髪を切ってもらいました！　どうですか！？」
「あら、短くなってサッパリしましたね」
　リリーがいつも髪をアリッサに切ってもらっていると聞いて、若子もアリッサにお願いしたらしい。
　癖のある髪を肩より上で揃えてもらい、品のある活動的な印象になった。
「アリッサさん、そんなことも出来るんですね。私もお願いしてみようかな……」
「えっ！？　恋唯さんはダメです！　そのまま長い方が絶対似合います！」
「そうですか？」
「あっ、あと、良いことに気付いたんですよ！　恋唯さんの髪、触ってもいいですか？」
「ええ、どうぞ」
　若子が何やら興奮しているので、恋唯は好きにさせることにした。楽しそうにしている若子を見るのが好きだからだ。
　恋唯の後ろに回って結んである髪を手に取ると、若子は両手で挟むようにして、上から下へと撫でた。どうやらスキルを使っているらしい。
「若子さんの水のスキル……髪にも効くんですか？」
「そうなんです！　なんかツヤツヤのサラサラになるんですよ！」
「へえ、良いですね」
「でしょ～！」
　自分のスキルの新たな使い道が判明してよほど嬉しかったのか、若子がニコニコしているので、恋唯も一緒に笑った。
　可愛いな、と思ったので。
「コイお姉ちゃんたち……」
「あ、リリーちゃん！　あたし髪切ってもらったんだけど、どう？」
「え？　リリーは長い方が好き……」
「ええ～」
　二人の部屋にやって来たリリーは、突然若子の新しい髪型の感想を求められ、率直に答えてしまった。
　しょんぼりしている若子の背中を撫でて、恋唯がリリーに尋ねる。
「何かご用でしたか？」
「あ、あのね。一緒に来てほしくて……」
「いいですよ。どちらまで？」
「あのね、その」
　リリーが言い辛そうに目線を逸らす。
「さっきお兄ちゃんがね、ロッゲンが来てるって。リリーに謝りたいんだって……」