上 下
47 / 90
第四章

【許すということを 02】

しおりを挟む
 恋唯は左右に分けて結ばれていたリリーの髪を、後ろで一つに結び直してあげた。
 コイお姉ちゃんとお揃いにすれば勇気が出るからと、リリーに頼まれたからだ。
 二人が手を繋いで診療所を出ると、ロッゲンが花束を手にして待っていた。
 一緒についてきた若子もそれに気づいて目を輝かせたが、空気を読んで口元を両手で押さえる。
 カミルにリリーを呼んできてもらったロッゲンは、恋唯と若子も現れたことに一瞬気まずそうな顔をしたが、スッと花束を差し出した。
「今までのこと、ごめん」
 広場の花屋で購入したのだろうか。小さな花束であったが、色とりどりで可愛らしくまとまっている。
「オレ、リリーとどうなりたいのか考えたんだ。オレは共同学校通えないし、リリーと会える時間だって限られてて……だから他のやつより、印象を残したかった。最初はそれだけだったのに、お前がそっけないままだから、だんだんムキになっちゃって」
「まるで、そっけなかったリリーさんが悪いみたいですね」
 黙って見守るつもりが、恋唯は思わず口を滑らせた。
 ロッゲンが顔を真っ青にしたのと、若子に「し~っ!」とたしなめられて、反省して口を閉ざす。
「違う、全部オレが悪い。オレはリリーと……本当は、仲良くなりたいから!」
 精一杯の勇気で、ロッゲンがリリーに向き合っている。
 若子は満足げにうんうんと頷いていたが、リリーは花束を受け取るかどうか、迷っているようだった。
「リリーさん、別に許さなくたっていいんですよ」
 俯くリリーの肩に手を置いて、恋唯は優しく伝えた。
「だって、痛かったでしょう? 嫌だったでしょう。怪我をさせられたり、酷いことを言われるのは。やった側はすぐに忘れてしまっても、やられた方はずっと覚えているものです。それを一度の謝罪くらいで、許さなくたっていいんですよ」
 ロッゲンが今にも泣きそうな顔をしている。
 恋唯も子ども相手に可哀想かとは思ったが、彼がのちのちどういう大人になるのかと、考えずにはいられないのだ。
「コイお姉ちゃん、リリーは……」
 自分と同じ髪型のリリーに見上げられて、恋唯は肩から手を外した。判断するのはリリー自身だ。

「リリーは許すよ」

 細い腕を伸ばして、ロッゲンが震える手で差し出していた小さな花束を受け取る。ロッゲンの肩から力が抜けた。
「すぐに仲良くするのは無理だけど……これからは普通に話そうよ。普通にできたら、リリーはそれでいいもん」
「あっ、ああ……うん、うん……っ!」
 ロッゲンが全力で頷いている。リリーが微笑むと、顔を赤くした。
「じゃ、じゃあ、また明日な! ……カミルにもよろしく!」
 手の甲で涙を拭って、ロッゲンが慌てたように走り出す。
 リリーは小さな花束を手に持ったまま、ロッゲンの後ろ姿を見送っていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

こじらせ魔術師は奴隷を買いたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:101

奴隷達と異常な日々

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:79

好きにしろと言われたので好き勝手してみる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

おっさんが異世界で無双したりしなかったり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:111

聖女はこの世界に未練がない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:56

巻き込まれ召喚娘の大逆転!? 外伝 ~生贄巫女のハナ~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:5

巻き込まれ異世界召喚 おばちゃんで何が悪い!

kon
ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:27

処理中です...